血虚証

血虚証を理解するには、気と血の関係を理解することが大切です。顔色が白い・眩暈・動悸・舌色が淡い・脈虚細などは、気虚・血虚ともに見られる証候です。どのように鑑別するのでしょう。後に考察したいと思います。

まずは、教科書どおりの記述からです。

▶概念

血虚とは、血液不足で四肢・体幹部・臓腑・脈を潤せないことによって起こる全身性の衰弱的証候を言う。

▶原因

  • 暗耗陰血…血を知らない間に消耗してしまうケース。原因は以下の3つ。
    • 労倦…労働のし過ぎ。脾を傷る。
    • 思慮過度…クヨクヨ考えすぎ。心労は心血を消耗する。過度の “思 (意) ” は脾を弱らせる。脾は気血生化の源なので血が作れなくなる。つまり思慮過度は心脾を傷る。
    • 七情鬱結…怒り過ぎは肝血を消耗する。
  • 脾胃虚弱による気血生化不足…もともと脾の弱りがあり、そもそも血を作れていない。
  • 失血過多…ケガや生理などで出血しすぎる。
  • 久病不癒…慢性病で長く病んだために気血 (正気) を消耗する。
  • 温病後期…熱病で陰血を耗傷する。

血を作る源◀東洋医学の「脾臓」って何だろう
脾臓と「意」◀東洋医学の「脾臓」って何だろう

▶症状

  • 面白無華…顔色が白く、精彩がない。血が面部を滋養できない。
  • あるいは萎黄…顔色が黄色い。血が面部を滋養できない。
  • 唇色淡…唇の色が薄い。血が面部を滋養できない。
  • 頭暈目眩…めまいがある。血が頭・眼を滋養できない。目眩とは をご参考に。
  • 心悸…動悸がある。血が心を滋養することができない。
  • 失眠…不眠がある。血が心を滋養することができない。
  • 手足発麻…手足の痺れ・感覚麻痺がある。血が筋脈を滋養することができない。
  • けいれん…血が筋脈を滋養することができない。
  • 月経量少・桁期・経閉…月経量が少なかったり、月経周期が遅延したり、月経が来なくなったりする。血海不足、衝任空虚。月経異常総論 をご参考に。
  • 舌質淡…舌の色が淡い。血虚で舌を栄することができない。
  • 脈沈細…脈が沈んでいて細い。脈道を充足できない。

▶関連病証

 血虚を病証別に詳しく見ていきます。

▶心悸

【症状】

  • 心悸怔忡・頭暈・失眠多夢・面白無華・倦怠乏力。
  • 舌淡紅・脈細弱。

【原因】

  • 思慮感度→労傷心脾 …クヨクヨ考えすぎると脾を弱わせ、脾が弱ると心血のソースが乏しくなり、心脾両虚 (うつ的な状態) となる。
  • 久病体虚→気血不足 …正気が弱ると血も弱る。
  • 失血過多→心失所用 …出血過多で血が心を養えない。

【治法】補血養心・益気安神。帰脾湯・炙甘草湯。

▶虚労

▶心血虚

【症状】

  • 心悸怔忡・健忘・失眠多夢・面色不華。
  • 舌淡・脈細あるいは結代。

【原因】

  • 禀賦不足→精血不旺… 生まれつき虚弱で精血が十分でない。
  • 思慮耗傷… 心労は心血を消耗し、思慮過度は脾を傷る。
  • 大病の後に十分な療養ができない→陰血虧虚が回復しない→積虚成損。

【治法】養血安神。養心湯・帰脾湯。

▶肝血虚

【症状】

  • 頭暈・目眩・耳鳴・脇痛・驚きやすい。
  • 月経不調・経閉。
  • 肌膚甲錯 ※・面色蒼白。
  • 舌質淡・脈弦細。

※ 肌膚甲錯…皮膚が魚の鱗のようになったもの。肌目が荒くザラザラしている。乾燥し、角化し、外観は褐色を呈し鱗状である。

百度百科 より

【原因】

  • 情志鬱結→暗耗肝血。
  • 失血過多、
  • 久病の後に十分な養生・治療ができない→陰血虧虚が回復しない→血虚化燥・積虚成損。

【治法】補血養肝。四物湯。

▶眩暈

【症状】

  • 労累 (度重なる動きすぎ) の後に出現する。
  • 面白無華・唇が蒼白
  • 神疲乏力… 精神がくたびれて力で出ない
  • 少気懶言… 胃気が浅くしゃべりたがらない
  • 心悸失眠。

【原因】

  • 久病で心脾両虚
  • 熱病で耗傷陰血
  • 血虚で周身を滋養できない
  • 血虚で脳に血が上奉 (高い地位にある脳に血を差し上げる) できない。
  • 血虚→陰虧→虚熱上襲清竅 (虚熱が上に昇って清竅を犯す)

清竅って何だろう をご参考に。

【治法】益気養血。帰脾湯。

▶頭痛

【症状】

  • 頭痛頭暈
  • 隠隠作痛… ぼんやりと痛い
  • 遇労則甚… 動いているとひどくなる
  • 心悸失眠… 動悸がして眠れない
  • 神疲乏力… 精神がくたびれて力が入らない
  • 食欲不振

【原因】

  • 久病正虚
  • 失血過多
  • 中気不足→清陽不昇→営血虧虚で脳に上栄できない。

【治法】補養気血。八珍湯。

▶便秘

【症状】

  • 大便秘結
  • 努責乏力… お腹に力が入らず、いきめない。
  • 面色不華
  • 頭暈目眩
  • 心悸
  • 唇舌色淡
  • 脈細

【原因】

  • 久病体虚
  • 年高体衰
  • 産後亡血
  • 血虚津少による大腸潤濡失調
  • 血少によって陰虚内熱に至る

【治法】養血潤腸。潤腸丸。

▶出血

【症状】

  • 鼻衄・歯衄・肌衄など、出血性疾患によって血虚が起こる。
  • 面色皓白
  • 頭暈眼花
  • 心悸
  • 神疲乏力

【原因】

失血過多により気も虚となり、気不摂血 (不統血) を起こす。

不統血とは◀出血…東洋医学から見た4つの原因と治療法
固摂作用◀気の6つの作用
出血の症例◀実際の治療例

補気摂血。人参帰脾湯。

▶発熱 (血虚発熱)

【症状】

  • 発熱 (夜重く昼軽い)
  • 心悸乏力
  • 面色不華
  • 舌淡・脈細数

【原因】

  • 久病で心肝血虚
  • 急病で脾不生血
  • 失血過多 (産後など)
  • 陽が血に依拠できず、外に浮散して発熱する

【治法】清熱養血。当帰補血湯。

血分発熱之症、昼則安静、夜則発熱、唇焦口乾、反不飲水、睡中盗汗、此血分発熱之証也。
血分発熱之因、或熱病後、熱伏血中、或陰血素虧、血虚火旺、二者皆成血分発熱也。
<証因脈治・巻一>

▶婦人科疾患

血虚は婦人に多い。原因は月経である。妊娠は血が根本である。血虚では以下の婦人病が見られる。

  • 月経が遅れる。
  • 月経量が少ない。
  • 出血の色が淡い。サラッとしている。
  • 少腹が空痛。充実感のない痛み。
  • ひどい場合は無月経。
  • 血虚不妊・流産。

▶老年症候群

老齢・体弱の人も血虚を起こしやすい。歳を取ると精・血が少なくなりやすい。血虚では以下の病証が見られる。

  • 精神萎靡
  • 面色無華
  • 心悸失眠
  • 頭昏眼花
  • 耳鳴・耳聾
  • 便秘

▶考察

▶気と血は一体

血と気は船と船客に例えられます。

船 (血) が船客 (気) を載せる土台となる。つまり、血 (船) がなければ気 (船客) は居場所を失う、そういう例えです。出血過多で血が無くなってしまうと、気 (命・温かさ) も散ってしまいます。

この関係からも分かるように、血と気はニコイチです。上記の記載からも分かるように、気の証候がたくさん出てきていますね。たとえば、

  • 倦怠乏力
  • 驚きやすい
  • 神疲乏力
  • 少気懶言
  • 食欲不振
  • 努責乏力

は、すべて気虚を示します。冒頭に、 “面白・眩暈・心悸・舌淡・脈虚細は気虚にも見られる” と述べましたが、これを含めると気虚と血虚の違いがわからなくなりますね。

慢性的に気血という陰陽の幅が小さくなってしまっているのならば、気血双補とします。しかし血虚と言っても急性の血の消耗であり、まだ陰陽幅が保てているならば、血を補うだけで気も回復します。そういう場合は気虚があったとしても、血虚を中心に弁証するということになります。もちろん気随血脱にまで至ったものならば、気を補うことを中心にします。

ややこしいですね。判別はどこでしたらいいのでしょう。

▶血虚は「色」と「乾き」

▶血虚を示す皮膚の色

血虚は色がポイントです。色が白い。気虚にも “面色皓白” という特徴がありましたね。気には推動作用があって、血を運ぶ働きがあります。気虚で面白が出るのも、皮膚の表面に血が届いていないからです。

血虚は “一黄五白” とも言われ、青白い中に黄色が混じります。つまり、面白無華・萎黄です。白も重要ですが、 “黄色” がさらに重要です。

もちろん、顔面の色に限らず、体の皮膚全体の色でも血虚を診断します。

無華とは色彩・精彩がないことです。ピンク色が無いのですね。
「華」とは華麗な花のことで、光彩 (光輝と色彩) ・精華 (最も優れたエッセンス) ・華やかな色彩…という意味があります。

萎黄は中医病名です。症状は、皮膚が黄色く、しぼみ枯れはて、光沢がない。
「萎」の字源です。「萎」はナヨナヨしたさま。
「萎」は「艸」+「禾」+「女」です。

「禾」は稲の姿、稲穂のしなだれた様子を示す字です。柔軟・柔弱・垂下。よって「委」は相手に寄り掛かり身を任せる、「ゆだねる」の意味になります。

「女」は柔らかい・弱いイメージを付加したもの。

つまり、「萎」「委」「禾」はすべて稲の垂れ下がり柔らかいイメージです。
萎黄は、ナヨナヨしてぐったりと寄りかかる色の黄色い人、という感じでしょうか。

地黒の人であっても血虚の色は出ています。アトピーで顔が赤くなっていても、わずかなスキマから血虚の色は伺えます。白ではなく、黄が重要です。

▶血虚を示す舌の色

血虚は淡白舌です。気虚もまた淡白舌です。赤い色というのは暖色で陽気の状態を示します。血色は陽気の状態を示すのですね。顔色と同じく、気が血を動かすので、気虚があれば血は舌に届きません。淡白舌とは気虚・血虚に共通する特徴なのです。

しかし、血虚特有の舌の特徴もあります。これはぼくのオリジナルです。

爪を押さえると血色が無くなって白くなりますね。手をギュッと握って、ぱっと広げると一瞬血色が無くなって白くなりますが、サーッと血色が戻ってきます。こういう色の戻りが悪いのは血虚です。

こういう状態が舌でも見られます。血虚を示します。普通に舌を出したときにこういう色の変化が見られるのが異常です。舌尖の一部、あるいは舌全体がこういう色の変化が見られます。舌尖だけが血の気がなく、一瞬で赤みが戻るものもあるし、戻らないものもあります。全体に見られるものは、一瞬白く、次の瞬間に赤みが戻ることで診断ができます。

また、苔と苔とのスキマから見える舌体の色が、赤みはあってもゼリーのような透明性があるものも血虚です。これは近づいてジッと診ると分かります。遠目には嬌めかしい感じがあります。この透明感を、霊枢では “夭然” と表現していると思われます。

 “夭然” とは◀血脱証 をご参考に。

舌にこういう変化が見られると、すぐに体調悪化が見られることもあるし、数カ月後に出てくる場合もあります。血は燃料なので、減ったからと言ってすぐに火が消えるわけではありません。いつ消えるか分からない不安定さがあります。

▶血虚を示す乾き

精血同源という言葉はよく耳にしますが、 “津血同源” という言葉もあります。血は生命全体を潤している、そういうことをも意味する言葉です。潤せているかどうかは、皮膚を診るとよく分かりますね。肌膚甲錯は先ほど説明しました。カサカサしているか、そうでないか。

同じことが腸壁でも言えます。人体は単純化するとバウムクーヘンのように、上の穴 (口) から下の穴 (肛門) に空洞があいたチューブのような形をしていますね。この生地の表面がどれだけ乾いているか、皮膚なら外側の生地、腸管なら空洞の内側の生地になります。血虚で乾きが出ると、腸管が乾くことになります。当然、大便は出にくく、乾燥して固くなります。

カサつきは上記のように肝血虚です。肝は将軍で、なかなか弱音をふきませんので、気血両虚的な気虚を起こすことはまれです。便が固くて困るという人にグッタリしている人はあまりいませんね。グッタリしている人はどちらかというと下痢の方です。多くは気実血虚、つまり血虚を起こせば起こすほど肝気が高まります。乾燥肌の人が、疲れやすいといった気虚の症状を必ずしも持たないのはこういう理由です。

さきほど血虚には気虚が伴うと言いましたが、そうではないケースがある、つまり気実を伴うことがあるということです。

カラカラに乾いたカルフォルニアやオーストラリアの山林を連想すればいいでしょうか。一見、樹々は元気に見えますが、次の瞬間、山火事になったり枯れたりします。

▶血虚とツボ

黄色を診るのは慣れが必要ですが、白は誰でも診察ができます。とにかく血色がない、そういうものに気虚の証候が出ていなければ、純粋に血虚だけが存在する…と診ることができます。気虚の証候が出ていない…。つまりこれは、元気だと言うことです。しんどがっていないにもかかわらず、血色がない。

これは純粋な血虚です。そのときに、脈はどうか、ツボはどうか、血虚の特徴を捕まえて覚えておくのです。

そういうことを繰り返し行って、ぼくなりに得た「血虚を示すツボ」があります。

神門・血海・三陰交です。

色で血虚を見分けることが難しいとき、ツボの反応がハッキリと教えてくれます。色にすら出ない、ということは自覚症状がかなり出にくい、興奮状態にある、ということです。

ただし、血虚があるからと言って、これらのツボを使うとは限りません。血をいくら補っても、それを容れる “うつわ” がないと効かないし、へたをすると溢れるだけです。陰が溢れるとムカつきや食欲不振がでます。四物湯なんかでそういうことがありますね。

血が足りている…ということは「おちつきがある」ということです。血は陰ですから。

血は燃料なので、それを上手に補うことができれば健康になれます。貯金に余裕があれば家計は健全です。これを上手に補う人は、本当に上手なのです。

▶血は物質

血は燃料みたいな側面があります。ストーブで言えば、石油ですね。ストーブの効果で部屋は暖かくなりますが、この温かさは血ではなく、気です。気は目に見えません。

ここまで、血虚の鑑別ポイントとして、皮膚の色や乾きを挙げましたが、お気づきのようにこれは “物質” です。逆に、しんどいとか、めまいとか、動悸とか不眠とかは、目に見えません。こういうのは気が関与するのです。

血は物質である。だから血の病証は「見た目」で判断するのです。

▶参考になるページ

このように、血虚の特徴とは、色と乾きに帰結します。血は深いところにあるので、表面的な症状にはなりません。表面的にいろいろと症状を出すのは気の方です。気虚とか気滞です。その表面的な症状に、どのように血が関わっているか、というところを見抜くのが血の弁証と言えるでしょう。

簡単に言うと、血は燃料です。燃料が減ったからといって、すぐに火が消えるわけではない。ロウが短くなってもロウソクは同じように燃えますよね。火が小さくなってくれれば、ロウの長さはそう減りません。

気と血の関係は、ここに述べたのはほんの一部です。以下の記事も参考にしてみて下さい。

▶暗耗を防ぐ

“暗耗” という言葉が出てきましたが、これが大切です。血は知らない間に消耗するものです。労倦でも血を消耗するとありますが、これは気血ともに消耗します。血だけを消耗するバターンは、たとえば金に目がくらんでガンガン働いても疲れを感じないとか、動画に夢中になって何時間見ていても疲れを感じないとか、そういう「興奮状態」のなかで「血だけを消耗する」という危険な状態が起こります。こうなると気は一人で暴走します。

病気の多くは自覚症状なく進行するものが難治となります。ガン・脳梗塞・認知症。すべて発見・発症に至るまでは、自覚症状がありません。元気なはずの自分が、まさかこんな病気になるとは…。そういう病気は、血だけ消耗する時期が必ずあります。

▶ “蛮補” に気をつける

そのような自覚症状のない病気であっても、当の本人は人並みに多少の疲れも感じます。ただし、ガンという命に関わる重病とは釣り合わない、軽い疲れ (自覚症状) です。そういうときに、表面的に気血の弱りとして補法をすると、それはそれで効きます。

ここが弁証の本当の難しさです。「気の暴走」「興奮状態」が有ると見抜けるか。 “蛮補” という言葉があります。補うとかえって悪化するという考え方です。まちがって補うことは許されない。

もちろんケースバイケースですが、特に自覚症状のない病気を下手に補うとと気の暴走を手助けしてしまいます。本人は “楽になった” と言いますがこれは表面的です。水面下で暴走は力を増していきます。

昔のような農耕社会は、たしかに貧く、それがために命は短いものでした。しかし時間はゆっくりと流れます。血だけを消耗する、正気を暗耗する…という環境ではなかったはずです。現代はこれだけ豊かなのに、健康寿命はそう長くありません。その理由は…。

真剣に考えていかなければならない問題でしょう。

参考文献:中国中医研究院「証候鑑別診断学」人民衛生出版社1995

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