冷え…東洋医学から見た2つの原因と治療法

ご質問をいただきました。

はじめまして。いつも興味深く拝読しております。私は冷え性で、1年ほど前から冷えとり健康法を行っています。 なるべく温かいものをとることと、半身浴、靴下の2枚ばきです。 良さそうなので続けていますがこちらのブログを読ませて頂いてると体はそんなに単純じゃないかもと思うようになりました。 冷え取りを続けていると逆に寒さに弱くなってる気がします。 東洋医学では、こういう徹底して温めるのはどう思われますか?

東洋医医学的に、「冷え」は「寒邪」と呼びます。

寒邪は、実寒虚寒に分類されます。
実とは引き算が可能な病態、虚とは足し算が必要な病態です。

冷えも、取り除ける冷えと、温かみ (生命力) を足す必要のある冷えとがあるのです。

実寒とは

実寒は、急な気温の低下・冷たい飲食の摂り過ぎなど、 寒邪が急性に体に影響したものです。

それ以外に、水邪を挙げておきます。水邪は寒邪ではありませんが、寒邪と結びつきやすく、水寒の邪とも言われます。水邪は、飲食物の摂り過ぎによる水邪 (水滞) が原因となって起こります。これは盲点になりやすいので気をつけてください。とくに慢性的な冷えはここに着目することです。体の容量をこえた水邪 (たとえばむくみなど) があると、それを温めきることができません。

同じ温度でも、気温の20℃は寒くありませんが、20℃の水に浸かっていたら耐えられません。またサウナ (気温は100℃近い) の中では火傷をしませんが、100℃のお湯に浸かると全身大やけどをして死んでしまいますね。水は、熱さ寒さを強くする働きがあります。水邪があるときに、冷えを取ろうとして不自然な温め方をすると、部分的に熱化して他の症状が悪化してしまうことがよくあるのは、こういう機序があるからです。水邪は邪気なので中庸 (ちょうどいい) がありません。邪熱 (湿熱) か寒邪 (寒湿) かの両極端になるのです。現代人は寒熱錯雑がほとんどです。純粋に温めるだけでは解決しないばかりか、熱を助長してかえって正気 (生命力) を傷つけるリスクがあると知るべきです。水邪を除去することに着目すべきです。

いずれにしても体力の低下はありませんので、
・寒ければまめに重ね着すること、
・腹八分目を心がけ、間食を控えること、
・温かいものを摂取すること、
・適度な運動 (ウォーキング等) を、最初は少しから始め、徐々に時間を増やしていくこと、
以上が有効です。

実寒の場合は、生命力 (正気) の衰えがないので比較的早く改善します。
水邪はしつこいですが、上に挙げたものを根気よく続ければ解決するでしょう。

虚寒とは

やっかいなのは虚寒です。

虚寒は生命力 (正気) の衰えがあり、寒邪や水邪を追い出せない状態です。正気は「グルグルめぐらせる」という働きがあり、寒邪も水邪もこの動力によって外に追い出すことができます。動力がなければ、寒邪や水邪 (邪気) は動かずにずっとそこに居座ります。

つまり、まずは正気を増やすということが必要です。引き算ではなく足し算です。

会社経営でも、リストラは比較的容易だが、資本を増やすのは難しいですね。収支の明確な経営でもそうなのです。体力は視覚化できません。体力を増すことは、いわば奇跡的なことで、だから体質は変わりにくいのです。

みんな寒さに弱い

冷えない方法として、当たり前のことですが、服を着ることは重要です。これが意外に「深い」です。

例えば、テレビで面白い実験をやっていました。北海道の人と沖縄の人で、同じ部屋に同じ服装で座らせ、室温をドンドン下げていき、どちらが早く寒がるかという実験です。

沖縄の人が寒がるかと思いきや、北海道の人の方が早く寒がった…というものです。大規模な実験ではないので言い切る事はできませんが、これは寒さに素早く順応するための「寒い (服を着たい) と感じるセンサー」が、北海道の人は鋭くなっているということが考えられます。沖縄の人は寒さに鈍感で服を着たいと感じないので、北海道に移住して間もなくはカゼを引きやすいのですね。しかし沖縄の人も寒さに慣れてくると寒さに敏感になり、服を着て保温するのでカゼを引かなくなるのです。

人体の60%は水で、その水は37℃程度のお湯になっています。人体とはこのお湯が入ったペットボトルの容器のようなものです。このお湯の温度を下回る気温であれば、お湯は冷めるのが当然です。そうならないように、寒い (服を着たい・部屋を温めたい) と感じる。つまりペットボトルをタオルでグルグルまきにしておけば冷めないのです。

簡単に言うと、みんな寒さには弱いんですね。寒さに強い人なんかいない。服を着るか着ないかです。寒いか寒くないかではない。暑ければ脱げばいい。寒いと感じて服を着ていると、もう遅い場合があるのです。

冷えを感じない人でも、秋はこの現象が起こりやすくなります。ついこの間まで半袖だったのに、急に室内の温度が20℃前後になる。室内が20℃というのは、真冬の暖房を使った室内の気温と同じですね。こういう時、我々は「沖縄の人」になります。暑さには慣れているが、寒さには慣れていない。そういう人が北海道に移住した状態が秋から初冬です。で、寒いのに寒く感じない。それで冷えて体調を崩す。寒さを感じないので、寒さが原因とは思えないような症状の悪化を見ます。なので、まだ秋なのに今からこんな冬装束をしていたら真冬になったらどうするの? という心配は皆無です。寒いのを辛抱しているうちに寒さに強くなると言う人がいますが、根拠を示してほしいですね。

気温の低下を敏感に感じ取る能力が「寒さに強い体質的要素」に占める割合は少なくありません。つまり肺気の感度の精密さです。これが、冷えるか冷えないかを決定すると言っても過言ではありません。トムラウシ山遭難事故では、低体温で8名もの死亡者が出たことで知られますが、生還者は「重ね着」が生死を分ける要因の一つだったと語っておられます。

食べすぎることが問題

服の着方以外の要因もあります。まず一つ目は「肝臓」です。

食べすぎると肝臓 (西洋医学の) に負担をかけます。

肝臓は、腸で吸収した栄養分を化学処理 (分解・合成) する過程で、化学反応的に熱を生じます。これが体温を高めることに役立っています。この働きは、体を動かさなくても体温になる要素です。全体の熱産生のうち、約20%が肝臓によって作られています。

肝臓に負担をかけるということは、生命力 (正気) が弱るということです。肝臓が機能を停止すると命がなくなることは皆さんご存知ですね。肝臓とは、外から入る飲食物 (生命の死骸) を、人体の生きた生命に変える「生命製造機」です。人体の柔らかい組織は3ヶ月もあれば入れ替わると言われています。

生命製造機が弱れば寒くなるのは当然ですね。

西洋医学で言う肝臓は、東洋医学では脾臓 (脾) と呼ばれます。脾は、飲食物を消化吸収するだけでなく、人体を栄養する働きを担います。

“肝臓” を考える…東洋医学とのコラボ
肝臓には500以上の働きがあると言われ、様々な病気と関わる “主役級の臓器” です。と同時に寡黙で “沈黙の臓器” とも呼ばれます。これを往年の名優、高倉健に例えつつ、東洋医学ともコラボしながら、肝臓とは何か、病気の原因とは何かを考えます。

動けないことが問題

それでなくても、たくさん食べ過ぎると体が重くなり、動くのが億劫 (おっくう) になりますね。

これも大切な要素です。

よく動く人は薄着です。動くと温かくなるからです。骨格筋による熱産生は、安静時で約25%、通常の生活活動では約60%と言われます。動くことで温かくなり、結果として筋肉も付きますね。筋肉があればじっとしていても温かい。よく動く人は動かなくでも温かさを持続するということです。でも動かないでいると筋肉は弱りますので、結局は動くことが大切です。

東洋医学では、生長収蔵という考え方があり、大自然の活動期は春・夏とします。人間もこの例に漏れません。農耕をイメージしてください。農耕は春と夏に繁忙期となり、秋冬は収穫のみで忙しくなくなります。春に活動を開始し、夏の暑さに負けない活動量が、秋に筋肉として結実し、冬はその筋肉が保たれる。

つまり、よく動けるだけの体力を身に着けることが大切で、それが暑さにも寒さにも負けない体なのです。寒さだけに強い体や暑さだけに強い体ではなく、寒さにも暑さにも強い体こそが、質問者の方が望まれる体であると思います。

かりに冷えが取れたとしても、暑さに弱い体になってしまっては元も子もありません。

動く力をつけるために

動けることが必要だとは言いましたが、単に動けばいいというものではありません。体力もないのに無理に身体を動かすと、やがて動けなくなるような症状、…たとえば痛みとかめまいとかカゼひきなどの体調不良…が起こります。それで結局は動けない、ということになります。動けなくなると冷えも改善しません。

ウォーキングは体力をつけるために非常に重要ですが、5分以上やっただけでやりすぎになっている場合はいくらでもあります。分刻みでこれを診断でき、指導できる力のある指導者が必要です。僕はこれを脈診で診断します。

動くためには睡眠も大切です。動くことは陽、睡眠をとることは陰です。
陽とは動・実用です。元気はつらつさです。
陰とは静・実体です。休息・おすらぎ・落ち着きです。
陰が陽を生み、陽が陰を生む。この循環は宇宙の誕生から果てしなく続き、我々もそのスパイラルの一部として生命を営んでいます。陰陽とは、ここでいう体力そのものです。この陰陽を広く大きく強く持っていくことが、虚寒を改善するためには不可欠です。

治療では、その人その人にあったアクションを積み重ねていきます。治療で用いるツボしかり、養生指導しかり、価値観の指導しかり。そうすることで、奇跡は奇跡ではなくなります。

気持ちよく、美味しく

無理にあたためようとするやり方は、良くないと思います。陰 (休息・おすらぎ・落ち着き) を消耗するからです。

乾姜 (かんきょう) とは
中医学では、乾燥した生姜のことを「乾姜」と言います。性味は、大辛・大熱で、“辛熱燥烈” と言われます。ひどく冷えに傾いたものを、強い力で元に戻します。ただし、陰虚・実熱には禁忌で、決して万能ではありません。

陽は陰によって支えられており、いわば燃料 (陰) と火 (陽) のような関係です。陽を大きくしようとするあまり陰を消耗してしまうと、一時は温まって調子よいと感じられても、そのうち体調を崩して動けなくなり、冷えがひどくなります。無理に温めることは絶対にしないことです。

お風呂に無理に長時間入るなどはもってのほかで、足湯でも無理に辛抱すると陰を消耗します。無理に温めようとすると、体力を消耗してかえって冷えてしまいます。

食材にしても同じです。そもそも食材は感謝して美味しくいただくことが大切で、それにより栄養も身に付き、活力も生まれるのではないかと思います。これは温めるから体に良いとか、これは〇〇の栄養素があるから多めに摂ろうとか、そういう方向に偏り過ぎることがもしあったならば、良い結果にはなりません。過ぎたるは及ばざるが如し。美味しくいただくことが基本です。

これ以上体温を奪わない

気持ち良いと感じるならば、半身浴や靴下重ね履きなどは、やってもOKです。

ただし、足だけを重ね着するのはナンセンスです。四肢末端は指があり、ラジエーターのような役割をします。四肢末端が冷えるのは、体幹の体温の産生保持能力が足りないと見た体が、末端の血流を抑えて温かい血がラジエーターに流れ込まないようにする護身術です。体幹が冷えると命の危険があるので、手足を犠牲にしているのですね。人間は、体幹が亡くなると死にますが、手足は無くても死にません。

足だけでなく、体幹部も重ね着する必要があるのですね。

ただし重ね履きで、足首を締め付け過ぎないように気を付けましょう。気のめぐりが悪くなり、結果として生命力を弱めます。温かいものを飲食することは大切で、これは体温を奪わないという働きがあります。体温が奪われなければ、体力を体温に変換する必要がないので、体力を温存し貯金することができます。ただし、温める働きはありませんので、これのみで冷えを取るのは難しいことです。

まとめ

もし虚寒で体力の弱りがあり、ご自分で冷えを改善されたいなら、前出 (実寒) の
・寒ければまめに重ね着すること、
・腹八分目を心がけ、間食を控えること、
・温かいものを摂取すること、
を基本としつつ、

①ストレスをためない
②腹八分だけでなく、何事も無理をせず八分で留める
③夜 (暗くなったら夜) はできるだけ早く就寝する
④冬は冬眠 (冬ごもり) する
以上を心掛けるのはいかがでしょうか。

①について…毛布・暖房に使う火などは、冷える人にとっては不可欠です。それ以前に我々は衣食住がなければ生きていけないし、土がなければ食材が得られず、水や空気がなければ命はつなげません。ないと困るが普段忘れがちなもの…これらをわれわれは数えきれないほどに与えられています。常に感謝するトレーニングを怠らなければ、結果としてストレスがたまりません。ストレスは体力を非常に消耗する要素です。

②について…腹八分ということは処世上すべてに当てはまる真理です。食べ過ぎ・無理のし過ぎは体力を消耗します。つい何でもやり過ぎてしまうのは欲があるからです。欲を去るということはなかなか難しいことですね。でも、それがたとえできなくても、そういう価値観を持つことこそが大切なことだと思います。かくいう僕もそれができているなど到底言えず、そうありたいと願うものの一人です。欲を離れた瞬間に気持ちが楽になる…誰もが経験のあることだと思います。これで体力がつく、健康になるということは、それが真理だからです。

③④について…陰 (休息・おすらぎ・落ち着き) という燃料をシッカリ補うことです。そうすればその燃料を燃やして元気さ・活動力・温かさが生まれます。それが筋肉となり、熱産生をしてくれて、冬も温かく過ごせるのです。ローマは一日にしてならず。重度の冷え性であればあるほど、冬にはしゃいではなりません。

これらを踏まえたうえで、もし気が向いたならば、ウォーキングにでも出かけてみたらどうでしょう。朝と春は始めるにはいい時です。朝や春がしんどい人は、まだ陰 (休息・おすらぎ・落ち着き) が足りないので出直しです。もししんどくなくても、最初は5分くらいで。何年もかけて、少しずつ増やしていくことです。やりすぎたら必ず体調を崩したり痛みが出たりして動けなくなります。そうなったら、はしゃぎすぎたと反省です。

まだもう少しできる…というところで終えるのがコツです。

無理せず、自然の美しさを実感しながら。いい循環はそんな小 (ささ) やかな瞬間から始まるのだと思います。

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