四診とは…望診・聞診・問診・切診

東洋医学的手法 (鍼灸・漢方薬) を使うなら、前提として大切なことがあります。
患者さんの体を治療する際、陰陽論というマナイタに乗せるべきです。

なぜなら、東洋医学は、陰陽論から生まれたからです。陰陽とは機能を重視した考え方です。機能とは「気」のことです。

鍼を使うなら東洋医学のルールで

イチローにバットとボールを持たせればイチローらしさが出ます。能力を発揮します。
でも、サッカーボールを持たせたらどうなるでしょう?
おなじ観客を魅了する仕事でも、フィールドが違えば力を発揮できません。

鍼灸という東洋医学の手法を最大限に活用するなら、東洋医学の診方で病気にスコープする必要があります。

東洋医学は機能を基礎にする

我々は機能を考えるのは苦手なんです。そんなことはない、と思われるでしょうか?

機能を捉えるのがいかに難しいか、これは脳と心の関係に目を向ければ分かります。

脳を物質的に捉えたとき。子供でも子供なりの捉え方ができます。
脳って、どんなもの?…理科の好きな子は、絵にかいて示すでしょう。

脳を機能的に捉えたとき。脳の機能といえば、指令・感覚・こころ。イメージはできますね。
では、こころって、どんなもの?…説明となると難しい。

機能は、物質という実体の持つ実用です。実体そのものではないので、「実体がなく抽象的」と感じてしまいがち。砂糖 (実体) と甘さ (実用) の関係です。つながって、つながらない。

「気」という言葉があります。もちろん東洋医学の言葉です。
これは陰陽論の核になる概念で、「気」を現代語訳すると「機能」です。
「機能」を基礎にして理論を組み立てるのが東洋医学です。

つまり、陰陽や気を理解したうえで、打つ鍼。出す漢方薬。これが本格的な東洋医学の治療といえます。

≫「東洋医学の気って何だろう」をご参考に

東洋医学の鍼灸とは

では、本題に入りましょう。

病気を診るとき、東洋医学独自の診察の仕方があります。

四診と呼ばれます。四診とは、望診・聞診・問診・切診です。略して望聞問切とも言います。

望而知之.謂之神.
聞而知之.謂之聖.
問而知之.謂之工.
切脉而知之.謂之巧.
<難経・六十一難>

1.望診とは

望診とは、目で見て行う診察法です。

命にかかわる重症疾患や、急に体調を崩すときなど、顔色が全体的に悪くなりますね。専門家はもう少し細かいところ (気色) まで診ます。顔面のなかでも、顔の中心部、つまり鼻を中心とした周囲が最も重要です。他の部分と比較して色が薄くなったり濃くなったりしているのが体調の悪さを示します。このような顔面に特化した望診を「顔面気色診」と呼ぶこともあります。

また、顔面だけでなく、全身の皮膚の色、つや、きめ、吹き出物の出ている部位、爪の色も診ます。動作も望診です。

上達すると、魚屋さんが一瞥で美味しい魚を見抜くような、不思議とも思える技術が備わってきます。

舌診とは

舌診も望診のうちの一つですが、非常に重要な診察法として独立しているため、一般的には望診とは言いません。

東洋医学では、肩こりであろうが、癌であろうが、必ず舌診を行います。舌を見てわかることは、まず熱か冷えか。虚か実か。虚ならば、気虚か血虚か。痰湿は? 瘀血は? 注目して診ているのは、舌の力の入り具合・舌の赤さの程度・舌の苔の厚さの程度・苔の色・舌の動き方・舌の裏にある静脈の色や太さ…等です。これらから陰陽のバランスの状態を把握し、病気を分析します。舌診は病気の改善度や重症度が一目で分かる診察法です。

2.聞診とは

聞診とは、耳や鼻を用いて行う診察法です。具体的には、患者さんから発せられる音や匂い…例えば、声の様子・関節の音・お腹の音・体臭・二便の臭い・汗の味なども含みます。

臭いは特に重要だと思います。邪熱・痰湿があると有臭になることがあります。虚証の場合は無臭が特徴です。呼吸音などが重要であることは言うまでもありません。

3.問診とは

患者さんが治療してほしい症状について、詳しく聞く。これは一般的です。

東洋医学では、それ以外の症状も詳しく聞きます。たとえば、食事について。のどの渇き方・便通について・小便の出方・目鼻耳の状態・痰の有無・睡眠状況・冷え症かなど、患者さんが普段あまり気に留めていないことまで詳しく伺います。

特に初診は時間をかけて、1時間で足りなければ、もっと時間をかけて、じっくり伺うこともあります。一見無意味に思えるような質問内容ですが、一つ一つの項目には何種類もの意味があり、こうして問診を行うことで、東洋医学的に、この患者さんがどういう原因で病んでいるかが見えてきます。すべてを「陰陽」というフルイにかけて分別・分析し、統合して体質を把握するためです。

診病不問其始憂患.飮食之失節.起居之過度.或傷於毒.不先言此.卒持寸口.何病能中.妄言作名.爲粗所窮.此治之四失也.<素問・徴四失論 78>

【訳】今の病の状態を診察するにあたり、そもそも元々どんな症状があったのか、飲食の不節制はなかったのか、毎日の生活に無理はなかったのか、あるいは変なものを食べなかったのか…。まずこういうことを先に問診せずに、いきなり脈診して、その見立てが的中することがあろうか。でたらめな説明をして勝手な診断を捏造する。お粗末の極みとしか言いようがない。これが治療の4つ目の “失策” である。

4.切診とは

切診とは、体に直接ふれて診察する方法です。「切」は「接」と置き換えれば分かりやすいでしょう。脈診・腹診・切経などがあります。

脈診とは

脈診とは、手首の脈に触れて診察することです。東洋医学では、必ず脈診を行います。おそらく、最も熟練を必要とする技術です。脈診が教えてくれる最も大きなものは、治療前と治療後の脈の変化を追うことで、どの程度治療が効いているかを知ることです。脈診の技術は、東洋医学を専門にしている治療家でも、技術の差が大きく出ます。脈で何がどこまで分かるかは、その治療家の技術レベルに左右されます。 たとえば、脳梗塞を起こす前夜にそれを脈診で見破り、治療して回避する…なども可能です。

腹診とは

腹診は、おなかを触って診断する方法です。虚か実か。つまり、弱りが中心か、病理的副産物が中心か。まず、それが診断できます。特に鍼灸では、虚や実が、体の上下・左右どの方向に偏っているかを診断します。こういう診断が、きめ細やかな治療方法・ダイナミックな効果に反映されます。

あまり強く押さえたりせずとも、軽く触れるだけで、エコーのように深い部分まで触知します。ときには手をかざして異変を感じ取ります。

切経とは

切経とは、手・足・背中のツボや、ツボとツボを結ぶライン (経絡) を触って診断することです。切経では、ツボを診ることで、どの経絡が病んでいるかが診断でき、問診・舌診・脈診・腹診を参照・統合し、高いレベルの診断にしていきます。

圧痛を診たり、軽く触れて診たりします。手をかざして診ることもあります。

これも熟練が必要ですが、軽く触れるだけで、効くツボか効かないツボかを判断する場合もあります。

まとめ

以上、東洋医学の診察法を4つあげました。東洋医学的な治療は、細かい部分に鋭い視線を注ぎます。こうして得られた情報を分析し、診断した「陰陽のひずみ」を、元に戻す目的をもって行いますので、安易な鍼は打ちません。一つ一つの診察法の精度を高める努力を惜しまない、それが本格的な東洋医学の治療法の最低条件といえます。

これら診察法はどれもみな、体得するためには、長年の学識と経験が必要です。各診察を本当にやっているか、やっていないかは、治療を実際に受けてみれば、雰囲気で伝わってくると思います。

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