東洋医学の月経って何だろう

女性の方で、生理前になると体調が悪くなるという話はよく聞きます。そんな体調の悪さですが、生理が始まるとましになるというのが特徴です。月経前緊張症 (PMS) といわれます。

この病気を分析するのに必要なのが、正気と邪気です。
正気とは…気と血。
邪気とは…気滞・痰湿・邪熱・瘀血。
でしたね。

正気と邪気って何だろう をご参考に。

▶生理は成熟の証し

そもそも生理は、体力が充実することで起こります。
体力とは正気のことです。
正気が成熟した、とも言えます。「成熟」した正気 (腎気) のことを天癸と言います。

女子七歳.腎氣盛.齒更髮長.
二七而天癸至.任脉通.太衝脉盛.月事以時下.故有子.
三七腎氣平均.故眞牙生而長極.
四七筋骨堅.髮長極.身體盛壯.
五七陽明脉衰.面始焦.髮始墮.
六七三陽脉衰於上.面皆焦.髮始白.
七七任脉虚.太衝脉衰少.天癸竭.地道不通.故形壞而無子也.
<素問・上古天眞論 01>

たとえば初潮は、子供の未熟な体力から、大人の「成熟」した体力になった、という判断を体が下すことで、生理が始まります。それから閉経。一般に45歳以降と言われます。老化によって体力が衰えた、という判断を体が下し、生理は途絶えます。

生理周期は、初潮と閉経を、ひと月サイクルで小さく繰り返している、と言えます。
すなわち、月経前が最も体力が充実したときです。初潮と同じく、体力が充実したと体が判断したときです。
月経が終わった直後が、閉経と同じく、体力が消耗しているときと言えます。

これが生理を「気」 (=機能) という切り口で考察するうえでの基本となります。 正気がどれだけ成熟し、旺盛になっているかで、生理の有無が決まります。

▶子宮は「袋」

子宮は東洋医学のなかでどう位置付けされているでしょうか。五臓六腑の中にではなく、奇恒之府の中に位置付けされています。

腦.髓.骨.脉.膽.女子胞.此六者.地氣之所生也.皆藏於陰而象於地.故藏而不寫.名曰奇恒之府.<素問・五藏別論 11>

女子胞とは子宮のことです。
奇恒之府とは「袋」のことです。

つまり、子宮は袋なのです。袋の中身は血です。
つまり、子宮は血を容れる袋なのです。

▶生理はダム

袋をダムと考えます。
ダムの水を血と考えます。

ダムは水を溜め、その水は上流から水が流れてきて、自然と増えるようになっています。水は飲み水などの生活用水に利用されます。つまりダムの水は各家庭 (各細胞) に必要なものです。ダムの水は上流から水が流れてきて、自然と増えるようになっています。自然と触れる水量が、生活用水で減少する水量よりも上回れば、少しずつ水量は増えていきます。血 (体力) の貯金ができていくのです。

水量が増え続けると、一定水域を超します。これが「成熟」です。その余りの水で放流が行われます。これが生理です。放流の周期は28日目前後であれば理想的です。放流期間は一週間前後です。少しの生理痛なら正常です。日常生活に支障が出るような生理痛は問題になります。

もし、上流から流れてくる水が極端に少なければ、水量は増えてきません。これは血という体力 (正気) の供給が不足する場合です。
もし、ダムのどこかに穴が空いていたりしたら、水量は増えてきません。これは血という体力 (正気) が漏れている場合です。急激な血虚を起こすような原因があったときです。後で説明します。

一定水域に満ちていないとき、放流を見合わせることがあります。これが「生理が飛ぶ」現象です。
一定水域に満ちていなくとも、ハイ、期日だから放流ね!となると、体が非常に苦しみます。重度のPMSはこれに該当します。

生理が始まると、ダムの水はいったん空っぽになります。生理が終わって間もなく、すぐに一定水域まで達している状態になるのが理想です。新しく綺麗な血が再び蓄えられる。そしていつでも生理が来ていい状態、スタンバイは早ければ早いほど良い。

▶生理は定期試験

これは定期試験と同じです。試験直前までに勉強を終えておけばいいとは言うものの、スタンバイは早ければ早いほどいい。直前で慌てるのはあまり良くない。大きく分けて次の4パターンがあります。

  1. 早く試験の準備ができていれは、何も苦しみはありません。それでも試験前は少しは無理するので、多少の苦しみはあるかもしれません。…でもそういう定期試験を何度もこなしていくうちに、きっと実力がついてくる。行きたい学校に行けるようになる。健康になれるのです。
  2. 試験勉強がまだできていないのに、もう試験が始まるって場合がありますね。これはしんどい。徹夜でやらないと間に合わない。試験開始の直前から直後にかけて、非常に苦しみます。それでも、なんとか頭に詰め込んで、試験が始まった。するとしばらくすれば少し落ち着いてきます。これがよくあるパターンです。
  3. 徹夜でやっても間に合わなかった。しかも試験期間の後半に入ってから、体調を崩して勉強できなくなった。後半の方がしんどいのです。これは良くない状態です。稀にこういう場合もあります。
  4. あるいは、最初からあきらめている。試験だろうが関係ない。だから平気です。こういう場合は、血の不足があるのに自覚できず、生理痛がないということもあります。これは私見です。誰も言っていないと思います。疏泄太過に位置づけしています。実はこれが最も良くない。今は良くても、あとでツケが回ってきます。

つまり、生理期間中 (試験期間中) よりもむしろ、平生の向き合い方の方が重要なのです。

つづく。

▶生理と三陰交

僕の経験では、三陰交の反応と生理周期を重ね合わせると、いろんなことが分かります。健康な人の場合が基本ですので、それについて説明します。

生理が始まる前、三陰交は実 (ジツ…充実した状態のこと) の反応を呈します。生理が始まると、速やかに三陰交の実が消えます。

生理が終わると、速やかに実の反応が復活します。つまりスタンバイOK、いつ生理が来てもいい状態です。試験が終わったばかりなのに、もう次の試験が受けられる準備ができてる。優等生ですね。体の不調がある人は、三陰交がなかなか実になりません。

つまり、妊娠可能な年齢にある女性に限り、三陰交は生理期間中以外は実の反応がないとおかしい、ということです。ただし治療直後は消失します。だから治療前に診ないと分かりません。僕の独自の見方ですが、かなり特殊なツボだと考えています。

もちろん、男性や、生理のない年齢の女性の場合は、三陰交に実の反応があるのは異常です。反応はないのが正常です。

閉経してまもなくならば、実の反応があれば、まだ生理は来るべきだということです。治療して実を取れば、また生理が来ます。

そもそも妊娠というのは、体内に異物が生じて巨大化するのですから特殊です。その準備である生理も特殊だということでしょう。

一般的には、患者さんで、三陰交 (神門・血海も診ますが) の穴処に異常が見られない場合、ここ二、三日の養生、特に ”目を使い過ぎないように心がける努力” ができていたことを示すと考えています。

ところがこの年代の女性に限っては、そうとは言い切れない側面があります。生理が終われば、数日後には三陰交は実の反応があったほうがいいからです。つまり、生理期間 (とその後数日) 以外は、ずっと三陰交が実であったほうがいい、ということになります。

▶生理と “目”

目を使い過ぎないように心がける努力…と言いました。どういうことでしょう。

例え話をしましょう。

子供が鬼ごっこして遊んでいるとします。足を酷使します。足で血を使い、消耗します。しかし長くは続きません。息がハアハアするからです。だから鬼に見つからないよう、どこかに隠れて休憩します。血の消耗はここでセーブされます。そして体を動かすことで体力がつき、逆に血は強くなります。

子供がゲームをして遊んでいるとします。目を酷使します。目で血を使い、消耗します。ところが、息はハアハアしません。2時間でも3時間でも血を使い続けます。休憩などしません。血の消耗に歯止めは効かず、体力はどんどん損なわれます。

注意すべきなのは、血だけが消耗した場合、症状はすぐには出ないことです。だからハアハアしないんですね。ハアハアするのは「気」が消耗したからです。

石油ストーブで言えば、石油が血で、温かさは気です。石油ストーブを使っているとき、石油が減ったからといって、部屋がすぐ寒くなるとは限らないです。むしろ、より温かくなることもある。しかし、次の瞬間はわからないですね。いつストーブが消えてもおかしくない。

血を消耗するとき、気も一緒に消耗することが大切です。気を消耗すれば “ハアハア” します。症状がすぐ出る。だからブレーキがかかるのです。血だけが消耗すると、ブレーキがかかりません。

知らず知らずにダムに穴が空いているというイメージです。目の使いすぎや夜更かしは、ハアハアという自覚なく体力が消耗する。暗に消耗するので「暗耗」とも言います。暗耗の方がむしろ怖い。

目は、盲点なのです。

久視傷血.<素問・宣明五氣 23>

特に小さな画面では、興味をそそられる映像を見ると、よそ見しないですね。大きな画面だと、時々はよそ見するものですが、小さな画面では何時間でも集中してしまいます。

人類の歴史の中で、これほど目を使う時代があったでしょうか。

自然の景色を眺めていると、かえって気血が養われます。

▶生理は “諸刃の剣”

▶生理は “もう一つの仕事”

もし、男性やこども・高齢の女性で、三陰交に反応がなければ、「よく気をつけておられますね。えらいですね。この努力を続けてください。」と声をかけるところなんですが…。

排卵日も過ぎているにもかかわらず、もういつ生理が来てもいいスタンバイが、三陰交に出ていないときは注意が必要です。

そんな時、患者さんにこう説明します。

「これで男やったら “えらい!” っていうとこやけど、この年齢の女性はねー、生理っていう、もう一つこなさなあかん仕事があるから…。もう一踏ん張り、がんばろ!」

生理も、出産も、男性は免除されているもう一つの仕事を、女性は受け持ってくれているのです。明らかに、男性よりも高いレベルでの養生を、体は求めてきています。女性は損なのでしょうか。

いえ、そうとばかりもいえません。

▶生理を活用する

慢性の頭痛や関節痛などが、生理と連動していることはよく見られる現象です。つまり、生理前に痛みが悪化し、生理が始まってしばらく経つといつもの痛みに戻る、ということがあるのです。こういう場合、常に血の消耗に気をつけ、その結果、生理前でも血が足りていれば、生理前に悪化しにくくなります。生理が始まってしばらく経つと、いつも通りの落差で痛みがマシになります。

生理前の悪化はないが、生理が始まってからの軽減はある。つまり生理を機に痛みをマシにしていくことができるのです。

邪気 (蓄積された副産物) の排出は、と大小便から出すのがルートですが、女性の場合は生理というもう一つのルートがあります。これを使わない手はなく、使いようによっては男性よりも早く病抜けできる、ということも言えます。

女性の方が平均寿命が長いのは、あながち偶然ではないかもしれません。

つづく。

▶生理が飛ぶ

▶正気の虚

生理を起こすか起こさないかは、基本的には、体の無意識…オートマティックな働きによって決定されます。

ダムで説明します。干ばつが続いているとする。するとダムは放流をストップして、できるだけ水位を維持し、生活用水が枯渇しないように対策します。

生理も同様に、たとえば疲れることが度重なると、正気が足りなくなります。すると、生理の出血量をその月だけ減らしたり、生理をその月だけ飛ばしたりします。そして、充実してくると生理を起こすのです。

生理が飛ぶということは、体力を消耗する何かがあった可能性が高く、それは良くないことです。しかし、飛ぶことによって「体力を回復させようとする働き」が機能していること、それは良いことです。もしその働きが機能せずに生理が来てしまうと、いっそう体力が漏れ出すことになります。

三陰交には実の反応がありません。それが判断の大きな指標になります。1日も早く実の反応にして、生理が来るようにする必要があります。

▶邪気の実

ただしいつもいつも、そういうオートマティックな調節機能で生理が飛んでいるとは限りません。本当は生理が来たいんだけれども、何かが邪魔してそれができないことがあります。

その邪魔するものとは、多くは気滞・瘀血です。

生理周期で予定日が過ぎていて、しかも三陰交に実の反応があるならば、この反応をとれば生理がきます。

この法則を利用すると、安産の鍼ができます。出産予定日が来ても、子宮口が開いてこないことがあります。放っておくと帝王切開になりますので、出産を促す必要があります。そんな時に三陰交の実を取れば、すぐに子宮口が開き、陣痛が起こってきます。

いろんな応用ができます。癥瘕 (子宮筋腫・卵巣嚢腫・子宮内膜症など) も、これを応用します。少しずつ生理を使って下ろしていくのですね。
不全流産の患者さんで、鍼で胎嚢を下ろしてあげたこともあります。

不全流産の症例 をご参考に。

ただし、正気の虚がある場合は、三陰交の実がうまくとれません。治りにくい病態であればあるほど、正気の虚が絡みます。注意点としてあげておきます。

▶生理が2回くる

▶不統血

人間の体を「土」のようなものと考えます。土とは脾臓のことです。

土には、保水性があります。人体は6割が水だと言われます。
土には、通気性があります。人体にも循環があります。
土には、栄養分を保持する力があります。これも人体と同じです。

健康的な土とは、フワッとしたスポンジのような土です。
これが砂土になると、良くありません。保水性がなくなるからです。

植木鉢に砂土を入れて花を植えても、水は底から抜け出てしまい、花は育ちません。

こういう状態を「脾不統血」と言います。本来スポンジ状の土が、砂状に変わる。つまり土 (脾臓) が弱るのです。すると、ダムに貯めた水、つまり血を保持できず、漏らしてしまう。だから生理が頻繁に来ます。あるいは生理がなかなか終わらず、ダラダラと続きます。

僕の経験では、不統血は隠白に実の反応が出ます。もちろん脾 (土) に関わる穴処 (足三里・太白など) に虚の反応が出た上でですが。

脾臓が弱る原因は、食べ過ぎ・食べなさ過ぎ、動き過ぎ・動かなさ過ぎ…が主なものです。

▶不蔵血

血は、気の温煦作用 (暖かさ) によって動きます。暖かさには血を動かす力があるのです。

遅脈について をご参考に。

暖かさが過激化して熱に変化すると、血を動かす力も過激になります。これを「動血」と言います。動血が起こると、本来収まっているべき袋 (子宮) に収まっておられず、勢いづいて飛び出してしまいます。だから生理が頻繁に来ます。あるいは大量出血となります。鮮紅色が特徴です。

温煦作用が熱に変化してしまう原因は、邪熱です。

邪熱の原因は、ストレスや食べ過ぎなどです。それらによる滞り (気滞) が緊張を生み、その緊張が極まると熱に変化することによって起こります。

隠白に反応がないことが必要条件です。あとは、肝兪から脾兪、後渓・行間・大敦あたりに邪熱があれば、不蔵血と判断できます。

▶その他

不蔵血による熱よりも、もっと深い部分にを熱が侵す場合があり、これを血熱といいます。それも頻発月経の原因になります。不蔵血の熱があれば、それを取った後に血熱を取ります。不統血・不蔵血・血熱もなければ、疏泄太過として肝気の調整を行います。

つづく。

▶閉経が遅い

生理が50歳を過ぎても普通にあるという人がいますが、これは良いことです。体力の余りが、いつまでもあるということは、若い証拠、喜ぶべきことです。

ただし「生理を止めることで体力を回復させようとする働き」が機能しないことがあります。そういう状態を疏泄太過と言いますが、体力の余りを出す力がもうないにもかかわらず、いつまでも生理を起こし、体力を水面下で消耗させることになります。疏泄太過は自覚症状が出ません。健康状態と見誤りやすい病態です。

これは生理が普通にある年齢の人にもあることで、まだ血のレベルが水域に達していないのに、期日が来たから「ハイ、放流ね ! 」とお役所的にやられるのと同じ意味があります。これも疏泄太過が絡むと考えられます。

ダムの水位が、既に放流してはいけないレベルに下がっているのに、放流が止まない。
ダムの水位が、まだ放流してはいけないレベルなのに、放流してしまう。

閉経が遅いのは、良い場合と良くない場合があるのです。
定期的に生理が来るのは、良い場合と良くない場合があるのです。

疏泄太過は分かりづらい概念だけに、深く洞察する必要があります。

▶初潮が早い

▶小さいままに成熟

最近の女の子は、初潮が早く来るケースが多くなっています。これは栄養状態が良く、性的情報も豊富で、体力 (精) の成熟が早い、といわれます。

それだけでは面白くないので、他の理由も考えてみましょう。

現代社会はストレスが多い。これは子供も同じ。おまけに運動不足です。ストレスや運動不足は、気滞と呼ばれる邪気を生みます。さらにゲームのやり過ぎなどで血虚 (血の弱り) を起こします。

気滞があると、滞りは成長を早期に止めます。
血虚があると、子宮という器 (袋) の材料である血が不足します。

そのために、小さなダム湖として、小さくまとまってしまう場合があります。

このダム湖は先ほども触れたように、体力を収めるための容器です。
容器 (袋) は物質的で、血を材料にして作られます。
奇恒之府としての女子胞は袋、つまり容器です。
女子胞のことを「衝脈・任脈」ということもあります。いずれにしても、血を容れる容器です。血で作られた容器に、血が入っているんですね。

▶陰陽の幅

この容器とは、体の大きさではなく、あくまでも体力 (=正気) を貯金しておく容量のこと。そういう意味では、パソコンの容量みたいなものです。

陰 (血) を容れる容器もあり、陽 (気) を容れる容器もあります。だから東洋医学的に言えば、容器の大きさは「陰陽の場」であり、陰陽の幅が狭い、とか、広い、とかいう表現をします。

そもそも生理は、生まれたときから成長し続ける陰陽の幅が、最高点に達したときに起こります。体力を収める容器 (ダムの容量) とともに大きくなり、その成長が止まれば、そこが最高点です。早く成長が止まれば、早く完成する。成長の終わりは完成を意味します。つまり、成長しきらないうちに、成長が止まってしまった。すると体は、これを成熟とみなし、生理を発動させる。

容器が小さいため、体力も少ないままに容器が満たされる。体力はすでに成熟していても、量が少ないのです。ダム湖も受け入れられる水量が小さいと、干ばつの時に足りなくなってしまいますね。でもすぐにあふれる。小さいということは体力がないということです。

実際、初潮が早く来ているのに、生理の量が少ないとか、生理不順とかで、「血虚※」と診断される場合があります。正気の不足があるわけです。そういうケースが結構あります。生理が早く来たからと言って、いつも体力があると言えるわけではなく、健康であるとも言いきれないのですね。

▶疏泄太過

以上のような説明は、疏泄太過を説明する上でのヒントになるかも知れません。

血が足りないと、気も足りなくなったり気が亢進したり、ランダムな不安定さが出ます。気が亢進すると、血随気逆の法則により、気の激しい動きにつられて出血することがあります。

生理が発動するのは、気の働きです。早く発動しすぎるのは気の亢進です。

初潮が早すぎる場合も、疏泄太過があり得るということです。

▶初潮が遅い・閉経が早い

生理が飛ぶ で展開したように、生理を起こせない状態には2つありました。

  • 血を節約してわざと生理を起こさせないパターン。
  • 血は余っていて排出したいけれど、邪魔なものがあって出せないバターン。

初潮が遅いのも、閉経が早いのも、生理を起こせないという意味で、「生理が飛ぶ」と同じ理由があると考えてください。

つづく

▶PMS (月経前緊張症)

▶なぜPMS?

さて、いよいよ本題にもどします。

冒頭でこう説明しました。生理は正気が旺盛になるから起こる。月経直前が、最も体力が充実したときで、月経直後は、体力が消耗しているときである。

あれ? おかしくありませんか? 生理前は、正気が最も旺盛なのに、なぜPMSの人はしんどいのでしょうか。しかも、そのしんどさ、生理開始後に楽になるのは、なぜでしょう?  生理前に正気が旺盛なら、体は健康なはずです。生理が始まって正気が消耗するなら、体はしんどいはずです。

ここまで、生理は正気が旺盛になるから起こると説明してきました。中医学基礎でも、そう説明しています。しかし、それはあくまでも基礎です。

実際は、さきほども触れましたが、以下のようにまとめることができると思います。

  • 増大する陰陽の幅が最高点に達したとき生理がおこる。

陰陽を、気 (陽) ・血 (陰) のことと考えると、生理前は元気旺盛になるはずです。そうではなく…
陰陽を、正気 (陽) ・邪気 (陰) のことと考えると、生理前に体調が悪くなる理由が見えてきます。

つまり、生理前に旺盛になるのは正気だけではないのです。邪気も一緒に旺盛になるのです。正のエネルギー (陽) も負のエネルギー (陰) も、両方一緒に旺盛になるのです。

  • これは補法で悪化する場合があることと同じです。補法は万能のように言われることがありますが、証はもっと緻密です。正気が強くなればなるほど邪気も強くなり、正気だけでなく邪気も補うことになることがあります。正気の優勢が強くなればなるほど邪気の劣勢も強くなり、邪気が取れることもあります。この違いは、優・劣の陰陽が効いているか否かによります。優劣がきかないものは虚実錯雑です。

    この理論から、生理前に悪化するのは虚実錯雑であると考えられます。ダムが満ちていないのに放流が始まる、という論と通じます。

生理がおこる機序のカギは、「陰陽」にあります。この陰陽とは、正邪という概念をもふくむ、実に大きな概念です。

▶生理を邪魔するもの

生理をおこすために必要な正気といえば、「血」と「気」が挙げられます。

血は、妊娠のための物質的土台です。これを一周期かけて満たし続けてきました。妊娠しなければ、満たされた妊娠土台は、ただの不要の血になります。次期妊娠に向け、新しいものに交換する必要がある。

ここで必要なのが、推動作用を持つ「気」です。推動作用とは、気の一種、気の一つの横顔で、川の流れのように、よどみなく循環させる働きのことです。この働きが、子宮内で不要となった血を、一気に外に押し出し、排出する。

このとき、もしも邪気が存在したらどうなるでしょう。たとえば気滞があったら推動作用を邪魔します。たとえば瘀血が存在しても推動作用を邪魔します。

邪魔すると摩擦が起きます。

▶生理痛とイライラ

生理の時は、正気である気や血がパワーアップする。すると生理が起こる。同時に、邪気である気滞や瘀血もパワーアップする。すると何が起こるか。摩擦です。軋轢です。抵抗です。

  • 子供同士で相撲をとるよりも、強いお相撲さん同士がぶつかり合ったほうが、痛みを伴う激しい戦いになります。

出血そのものは最後まで完結する。周期的にも、ずれることがない。これは正気の力です。邪気が邪魔しても、それを何とか押しのけ、生理を完了さようとする。

ただし、邪気が邪魔する。摩擦・軋轢・抵抗が伴う。気滞や瘀血の症状が伴います。

気滞の症状とは…痛み・イライラです。
瘀血は…気滞の症状をより重症化させます。

このようにしてPMSは起こります。

さらに、こうした摩擦が大きすぎると生理不順に発展します。摩擦で熱が起こると頻発月経になったり、摩擦で放流できなくなると稀発月経になったりします。

この摩擦の大きさには、正気の虚が絡みます。ダムの水量が満ちていないのに、「はい、放流の時間ですよ」と、生理が始まる場合は、正気が足りないので、邪気を押し流せません。

▶生理後半の悪化

また、長期にわたる邪気の横暴に正気が負けると、正気がさらに弱ります。すると、生理前半の苦しみだけでなく、生理後半にも体調不良があり、あるいは生理後の更なる体の不調を訴えるようになります。これは病の進行と体力の低下を意味します。

出産後の体調不良、これは生理後の体調不良に類するものです。

▶PMSを治すには

PMSを治すにはどうすればよいか。

普段から気滞をましにしておくこと。
普段から血虚をましにしておくこと

これにつきます。生理前になってから焦っても、解決にはなりません。試験直前に頑張っても、頑張らないよりはマシですが、解決にはならないのです。その次の試験に目を向けるしかない。

気滞がなければ瘀血も存在しません。滞りがないわけですからそうなります。普段の気滞のレベルが低いと、生理前になってもさほど気滞は増しませんね。邪気よりも正気のほうが格段に優位に立っていれば、両方パワーアップしたところで、摩擦は少なくなります。

血虚がなければ、常に生理のダムの放流は、豊かな水量で行うことができ、気滞や瘀血というゴミを押し流すことができます。

気滞や血虚を治すには、鍼や漢方薬が有効です。ただし東洋医学の診断 (証) に基づいた、鍼や漢方薬です。単純に血だけを増そうとしても、体が受け付けず、むかつきなどが起こることがあります。容器を大きくしていないから、血が入りきらずに溢れるのです。容器から溢れたものは全て邪気です。こういうことを分かって治療する必要があります。

▶養生法

具体的な養生法です。

これまでの説明を見ていただくとわかるように、PMSに限らず、全ての婦人科疾患は根本的な病理がつながっています。だから養生法も共通すると思ってください。

▶目

まず、目を使い過ぎないことです。昔の人に比べて、現代人は目を使い過ぎています。鬼ごっことゲーム、どちらが血を消耗するか、説明しましたね。

夜更かしは、多くは目を使っています。夜は何も見えないのが自然なのですが、現代人はこの時間にむしろ目を使っています。眠れなくても問題ではなく、夜は夜らしく過ごすことです。夜は陰です。暗い時間帯に布団に入ってじっとしていると、陰 (血) という体力が効率よく補えます。夜は陰のカキコミ時なのです。

これはやろうと思えば誰でもすぐにできるものです。しかしこの制御がなかなか難しい。文明を上手に制御することです。

▶食事

脾は気血生化の源ですので、脾が弱るような食事の摂り方を慎み、血の生成を盛んにします。具体的には、腹八分目をこころがけ・間食をひかえること、これが第一義です。食べ物の品目を吟味するのは第二義です。

生理前に食欲が増すという方は大勢おられますが、これは病態です。良くないことだと思ってください。行き過ぎないよう、普段どおりにすることはとても大切です。

僕はこの病態を疏泄太過に位置づけています。水位が達していないのに放流してしまうのも疏泄太過でしたね。疏泄太過という病気がさせるのだから、食事を控えようと思ってもできないことはいくらでもあります。放流が止められないことと同じです。心静かに落ち着いて、食欲が抑えられない自分を否定せず、そんな自分にまずは向き合うことが大切です。

生理前に食べすぎると、食積 (食べすぎ) によって新たな気滞を生じます。また脾に負担をかけて正気虚損や、不統血 (月経後半の正気漏出による体調の悪さ) を起こすこともあります。

▶ウォーキング

またウォーキングなどの適度な運動が大切です。ウォーキングは、気の推動作用を強くして気滞を取り除き、脾胃を高めて血の産生を促します。運動はやらなさ過ぎてもやり過ぎても良くありません。ちょうどはなかなか難しいです。

ただし表証が絡むと少しのウォーキングでも悪化の原因になります。
焦ってたくさんやりすぎても同じことです。運動は投資です。

指示を仰いでください。あるいは自分自身と常に向き合うことです。

▶感謝

感謝が大切です。感謝はストレスのもとになる情動を消し、更なる血の消耗がなくなります。これが一番難しいな…。でも大切。

感情としての感謝などできなくとも、 “感謝がいちばん大切だ” という価値観を、理性で持っておくだけで、進む方向は大きく違ってきます。

一緒にがんばりましょう。

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました