癥瘕 (子宮筋腫・卵巣嚢腫・子宮内膜症など) …東洋医学から見た原因と治療法

▶︎概念

癥瘕 (ちょうか) とは、女性の下腹部に、腫塊・脹り・膨満・痛みのあるものを言います。現代でいう子宮筋腫・卵巣嚢腫・チョコレート嚢胞などの子宮内膜症・子宮がんなどを示す概念です。

ちなみに中国語では “症瘕” と記載されることがあります。「症」は「癥」の簡体字です。
また、本ページでは簡明を期するために “子宮” という表現を用いていますが、卵巣・卵管なども含めて読み進めてください。

▶癥と瘕

癥とは、硬い塊があり、塊は移動することなく、押したり揉んだりしても動かず、痛みは一ヶ所に限られています。病位は血分、つまり深い病であり、血の凝結です。

血は体の表面に見えませんね。もし見えたら大変です。血は深いのです。

瘕とは、痞満 (つかえて何かが有る感じがする) するが無形であり、時に集まり時に散じ、押したり揉んだりすると動いたり移動する感じがあります。痛む箇所は定まりません。病位は気分、つまり浅い病であり、気の凝集です。

よく動く人の元気さは、表面の見た目でわかりますね。気は浅いのです。

まず気の凝集 (気滞) があり、それが長期に渡ると血の凝結 (血瘀) を作る… これが癥瘕のできる過程です。

血がガソリン (燃料) だとすると、気はスピードです。ガソリンは物質ですが、スピードは物質ではありません。その証拠に、ガソリンは持ち運びできますが、スピードを「これだよ」と持ち運んで見せることはできませんね。血は気によって動きます。血を動かす気の働きを “推動作用” と言います。気が凝集して働かなくなる (気滞) と、推動できなくなり、血も動かなくなります。これが血の凝結 (血瘀) です。

血瘀証 をご参考に。

よって古人は癥と瘕をひとまとまりのものとして、癥瘕と呼びました。

深く理解したい方は、月経異常総論…東洋医学から見た4つの原因と治療法 をご参考にしてください。「子宮」「衝任」の理解の仕方を説明しています。

硬いものほど悪性である可能性が高くなります。つまり、気の凝集 (やわらかい) よりも血の凝結 (かたい) の方が重篤であるということです。

柔らかい (物質的ではない) ものは病が浅く、硬い (物質的である) ものほど病が深いと言えます。浅いのは気 (瘕)、深いのは血 (癥) です。走っている車を見ていても、スピード (無形) が出ているかどうかは一目見れば分かりますが、ガソリン (有形) がどの程度あるかは表面からは分かりません。スピードは浅い場所に出ていて機能的、ガソリンは深い場所に潜んでいて物質的です。気の凝集 (気滞) は無形、血の凝結 (血瘀) は有形、有形の方が重篤です。
東洋医学の「気」って何だろう をご参考に。
東洋医学の「血」って何だろう をご参考に。

そもそも子宮というのは血の集まる場所です。そういう場所であるからこそ、血の凝結が起こりやすいと考えられます。

▶︎病因

さて、まずは病因 (病気の原因) からです。

▶︎気の凝集 (気滞)

気の凝集による癥瘕はどのようにして生まれるのでしょう。

▶︎精神安静の不養生

・ストレス
→ 肝気が鬱結  >> 東洋医学の「肝臓」って何だろう
→ 条達・疏泄 (心身の伸びやかな機能) が滞る
→ 気血の運行が阻害される
→ 衝脈・任脈・胞宮が滞る
→下腹に塊を形成
→ 癥瘕

▶︎血の凝結 (瘀血)

血の凝結による癥瘕はどのようにして生まれるのでしょう。

▶︎月経期間中・出産直後の不養生

月経期間と出産直後は、いずれも胞脈 (衝脈・任脈) が空虚になり、子宮の気 (腎気・腎精・衝任の脈) が衰えています。そのような子宮が弱っている状態で、しかもまだ、排泄すべき血が残っているときに…

・たまたま過度にセックスをする
→腎気を傷る
→残った血を推動できない
→瘀血の形成
→癥瘕

・たまたま寒さなどの外邪にやられる
→衛気が凝滞
→残った血を推動できない
→瘀血の形成
→癥瘕

・たまたま怒りが過度となる
→ 気逆  >> 気逆証
→ 上実下虚
→ 残った血が下焦に取り残される
→ 瘀血の形成
→ 癥瘕

・たまたま憂いや思慮が過度となる           
→ 脾虚  >> 東洋医学の「脾臓」って何だろう
→ 気虚
→ 残った血を推動できない
→ 瘀血の形成
→ 癥瘕

昔は “生理中は風呂に入るな” と言いました。 “産後の養生” もやかましく言いました。昔のお風呂は、屋外に別棟で作られていたので、カゼを引くことのないのように注意したのですね。お風呂でのぼせない (気逆を起こさない) ように…という配慮でもあります。現代は特に生理中の養生を気にしない人が増えています。期間中は静かに生活することです。セックスについても中医学の見解は放任ではありません。癥瘕の予防として、知っておきたい知識です。

▶︎痰湿

気の凝集・血の凝結以外にも、癥瘕を作る要素があります。痰湿と熱毒です。

痰湿による癥瘕はどのようにして生まれるのでしょう。

・飲食不節・労倦など… 食べ過ぎ・間食・動きすぎ・運動不足などのこと
→ 脾虚
→ 運化できない
→ 痰湿が内停
→ 衝脈・任脈に痰湿が下注… 子宮の陰陽の境界が邪気で侵される
→ 胞絡を阻滞… 子宮の脈管の阻滞。気分で推動無力、よって血分が阻滞する
→ 痰血搏結… 境界・血分ともに邪気に侵される
→ 癥瘕

▶︎熱毒 (湿熱邪毒)

熱毒 (湿熱邪毒) による癥瘕はどのようにして生まれるのでしょう。

▶︎月経期間中・出産直後の不養生

月経期間と出産直後は、いずれも胞脈 (衝脈・任脈) が空虚になり、子宮の気 (腎気・腎精・衝任の脈) が衰えています。そのような子宮が弱っている状態で、しかもまだ、排泄すべき血が残っているときに…

・外陰部を不潔にする
・セックスをほしいままにする

→ 湿熱邪毒に感染… 湿熱邪毒とはここではウイルスや細菌の持つ性質のこと
→ 裏に入り化火
→ 湿熱邪毒が、血と搏結
→ 瘀血が衝任を阻む
→ 胞脈に結ぶ
→ 癥瘕

熱毒・湿毒とは をご参考に。

この辺りは、子宮頸がんと重なる部分ですね。子宮頸がんの原因はヒトパピローマウイルスであることが分かっています。ほとんどがセックスによって感染します。ただし感染だけではガンとはならず、免疫の低下がカギと言われています。

子宮頸がんの原因|知っておきたいがん検診
がん検診について紹介しているWEBサイトです。子宮頸がんの原因について解説しています。

▶︎弁証の要点

重要なのは、気と血に分けたとき、癥瘕が気に属するのか、血に属するのかという部分です。そしてそこに痰湿は絡むのか、熱毒は絡むのか。

治療の主要な考え方は、活血化瘀と軟堅散血です。そして行気化痰・清熱解毒を必要に応じて用います。

もちろん、正気に弱りがあれば補法を用います。虚実錯雑で出ることがほとんどであると考えていいです。

よって “衰其大半而止” という考え方が重要になります。瀉法を行う際は、正気の盛衰をよく見つつ、これ以上やると正気の弱りが出てしまう、という手前で止めます。

大積大聚.其可犯也.衰其大半而止.過者死.<素問・六元正紀大論 71>

【訳】積聚 (しゃくじゅ・ガンのこと) を攻める (瀉法によって治療する) にはどうすべきか。病勢の大半が衰えれば、そこで攻めるのを止める。攻め過ぎると死なせてしまう。

重症の癥瘕 (子宮がんなど) であることが明らかならば、中西医結合による治療を行うことが基準となります。

▶︎症状と治療法

▶︎気滞

【症状】
・下腹の塊。硬くはない。押すと移動する。硬くなったり柔らかくなったり消えたり、上に行ったり下に行ったり、痛かったり痛くなかったり、こっちが痛かったりあっちが痛かったりする。
・胸悶
・精神抑鬱
・月経不調
・紅舌薄苔
・沈弦脈

【治法】
大法:疏肝解郁・行気散結。
各法:温経理気・消積行滞・行気止痛・行気破血,消瘕散結・護心寧神。

【鍼灸】
合谷・百会・肝兪・滑肉門など。

【湯液】
香棱丸<済生方> (木香、丁香、三棱、莪朮、枳壳、青皮、川楝子、小茴香) など。

気滞証 をご参考に。

▶︎血瘀

【症状】
・下腹の塊。硬い。押しても移動しない。疼痛。押さえると痛い。
・皮膚に光沢がない。
・口乾があるが飲みたがらない。
・月経周期が遅くなる。あるいは出血淋漓として止まらない。
・面色晦黯。晦カイ…月が出ない夜のような暗さ。黯アン… くろい。くらい。心がふさぐ。
・舌は紫黯色。厚苔乾燥。
・脈は沈渋有力。

【治法】
大法:活血破瘀・散結消瘕。
各法:温通血脈・柔肝行血・利行津血・破瘀散結。

【鍼灸】
膈兪・三陰交・臨泣など。

【湯液】
桂枝茯苓丸<金匱要略> (桂枝、茯苓、丹皮、桃仁、赤芍) など。

血瘀証 をご参考に。

▶︎痰湿

【症状】
・下腹の塊。硬くはない。時に痛むこともある。…痰湿は有形邪なので塊を形成する。
・オリモノの量が多い。透明あるいは白濁で粘稠。…痰湿が下注し、衝任脈を占拠する。痰湿は脈 (境界) を犯しやすい。
・胸から胃脘部にかけ痞悶する。嘔気。…痰飲が内結する。痰飲は中焦や膈 (境界) を犯しやすい。
・月経不順。月桂周期が遅くなる。無月経。…痰湿が衝任の脈 (子宮) を郁滞させる。
・淡白舌。胖。白膩苔。
・弦滑脈

【治法】
大法:除湿化痰・散結消瘕。
各法:行気化痰・除湿化痰・降逆止嘔・温経活血。

【鍼灸】
合谷・豊隆・脾兪・胃兪・滑肉門など。

【湯液】
散聚湯<婦科秘訣大全> (半夏、橘皮、茯苓、当帰、杏仁、桂心、檳榔、甘草) など。

▶︎熱毒 (湿熱邪毒)

【症状】
・下腹の塊。押さえると痛い。…湿熱は痰湿+邪熱である。痰湿は有形邪なので塊を形成する。
・下腹痛が腰仙部に及ぶ。…熱毒が一箇所にこもって強い気滞 (気滞血瘀) を形成する。湿毒が熱毒の篭り方を一層激しくする。よって痛みが強く、腰仙部に波及する。漿膜下筋腫などの症状と重なるのは、腫塊の拡大進行が早いことを意味し、これは邪熱の特徴である。
・オリモノの量が多い。…上記の▶︎痰湿を参照。
・オリモノが黄色くなる。…黄色は暖色なので熱を示す。
・オリモノは様々な色があり得る。きたない色。悪臭。…腐ったもの (湿毒) は様々な色に変化する。また気温が低いと悪臭がしないが、気温が高いとよく分かる。
・頻発月経。出血期間が長い。出血量が多い。…邪熱が子宮の血に迫る (迫血妄行)。粘膜下筋腫などの症状と重なる。
・煩躁して怒りっぽい。…邪熱 (火) は容易に木 (肝) に燃え移る。
・発熱。口渇。漿膜下筋腫などの症状と重なる。巨大化したり茎捻転などで血流障害を起こすと虚血性の炎症を引き起こす。
・便秘。…陽明気分に熱が波及する。漿膜下筋腫などの症状と重なる。


・尿黄。…尿黄は、高齢者の頻尿… “疏泄太過” の手引 を参照。
・紅舌。黄膩苔。
・弦滑数脈。

【治法】
大法:清熱除湿・破瘀消瘕。
各法:清熱解毒・利湿排膿・清熱涼血・活血化瘀・行気破瘀・消瘕散結。

【鍼灸】
霊台・十尖・陰陵泉・公孫など。

【湯液】
銀花蕺菜飲<中医婦科治療学> (銀花、蕺菜、土茯苓、炒荆芥、甘草) )加赤芍、丹皮、丹参、三棱、莪术、皂角刺など。

 

参考文献 
“第五节 症瘕” 中医世家 http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/fukexue/81-13-5.html (参照2021-12-22)

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