コロコロの大便

77歳。女性。

大便がコロコロで出にくい。
出るには出るが、少ししか出ない。
左下腹部をさわると、10円玉大の塊が数珠つなぎに並んでいる。やせているので明らかに見てとれる。

この患者さんは便秘が高じると下痢になり、下痢し出すと止まらない。早く手をうつ必要がある。

「原因で何か思いあたることは?」
「…とくにありません」
コロコロで硬いというのは邪熱か血虚である。

血は体を潤す働きがある。皮膚も、大腸の壁も、血がめぐって潤う。
血が弱っている可能性が高い。
右三陰交に虚の反応があるからだ。
血虚である。

「血が弱る原因を挙げるとね、夜更かし、目の使い過ぎ、気の使い過ぎ。これ、みんな体力を使うんですよ。でも、しんどいって感じない。だからブレーキがかからない。たとえば走るのって体力つかうでしょ? でもしんどいから、すぐやめる。ブレーキがかかるから消耗しないんです。血は燃料みたいなものでね。減ってもすぐにしんどいとは感じず、乾きとして出るんですよ。石油ストーブでも、石油が減ったからといっても温かさはそのままでしょ? 燃料だけが減ってしまう…」
「あ…、編み物と読書、ここ5日ほど根を詰めてやってます…」
「コロコロはいつごろから?」
「あ! ちょうど、そのころからコロコロし出しました!」

血と “目の使いすぎ”◀東洋医学の「血」って何だろう をご参考に。

「いまから、血虚の反応を消しますからね。あとは、反応が消えた状態を持続するために、そこのところに気を付けてね。ダムは放っておいても少しずつ水がたまるでしょ? 体力も同じだから…」
「でも先生、編み物やめたら、何をしたらいいか分かりません…」
「…昔の人って、どうやって過ごしてたんでしようね?」

本もない、テレビもない、スマホもない。
農耕や狩猟を中心にしていた時代、われわれは何を見ていたのだろう。
自然の景色だ。
ただ、行く雲の流れを追う。雲は形を変え、あるいは濃くあるいは淡く、大きく小さく、風のまにまにゆっくりと流れてゆく。自然にあらがっても思うようになどならない。風のまにまに身をまかせる。

頭は使わない。
しかし、悟りを得られる。
現代人は頭が良くなる環境にはあるが、それは、大切なものを得がたい環境でもある。
これからの時代を生き抜くすべを得るには、そこを変える必要があるのではないか。
体の不調は、それを教えてくれる。

「イメージしてみてください。昔の人が何を見て生活していたか。」

右内関に鍼。5分置鍼。平補平瀉。右三陰交の反応が消える。
右上巨虚に鍼。速刺速抜。瀉法。

4日後来院。
左下腹部に触れてみるが、コロコロの塊はない。

「ああ、もう大丈夫ですね?」
「ハイ、あれから編み物もやめて、10:00には寝てます!」

前回治療後、コロコロが多めに出る。
おとといから普通便、とのこと。

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