中医学における “病因” とは

病気を治すには、病気を知ることです。病気を知るには、その原因を知ることです。中医学では病因をどのように考えているでしょうか。

難経本義

夫百病之始生也.皆生於風雨寒暑.陰陽喜怒.飮食居處※.大驚卒恐.則血氣分離.陰陽破散.
《霊枢・口問28》

居處…日常における「仪容举止」。仪容…みだしなみ。举止…立ち居ふるまい。よって居處は日常行動を言う。

【訳】あらゆる病は、みな次の要因を発端として生じる。すなわち、風雨寒暑の気候変動、喜怒の情緒のあり方、飲食の摂り方、日常行動のあり方、驚恐の過度さ急激さである。こういうことがあると、気は暴走して外泄し、血はそれを食い止めらず、陰陽の夫婦関係は破散してしまう。

1.外感 

病気の原因には、外からやってくるものと、内から生じるものがあり、まずこの2つに分けます。こういうふうに対 (つい) にして考えるのが陰陽であり、東洋医学の基本です。外感とは、外からやってくる病気の原因です。

外邪 (六淫=風・寒・暑・湿・燥・火) が襲う 

  • 気候変動 (寒さ・暑さ・湿気・気圧変動≒風 など)
  • 温疫の邪 (癘気の邪=感染性の強いウイルス・細菌)

2.内傷

内から生じる病気の原因です。

▶︎五志七情

五志七情とは「こころ」のことです。心のありようが良くないと病気の原因になります。ストレスはその一例ですね。おもに肝の病変を引き起こします。東洋医学の「肝臓」って何だろう《前編》 をご参考に。

しかし、詳しく見ていくと肝だけでなく他臓も関与します。

  • 五志… 喜、怒、憂 (悲) 、思、恐  
  • 七情… 喜、怒、憂、思、悲、恐、驚 

これらの太過は、全て病気の原因になります。※不及も病因となることを私見として添えておく。

  • 【太過】喜び過ぎ ( >> 心を損なう) ・【不及】喜ばなさ過ぎ
  • 【太過】怒り過ぎ ( >> 肝を損なう) ・【不及】怒らなさ過ぎ
  • 【太過】悲しみすぎ ( >> 肺を損なう) ・【不及】悲しまなさ過ぎ
  • 【太過】考え過ぎ ( >> 脾を損なう) ・【不及】考えなさ過ぎ
  • 【太過】恐れ過ぎ ( >> 腎を損なう) ・【不及】恐れなさ過ぎ

五神と五志…「こころ」って何だろう
東洋医学の「心臓」って何だろう

をご参考に。

▶︎飲食

節度をもって飲食することが原則です。これに反するものを “飲食不節” と呼び、主に脾の病変を引き起こします。東洋医学の「脾臓」って何だろう をご参考に。

飮食不節.而病生于腸胃.<霊枢・小鍼解 03>
飮食勞倦.則傷脾.<難経・四十九難>
饮食贵在有节。进食定量、定时谓之饮食有节。<中医基础理论

▶飲食不節

▶︎定量 (食事量・栄養量) の節度
  • 飢飽失常 (食事量に節度がない) … 食べ過ぎ・食べなさ過ぎ 栄養の摂り過ぎ・摂らなさすぎ

現代人は食べ過ぎが多いですね。食べ過ぎの積み重ねは邪熱を生みます。食べ過ぎになりやすい飲食物に注意します。カゼの養生食…傷寒論に学ぶ をご参考に。

过饥过饱均可发生疾病。<中医基础理论
食滞日久,可以郁而化热。<中医基础理论

▶︎定時 (食事時間) の節度
  • 飲食無時 (食事時間に節度がない) … 間食・ダラダラ食い・夜食、断食・過度のダイエット

こういうものは脾胃を弱らせます。“肝臓” を考える…東洋医学とのコラボ をご参考に。

按固定时间,有规律地进食,可以保证消化、吸收功能,… 水谷精微化生有序,… 自古以来,就有一日三餐,… 若饮食无时,亦可损伤脾胃,而变生他病。<中医基础理论

▶飲食偏嗜

人的膳食结构应该谷、肉、果、菜齐全,且以谷类为主,肉类为副,蔬菜为充,水果为助,调配合理,根据需要,兼而取之,才有益于健康。<中医基础理论

【訳】人の食事メニューの構成は、穀物・肉魚・果物・野菜がすべて揃っているべきである。なおかつ、穀物を主、肉魚を副、野菜を充、果物を助としつつ、理にかなった配分をし、相手の求めに応じつつ、これらをバランス良く兼ね備えることで、はじめて健康に供することができる。

▶︎肥甘厚味… 油脂分・甘味・肉の摂り過ぎ
  • 飲食偏嗜… 肥甘厚味の過食 

“肥甘厚味” とは、コッテリとした油脂分・濃い味わい・甘みがあり、いわゆるご馳走のことです。<素問・熱論>では、肉の多食にも触れています。こうした偏食は、ひとしく熱を内生します。

过食肥甘厚味,易于化生内热。<中医基础理论

帝曰.病熱當何禁之.
岐伯曰.病熱少愈.食肉則復.多食則遺.此其禁也.
<素問・熱論 30>

肥甘厚味,… 一般是指非常油腻、甜腻的精细食物…。这类食物脂肪和糖的含量都很高,容易造成肥胖。

肥甘厚味 << 百度百科https://baike.baidu.com/item/%E8%82%A5%E7%94%98%E5%8E%9A%E5%91%B3/5097133
▶︎辛温燥熱… 香辛料の摂り過ぎ
  • 飲食偏嗜… 辛温燥熱の食品の過食

辛いもの (辛辣・温燥) の過食は、胃腸に熱を蓄積します。

偏食辛温燥热,可使胃肠积热,<中医基础理论

▶︎生冷寒凉… 冷たい飲食物の摂り過ぎ
  • 飲食偏嗜… 生冷寒凉の食品の過食

生もの・冷たいもの・冷やすものの多飲食は、脾胃の陽気を傷り、痰湿を生じます。

多食生冷寒凉,可损伤脾胃阳气,寒湿内生,<中医基础理论

中医基礎理論には記載が漏れていますが、生もの・冷たいもの・冷やすものの多飲食は、肺の宣発・粛降・通調の各作用を妨げます。つまり、衛気の働きを鈍くし、外からの寒邪に侵されやすくなります。

  • 形寒飮冷則傷肺.《難経・四十九難》
  • 病在肺.…禁寒飮食寒衣.《素問・藏氣法時論22》
  • 皮毛者.肺之合也.皮毛先受邪氣.邪氣以從其合也.其寒飮食入胃.從肺脉上至於肺.則肺寒.肺寒則外内合邪.因而客之.則爲肺欬.《素問・欬論38》
  • 形寒寒飮.則傷肺.以其兩寒相感.中外皆傷.故氣逆而上行.《霊枢・邪氣藏府病形04》

冷たい飲食物は控える をご参考に。
不登校+アトピー をご参考に。

▶酵酿・乳酥… 発酵食品・乳製品の摂り過ぎ
  • 飲食偏嗜… 酵酿・乳酥の過食

発酵食品・牛羊乳やそれによる製品の摂り過ぎは、脾の運化を阻遏し、水湿痰飲 (痰湿) を生じます。

过嗜酵酿之晶,则导致水饮积聚;过嗜瓜果乳酥,则水湿内生,<中医基础理论
・酵酿…発酵食品 
・瓜果…ウリ類・果物類
・乳酥… 牛羊乳・乳製品

▶︎その他の飲食の問題

  • 食中毒
  • 毒物 (有害食物) 摂取
  • 寄生虫摂取

▶︎労逸

  • 体を動かすか、動かさないか。 (肉体活動)
  • 心を動かすか、動かさないか。 (精神活動)

体と心は一対で、陰陽です。活動しすぎ・活動しなさすぎ… は主として脾の病変を引き起こします。

労倦とは << 東洋医学の「脾臓」って何だろう
脾臓と「意」 << 東洋医学の「脾臓」って何だろう

をご参考に。

もう少し細かい内訳を以下に記します。

▶︎活動しすぎ (過労)

  • 労力過度… 動き過ぎ・働き過ぎ・出歩き過ぎ

勞則氣耗.<素問・擧痛論篇第 39>
勞倦.則傷脾.<難経・四十九難>

  • 労神過度… 気の使い過ぎ

劳神过度可耗伤心血,损伤脾气,<中医基础理论

  • 房労過度… セックスのしすぎ

房劳过度会耗伤肾精,<中医基础理论

  • 視労過度 … 目の使い過ぎ・夜間照明の使い過ぎ・夜ふかしし過ぎ

久視傷血.<素問・宣明五氣 23>

※ “視労過度” は、現代社会に合わせて本ブログで造語し追加しました。素問に記述があるものの、中医学にはまだない概念です。中医基礎理論に太字で追加・明記することが早急に必要です! 東洋医学の「血」って何だろう をご参考に。

なお、中医学では「夜ふかし」を病因として提示しておらず、 “労力過度”(動きすぎ) として注意喚起しているにとどまっています。中国伝統医学発展の歴史は「照明」の普及以前の時代が主となっており、その次代は夜ふかしという病因そのものがなかったと考えられ、現代中医学の成立時期も「照明」の普及から間もなくであったこともあり、大きく取り上げられていません。《霊枢・營衛生會18》の記述に則って、「夜ふかし」も中医基礎理論に太字で追加・明記することが早急に必要です!

▶︎活動しなさすぎ (過逸)

  • 動かなさ過ぎ
  • 気を使わなさ過ぎ

不劳动,又不运动,使人体气血运行不畅,筋骨柔脆,脾胃呆滞,体弱神倦.<中医基础理论

3.外傷 

  • ケガ
  • やけど
  • 凍傷
  • 虫・蛇・犬などに噛まれる
  • 細胞を傷つけるレベルの放射線 (本ブログで追加)

血瘀証 をご参考に。

4.禀賦不足 (胎伝)

  • 遺伝
  • 先天疾患

5.病理産物 (継発性病因)

上記の外感・内傷・外傷・胎伝が病気を生み、そこから生じるところの邪気のことを病理産物と呼びます。

中医基礎理論では痰湿・瘀血・結石をあげていますが、気滞・痰湿・邪熱・瘀血を挙げる場合もあります。ここでは後者を採用します。

これらは証としての気滞・痰湿・熱・血瘀ではないのでご注意ください。証と邪気の違いについては 血瘀証 で、サッカーとサッカーボールの違いに例えて説明しました。

  • 気滞
  • 痰湿
  • 邪熱
  • 瘀血

正気と邪気って何だろう をご参考に。

これらはすべて、病気の過程で形成されるので、病理産物です。

上記の外感・内傷・外傷・胎伝のことを一次的病因と呼ぶならば、病理産物 (気滞・痰湿・邪熱・瘀血) は二次的病因と言えるでしょう。

一時的病因が原因となって病気を生じ、その病気の過程で二次的病因 (気滞・痰湿・邪熱・瘀血) を生じる。二次的病因が新たな原因となり新たな病気を引き起こすので、この病理産物のことを “継発性病因” ともいいます。

痰饮、瘀血、结石都是在疾病过程中所形成的病理产物。它们滞留体内而不去,又可成为新的致病因素,作用于机体,引起各种新的病理变化,因其常继发于其他病理过程而产生,故又称 “继发性病因” 。<中医基础理论>

以上です。

原因がわかればこそ、治る道があります。

 


参考文献
“中医基础理论” 医学百科https://www.yixue.com/中医基础理论(参照2021-11-25)

 

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