血尿の症例

5/2 夜から発熱・悪寒・節々の痛み。
5/6 熱が下がらず、腎盂腎炎と診断される。そのまま入院。抗生剤投与。
5/9 解熱、退院。

まもなく仕事 (病院) に復帰。ずっと立ちっぱなし。 (→労倦)
食欲はあるが食べるとすぐに満腹になる。 (→胃陰虚)
発熱から急にやせた。 (→陰の弱り)
残便感。 (→邪熱)
大便が細い。 (→脾虚)
疲れやすい。 (→脾虚)

5/25 夕方、血尿。濃い赤色。

  • 以前からある症状
    ・乳幼児アトピー 。成人してもあった。今はまし。
    ・第二子出産後から体調が悪い。
    ・めまい。
    ・胃もたれ・胃痛。
    ・ホッとすると症状が出やすい。
    ・月経量が少ない。
    ・生理痛がない。

5/26の治療… 百会 (5番鍼で補法)

5/25夕方に血尿 (鮮やかな赤色) があったため、電話にて急きょ来院する。病院は受診している。

出血…東洋医学から見た4つの原因と治療法
子供の鼻血のように軽いものから、潰瘍性大腸炎、また肝硬変末期の吐血のように生死にかかわるものまで、出血にはバリエーションがあります。東洋医学では、それぞれの出血を、偶然ではなく必然と考えます。どういう観点から出血を分析するのでしょうか。
出血の症例
中医診断学には「血証」と呼ばれる概念がある。出血する病のことである。邪熱 (実熱) が、深い部分 (営血分) に影響・侵入して、血絡を傷つけると出血する。統血作用が低下しても出血が起こる。この理論通りに治療できるか、症例をあげて検討したい。

中医学的診察・診断

後渓…実 (左右) →邪熱
血海…虚 (右) →血虚
行間…実 (左右) →右は内風を示す
隠白…実 (左右) →不統血
大敦…実 (左右) →不蔵血
豊隆…反応少ない →痰湿の関与は少なく、食養生の問題は少ない。

紅舌。舌の中央〜舌尖部にかけて苔が薄い。

以上の反応から、肝不蔵血証・脾不統血証による虚実錯雑証と診断。

病因病理

ここ数年、かなり無理をして仕事をしており、心身ともに限界でその仕事を退職して、休むまもなく現職 (病院事務) に就いている。もともと邪熱・脾虚・血虚・陰虚陽亢を持っているところに、過労・ストレスが加わる状況下で、外感の寒邪を受ける。これが5/2の発熱である。寒邪を体外に発汗としてはじき出すだけの正気がなく、寒邪は容易に内陥して邪熱となる。

この邪熱が、もともと狭くなった陰陽幅をますます狭くした。

陰陽幅が少ないため、内陥した邪熱を体内に集めて排便として排出する力もなく、行き場のない邪熱は少陽気分に入り、邪熱は深い部分にまで進入 (臓腑に肉薄) して腎盂腎炎となる。病院の処置で発熱は落ち着いたものの、邪気 (邪熱) は深い部分にくすぶった状態で存在し続けた。

ここ数日の気候の急変によって外風が強くなる。それにつられて内風が起こる。内風はくすぶっていた「焼けぼっくい」に再び火を付け、一気に邪熱 (肝火) が盛んとなり、その熱は血の領域 (深い部分) を熱して動血を引き起こし、血尿となった。また、肝の疏泄異常はもともと弱い脾に容易に横逆し、脾の統血作用 (土) を急激に薄っぺらくして、震災時の液状化現象のように、血が土からはみ出して血尿となった側面をあわせ持つ。

治療

百会。5番鍼で補法。5分置鍼後、抜鍼。その後10分休憩して治療を終える。

特に、大敦・隠白の反応 (出血に関与) が取れるかどうかに注意を払う。

「出血は、治療したからと言ってすぐに止まるとは限りません。もうすでに溜まっている血は出るしかないので、それが出たからと言って驚かないでください。」

5/30 (2診目) … 関元 (2番鍼で平補平瀉)

血尿なし。職場の医師のもとで尿検査をおこなうが、結果はまだである。

仕事に行きたくないくらい心と体がしんどい。

痩せがもとに戻らず、体重計に乗るたびに不安になる。

「不安に思っても良くなるわけではなく、かえって体が弱り、損になるだけだ… という「知識」を持っておいてください。不安に思うのは「感情」なので、これはコントロールできないし、しなくていい。ほっとけばいいです。不安に思っちゃいけないと思わなくていい、不安に思えてしまうなら、それでいい、ほっとけばいいです。ただし、 “不安に思うのはつまらないことだ” という知識を上書きし続けてください。それがかなりの抑止力になります。そしてそれよりも、命懸けで早く寝てください (笑) 」

6/2 (3診目) … 百会 (5番鍼で補法)

前回治療翌日の朝、血尿が再びみられる。

血海・三陰交に営血分の熱を示す反応がある。早く寝るための工夫を一緒に考えるうちに、反応が消えた。

その後、百会に鍼。

6/6 (4診目) … 関元 (2番鍼で平補平瀉)

体調がだんだんましになってきた。

血尿は5月31日以来出ていないが、尿がすごく黄色いという。しつこく聞くと、どうもウーロン茶なみの濃さらしい。

写真を撮ってきてくれた。よく気の付く方である。

褐色尿である。褐色尿には、血尿 (古くなったヘモグロビン) ・ビリルビン尿・ミオグロビン尿などがある。

これらは、中医学でいう「小便短赤」に相当するが、血証とのボーダーは微妙なところである。

本症例での小便短赤の中医学的な病理は、陰陽幅が小さくなり、そのなかで少陽相火だけが盛んで、その余った熱 (はみ出した熱) を尿から排出している姿であると捉えた。また少陽相火 (命門相火) が下焦から尿を煮詰めている姿でもある。

これら陰陽幅小 (脾虚) や火熱の邪が出血の原因ともなるため、小便短赤の原因を取り除けば、血証を治療することにもつながる。よって血尿であるか小便短赤であるかの弁病は明確にする必要はないと見て治療を行った。

褐色尿について

褐色尿の現代医学的な見方のいくつかを付記しておく。原因は様々だが、ここでは腎炎・肝炎・横紋筋融解症の際に見られる褐色尿の病理を挙げる。

▶腎炎
腎臓内部で出血すると、尿として排泄されるまでに時間がかかるので褐色尿となる。対して、膀胱や尿道からの出血は、まもなく尿として排泄されるので鮮紅色やピンク色となる。ヘモグロビンは鉄を含んでおり、鉄色 (黒) が元々の色である。酸素と融合すると鮮紅色に変化する。これは、もともと黒い鉄が、サビて赤サビの赤い色になるのと同じ原理である。出血後、時間を経過したヘモグロビンは、酸素を放出して元の色に戻るため、黒っぽくなる。酸素と融合しない元々のヘモグロビン (黒色) のことを還元型ヘモグロビンと呼ぶ。つまり腎炎での褐色尿は還元型ヘモグロビンの色といえる。生理出血で茶褐色のものが出る場合も、子宮内で長時間を経過してから排泄された経血といえる。

▶肝炎
古い血液は脾臓で壊され、壊された成分であるビリルビンは、肝臓で胆汁酸に混ぜられ胆汁として十二指腸に排出するのが健康状態である。このビリルビンの色が変化して大便の色である茶色となる。肝炎によって肝臓が硬くなり (線維化) 機能しなくなると、ビリルビンを胆汁として十二指腸に運ぶルートが滞り、ビリルビンの一部が血管に漏れ出し、それが腎臓を経て尿として排泄されるので、褐色尿となる。ビリルビン尿とも言われる。よってこれは出血ではない

▶横紋筋融解症
骨格筋の変性・壊死によって、筋肉中のミオグロビンが漏れ出し、それが腎臓を経て尿として排泄されるので、褐色尿となる。ミオグロビン尿とも言われる。よってこれは出血ではない。ミオグロビンとは、横紋筋 (心筋・骨格筋) のなかにある、酸素と結合するタンパク質である。赤い色素をもつ。生肉が赤いのはミオグロビンが赤いことによる。

6/9 (5診目) … 百会 (5番鍼で補法)

舌の中央〜舌尖部にかけて苔が薄かったものが、正常に苔が生えた。

「はい、舌診せて。…おお、良かったなあ。舌の苔が薄くなってるって言ってたでしょ。急に良くなってるよ。これは大っきいんですよ。」

「そうなんです先生、2日前から急に体が楽になったんです! 今まではちょっと食べただけでお腹がいっぱいになってたんですけど、急に食が進むようになって、力も出てきて楽なんです! 」

「舌と症状がちゃんと連動していますね。体が良くなってきていますよ。気分的には? 」

「もう、心配しても仕方ないなって…。」

「うん、それでいい。その調子です! 」

6/8から生理が始まる。

舌の苔について説明を補足する。苔が少ないということは、生命力が少ないということである。肥沃な土地は作物がよく育つが、不毛の地は草すら生えない。舌尖部は心 (しん) が支配する。この部分に苔がないということは、心の弱り、つまり精神的な潤い (安定) のなさを意味する。心の弱りが舌の中央部 (生命のコア) にまで押し寄せている、非常に良くない状態が腎盂腎炎後に見られたのである。その生命のコア (脾・胃気) が盛り返してきたので、苔が再び生え、食欲が戻ったのである。あらゆる病気を治す上で、食欲がいかに大切なものであるかを再認識すべきである。

6/13 (6診目) … 百会 (5番鍼で補法)

前回治療翌日、生理出血時に大きな塊が出る。 <写真>

もともと、塊はほとんど出たことがない。

塊が出た翌日から、急に尿の色が薄くなった。<写真>

生命のコア (脾・胃気) が力を盛り返したことにより、邪気 (邪熱) を追い出す力ができた。
少陽 (子宮) から直接 邪熱を排出したのである。

塊は瘀血である。少陽の熱が血を焼き煮詰め、瘀血 (瘀熱) を形成した。もしこのままで瘀血が排出されなければ癥瘕となる。

非常に血と親和性を持った深い熱 (営血分手前ぎりぎりの気分の熱) は、なんとか外に出ようともがいた結果、血尿となった。しかしそれは血を出すための正しい排泄ルートではないため、熱は外に出られなかった。それが、正気の後押しが得られるようになったため、正しい血の排泄ルート (子宮) が機能し始め、経血とともに、瘀血と邪熱 (瘀熱) が排泄されたのである。

ちなみに、このような巨大な塊はまずない。500円玉大でも驚くほどの大きさである。この大きさに相当する重篤さが本症例にはあった…ということを思わせる。当該患者はもともと塊がほとんど出たことがなく、それも興味深い。今回の腎盂腎炎→血尿→褐色尿 の経過の中で、この大きな塊が転機となった可能性がある。

その後の経過

6月23日、熱をしめす紅舌は完全に落ち着いた。

食欲は戻り、普通便が出るようになり、体重も回復しつつある。
仕事では疲れを感じるが、続けることが出来ている。

IgA腎症の疑いがあると言われたが、検査で異常が出なかった。職場の医師からは “様子をみましょう” との指導を受けた。

とはいえ、出血しやすい状態はまだ、危険な波打ち際にあるとみる。波をかぶらない安全な場所に戻るために、正気をもとに回復させるために、いま少しこのペースのまま、治療と養生を頑張ろう。

血証はそんなに簡単に解決が付くほど容易なものではない。血の領域は深く見えづらい。根治には相応の時間が必要、特に痩せがあまり改善していない現状では、油断は禁物である。

その後、3週間経過時点で血尿なし。

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