傷寒論私見…桂枝加厚朴杏仁湯〔42・43〕

42 太陽病、外証未解、脈浮弱者、当以汗解、宜桂枝湯、

▶37条からの流れ

この条文は、37条の補足であり、37条と同列にして異なる原則を示しています。

37「太陽病、十日以去、脈浮細而嗜臥者、外已解也、設胸満脇痛者、与小柴胡湯、脈但浮者、与麻黄湯、」

外証未解という前提で…

  • 37条では浮細 or 浮にして幅あり、麻黄湯か小柴胡湯かという鑑別でした。
  • 本条では浮弱で桂枝湯で、痛みがありません。
  薬  脈痛み
 37条 小柴胡湯
麻黄湯
 浮細
 但浮 
胸満胸痛
 本条 桂枝湯 浮弱なし

37条でついでに言っても良いのですが、次の43条、桂枝加厚朴杏仁湯のために、ここに置いたと見ます。

▶浮弱について

⒓桂枝湯に「陽浮にして陰弱」とありましたが、2条の「脈緩」を前提にしたものです。陽浮而陰弱はその緩脈の内訳を説明したものです。

37条からの流れは、解表しているか否かを論じているので、37条の脈診と並列で考えることにします。つまり、本来の桂枝湯の緩脈 (陽浮而陰弱) よりも無力で細い脈をイメージしてください。そういう、浮弱で身体痛がないなら桂枝湯のたぐいですよ、ということです。もし浮弱が浮緩と同じなら、本条の内容は当たり前に過ぎて、これを張仲景がわざわざ入れた意味がなくなります。

▶未解とは

外証未解というのは、37条の流れで行くと10日近く解さなかったという意味に取れます。

つまり、なかなか表証がとれずに、正気が弱ったが、まだ浮弱でもちこたえていて身体痛がないならば、桂枝湯アラウンドですよ、ということです。「宜し」というのは、その周辺の薬だということでしょう。

経過がダラダラと長引くということは虚証や寒証などの陰の性質が強いことが言えます。そうすると表寒虚の薬である桂枝湯が基本になります。次の桂枝加厚朴杏仁湯を意識しています。

43 太陽病、下之、微喘者、表未解故也、桂枝加厚朴杏仁湯主之、

▶経過が長い

42条で説明した、「未解」というのがまず目を引きます。「表未解」は罹患してから10日ほど経っており、経過が長いことを意味します。37条と42条、そして40条と本条は陰陽関係にあります。

▶桂枝湯証を誤って下した

「太陽病、下之」とは桂枝湯証を下したと考えられます。

16「太陽病、三日、已発汗、若吐、若下、若温針、仍不解者、此為壊病、桂枝不中与也、観其脈証、知犯何逆、随証治之、」

太陽病で下してしまい表不解ならば壊病だから「桂枝湯ではもう効かない」という内容で、もう効かないということは、桂枝湯証を下したということです。ゆえに、本条での「太陽病」とは桂枝湯証のことと、一応考えられます。

▶小青龍湯との比較

40条の小青龍湯との比較です。

40条「傷寒表未解、心下有水気、乾嘔、発熱而欬、或渇、或利、或噎、或小便不利、小腹満、或喘者、小青龍湯主之、」

「未解」で共通し、「微喘」と「欬而微喘」が酷似します。桂枝加厚朴杏仁湯か小青龍湯かは、もともとが桂枝湯証か麻黄湯証かが鑑別点です。

  • 桂枝加厚朴杏仁湯は、もともと桂枝湯証を誤って下した壊病です。
  • 小青龍湯はもともと麻黄湯証です。小青竜湯では、裏に冷えがあるから陰の性質によって経過が長くなると説明しました。

▶脈は浮弱

42条「太陽病、外証未解、脈浮弱者、当以汗解、宜桂枝湯、」を意識すると、桂枝加厚朴杏仁湯も浮弱です。虚の脈といえば、細脈と弱脈です。どちらも細くて無力ですが、細脈は輪郭がハッキリしていて、弱脈は輪郭がハッキリしません。下して中焦がやや弱ったので、浮緩ではなく、浮弱になるのです。

本条で「表未解」になったのは、太陽病を誤って下したので、陽気が漏れて、陰の性質から経過が長引いた可能性があります。

▶「微喘」の病理…気上衝がある

これらを前提として、まず「微喘者、表未解故也」からです。ここで思い出すのは、15条です。

15「太陽病、下之後、其気上衝者、可与桂枝湯、方用前法、若不上衝者、不可与之、」

15条は、表が解しているのか未解なのかを知る根拠になります。桂枝加厚朴杏仁湯は桂枝湯アラウンドであると考えてよい。つまり桂枝湯+厚朴・杏仁 である。では具体的に気の上衝を示す症状は何か。これが微喘である。この喘は、胸満すなわち肺気滞によるものだろう。そう考えられます。

つまり22桂枝去芍薬湯の胸満です。

22「太陽病、下之後、脈促、胸満者、桂枝去芍薬湯主之、若微悪寒者、去芍薬中加附子湯主之、」

22条は、桂枝湯証を下して、下が虚して、相対的に上が実になった証でした。これと本条を比較すると、下剤をかけても気の上衝があり、桂枝湯アラウンドで行くという点に共通点があります。

なぜ微喘が起こったかです。組成をみると、厚朴と杏仁で喘を取ろうとしています。やや温めながら肺気をめぐらそうとしています。おそらく、下痢によって陽気がいくらか漏れたためでしょう。同時に下が弱くなり相対的に上が強くなったことによる上焦の気滞…気上衝があります。

▶既出の「喘」との鑑別

「微喘」についてです。喘とは呼吸困難のことです。35麻黄湯で出てきました。また、12桂枝湯では鼻鳴を軽い喘だと説明しました。微喘とは、喘と鼻鳴の間くらいのものでしょう。ここまで喘という言葉は、34葛根黄芩黄連湯・35麻黄湯・40小青竜湯で出てきました。本証との鑑別点をまとめます。

  • 葛根黄芩黄連湯も下剤をかけて喘が出ます。桂枝湯証を下して、大腸が弱り、大腸に熱が内陥して実証に転化し、熱が肺に影響した証です。これは促脈で、熱実なので脈力があって経過が短いはずです。
  • 麻黄湯・小青竜湯は浮緊なので鑑別は容易です。
  • 37条の経過が長い麻黄湯は浮緊ではなく「但浮」ですが、この場合は脈幅があり、身体痛があります。本条は浮弱で脈幅はありません。また身体痛はありません。

桂枝加厚朴杏仁湯方 於桂枝湯方内、加厚朴二両杏仁五十個、余依前法、

▶組成

厚朴は苦辛温燥湿です。痰湿という清濁混淆のものを、苦で堅くして引き降ろし濁たらしめ、濁を生じたことによって生じた清を、温め乾かしながら散ずることによってより清らしめ、痰湿を取り除きます。

杏仁は、肺気宣通・水道通調です。

▶病因病理のまとめ

以上を踏まえて、本条に見られる病理をまとめます。

下したことにより、陽気がやや漏れた。温煦が弱ると推動が弱りますので、運化する力が弱くなり、肺の宣発・粛降・通調にも影響を与えた。それで寒湿の邪がうまれ、それが肺気を阻害してるのです。それを厚朴で引き降しなが…という感じでしょう。

それと同時に、下したことにより気の上衝があり、上焦に気滞を形成し、肺の宣発・粛降・通調に影響を与えています。

桂枝湯証なのに下痢させたり下痢したりしたが、まだ表証が残っている。桂枝湯証は虚証なので、それを下した証ですから虚証であることは明確です。

22桂枝去芍薬湯の側面があったとしても、全体として虚証なので、芍薬は必要なのでしょう。芍薬で上焦が渋滞する分も、杏仁でめぐらせていると思います。

杏仁も厚朴も瀉の色合いがありますが、あくまでもベースは桂枝湯で、虚を補いながら風寒を散らします。

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました