今日は火曜日、帰宅は7時で早く夕食が食べれる日だ。
さあご飯♪
食べようとすると、まだ食べてない娘 (22歳) がモゴモゴ言ってる。
なに言ってんだ?
なんだって? ハッキリしゃべれ。え? 血が止まらない?
抜歯してきた? 今日やったん? 聞いてないぞ!
口の中を見せようとするが、僕はこわがりなのだ。
「もういいからいいから、見せんといて。オレは何も知らなかったことにする。」
現実から目をそむけつつ、ご飯を食べ始める。
ああ、おいしい。今日一番の幸せのひととき。
そんな至福の時間にまた娘がモゴモゴ言いだした。
「血ぃ止まらへんねん。」
「いつ抜歯したん? 」
「 (午後) 6時過ぎ。」
現在7時10分。1時間が経っている。
「食べられへん? 」
「うん。」
「まじで? どうなってんの? 見せて。」
「こんなん。」
「わっ、めっちゃ血ぃ出てるやん。」
「ガーゼしたら止まるかなあ。」
「おお、そうそう。ガーゼくるくる巻いて噛み締めとき。圧迫が止血の第一選択やで。」 >> モグサを貼り付けるという東洋医学的な方法もある。
よし、これで落ち着いて食べれるぞ。
ああ、おいしい。やっぱりヨメ (妻) が作ってくれるご飯が一番美味しいなあ。
「ほら見て。ガーゼもう赤くなった。」
「まじで? 止まらへんやん。ちゃんと噛んでる?」
「噛んでる。ほら、もう真っ赤になった。」
あっという間に、余す所なく真っ赤。
圧迫止血を始めて15分間経過。止まらない。
7時30分。こりゃだめだ。
「ちょっとこっちに来て。」
「ここでいい?」
「うん、その椅子に座って。」
美味しい途中なのだ。ここは出来るだけ簡易な方法で行うのが望ましい。
食べながら要点のみを診察する。
まず顔面診、うん、正中線の気は浮いている。 >> 体中のツボは、正しく反応している状態である。
次に、矛盾する出血の反応は?
服は着たまま、靴下も履いたまま、行け! 透視!
膝 (血海) ・足首 (三陰交) ・足親指 (隠白・大敦) と見ていく。
ああ、大敦に反応が出ている。だから血が止まらないんだ。 >> 肝不蔵血証。普段から肝鬱気味で、それが抜歯という生命力への負担によって化火したのである。
この反応を取れば血が止まるはず。
ただし、大敦には「生きたツボ」の反応はなく、このツボでは治療できない。 >> 多くは正虚邪実、正気を補わなければ邪気 (肝火) は取れない。
さあ、どうやって取る。
いま、美味しい途中であるということを忘れてはならない。
そうだ、手当たり次第に「生きたツボ」を探してみよう! それが一番早い!
もう見つけた。百会だ。
カバンから金製古代鍼を取り出し、このツボにかざす。2〜3秒。 >> 補法。
即座に大敦の反応が消えた。7時35分。>> 補中の瀉。
「今の間におかゆ炊いとき。一口でも食べたほうがええから。」
「うん、おなかは空いてんねん。」
大敦さえ消えれば、あとは体が何とかしてくれる。
後のことは体に任せて、僕はご飯を再開。
これでやっと味わって食べれる。
ああ、おいし。
10分後、こわごわガーゼを取る。
「わっ止まってる! 父さんすごい! ありがとう!」

おかゆを冷まして食べてる。もごもご。
「わっ。」
「なに。」
「食べてたらめっちゃきれいになった!」
「それはもうええから。食べても血ぃ出てこーへん?」
「うん、ぜんぜん。止まってる。すごーい、ありがとう!」

さっき、透視と言ったがそれは冗談だ。感じ取るのである。甘さを知りたいなら実際に甘いものを食べてみればいい。すぐに感じ取れるだろう。ただし、プロが引き出す深い味わいのお出汁ならば、何度も味わって鍛えなければ微妙な違いは感じ取れない。それと同じ、感じ取るトレーニングをするのである。


お出汁の味はだんだん分かってくる。
そのうちチョッと見ただけで、どんな味かが分かってくるのである。
ここは理系では切れない。
そうだ、味を「見る」のだ。
それは、実際に見えているわけではない。
よし。うまくいった。
美味しさをできるだけ損なわず、任務完了。
分かりたいなら精進あるのみ、いつか分かる。
ハナから否定する人は、一生分からない。
分かりたくないならひたすら机にかじりついていればいい。
ぼくは机 (学問) もベッド (臨床) も同じくらい重視する。両者は陰陽だからである。