女児。7歳。2022年12月16日初診。
病院で胆泥と診断されたが、治療方法がないと言われた。
胆泥とは、胆石の前段階のものである。胆汁が泥状になった状態を言い、放置すると胆石に変化したり胆管を塞いだりする場合がある。エコーやCTなど画像で診断される。胆砂と呼ばれる状態もある。
胆石は、肝臓内のコレステロールが多すぎると結晶化して起こる場合が多く70%、ビリルビンが多すぎてビリルビンカルシウム結石を形成して起こる場合が30%と言われている。胆石を起こす原因はよく分かっていないが、ロジックのある説明を挙げておく。
まず、肝臓内のコレステロールが多くなる原因は、美食・過食が挙げられる。
次に、ビリルビンカルシウム結石が多くなる原因は、溶血性貧血などで赤血球が壊され過ぎてビリルビンが多すぎる場合と、貧困によって食事機会 (胆のうが収縮する機会) が少なくなり胆汁が滞って起こる場合が挙げられる。昔話に、
“持病の癪シャクが…私のことは放っておいて貴方だけでもお逃げ下さい”
…的なクダリは昔の貧困時代の胆石発作による痛みである。今はそういう胆石は先進国ではまずない。
妊娠中は胆泥 (胆石) が起こりやすいことが知られる。原因は2つ考えられる。
1つ目は、女性ホルモンがコレステロール生成を促進すること。
2つ目は、胎児に圧迫されて腸の流通が悪くなると胆管の流通が悪くなり、結果として胆のうの収縮も悪くなって胆汁が胆のう内に長時間滞留すること。
これらによって胆汁が泥状になったり、それが胆石に変化したりすることがある。妊娠期間が終わると上記原因が消失するので、胆泥の病態も速やかに消失する。
以上を中医学的に見ると、
・過食や脾虚によって、痰湿が増加する。
・疏泄 (流通) が妨げられ、肝胆の気滞を引き起こす。
と、まとめることができる。
胆石 (胆泥) の中医学的病因病理は、
・飲食不節…間食・過食・食事機会がない >> 痰湿 (胆石の材料)
・五志七情…怒りすぎ >> 気滞 (胆の疏泄不及)
気滞および痰湿は、気の推動作用を邪魔し、化熱して邪熱となる。邪熱は津液を蒸し乾かしてますます痰湿を増やす。
〇
3歳 熱性けいれん (重責けいれん) で意識が戻らず入院。
3歳 血小板減少のため入院。
7歳 排尿痛で8月と9月に抗生剤。6月下旬から毎日水風呂で遊んでいた。
7歳 便秘で10月から便秘薬を処方される。便秘は排尿痛と同時期から始まった。
7歳 腎盂腎炎。便秘薬処方後も便秘ひどく、10月31日発熱、腎盂腎炎と診断される。
7歳 胆泥。11月レントゲン検査で見つかる。腎臓と腸 (大便たまっている) も腫れている。
7歳 12月、当院受診。
6月下旬からの水風呂の習慣を皮切りに、勢いづいた病勢が見受けられる。
だが、12月に当院を受診して以来、カゼ一つ引かない状態で1年弱を経過することとなる。
便秘で苦しむことはなくなった。便秘薬を飲んでいたが、治療を始めてからは脈診で体に確認しつつ、便秘薬を少しずつ減らしていった。
胆泥は、翌年6月のエコー検査で見受けられず、治癒となった。
- 熱性けいれんは、邪熱によるものである。表証が内陥して熱邪と化すのは、そもそも裏熱 (邪熱) があるからである。
- 血小板減少は出血傾向にあることを示す。出血は多くは邪熱が関与する。子供の邪熱は、ほとんどがお菓子の食べ過ぎが関わる。
- 排尿痛も邪熱 (湿熱下注) である。水風呂に入ると表証になりやすい。表寒裏熱で、表寒に裏熱が閉じ込められ、余計に邪熱がひどくなり、食べ過ぎの痰湿と結びついて湿熱となって、下って膀胱を犯す。
- 便秘も邪熱である。邪熱は上に昇る性質があり、大便の下に下る力を邪魔する。
- 腎盂腎炎は、表寒が内陥して熱邪と化したものである。もともと邪熱 (内熱) のレベルが高い状態にあるところに外邪としての熱邪が加わり、勢いが強いために深いところ (腎臓) に内陥したものである。邪熱の勢いが強くて枢要部位 (腎臓) まで侵入を許すということは、それだけ正気が弱っているとも言える。
- そのような状態で胆泥という診断が出た。これは、正気が胆汁を動かすことができず、また胆に邪熱がこもり胆汁が濃縮されて痰湿と化したと解析できる。
初診時の説明である。
「まず、便秘が問題ですね。まだ7歳なのに、便秘薬を毎日飲まないと通じがないというのは問題です。通じを無理やりつけても、それで流通するのは口から肛門までの管の中だけです。胆泥は、胆管が流通していないから起こるのですね。じつはね、人体っていうのは長い長い管なんです。その主なものは、消化管と血管です。すべて一方通行で、逆走は許されません。逆走しそうになるのが “停滞” で、便秘も胆泥もそれに当たります。飲食物は口から入って、食道を通って胃に入り、十二指腸を経て小腸、大腸を通り、小腸・大腸で吸収されて、門脈を経て肝臓に行きます。飲食物は肝臓で人体に作り変えられ、心臓に送られ、動脈を経て全身の各細胞のパーツとして送り届けられます。各細胞はそれを取り込んでは老廃物を出し、老廃物は静脈を経て再び肝臓に送り届けられ、肝臓で解毒を受けます。解毒を受けた老廃物は、胆管に入って胆汁とともに十二指腸に排泄され、それが腸を下ってウンチとともに出ていくのです。このように見ると、人体はすごく長い長い一つのつながった管であることがわかるでしょ? その管には “気” が流れているのです。その “気” がどこかで停滞すれば、あちこちで “気” が停滞します。つまり、便秘が起こったのは “気” の停滞です。中医学ではこれを気滞と言います。腸で気滞が起こり、その気滞が胆管にも影響したのですね。便秘薬は、便を出しはしますが気滞を取る力はありません。多すぎるとむしろ、気の推動作用を弱らせることにもつながりかねません。まだ7歳、こんな年齢で便秘薬に頼るというのも不自然です。便秘薬なしで便が出るように治療していきましょう。そうしたら、胆泥も治っちゃうかも知れません。」
初診は、表証を取るべく治療した。
2診目以降は表証が取れたため、裏熱 (邪熱) を取るべく治療した。
もちろん、まず最初に正気を補ってからである。
治療穴は、
補法として中脘 (秋分〜春分) もしくは左脾兪 (春分〜秋分) 。金製古代鍼を用いた。
寒邪の瀉法として左合谷。金製古代鍼を用いた。
邪熱の瀉法として左手の井穴。おもに少沢・少商・商陽の内どれか一穴。銀製古代鍼を用いた。
寒邪の瀉法と邪熱の瀉法は、同時に用いることはなかった。
当院での治療を始めてからは、便秘薬と減らしても通じが衝くようになった。それとともに、入院を必要とする症状は出なくなり、カゼ一つ引かなくなった。
むしろ困ったのは、すぐに機嫌が悪くなることである。もともと、そういう子だったのである。お母さんには、機嫌をとらないように指導した。そして、ほめるべきところをキチッとほめ、ダメなことは毅然とした態度を取るように仕向けた。なぜなら、その方が子供は楽なのである。機嫌を取られると余計にイライラする。
そして、そのイライラこそが邪熱の原因となり、お菓子の過食となり、肝の疏泄だけでなく胆の疏泄をも悪くし、腸の疏泄 (下降作用) まで悪くするのである。胆泥と便秘である。
肝も胆も、疏泄を主 (つかさど) る。疏泄ができなくなると、メンタルではイライラする。フィジカルでは流通が悪くなり滞るのである。
メンタルも、 “気” の通り道。つまり「管」なのだ。
腸管 (便秘) ・胆管 (胆泥) 、そして “メンタルの通り道” 。これら全てが停滞していたのである。
治療が進むに連れ、優しい目が時々現れるようになった。
聞き分けもよくなっていったのである。
目は「穴」である。穴から管を覗き込める。優しい目は、管がスムーズに流れている証拠となる。
耳も「穴」である。穴から管を覗き込める。聞き分けは、管がスムーズに流れている証拠となる。
メンタルの管が流れていなければ、フィジカルの管 (腸管・胆管) も滞る。
これはこの医学…すなわち「気の医学」の常識である。
気がついたら、胆泥も消えていた。初診から1年も経つし、どうなのかなと思って聞いてみたら、 “半年前の検査で消えてるって言われました” とのことだった。結局、便秘とイライラに、ぼくもお母さんも集中したのである。その結果、胆泥はアッサリ治った。