約1年前くらいから原因不明の肝炎になってしまい近く生検をすることになりました。食べ物でもお茶でもいいので肝臓にいいものを教えてください。よろしくおねがいします。
原因不明の肝炎ですか…。
飲食物で肝臓に良いものを教えろということですが、まずは肝臓が何をする臓器なのかを知ることが大切です。そして、なぜ肝臓が窮地に立たされたのか、その原因をご自分の生活習慣に照らし合わせて考えることです。もしくは専門家の問診に答えて診察を受け、指導を仰ぐことです。
本ブログで常に言っていることですが、なぜこういう病気になったのかを詳しく調べもせずに “この病気には○○がいいですよ” という回答はしてはならないことで、またそういう回答を求めることも適切ではないと考えています。
大切なのは病因病理です。それが判明した後、 “○○がいいですよ” ということが初めて言えるのです。
肝炎の原因
まず肝炎は、ウイルス性・アルコール性・自己免疫性・非アルコール性・薬物性に大別できます。
これらのなかで、ウイルス性・アルコール性・自己免疫性は、いわゆる「原因」にたどり着きやすいと思います。
よってここでは、非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) と薬物性肝障害の可能性を考えます。
非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) とは、アルコールをほとんど飲まない人が脂肪肝 (非アルコール性脂肪肝:NAFLD) となり肝炎を引き起こすものを言い、つまりアルコールは摂りすぎていなくとも、飲食物を摂りすぎているということです。中国伝統医学では、少なくとも2000年前から飲食物の摂りすぎに注意を促しています。簡単に言うと「食べすぎ」です。
>> ただし「食べすぎ」とは、飲食物の絶対量の多さをいうのではなく、肝臓の処理能力を超える (肝臓の許容の限度を超える) 事を言います。肝臓の処理能力が小さい人は、少量であっても処理しきれない場合があり、それも「食べすぎ」です。後述の “反応性代謝物の生成量が解毒能を上回ると肝障害を生じる” と同様の考え方です。東洋医学的には、間食・夜ふかし・ストレス・過労などの要因は、その処理能力を小さくすると考えられます。質問者の方からは “胃がんで胃を全摘して普通の人みたいな食事ができない” と聞いており、これもその範疇と考えていいでしょう。飲食物が少量なのに処理しきれない場合、食事内容の見直しとともに、これら要因 (複数要因) の見直しも必要になります。
薬物性肝障害は、中毒性と特異体質性に大別でき、そのうち中毒性は薬物を摂りすぎているものです。摂りすぎとは、一回用量だけでなく長期に渡る蓄積もある (下段資料参照) と考えられます。
このように2つには、「摂りすぎ」という共通項があります。
また、原因物質 (飲食物や薬剤) を取り込んだとしても、その場ですぐに肝障害が現れず、ジワジワくるという共通項もあります。その場ですぐに障害が出れば、何が原因だったかが分かりやすい。しかしこれらは、その場ですぐに障害が出ないことがあるため、何が原因かが非常にわかりづらくなります。
2つ (飲食物や薬剤) が複合して出ることも考えられます。「ストレス食い」があるならば、ストレスも原因となりえますね。複数要因の可能性があります。
>> 第90回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、ならびに令和4年度第23回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の資料 (令和5年1月20日) 「予防接種法に基づく医療機関からの副反応疑い報告状況について」によると、ごく僅かながら肝機能障害の報告が見られます。この障害メカニズムはいまだ不明な点が多く、今後の解明が待たれます。私見として、ワクチン単独での副反応を疑うのではなく、もともとのあった複数要因の上にこれによるわずかな負荷が加わって肝臓の処理能力を超えた (肝臓の許容の限度を超えた) という見方をしたほうが、現状に沿った解決につながると思います。
たとえば子供がグレて親をなぐった。原因は一つではありませんね? しかも、一瞬でグレることはなく、長い間かけて、いろんな要因 (複数要因) が少しずつ加わり、少しずつグレます。そして、最後の要因 (たとえば「勉強しなさい」の一言) が加わった時、はじめて親を殴るという結果となるのです。「その一言」だけを原因とするのはおかしいし、そんな浅い原因究明の仕方では解決しません。解決するためには、まずその子のことをよく知り、その子に寄り添い、その子の身になって考えてやることからです。そのうえで、その子に無理を押し付けてきた者が、反省と気づきを得ることです。
肝臓のことを知る
よって、肝臓が何をする臓器なのかを知ることが、まずは大切です。
そうすれば、毎日の生活習慣のなかに原因が見えてくるかもしれません。
肝臓には500以上の命に関わる機能があります。
特に大切なのは、飲食物を人体に変える機能です。肝臓は「子宮」みたいなものです。子宮が「新品の赤ちゃん」を作るように、肝臓は「新品の人体」を作ります。人体の内臓や血管・筋肉・神経・皮膚など、ドンドン新しいものが作られ、それらは3ヶ月もあれば全部入れ替わってしまうということをご存知でしょうか。今ここにある体は、3ヶ月後には無くなってしまい、新品に置き換えられているのです。
そして、それにもまして大切な機能が「解毒」です。
口から何か飲食物を取り入れるたびに、それは肝臓で「新品の人体」と「毒」の2つに変化するのです。「新品の体」を作るためには、必ず「毒」も生まれてしまうのですね。
この毒 (アンモニア) は、わずか0.005%血中に混入しただけで致死量となる猛毒です。それを肝臓はすぐに解毒 (比較的無害な尿素に減毒) します。つまり我々が生きているのは、肝臓がこのウン十年間、一度もミスをしたことがない証しなのですね。
我々がもし肝臓なら、すごく気をつかう仕事です。そんな仕事を「沈黙の臓器」が黙ってやってくれている…そういう気遣いが我々にはありません。だから、何かと口へ放り込むのですね。
非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH)
放り込んだものは、胃に入って小腸に行き、絨毛で吸収された栄養分は、肝門脈という一本の血管にまとめられ、すべて肝臓に注がれます。肝臓に入ったら、それを人体に変えたり、そのとき生まれた毒を解毒したり、余った分を片付けたり、大忙しなのです。
口にしたものはみんな肝臓が必死で何とかしてくれている。それを我々はよく分かっていません。
だから、肝臓が忙しかろうがお構いなしです。
仮に口から入る量が多すぎて、肝臓が背負いきれなくなった時、それでも解毒だけは命がけでこなします。やらないと死ぬからです。すると、その他の仕事が後回しになる。新品の体や新品の肝臓を作る仕事に手が回りきらず、出来損ないになってしまうことは容易に想像できます。余った栄養はコレステロールや高血糖や中性脂肪と姿を変え、みずからが脂肪の塊 (脂肪肝) になったとしても、解毒の仕事だけは片付け続ける。しかも、さらに500以上の仕事を抱えているのです。
いまここに、脂肪肝を引き起こすひとつのモデルを挙げました。
脂肪肝は、非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) を起こす原因であると考えられています。
過去に何をどれだけ食べたかということは、血液検査でもレントゲンでも分かりません。しかし、その「分からないもの」の毎日の蓄積が、肝炎の原因になるということだけは確かです。
しかも、食べ過ぎはストレスが大きく関与します。憂さ晴らしについ食べすぎてしまいますね?
ストレスも数値や画像では出ない要素です。「沈黙の臓器」はまるで大会社の社長さんのように、見えづらいところにいるのです。
薬物性肝障害 (薬剤性肝障害)
薬を処理してくれているのも肝臓です。
サプリを処理するのも肝臓です。
そのうえに食べ過ぎもやる。飲み過ぎもやる。肝臓、大忙しです。
薬物性肝障害によるものであるならば、原因となる薬物を確定し、その使用を中止すれば改善が見られます。
【患者の皆様へ】
薬物性肝障害とは?… 薬の代謝(化学変化)は肝臓で行なわれることが多く、さまざまな代謝産物が肝臓に出現するため、副作用として肝機能障害が多いと考えられています。…代表的なものとしては、解熱消炎鎮痛薬、抗がん剤、抗真菌薬…、漢方薬などでみられます。…サプリメントなどの健康食品でみられることもあります。また、単独では肝障害を引き起こさなくても、複数の薬を一緒に飲むと肝障害が出る場合があります。
重篤副作用疾患別対応マニュアル
薬物性肝障害 平成 20 年4月(令和元年9月改定) 厚生労働省
ここ (厚生労働省マニュアル) にある “代謝産物” とは、解毒・減毒を必要とする「毒」のことで、肝臓で処理されます。
“単独では起こさなくとも複数で起こすことがある” と、複数要因について触れられています。
【医療関係者の皆様へ】
薬物性肝障害は大きく一般型と特殊型に分類できる。一般型は「中毒性」と「特異体質性」に分類され、…中毒性では、薬物自体またはその代謝産物が肝毒性を持ち、反応性代謝物の生成量が解毒能を上回ると肝障害を生じる。用量依存性で、肝障害が全て のヒトに発生し、動物実験でも再現可能である。
重篤副作用疾患別対応マニュアル
薬物性肝障害 平成 20 年4月(令和元年9月改定) 厚生労働省
“中毒性” とは、“用量依存性” (薬の用量が多ければ多いほど効果あるいは悪化が現れやすくなること) の肝障害のことです。つまり、たくさん服用することによって悪化が起こるものです。
“特異体質性” とは、アレルギーのように特定物質が過敏に反応したり代謝できなかったりすることによる肝障害のことです。つまり、微量でも悪化が起こるものです。
【医療関係者の皆様へ】
重篤副作用疾患別対応マニュアル
- 多くの薬物は肝臓で代謝されるため肝障害を起こす可能性がある。
- 起因薬投与開始から症状出現(発症)までの期間について…1 回の内服で発症したり、2 年以上の継続投与した後に発症したりする症例もある。
- 多くの薬物で低頻度ながら肝障害が生じる可能性があり、肝障害が発生した場合、薬物性肝障害を疑い、速やかに使用を中止すれば重篤化することはほとんどない。しかし、気づかずに長期使用すると重篤化することがある。
薬物性肝障害 平成 20 年4月(令和元年9月改定) 厚生労働省
薬剤服用期間が2年以上経たないと発症しないケースもあるということです。
つまり、薬剤が原因であったとしても、長期服用でしか発症しない場合があるということは、原因がそれと判明しにくいケースがあるということを示唆します。
そもそも人間の生活習慣は多岐にわたるため、何が原因か突き止めることは容易ではありません。
>> 人間はマウスとちがって、行動 (生活習慣) が十人十色です。食物の好み・寝る時間・運動量・考え方など、人それぞれですね。マウスは10匹いれば10匹とも同じ行動を取ります。なので、マウスになら「肝炎にはこうすればいいよ」ということは言えるかもしれません。しかし人間は人それぞれで別種と考えてもよく、画一的にこうだとは言えない。人それぞれで対策を講じる必要があります。東洋医学は徹底したオーダーメイドの診断をしますが、それを実践するものとしては当然の考え方です。
【医療関係者の皆様へ】
本マニュアルで紹介する副作用は、発生頻度が低く、臨床現場において経験のある医師、薬剤師は少ないと考えられる。
重篤副作用疾患別対応マニュアル
薬物性肝障害 平成 20 年4月(令和元年9月改定) 厚生労働省
しかも、経験豊富な医師・薬剤師は少ないということです。ひんぱんに出るものではないからです。
>> 以前、γ-GTPの数値 (肝機能の数値) が220もある患者さんがありました。担当医から「お酒を飲んでますか」と聞かれ「まったく飲みません」と答えると「なんでかなあ」と言われたと聞きました。つまり原因不明なのですが、当該患者は1日30錠以上の薬を処方され、10年以上に渡って服用していました。ここまで多いと、用量過剰による数値の上昇を、念の為に疑うべきです。
【医療関係者の皆様へ】
肝細胞障害型では肝機能検査値に異常はあるものの、臨床上は無症状であることが多い。しかし、肝障害に気づかず、起因薬物の服用を継続した 場合、肝不全に陥って、高度の黄疸が見られるようになる。
重篤副作用疾患別対応マニュアル
薬物性肝障害 平成 20 年4月(令和元年9月改定) 厚生労働省
無症状の場合もあることを考慮に入れ、慎重であるべきです。
数値に異常が出ない「隠れ脂肪肝」という病態もあることが、近年わかってきています。
【患者の皆様へ】
重篤副作用疾患別対応マニュアル
- 薬の服用により、肝臓の機能が障害される「薬物性肝障害」が引き起こされる場合があります。…何らかのお薬を服用している場合は、定期的に血液検査で肝機能を調べる必要があります。
- 早めに「気づいて」対処することが大切です。
薬物性肝障害 平成 20 年4月(令和元年9月改定) 厚生労働省
自分でよく考え行動すること。
自分で気づくことが大切なのですね。
測り知られぬ臓器
まずは、正しい知識を持つことです。
しかし、心臓や腎臓は何をするところか誰でも知っていますが、肝臓って何をするところかよく知らないですよね。ここまで「“肝臓” を考える…東洋医学とのコラボ」のリンクを散りばめてきましたが、できれば全文を読んでよく理解してください。
人工腎臓・人工肺・人工心臓は作れますね。人工透析・人工呼吸器・エクモ・インスリン投与などで、主な臓器は人工的に補うことができます。しかし、肝臓だけはそれができない。人知をこえた複雑かつ精巧な臓器なのです。「人体の化学工場」とも言われます。
装置としての「人工肝臓」は作れない。
肝臓の機能を人工的な装置で総括的に置き換えることは非常に困難である
東京大学生産技術研究所 酒井 康行
分かっているだけでも500以上の機能があるのです。そんな複雑な肝臓をどこまで理解できるか。
ぼくは肝臓を「人間」として見ることで、その突破口を開くことができるのではないかと考えています。
「人間」は複雑すぎて、モノ扱いや機械扱いにしていては理解できないことは、誰もが認めるところでしょう。奥さんをモノ扱いにしてうまくいった試しが人類史上あったでしょうか。
肝臓に向き合う
「人間」を良くしたいなら、「人間扱い」にしなければ良くなりません。そして、人間が一番喜ぶものとは何か、それは真心と感謝です。みんな「ありがとう」と言われるのが大好き。肝臓だって「人間」ですね?
肝臓が炎症を起こしたり機能障害を起こしたりするのは、肝臓が忙しすぎて窮地に立たされている証拠です。なぜそんなに忙しいのか。なぜそんなに苦しいのか。過労で倒れる寸前であったとしても、誰も思いやるものがない。そういうとき我々が奇跡的に復活するとしたら、どういうシチュエーションが考えられるでしょうか?
肝臓の仕事とは「口から入ってきたもの」すべてを処理すること。
これが、まず知るべきことです。
そのうえに何かを飲食して肝臓をまともにできると考えるなら、それは大当て違いといえるでしょう。
肝臓の身になって寄り添える「優れたお医者様」の御高診をいただくこと。
これが、まずやるべきことです。
そのうえに食事や生活を見直して、自分で自分の肝臓の負担を減らすことを考えることでしょう。
自分が肝臓だったら…親身になってそう考えてみる。すると、してほしいことは自ずと見えてます。
そのためには、肝臓のことをもっと「知る」。
もっともっと「分かってあげる」。
その必要がありますね。
肝臓の気持ちになってこそ、肝臓がして欲しがっている○○が分かる。ここではじめて、 “○○がいいですよ” が言えるのです。
そのためにも、いままで黙って働いてくれた「この肝臓」を思いやる。モノとしてではなく「人」として。
—— いてくれてありがとう ——
まずはそこから。
それは素人であろうが専門家であろうが、同じことのようです。
厳密には、NASH 発症のメカニズムは解明されていません。肥満・糖尿病・脂質異常症 (高脂血症) ・中性脂肪などによる脂肪肝が原因であるという説が一般的です。脂肪肝は、肝炎にとどまらず、ガン・脳卒中・アルツハイマー病など、我々がもっとも恐れる病気の原因になると考えられています。