健康の “ズルい” うらわざ 〜片頭痛および類天疱瘡の症例から〜

37歳。男性。

高校一年生のときからひどい片頭痛 (嘔吐を伴う) があり、社会人になっても悩まされ続ける。休日になると頭痛の発作が起こる。前兆として光が眩しく視野が狭くなり、動けないレベルの頭痛が起こり、数時間苦しむと嘔吐し、嘔吐から2時間くらいすると収まる。

当院を受診する直前は、休日だけでなく、平日の仕事中にも起こるようになっていた。

当院受診後は徐々に発作頻度が低くなり、初診から一年を経て影をひそめた。ここ3ヶ月は全く起こっていない。遠方からの来院のため、治療回数は一年間で17回、使用した穴処は百会 (16回)、左脾兪 (1回) である。 疏泄太過と疏泄不及を繰り返すことによって生じる片頭痛 (類天疱瘡も) と弁証し、百会を選穴した。

疏泄太過とは肝気の高ぶりである。疏泄不及とは高ぶりが滞りに変わった状態のことで、肝気鬱結のことである。肝気鬱結は化火して、激しい痛みとなる。疏泄太過って何だろう をご参考に。

24歳のときに類天疱瘡が全身に広がり、2ヶ月入院した既往歴がある。

デキモノと痰湿

「どうですか? 前回の治療から40日ほどですけど。」

「ハイ、片頭痛は今日まで一度も起こってないです。でも、ここなんですけど、オデコに類天疱瘡がまたできて、いつもならもう引く頃なんですけど、なかなか引かなくて…。」

類天疱瘡 (前額部)

「どれどれ、ああ、これね。たしかにちょっと出来てるなあ。原因は痰湿ですね。」
もちろん、切経を行った上での診断である。

飲食の不摂生は痰湿を生じる。体には飲食物を許容する器がある。飲食物は口からはいって胃を経て小腸で栄養分だけが吸収される。吸収された栄養分は肝門脈という血管を経て、肝臓に到達する。肝臓は、その栄養分を、人体で使えるものに変える。 >> 肝臓は命をつくる をご参考にされたい。要は、その肝臓の仕事の容量 (キャパ) を超えたもの、超えて「うつわ」からあふれたものが痰湿となる。「うつわ」に八分目くらいが一番いい。

「じつは、最近会社の飲み会が多くって、けっこう大変なんです。」

「ああ、なるほど。感染防止の締め付けが落ち着いて、みんなやってるみたいですね。」

「そうなんですよ。僕は飲めないので、まあ仕方なしに座ってる感じですね。」

コントロールできる部分に集中する

「飲み会はコントロールできないですね。だから気にしなくていいです。それよりも、日常で自分がコントロールできるところだけを、気にしてやってればそれでいい。家での食事ですね。いま体を診させていただいて分かるんですが、そういうことがちゃんとできていると思います。努力的なことはこの調子ですよ。」

コントロールできないものをコントロールしようとするのは、生命力を非常に消耗させる。たとえば、コントロールできないものの代表は天候で、あした雨なのか晴れなのかはコントロールできない。ずっと晴れ続きなので、雨を降らそうとする。山で木を切って櫓を組み、はしごを立てて上に登って幣を振って雨乞いをする。大変な労力である。しかし、雨乞いをしようがしまいが、いずれ雨は降る。そんなことに努力を払うよりも、いま畑にバケツで水を運んだほうが労力に無駄がない。水を運ぶか運ばないかは、自分でコントロールできることである。

ズルい裏技

「ただし、痰湿が悪さをしているのは確かですね。じつは裏技があるんです。魔法みたいな方法です。どうしようもない状況を一度に解決してしまうんですけど、 “感謝” っていうズルい方法があるんですよ。」

この瞬間、 “ああ…” と嘆息をもらし、目がキラキラする。こういう方は、できる人である。

「この裏技を使うと、飲み会なんかでつくった悪いものが、不思議と帳消しになるんですね。なぜかというと、さっき説明した “うつわ” が一気に大きくなるからです。 “うつわ” が大きくなれば、あふれないですね。あふれなければ痰湿はできません。」

「なるほどー! 」

「たとえばね、僕なんかでも患者さんから “先生のおかげやわ、ありがとう” っていてもらえたら、疲れなんか吹っ飛んでいくらでも仕事ができる。これはね、疲れないし疲れもためていないんです。キャパが大きくなるのでまだまだ仕事できるんですね。〇〇さんも奥さんに、 “いつも美味しいもの作ってくれてありがとう” なんて言ったら、奥さんきっと不思議な力が出て、何でもやってくれますよ。魔法みたいでしょ? このズルい方法をつかわない手はないです。」

「なるほど、そうですね (笑)」

地味なものほど有り難い?

「ただし、何に感謝するかっていうのが大切なポイントで、そのターゲットは “地味でつまらないもの” がいいですね。たとえば “水” “土” “火” “空気” とかです。ヨメ (関西では妻のことをヨメという) も地味でつまらないでしょ? 」

「え? いやいや、はいそうですね (笑) 」

「空気で考えるとわかりやすいかもしれませんね。こんなのタダだし、生まれたときからずっとある地味〜なものです。あって当たり前。でも空気を吸えなかったら1分で苦しい。ヨメもそうですね。ずっといるでしょ?」

「はい、ずっといますね (笑) 」

「ずっとある、ずっといてくれる。本当に有り難いものとはそういうものなんですよ。」

どこに神経質になるか

「でも、われわれは慣れてしまって、そこに鈍感になってしまっている。無神経になってしまっている。本当は、もっともっとそこに敏感に、神経質にならないといけない。でも、我々がふだん神経質になっているのは、そこじゃないですよね。晴れてほしいのに雨ばかりだとか、雨が降ってほしいのに晴ればかりだとか、コントロールできない部分に神経質になってしまって、不平不満ばかり感じている。これでは体を弱らせるばかりです。」

「たしかにそうですね。」

「飲み会はコントロールできない。でも感謝ならコントロールできる。コントロールするには、そこに神経質になることです。そうやって “うつわ” を大きくすれば、痰湿があふれない。〇〇さんの場合、ひんぱんに診ることができないのでね、そういうズルい手を使っていく必要もあるかな…と思います。」

「分かりました。」

人間は、何かに気を取られて神経質になっていると、他のことを忘れてしまう。その習性を利用するのである。「肝心なところ」をハッキリさせてそこにトコトン神経質であれば、「余計なところ」 を考える余裕がなくなる。考えても仕方のないことを忘れて、心を常に清新に保つコツである。

肝心なところに気をつけよう!
コントロールすべき部分に神経質なまでの努力を払い、コントロールする価値のないことには無頓着である。これは健康であるための秘訣であろう。こだわるべきところにこそ、最大限の心血を注ぎたい。

“常に真剣” は体にいい

「仕事のときは仕事に目いっぱい神経質になるといい。そして家に帰ったら仕事で使う神経は使わないからホッとできる。そのかわりに今度は “感謝” に目いっぱい神経質になる。 “空気” みたいなヨメに感謝できているかに真剣になる。翌朝出勤したら、感謝につかう神経は休まってホッとします。代わりに仕事に神経質になる。こうやって、ずっと神経質で真剣でいられれば、ホッとして症状が出ることがないでしょ? で、こういう神経の使い方は、体を良くする使い方です。」

当該患者は、仕事が一段落ついた時、休日などに片頭痛が起こりやすい。類天疱瘡で入院したときもそうだった。

「でもね、頭痛が出なくなっているのは、こういうことがドンドンできだしている証拠でもあるんです。だから、この調子です。」

“勝負事” は体によくない

「ところで前回、部署が変わって急にいそがしくなくなって、こんなのでいいのかな…って思うとおっしゃっていましたね。それはどうですか?」

「はい、上司がいろいろ言ってくれて、目標をもっと上に持っていこうと思うようになりました。だから、もう気が抜けた感じはしません。」

「上の役職をねらえと?」

「そうです。」

「それは良い目標ができましたね。前向きは健康の絶対条件です。気をつけたいのは、 “他人との戦い” にしないことです。あくまでも “自分との戦い” です。いまの世の中はここを間違っています。スポーツの対戦だけでなく、受験戦争、出世争いなど、世の中は “戦い” に満ちていますね。 “勝負の世界” というと聞こえはいいですが、他人に勝とうとする考え方は間違いです。こういう考え方は、他人をけ落とす、自分さえ良かったらいいという考え方を生んでゆき、ひいては戦争へとつながっていきます。だから、あくまでも自分との戦いだと思ってください。そう考えて努力していけば、いずれ出世も勝手についてくるものです。そしてこれが体に良い考え方です。いかに空気やヨメに感謝するか。いいんじゃないですかね、そういう “自分との戦い” は。」

他人と争う意識を持ってしまうと、他人のことばかり気にする。他人にばかり神経質になる。他人はコントロールできないもの、自分はコントロールできるもの、コントロールできないものをなんとかしようとすると、雨乞いのように、必ず心身に余計な負担がかかる。

「自分との戦いなんですね。そこがちょっと引っかかっていたんですけど、なんかスッキリしました。」

やはり、心のきれいな人である。

感謝と仕事のバランス、自分と他人とのバランスをとりつつ、健康で仕事に励み、ドンドン出世していただきたい。

治療は、百会に5番鍼。

その後まもなく、額の類天疱瘡は消失した。

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