傷寒論私見…小青龍湯〔40・41〕

40 傷寒、表未解、心下有水気、乾嘔、発熱而欬、或渇、或利、或噎、或小便不利、小腹満、或喘者、小青龍湯主之、

▶アウトライン

まず、小青龍湯という名称です。明らかに、大青龍湯と陰陽関係にあります。病理の上で、大青龍湯を意識しながら考えていきます。

▶傷寒、表未解、心下有水気

「傷寒」から見ていきます。傷寒、つまり寒邪>風邪 で皮毛を侵された。そういう前提です。これは大青龍湯と同じです。

異なるのは「心下在水気」、裏に水気がある。これは大青龍湯の内熱 (火) とは異なります。火が陽なら、水は陰です。

「表未解」というのは、経過が長引いていることを想像させます。「解」という詞は、ついさっき37条で出ており、ここでは10日を経過し未解で麻黄湯という選択があります。これを踏まえていると考えます。

37太陽病、十日以去、脈浮細而嗜臥者、外已解也、設胸満脇痛者、与小柴胡湯、脈但浮者、与麻黄湯、

▶37条をふまえた省略がある

つまり、本条文には省略されていますが小青龍湯証は、胸満、そして脇痛などの身体痛、脈は浮 (浮細ではない) 、そういう証候があることが言い含められている。そういうことが文脈から推定されます。

▶表寒実か表寒虚か

小青龍湯証は太陽病がなかなか治らない場合の選択肢の一つです。しかし、太陽病がなかなか治らない場合、37条の法則に合わないものは、44条の法則により桂枝湯が主薬です。本条は、脈や痛みに関して明記がないにもかかわらず麻黄剤である小青龍湯を選択しています。もともと傷寒か中風かを診察時点で知ることは難しく、もちろん無汗か有汗かは重要ですが、それだけで判断するのは臨床力がいりますね。もし身体痛がハッキリしなくて汗も確信が持てなかったらどうでしょう。ポイントは「欬」である可能性があります。咳は麻黄湯証の喘に通じるからです。詳しくは44条に展開しました。

「傷寒、表未解、心下有水気」…短いフレーズですが、以上の意味が圧縮されていると思います。

水も、経過が長いのも、陰の性質です。
ここが大青龍湯と比較すべき点です。これを踏まえたうえで、読み進めましょう。

▶水邪の形成

「心下有水気」という詞からは、風寒に遭って水邪ができたというよりも、風寒以前からもともと水邪があったというニュアンスを感じます。

それを前提に考えます。小青龍湯証になるのはどのような素体なのか。内に熱がこもる大青龍湯証と対照的に、内に水がこもる体質なのです。この、水がこもる理由も、大青龍湯の時と同じく、陰陽の振り子で考えてみましょう。

正しい肝気が劣となり、誤った肝気が優となると、正気が正気らしくなればなるほど、邪気が邪気らしくなります。この場合の邪気とは水邪のことです。元気であればあるほど、水邪をためるとは、どんな体質なのでしょうか。

もともとカンが高い人は、元気であればあるほど、胸のあたりを中心に心身の緊張が生じます。その緊張がきつくなると、熱を生み出します。

その熱は、冷たい飲食物を摂ると、一瞬冷やされるので心地よく感じます。よく見かけますね、アイスクリームが好きな人、冷たいジュース・ビール・炭酸水・お刺身など、こういうものを好むのです。舌にのせたときの感覚、飲み込むときのノドごしが、たまらなく気持ちいい。

しかし、胸の熱は一瞬冷やされるが、すぐにまた再燃します。再燃するたびに冷飲で冷やす。いっぽう、胃に流れ込んだ寒邪は、胃の陽気を冷やし、下降機能を衰えさせ、その結果、水邪を作るのです。

▶風寒によるフィードバック

このようにして、上は火、下は水と、膈を境界として上焦・中焦ともに病むという状態がすでにあるのです。しかし、カンが高いので自覚することができません。これが誤った肝気で、この肝気のもとでは、病が症状として素直に出ません。

その状態で風寒にやられると、誤った肝気が正しい肝気になり、自覚症状が100%で出ます。そして人体組織の自浄能力、フィードバック機能が戻ってくるのです。

▶長引く風寒、強まる邪熱

ここで、風寒が長引いたということを思い出しましょう。大青龍湯証では短期決戦でした。これは、もともと陽体なので早いのです。火は燃え広がるのが早いですね。しかし、小青龍湯証では、もともとが水をもった陰実の体質なので、水がジワジワ浸み込むように、経過が遅くなるのです。

大青龍湯証が、表寒が強ければ強いほど、裏火もパワーアップしました。それとは対照的に、小青龍湯証は、表寒が強ければ強いほど、裏水の寒邪もパワーアップし、全体として陰の性質が強いために、経過が長くなるのです。

一方で、上焦にいくらかの熱がありましたが、寒邪を中心とした風寒ですから疏泄しません。表は寒邪でコーティングされ、魔法瓶状態となり、胸の熱は外に発散できなくなります。また、中焦が冷えれば冷えるほどに、中焦の陽気が格拒され、つまり弾かれて上焦に昇ります。風寒にやられる前よりも、格段に上焦の邪熱は強くなっています

魔法瓶状態については「内外の温度差」 (自分でできる健康法) をご参考に。

「格拒とは」 (傷寒論私見…甘草乾姜湯・芍薬甘草湯・調胃承気湯・四逆湯〔29〕) をご参考に。

▶各証候の解説

証候の分析です。改めて…。

40 傷寒、表未解、心下有水気、乾嘔、発熱而欬、或渇、或利、或噎、或小便不利、小腹満、或喘者、小青龍湯主之、

  • 乾嘔があるのは傷寒の嘔逆と同じ病理と見ていいでしょう。経過が長いので嘔逆よりは軽い症状になっています。
  • 発熱+咳、咳は初めて出てきますね。気の上逆があって、熱が上に偏旺しているからです。
  • ノドが渇くこともある、肺に熱があるからです。上に熱が押し上げられています。
  • 下痢することもある。水が盛んで脾陽に負担がかかって上昇機能が阻害されたことによるものです。
  • 噎とは、ノドがふさがって飲み込みにくくなることです。病理は、痰気互結・津虧熱結・瘀血内結・気虚陽微がありますが、ここで該当するなら痰気互結と津虧熱結でしょう。
  • 小便が出にくいこともある。脾の清濁を分ける力が抑えられているからです。
  • 下腹が張ることもある。太陰病的ですね。
  • 喘 (呼吸困難) のこともある、35条の麻黄湯証と同じです。

▶大青龍湯と陰陽関係にある

心下に水邪があるということと、39条の大青龍湯②とは比較して考えることができます。大青龍湯は裏の火、小青龍湯は裏の水…つまり寒熱の陰陽があるというのはすでに述べました。それだけでなく、39条は肺を起点に水の滞りができていましたが、今回はそこより下ですよ、ということ、これは上下の陰陽です。

また大青龍湯は、熱が肌肉全体にこもってしまっていて、表に発散できませんでした。小青竜湯は上焦の肌肉に限られ、しかも標本でいえば標の熱で、冷えさえ取れば取れる熱で、標本という陰陽もあります。大・小という陰陽のネーミングの妙です。

ちなみに、上熱・下寒 (水) なのに、心下の症状が出ないのは陰陽幅が大きいからです。

▶或証

或証があるのは症状のバリエーションが多いことを意味します。小青龍湯証では、上に格拒された熱があり、中に水寒があります。八綱でハッキリ仕分けできませんね。こういう矛盾した証は或証があると言えます。小柴胡湯証も表寒裏熱です。

▶小柴胡湯と似ている

ちなみに、或証は小柴胡湯にもあります。

99傷寒、五六日、中風、往来寒熱、胸脇苦満、黙黙不欲飲食、心煩、喜嘔
或胸中煩而不嘔、或、或腹中痛、或脇下痞鞕、或心下悸、小便不利、或不渇、身有微熱、或者、小柴胡湯主之、

で示した部分が、本証と重複します。ここでも37条を踏まえて本条を説明しようとする仲景の意図を感じます。麻黄湯 (小青龍湯) と小柴胡湯は間違いやすいのです。小青龍湯は傷寒ですから、身体痛があります。この身体痛がたまたま脇下に出ていたらどうでしょう。

小青龍湯方 麻黄三両 芍薬三両 細辛三両 乾姜三両 甘草三両 桂枝三両 五味子半升 半夏半升洗、右八味、以水一斗、先煮麻黄減二升、去上沫、内諸薬、煮取三升、去滓、温服一升、

▶組成

 小青龍湯 麻黄3 芍薬3 細辛3 乾姜3 甘草3 
桂枝3 五味子半升 半夏半升

麻黄・桂枝で表寒を取ります。細辛は表裏ともに温め寒邪を散らします。乾姜は中焦を温め、水寒を散らします。
芍薬・五味子は収斂に働き、格拒による上逆を納めます。
半夏は水邪から濁を引き下ろし、辛で燥湿します。
甘草は上下に隔てられた寒熱という陰陽を連携させます。

41 傷寒心下有水気、欬而微喘、発熱、不渇、服湯已、渇者、此寒去欲解也、小青龍湯主之、

▶服用後の口渇

40条に「或いは渇」とありましたが、おそらくこの口渇は上焦の熱によるもので、中焦には水寒の邪があるので、飲みたいようで、そんなに飲めないと思います。

本条でいう口渇は、小青竜湯を飲んだら出てきたもので、40条のとは違います。もともと不口渇だったのは、水寒や表寒が強いので飲みたくないのです。飲みたくなるのは、その邪がとれたからで、或証のような口渇が出てきたからと言って、心配することはないですよ、ということです。

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