血熱証

▶︎概念

血熱証とは、臓腑の火熱が盛んで、その熱が血分を犯した状態を言います。血分とは、温病 (外感病のうち熱邪が犯したもの) での衛気営血弁証 (衛→気→営→血) の中で、最も深い病位です。この弁証法は、内傷病においても応用されます。

このようにして熱が血分を犯し、その結果として傷陰・動血・熱襲神明などを起こすものの総称です。

  • 傷陰…真陰 (腎陰) を消耗したもの
  • 動血…熱によって出血するもの
  • 熱襲神明…熱が精神を犯したもの

血分とは、 (浅い) 衛分 → 気分 → 営分 → 血分 (深い)  のうち、一番深い部分を言います。熱には「浅い熱」「深い熱」があり、深い熱は、深い部位 (血) の病変として現れます。

すなわち、陰を傷り、動血 (血が激しく動き出血すること) 、熱襲神明 (熱が心を襲い意識障害を起こすこと) などが起こります。

▶︎症状

▶︎常見症状

・心煩… 落ち着かずイライラする
・躁擾発狂… 騒乱し発狂する
・口渇不喜飲… ノドが渇くが飲みたがらない
・身熱夜甚… 発熱が深夜にひどくなる
・発斑 (青あざ) ・吐衄 (吐血・鼻血) ・尿血・便血・月経過多・崩漏 (大量不正出血) … 各部位に出血が生じる

▶︎舌・脈

・舌質紅絳… 紅舌は赤い暖色で熱を示す。絳舌は深紅色で深い熱をしめす。

紅絳舌

・脈細数… 細は傷陰を示す。数は熱を示す。

▶︎原因

・外感熱邪… 暑過ぎる夏、暖かすぎる春・秋・冬に、その気候変動が影響する。
・五志過極… 心理的ストレスなどが影響する。
・偏食… 脂っこいもの・甘いもの・香辛料の摂取過多が影響する。

▶︎関連病証

血熱証は、温病・血証・疔瘡などの中で見られます。

▶︎温病

温病とは、発熱を主とする病証です。

温病って何だろう…五運六気からひもとく をご参考に。

▶︎血証

血証とは、出血を主とする病証です。

出血…東洋医学から見た4つの原因と治療法 の、「営血分の熱」が血熱証による出血ですので、参考にしてください。

▶︎疔瘡

重症化しやすいおでき (毛嚢炎) のことです。熱が体の深い部位に侵入すると、心煩・精神混迷に至ることもあり、場合によっては命の危険がある病証です。

疔瘡 (おでき) …東洋医学から見た3つの原因と治療法 をご参考にしてください。

▶︎考察

▶︎温病の “深さ”

温病とは、外感熱邪によって侵された状態です。悪寒が比較的少なく高熱をともなうカゼである… とまずは理解してください。ただし、温病であるかないかの診断は、熟練が必要です。

この熱邪は、浅い皮膚から侵入し、正気がこれを追い出せないと、気分に入り、営分・血分と徐々に深いところに入っていきます。

一般的に、深くなればなるほど難治であったり危険であったりします。

 

▶︎動血

動血とは、鼻血や吐血などの出血が起こる場合のパターンの一つを示す言葉です。

血分は、病位が最も深く、物質として「血液」と関わります。ここに熱邪が入ると、動血と言われる状態が起こりえます。

血は「温める働き」によって動いています。血分に侵入した熱邪は、「温める働き」どころではなく、血を熱してしまいます。すると血の動きが激しくなり、暴れん坊となって血管という枠組みの中に収まりきらなくなり、飛び出して出血します。これを動血と言います。血熱妄行とも言います。

内傷病においても、ストレスや食べ過ぎによる内熱 (邪熱) は主に “気分” で発生し、正気がそれを発散させたり消火したりできないと、営分・血分と、深い病位に侵入してしまうことがあります。外感熱邪も、内傷邪熱も、同じように血分証となる可能性があるのです。

▶︎熱襲神明

熱襲神明とは、熱が深く血分に入った時、神明 (精神) に大ききな異変が起こる状態を言います。高熱での異常行動・うわ言などをイメージしてください。慢性病だと、統合失調症に見られる幻覚・幻聴もこれに該当します。

血分は血の領域です。心は血と深く関わります。

心主身之血脈.<素問・痿論 44>
諸血者皆属於心.<素問・五蔵生成論 10>

素問の記載からも分かるように、心の病変は、血の領域に異変が出る… という要素が色濃くなります。熱が神明 (心) を襲う… ということは、血分の領域の中で、特に心の血分を色濃く犯す、つまり躁擾発狂を起こすということになります。躁擾発狂とは、訳の分からぬことを叫んだり、幻覚幻聴を覚えたり、やたら動き回ったりすることです。

特に、五志七情は心が直接関わっていますので、五志七情の過不足による邪熱は、深く血分に入ると心に行きやすいといえます。大きな精神的動揺がきっかけとなって発狂するなどは、よくあるケースです。発狂の症例 を参考にしてください。発狂とまでいかなくても、気持ちが落ち着かない、眠れない…などは、心煩や身熱夜甚に相当します。

五志七情だけでなく、長期にわたる食べ過ぎが原因となって熱襲神明を起こす場合もあります。下図は飲食と深く関わる胃の経絡 (足の陽明胃経) の流注 (経絡の流れ) を示したものです。これをご覧いただくと分かるように、青いライン (経別) が心に通じています。食べ過ぎると心に行くのですね。

足陽明胃経流注

このようにして説明するのですね。臓腑経絡は東洋医学の骨格です。この前提をなくしてしまうと、骨抜きになってしまいます。

▶︎身熱夜甚

五心煩熱とは で説明したように、陰虚内熱は午後、特に夕方から入夜にかけて熱が盛んになります。血熱証はもう少し遅い時間、つまり深夜に熱が盛んになります。

不眠であれば、入夜が寝付けないのならば肝火による気分の熱や陰虚内熱を疑い、深夜に目が覚めるのならば血熱を疑います。すなわち、深夜目覚めて、身体が熱いとか煩躁して落ち着かないとかいう症状があれば、営分・血分に熱があるのではないかと疑います。

最終的には、膈兪・神門・血海・三陰交などの穴処に邪熱の反応があれば、確定して良いと思います。ツボの診察…正しい弁証のために切経を を参考にしてください。

▶︎口渇不喜飲

口渇は気分の熱を示します。この場合はゴクゴク飲みたがります。多くは冷たいものを喜びます。熱があるからです。

一方、血分証の特徴である “口渇不喜飲” は飲みたがりません。営血分の深いところの熱は、熱証としての特徴をハッキリとは示しません。口渇はないとするのが本当です。しかし、営血分の熱は気分に出よう出ようとしています。ですから気分の症状としての口渇も垣間見えます。しかしハッキリしないので不喜飲です。そう考えると臨床の応用ができます。

▶︎無証可弁

口渇不喜飲だけでなく、考えてみれば、躁擾発狂・身熱夜甚・出血も、意識がハッキリしない中で起こったり、深夜の見えづらい時間に起こったり、知らぬ間に体内で出血する場合があったりなど、病の表現が「深くて見えづらい」のが特徴です。

このように、証候として現れにくいが、一旦現れると重症です。証候なしで弁証すべきである。… これを “無証可弁” と言いますが、血熱証はそれに該当する側面を持ちます。

たとえば初期ガンは症状がなく精密検査でしか見つけられない。脳梗塞の前段階の動脈硬化も症状がない。このように問診で以上がなくとも、すでに命に危険が迫っているという状態がある。これを東洋医学は正しく診断することができるのか。患者さんは、いつも「わたしガンなんです」と言ってくれるとは限らないのだ。

血尿 (尿路出血) … 東洋医学的診断が西洋医学的診断を上回った症例
ナットクラッカー症候群の中医学的症例報告である。中医学独自の診断によって鍼灸を行った。1年7ヶ月の間、排尿のたびに見られた血尿が、ある日を境にピタリと止まる。

血熱証だけでなく、血虚 (面色無華) ・血脱 (夭然不沢) ・血瘀 (腫塊のみ) …、血の病証は自覚症状に乏しく、証候が見えづらい場合があるといえます。

体表観察すなわち、望診 (気色診・舌診) ・聞診・切診 (腹診・切経) 、つまり問診以外の診察法で証候をつかみ取る、その腕が試されるのが血の弁証であると言えるでしょう。

ツボの診察…正しい弁証のために切経を
ツボは鍼を打ったりお灸をしたりするためだけのものではありません。 弁証 (東洋医学の診断) につかうものです。 ツボの診察のことを切経といいます。つまり、手や足やお腹や背中をなで回し、それぞれりツボの虚実を診て、気血や五臓の異変を察するのです。

 

参考文献:中国中医研究院「証候鑑別診断学」人民衛生出版社1995

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