血瘀証

瘀血 (おけつ) という言葉を聞いたことのある方は多いのではないでしょうか。

気と血は、東洋医学の基本的な概念です。この2つを虚と実に分けると、

  • 気虚と気滞
  • 血虚と血瘀

が対になります。血という言葉には馴染みがあり、しかも瘀血は基本だけによく耳にしますので、理解しやすい概念ではあります。しかし、突き詰めると非常に難解であることが分かります。

▶︎血瘀と瘀血のちがい

まず、血瘀 (けつお) と瘀血 (おけつ) からです。この2つは混同されやすいですが、異なる概念です。

血瘀 (血の滞り) とは、瘀血によって滞った状態です。ですから、血瘀とは病態 (証) のことです。血瘀証ともいいます。
瘀血 (滞った血) はその病態をつくるモノ (病理産物) で、邪気の一つです。この病理産物は、さまざまな病気の病因にもなります。

サッカー (血瘀) とサッカーボール (瘀血) で考えるとわかりやすいでしょうか。サッカー (血瘀) という競技 (証) をやっているなら、そこにはサッカーボール (瘀血) が必ずあります。血瘀には必ず瘀血があるのです。

また、運動場にサッカーボール (瘀血) があって、そこで何かをやっているなら、それはサッカー (血瘀) という競技 (証) である可能性が高いといえます。ただし、サッカーボール (瘀血) は転がっているだけで、それを使わずに別の競技をしているかもしれません。瘀血があるからといって、血瘀であるとは限らないのです。

例えばカドでぶつけて “青じみ” ができたとします。これはその部分に瘀血ができたのです。しかし、その人は健康で体に問題がないとします。この場合、瘀血 (一時的な) はあっても血瘀ではないのです。

交通事故で強打したとします。青じみもあるし内臓出血もある、つまり瘀血があるとします。そしてその後、長らく体調不良や痛みに悩まされることになる。これは瘀血が生じて血瘀になったのです。

▶︎血は気によって動かされる

瘀血と血瘀、この分類をクリアした上で、血瘀 (血の滞り) について理解を深めます。

まず、血がどのようにして動くかを理解しておきましょう。

血は陰 (静) ですので単独では動くことができません。気という陽 (動) の力を得て、はじめて動くことができます。それが、気の持つ推動作用と温煦作用です。

推動とは動かす力のことです。
温煦とは温める力のことです。

気の温煦作用は、気の推動作用を助けます。温かいから動ける。
気の推動作用は、直接 血を動かします。

血の滞りが血瘀なのですから、気の推動・温煦作用と深く関わるといえます。

気の6つの作用 をご参考に。

血瘀を理解するには、瘀血がどのようなものであるか、どのようにして生まれるのかを理解する必要があります。瘀血というのは分かったようでよくわからない概念です。まず、教科書的な記載からまとめます。

▶︎瘀血とは

瘀血は病理産物です。以下の病理によって形成される副産物です。

  • 外傷 (皮膚や内臓などの損傷) により、 “離経之血” を生じて形成する。
  • 気虚・気滞・血寒・血熱などにより、 “血行不暢” を生じて形成する。

この様にしてできたものが瘀血です。

▶︎瘀血の症状

瘀血はどの様な症状として現れるのでしょうか。

痛み・かたまり・出血・皮膚の色… が特徴です。順に見て行きましょう。

▶︎痛み

針を刺すような痛み。
固定痛。痛む場所が変わらない。
拒按。触ったり押さえたりされると痛がる。
夜間に痛みが甚だしい。

▶︎腫塊

塊 (かたまり) を形成するのが瘀血の特徴である。硬い塊である。ガンもその一つである。
腫塊が皮膚近くにある場合、青紫色を呈する。そういう色がなければ痰湿のレベルと言える。
腫塊が腹中にある場合、硬く、押さえても動かない。柔らかく押さえると移動するなら痰湿のレベルと言える。

▶︎出血

出血が反復して止まらない。その色は光沢のある暗紫色である。血の塊が混ざる。
大便が黒く、タールのように艶がある。

大便色黒如柏油.《中医診断学》

▶︎皮膚の色

顔面が黧黒 (レイコク・黄色みを帯びた黒い色) あるいは晦暗 (カイアン・日光のない夜のような暗さ) 。
皮膚がカサカサしている。
唇・爪が暗紫色。
紫斑 (内出血のあざ) がある。
赤い糸状の血管が見られる。
腹部に静脈が浮き出ている。
青い静脈瘤があって脹痛がある。

▶︎その他

月経が少なく暗紫色で塊がある。無月経となる。
舌が暗紫色。あるいは瘀斑がある。
脈は細渋。結代。

▶︎瘀血の形成

瘀血とは、 “外傷による離経之血” と “内傷による血行不暢” の2種類に分けられます。

▶︎外傷による “離経之血”

 ▶︎出血致瘀

内出血のことです。 “離経之血” と呼ばれます。

  1. 外傷的出血によるもの。… 強くぶつけて起こす場合もあるし、刃物や切開による深い傷も原因になる場合がある。これら出血が消散・排出できずに体内に留まるならば、これが瘀血となる。
  2. 病理的出血によるもの。… 物理的刺激によらない出血、例えば内臓出血・脳出血などのように、不統血や不蔵血で出血を起こすもの。あるいは、月経による出血が排出できない、流産する、など。このようなケースでの出血が、消散・排出できずに体内に留まるならば、これが瘀血となる。

血が流れるルートは血管ですが、そのルートを外れた血が体内にとどまると、それが瘀血である…ということです。

 “離経之血” の “経” とは血管のことでもあり、経絡のことでもあります。中医学では、血管と経絡の違いについての明確な説明がありませんので、後に私見として説明することにします。

▶︎内傷による “血行不暢”

内傷病とは外感病に対する概念です。カゼやケガ以外の病気全てと考えてください。多くは “慢性疾患” が “内傷” に該当します。瘀血をともなう慢性疾患においては、 “離経之血” よりも、こちらの方が重要となります。

気や血が病むことにより、結果として血行不暢 (血行の滞り) となり、瘀血が生み出され、血瘀証となるものです。先ほどの “推動” “温煦” を思い出してください。

▶︎気滞致瘀 (気滞血瘀)

七情鬱結・痰湿停滞などにより気滞が起こる、すなわち気の推動作用が邪魔されると、血も動かなくなり、瘀血となる。

実証。血瘀証+気滞証。

気滞証 をご参考に。

▶︎因虚致瘀 (気虚血瘀)

気虚が起こる、すなわち気の推動作用が衰えると、血も動かなくなり、瘀血となる。

虚実錯雑。血瘀証+気虚証。

気虚証 をご参考に。

その他の因虚致瘀

  • 陽虚が起こる、すなわち温煦作用が衰えると、推動も衰え、血が動かなくなり、瘀血となる。
  • 陰虚が起こる、すなわち津液が足りず血液を潤せないと、血が動かなくなり、瘀血となる。

▶︎血寒致瘀 (血寒血瘀)

外寒 (外感の寒邪) 、あるいは内寒 (内傷の寒邪) が血脈に入り、血は凝渋して瘀血となる。すなわち寒邪によって、気の温煦が邪魔され、気の推動ができず、血を動かすことができない。

血は熱を得て行す。血は寒を得て凝す。

血瘀証+血寒証。

▶︎血熱致瘀 (血熱血瘀)

外熱 (外感の熱邪・火邪) 、あるいは内熱 (内傷の肝火・湿熱など) が血分に入り、血と熱が互結し、血を煎じ詰めて血液を粘稠にして瘀血を形成する。

外熱あるいは内熱が、脈絡※ を焼いて内出血を起こし (迫血妄行) 、離経之血すなわち瘀血を形成する。

※脈絡とは脈管のことです。

脉络,是指中医对动脉和静脉的统称或维管植物的维管系统,还可用来比喻条理或头绪。

百度百科 >> 脉络 https://baike.baidu.com/item/%E8%84%89%E7%BB%9C/7480654

▶︎瘀血はどのような病気を作るか

“離経之血” は “外傷” から、 “血行不暢” は “内傷” から、それぞれ瘀血を作ります。外傷・内傷という病気から作られる瘀血ですが、こういうものを “病理産物” と呼びます。病理産物には瘀血以外に、痰湿・邪熱・気滞などがあります。こうした病理産物は、新たな病気の「原因」にもなります。

中医学における病因とは をご参考に。

以下、病因としての瘀血について触れておきます。瘀血はどのような病気を作るのでしょうか。

▶︎気の推動を妨げる

瘀血は気の推動を妨げ、必ず気滞を生じる (血瘀気滞) 。その気滞がますます瘀血を強くする (気滞血瘀) という悪循環がある。

例えば、ケガで脈管を破損すると、内部に出血が浸潤して瘀血となり、その部分に気滞が生じ、それが余計に、紫斑・腫脹・疼痛をひどくしてゆく。

▶︎血脈の運行を妨げる

瘀血は血脈の運行を妨げるため、血脈と関連のある臓腑機能に影響する。血・脈と最も関わりのあるのは、心・肝・脈管・経脈である。

▶︎「瘀」の字源

瘀,積血也。<説文解字>
瘀,積血。即瘀血。指体内血液滞于一定処所”。<辞海>

体内の血液が一定箇所で滞るのが瘀血である…と言っています。

瘀血は “淤血” とも言われます。「淤」とは、水中に沈み淀んだ泥砂のことを言いいます。堆積物が流通しない意味があります。

瘀,亦常作淤。
淤,本指水中沉淀的泥沙,

  • “血瘀” 百度百科https://baike.baidu.com/item/%E8%A1%80%E7%98%80/8377328 
  • 崖崩れなどで「一ヶ所に堆積した土砂」が川の流れを阻む状態をイメージします。

    ▶︎解説

    以上が教科書的な説明です。

    以下に、私見を交えながら解説します。

    ▶︎せき止められる

    ここまでで、いちばんのポイントはどこでしょう。

    字源が分りやすかったですね。川の流れがあって、その一ヶ所に土砂が堆積し、流れを邪魔した。つまり、一ヶ所に閉塞ができ、そのために全体が滞る。一ヶ所の閉塞が瘀血です。その結果としての全体の滞りが血瘀です。

    だから、

    • 痛みが一ヶ所 (ピンポイント) で起こりやすい。閉塞箇所の堆積物 (塊) は一小部分なので刺痛となる。堆積物 (塊) は動かないので、固定痛となる。また、堆積物 (塊) は動かないため、関節の動かす角度によって堆積物の圧迫度合いが異なり、角度によって痛みが増減しやすい。この場合の堆積物 (塊) は、イガグリのようなものをイメージすると分りやすい。
    • 眠りにつくとジッとしているので気血も滞りやすく、堆積物が頑強となる。よって夜間痛が増強する。気滞の場合は、五志七情と関連するので、寝ている間は情志の活動は鈍るため、気滞だけでは睡眠中の滞りや痛みは起こりにくい。よって寝ている間の痛みは有形の邪 (痰湿・瘀血) を疑う。
    • 堆積物によって、塊 (腫塊・腫瘍) が形成される。
    • 堆積物によって堰き止められたために、流れが横からはみ出し、出血や内出血が生じる。はみ出た河川水は、もともと勢いのある綺麗な水 (正気) なので艶 (生命力) がある。しかし堆積物で濁るので黒くなる。だから光沢 (艶) のある黒色の出血となる。あるいはタール様の艶のある大便となる。
    • 堆積物によって堰き止められて下流の流れが少なくなる、濁る。流れが少なくなるのは弱った正気を意味する。よって血瘀証は、皮膚 (下流) に血虚の証候 (皮膚の黄色さ・かさつき・光沢のなさ・月経の少なさ) が見られ、そこに瘀血の濁りが加わる。だから月経が少なくなり、黒っぽくなる。皮膚がかさつき、光沢 (艶) がなく、黒っぽくなる。

    ということが言えます。

    気虚と血虚の「ツヤ」の有無
    出血には光沢があるが、面色には光沢がない。ここは面白いところです。矛盾するようでも川と土砂の関係で立体的に理解すると、それは当たり前のことですね。出血は「血 (正気) +瘀血」、面色は「血虚+瘀血」だからです。
    今、書きながら気づいたのですが、気虚の特徴は “面色皓白” で、光沢があります。血虚の特徴は “面色無華” で、光沢がありません。 “面色皓白” とは、血虚のない気虚 (急性の気虚) のことだったんですね。慢性の気虚は必ず血虚を伴います。つまり血虚を伴う気虚 (気血両虚) は光沢がなくなると言うことです。艶の有無は「血虚の有無」が決定するのですね。

    ▶︎脈管と経脈

    ここまでで、いちばん引っ掛かるところはどこでしょう。

    僕は “脈管” と “経脈” の部分が引っかかります。

    脈管が損傷して “離経之血” すなわち内出血ができて、それが他の脈管の流れや細胞外の体液の流れを押さえつけて循環を妨げる。それが瘀血である、という説明は分かりやすいですね。

    しかし、 “血行不暢” つまり、経脈を流れる気血が滞って瘀血になる…という説明は、内出血に比べると漠然とした感じです。血は分かるけど気って何? ってなります。また、実際に血が滞って、もし脈管中に部分的な塊のようなものができてしまうと、それは血栓のようなものでしょうから、生死に関わってしまいます。

    血栓ももちろん瘀血ではあります。しかし、その前段階の病態をも血瘀というのならば、その血瘀は血液がドロドロの状態であり、そういう状態は、瘀血の特徴が “一ヶ所に堆積した土砂” であるならば、肝心の瘀血が存在しないことになってしまいます。ドロドロなら痰湿の方が概念が近いでしょう。

    ▶︎物質的にのみ見ない

    こういう矛盾を感じてしまうのは、人体を物質的にのみ見ようとする癖が抜けないからです。離経之血 (内出血) はその見方でいいのですが、血行不暢における “経脈”  “気血” という言葉は、その見方では対応できません。 “気” と “血” の意味、その二つが陰陽関係にあるという構図を抜きにして、東洋医学は語れないのですね。

    下の図は、経脈 (陽) と脈管 (陰) とを無理やり図式化したものです。

    ここでは触れていませんが、脈管以外にも神経・リンパ管・腸管・臓器などは全て “陰” です。それに対応する “陽” は気です。気とは、図の “血を動かす力” のことです。具体的には、推動作用 (図の宗気) ・温煦作用 (図の衛気) ・防御作用・気化作用・固摂作用のことです。栄養作用は図の営気のことです。

    陰と陽とは、一枚の紙の裏と表と考えてください。2つで1つの生命体です。

    気の6つの作用 をご参考に。

    では、経絡 (経脈・絡脈・経別・経筋) 、それから五臓六腑は? これらを引っくるめて臓腑経絡といいますが、これは陰と陽とを分けるところの “境界” と考えられます。

    もちろん、臓腑経絡を陽 (気) 、臓器器官を陰 (血) として、陰陽関係で見ることもできます。本ブログでは、 “臓腑経絡とは気である” と繰り返し述べていますが、これはこれで間違いではありません。陰陽というのは何を基準にするか (何を境界にするか) によって自由自在に変化します。それが有用なところでもあり、難解なところでもあります。

    経絡って何だろう をご参考に。

    例えばここに10人の人間がいるとします。これらを、男女で分ける・成年未成年で分ける・未婚既婚で分ける・160cm以上未満で分ける…。分け方はいろいろですね。これが陰陽です。何を基準 (境界) にするかで、何が陽であり何が陰であるかは差等があり、一定ではありません。

    ▶︎ “経脈” とは何か

    話を戻しましょう。

    “離経之血” の “経” とは、経脈の経でしょうが、明らかに脈管のことを指しています。

    それに対して、気血が運行するところの “経脈” とは、脈管よりももっと大きな概念です。なので、脈管 (目に見えるもの) のことを指してみたり、脈管以外のもの (目に見えないもの) を指してみたり、両方をまとめて指してみたりします。これまでの説明からわかるように、それらはそれぞれ間違いではありません。しかし、ここが中医学のややこしいところだと思います。

    経脈には広義と狭義があると考えます。

    広義は、可視化できる肉体的器官 (陰) も、可視化できない機能的な気 (陽) も、全て引っくるめた「流通に関わるもの」です。脈管もその中に含まれます。石としての漬物石 (物質) も、その石の持つ “漬物を作り出す働き” も、まとめて漬物石なのです。ただの石ころではないことは少なくとも分かりますね。人間はただの石ころ同様の物質ではありません。命 (働き) を持っているのです。

    狭義は、陰と陽との境界です。すなわち精です。陰と陽を生み出すものです。例えば、ここが中央だ…という基準が、右と左を生み出します。右と左は陰陽です。右と左の境界は可視化できるでしょうか。数学の「点」「線」(図形で使う) と同じで、存在はするが、突き詰めると無限に小さく (細く) なるので、可視化できるかどうかは微妙ですね。できるとも言えるし、できないとも言える。確かに存在する… ということだけは言えます。

    捉えている人は、見えています。

    ▶︎まとめ

    そもそも東洋医学とは、陰陽です。肉体 (物質) をも見るし、そこに宿った命・使命・働き… すなわち気 (機能) をも見ます。肉体 (物質) は目に見えますが、命 (機能) は目に見えません。つまり、目に見える物質的な瘀血もあれば、目に見えない機能的な瘀血もある…ということです。

    ただし、瘀血すなわち血は、気に比べて物質的です。だから瘀血は物質的側面が色濃くなります。瘀血を一言で言うなら、「流通の停滞が物質的側面に色濃く及んだ状態」と言えるでしょう。気と血の関係、陰陽の境界、これらを本当に理解しないと、突き詰めれば突き詰めるほど分りづらい概念だと思います。

    現代中医学では、 “瘀血” に新たな概念が加えられようとしています。

    • 気瘀… 気の “瘀” を指す。
      【私見】「瘀」の字源をご参考に。閉塞するほど強い気滞のことです。気閉と通じます。
    • 淤証… 血瘀証だけでなく、あらゆる有形邪の脈絡を阻塞した状態を言う。
      【私見】瘀血以外の有形邪とは痰湿のことですね。これも気閉と通じるものがあります。

    気閉証 をご参考に。

    これらは瘀血の概念をよく捉えていると同時に、定義の難しさに苦心している様子も伺えます。経脈・絡脈・脈絡・脈管などの言葉を、陰陽論にもとづいて、きちんと整理する必要があると感じます。

     


    参考文献

     

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