五心煩熱とは

厳しい猛暑のさなかにいただいたご質問です。

  • いつもありがとうございます😊
    暑過ぎて動けず、涼しくなった夜から張り切ってしまう。
    そのためか、夜なかなか寝付けない…の悪循環です。
    足の裏が熱くて眠れない時はどうしたら良いのでしょうか?

こういう病態のことを “五心煩熱” と言います。

▶五心煩熱とは

▶手足がほてる

五心煩熱とは、手掌・足底・前胸部が熱くほてった感じがする状態を言います。

・手心 (手のひら=たなごころ) 2
・足心 (足の裏) 2
・胸の心臓部 (前胸部) 1

…と、全部で “五” つの “心” がありますね。そういう場所が “煩” 悶するように “熱” い。午後あるいは夜間にひどくなるのが特徴です。深夜以降、徐々に軽減、明け方に消失します。

▶潮熱の一種

潮熱という概念のなかの一つです。

潮熱とは、一定時間になると熱がひどくなる状態を言います。陽明潮熱・湿温潮熱・陰虚潮熱の3つがあります。いずれも午後から熱証が明らかになりますが、虚実正邪によって分別されます。

このうちの陰虚潮熱でみられる症状を、五心煩熱と呼びます。

質問者の方は足のほてりだけを自覚されていますが、これもその範疇に入ります。

▶陰の不足

原因は陰の不足、すなわち陰虚です。陰 (クールダウンする働き) が不足すると陽 (ヒートアップする働き) が亢進し、熱くなって煩悶します。

陰虚で起こる熱を虚熱と言います。
陰虚に熱が加わる病態を陰虚内熱と言います。

▶随伴症状

訴えられる症状以上に、患者さんご本人はつらく感じています。 “煩熱” の名が示すように、気持ちが落ち着かない、焦燥感や不安感が特徴です。

ほてりの自覚はあっても他覚的には熱感のないもの、手足から何かが漏れてしまっているような脱力感を伴うもの、寝汗や不眠を伴うもの、手足の骨から熱いと感じるもの (骨蒸潮熱) があります。

▶考察

以上は教科書的な簡単な説明です。でも分かったようで分からないので、私見を交えながら説明します。

▶陽動・陰静

生命活動とは陰陽です。

陽とは陽動です。動とは活動です。
陰とは陰静です。静とは安静です。安静とは睡眠です。

活動しては睡眠をとる。睡眠をとっては活動する。これを繰り返すのが生命活動です。

靜者爲陰.動者爲陽.<素問・陰陽別論 07>

▶陽熱・陰寒

陽はまた陽熱です。つまり陽動は陽熱 (ヒートアップ) です。
陰はまた陰寒です。つまり陰静は陰寒 (クールダウン) です。

ヒートアップしてはクールダウンする。クールダウンしてはヒートアップする。これを繰り返すのが生命活動です。

陽勝則熱.陰勝則寒.<素問・陰陽應象大論 05>

▶陽は表・陰は裏

陰陽は一枚の紙の表裏です。表になったり裏になったりする。
陽が表の時は陰が裏になります。
陰が表の時は陽が裏になります。

此皆陰陽表裏.内外雌雄.相輸應也.<素問・金匱眞言論 04>

▶陽は活動・陰は肉体

我々が日中、元気に働いたり遊んだりするのは、陽が表になっているからです。
我々が夜間、静かに横たわって熟睡できるのは、陰が表になっているからです。

陽は “気” です。気とは活動です。陽動です。
陰は “形” です。形とは肉体です。形体・物質のことです。物質は動きません。陰静ですね。

陽化氣.陰成形.<素問・陰陽應象大論 05>

▶陽は昼・陰は夜

昼間は、我々の体の表面は陽で覆われてます。陽が前面に出るので動の状態になります。陽動だから活発に動けるんですね。体温も高くなります。
夜になると、その陽が体内に入って隠れます。つまり陰 (形体) が表面になるのです。陰が表面になる。つまり形体だけが表面になれば、ジッと動きませんね。つまり陰静です。眠くなり安眠し動きません。体温も低くなります。

夫衛氣者.昼日常行於陽.夜行於陰.故陽気尽則臥.陰気尽則寤.
<霊枢・大惑論80>

【訳】衛気 (体表を覆う陽気) は、昼日は常に陽 (表の浅い所) に行き、夜は陰 (裏の深い所) に行く。故に陽気が尽きれば眠ることになる。陰気が尽きれば目が覚めることになる。

これを、ぼく流にたとえてみましょう。

陰を劇場だとすると 、陽は役者です。劇場には舞台と控室がありますね。開演時間 (日中) は、舞台で活溌に動き回り、閉演時間 (夜間) は控室で体を休めます。舞台のような “形” ある土台に支えられているからこそ、役者は自由に “動” き回ることができます。控室のような “形” ある器 (容れ物) があるからこそ、 “静” かに休むことができます。

陽は活動です。
陰は土台です。器です。

▶陰虚とは

いよいよ五心煩熱の説明です。

陰 (睡眠) とは陽 (活動) を土台としてささえるものです。つまり陽 (役者) を容れる器のようなものです。壺のような容れ物を想像しましょう。壺そのものが陰 (劇場) です。

壺の内側が控室、壺の表面が舞台です。

開演時間が来る (日が昇る) と、陽は壺の表面に出て来て、そこを表舞台として駆け回ります。このとき陽は壺全体を覆っていますので、壺そのもの (陰) は隠れてよく見えません。陽が動いている様子だけが見えます。生き生きと活動する人間の姿です。

閉演時間が来る (日が沈む) と、陽が壺の中 (控室) に入ってしまうので、壺 (陰) だけがよく見えます。壺は動きませんね。その動かない様子だけが見えます。ぐっすりと眠る人間の姿です。

壺は、陽がすべて入り切るだけの大きさがあります。これが健康的な状態です。

もし、壺が小さいとどうなるか。つまり陰が足りない病的な状態だとどうなるかです。これが陰虚です。夜になると陽が壺に入って隠れようとしますが、小さくて入りきれない。陽が壺の表面を覆ったままでありつつも、何とか中に入ろう入ろうとして もがきます。

閉演しているのに陽が露見している。しかも控室に入ろう入ろうと苦しんでいる。これが陰虚内熱による五心煩熱です。

その後、深夜から明け方にかけて、開演時間 (日の出) が近づくにつれて、「もうすぐ開演だし、入りたいけど、まあどっちでもいいか」となると、少しずつ五心煩熱が軽減していきます。日が昇ると、壺の外に出ている状態で何の矛盾もないので、ほてりはなくなりケロッとしています。

▶陰を養う方法

五心煩熱は、午後あるいは夜間にひどくなるとされます。また深夜以降、徐々に軽減、明け方に消失します。ということは、陰虚で中に “入りたくても入れずにもがく” のは子の刻まで、子の刻以降は “入れなくてもまあいいか” となり、明け方になると “入っていなくて正常” と考えられます。

つまり、健康で本来の陰のキャパ (壺の大きさ) があれば、子の刻に陽がすべてそこに入ってしまう…と考えられます。完全に壺の中に入って、そこではじめてちゃんとした休みがとれる。子の刻前後が、もっとも陰気の深い時間帯なのです。

ということは、この時間帯の睡眠が非常に大切であると言えますね。役者は休息をとらせる必要があります。休まずに次の日に幕がが開けても、いいパフォーマンスはできません。

子の刻は午後11時からです。健康な人でも、それまでに就寝するのがいいでしょう。これが陰 (休息) を養う方法、陽をすべてしまいこめる「大きな壺」にする手っ取り早い方法です。夜の10時から2時は “お肌のシンデレラタイム “とも言われますね。「うるおい」は陰ですので理にかなっています。血虚 (陰の弱り) の特徴に肌のカサつきがあります。

冬の乾燥がつらい より引用

特に冬至前後に夜ふかしすることは禁忌です。一日のうちの子の刻は、一年のうちの冬至 (12月21日ごろ) になります。つまり、冬至前後の午前0時ごろは、もっとも陰を養えるときであり、もっとも陰を傷 (やぶ) るときなのです。

やってしまいますよね? 忘年会・クリスマス・お正月。どうも我々は、体に悪いことをしたくなってしまうようです。

ちなみに、現在の暦が用いられたのは明治に入ってからだそうです。それまでは陰暦で、正月の祝は立春 (2月4日ごろ) ごろでした。今年 (2021) の旧正月は2月12日、来年 (2022) は2月1日だそうです。これならまだマシなのですが…。

▶陽動→陽熱

あらためて、質問者の方のコメントを見直しましょう。

陽が陽動として表現されれば、 “夜から張り切ってしまう”
陽が陽熱として表現されれば、 “足の裏が熱くて眠れない”

陽動は、ジッとしていると陽熱に変化します。気は通じていると熱を持ちませんが、滞ると気滞化火して熱をもちますね。だから動いている時はそこまで “五心煩熱” を意識しなくても、ジッとすると強く感じる。フトンに入って眠ろうとすると ひどくなるのはこういうことが考えられます。

  • 五心煩熱は、陽が陰 (深い所) の中に入ったが陰がたりなくて中和しきれない熱です。陽 (浅い所) の熱ではありません。その理由から、手掌部・足底部・前胸部と、陰の部位に起こりやすいと言えます。

    手掌部…厥陰心包経 (陰脈)
    足底部…少陰腎経 (陰脈)
    前胸部…任脈 (陰脈の海)

▶似つかわぬ活動力

臨床では、午前中は手足が冷えて仕方ないのに、午後は手足が ほてってつらい…ということがあります。つまり、午前中は陽虚で冷える。午後は陰虚で熱い。陰陽ともに小さくなった場合で、高齢者によく見られます。

陰陽とは生命活動そのものでしたね。それが小さくなってしまったのです。

ただし、陰陽ともにバランス良く小さくなっているのであれば、小さい壺に少ない陽が入るだけのことで、冷えることはあっても熱することは無いはずです。これは、小さい壺 (陰) に、少ない陽+邪気 があるからです。この邪気は「ツボの大きさに似つかわぬ活動力」で、生命を削るものです。邪気ゆえに生命を心地よく温める力はありません。だから午前中は動けるが冷える。しかし夜になると陽動が陽熱に変化し、熱くなるのです。

壺の大きさに似つかわぬ活動力…。これは疏泄太過です。

午前中は冷える、午後はほてる…という現象は、上実下虚でも説明できます。上焦 (上半身) はギュウギュウ詰め、下焦 (下半身) はガラガラ…。上のギュウギュウは熱を生じ、下のガラガラは陽虚と陰虚となります。陰虚と上熱は陰虚内熱となり、陽虚は下の冷えとなります。上ばかりが充実して元気、でも土台の下がついていけてない。上 (実動部隊) の元気さが下 (支える土台) の窮地に気づけていない。これが疏泄太過の本質です。

▶壮火食気

ところが質問者の方のように、日中は “暑くて動けない” 。暑さ (暑邪) は気 (活動力) を傷 (やぶ) ります。 “壮火食気” と言います。だから動けないのですね。

この時点で、気の衰退があります。

壯火之氣衰.少火之氣壯.壯火食氣.氣食少火.壯火散氣.少火生氣.
<素問・陰陽應象大論 05>

【訳】壮火 (強すぎる火) のとき気は衰える。少火 (ほどよい火の温もり) のとき気は強くなる。壮火は気を食らう。気は少火を食らう。壮火は気を散ずる。少火は気を生む。

温暖化の原因になる火の使いすぎ、あるいは暑邪、これら “壮火” は結果として気 (生命力) を奪います。これは夏バテや熱中症に限らず、たとえば温暖化は水害などの自然災害を生み、我々に襲いかかって気を食らい生命を散らしますね。

温暖化をもたらさない程度の火の使い方、あるいは程よい暑さや温かさ (四季それぞれの適温) 、これら “少火” は結果として気 (生命力) を養います。ある程度暑くないと稲も育ちませんね。人間も同じです。生命は少火 (自然の恩恵) を食い物にして生きることができています。少火は気 (生命) を生むのです。

▶動いてはいけない時

日が暮れて涼しくなると元気が出て “張り切る” 。これは暑邪に押さえつけられていた気が、復活したことを意味します。しかしそのタイミングは夜…。本来、動いてはいけない時間帯です。

動いてはいけない。自然に逆らうからです。正気が自然に逆らえば、それは邪気になります。生命力・活動力 (気) も、間違った時間に発動すれば、邪気になってしまうのです。

この時点で、気の亢進 (疏泄太過) があります。

夜に張り切る。電気をつける。火を使う。壮火です。この時点では、この壮火はまだ我々に襲いかかってはいませんが、そのダメージはいずれ、ボディーブローのように こたえてきます。

▶陰虚は腎虚

このように、ご質問の内容には、

・気の衰退 (気虚) … “暑過ぎて動けず”
・気の亢進 (疏泄太過) … “涼しくなった夜から張り切ってしまう”
・陰の衰退 (陰虚) … “足の裏が暑くて眠れない”

が潜んでいます。

壺の大きさに似つかわぬ陽動とは、暑さによって やられやすい陽動と考えられます。よって冬にはやられにくい。だから冬は動ける、動きすぎる。だから陰が弱る。

冬の活動量が、夏の活動量を超えている人に、健康な人はいません。冬に陰を傷 (やぶ) るからです。冬は封蔵の季節です。封蔵とは生命の根源、腎臓のことです。

腎者.主蟄.封藏之本.精之處也. …通於冬氣.
<素問・六節藏象論 09>

【訳】腎は、蟄 (虫が地中深く冬眠すること) を主 (つかさど) り、封蔵のもとであり、精 (尽きると寿命がなくなるもの) の保管場所である。…この性質は冬のありように通じる。

しかも、冬は四時陰陽で夜 (日没〜日の出) に通じます。たしかに夜は暑さにやられにくいし、はしゃぎたくもなりますよね。しかし “封蔵” の時間帯なのです。

▶ “壺” とは…

たどりたどれば、長期に渡る壮大な構図による病因が見え隠れします。

夜の活動、冬の活動、火の使いすぎ…。はなやかな夜の社交。電飾に彩られた冬の高揚。それを阻むかのように突如として現れた疫病。

壺の大きさとは…。

それは人体のキャパだけではなく、地球のキャパをも意味するのではないのか ! ?

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました