頻発月経…東洋医学から見た5つの原因と治療法

頻発月経。つまり、生理が早い。東洋医学では月経先期といいます。

なぜこのようなことが起こるのか、東洋医学の眼鏡を通して見ていきましょう。

その前にまず、正常な生理についてです。
東洋医学では、正常な月経周期日数は28日周期前後であり、その前後7日間、すなわち21日から35日までは正常範囲であるとします。

頻発月経の場合、正常月経周期日数よりも1週間~2週間早いものをいいます。

【病理】

月経異常の基本病理

生理が起こる機序については、「月経異常総論」に詳しく説明しました。まず、それをご覧になってから本章を読み進めると分かりやすいと思います。

生理が早いのは、出血傾向にあると見ます。
「月経異常総論」にあるように、出血傾向になる原因は、衝任不固 熱傷衝任 が原因です。

衝任不固の病理

衝任不固になる原因は、気虚です。気とは機能のことですが、それが虚 (うつ) ろになる。気とは推動 (めぐらせる) ・温煦 (あたためる) ・栄養 (やしなう) ・気化 (変化させる) ・防御 (寒さを防ぐ) ・固摂 (求心性にかためる) の6機能の総称です。このうちの固摂という気の一側面が弱ったとき、出血傾向となります。

固摂とは求心力のことです。求心力が遠心力 (出血しようとする力) を抑止した状態ならば、月経は先走ることなく、落ち着いた周期を刻みます。ところが、求心力が虚ろになると、遠心力が勝り、出血が早期におこります。

気虚には脾気虚と腎気虚の2種類があります。

①脾気虚

まず、脾気虚ですが、「出血…東洋医学から見た4つの原因と治療法」のなかで、「脾臓の不統血」と題してご説明しました。それをご覧ください。

土には保水力があり、水が流れ出ないようにしています。それに似た力で血を抱きとめる働きを脾臓は持っています。このような働きが弱るのは、飲食に節度がないこと、怠けすぎ、動きすぎ、ストレスを消化しきれない…が原因として挙げられます。これらの要素はすべて脾臓 (消化・吸収・栄養・運動の各機能) を弱らせます。 注意として申し添えしたいのは、東洋医学の五臓六腑と、西洋医学の臓器名は同名異義であるということです。現在の意味で用いられるようになったのは杉田玄白以降です。まずは、誤解のないように断っておきます。

②腎気虚

腎気虚は、腎臓という求心力の大本が弱った状態です。

人体生命を地球のような球形と見たとき、腎臓は地球のコアに当たります。コアは引力の中心となり、地球そのものや人や動物などが宇宙に飛散してチリヂリバラバラにならないようにしてくれています。

そういう力が腎臓なのです。

腎気虚には急性のものと慢性のものがあります。慢性のものは生命の土台が崩れかけた状態なので非常に危険です。ここでいう腎気虚とはそれではなしに、比較的急性のものです。強いて力を振り絞るようなことが続いているとか、それが原因で病気をしてなかなか治らないとか、セックス過多とか、そういうものが亜急性の腎気虚を起こす原因となります。

体が徐々に弱っていく種類のものではなく、急な無理のし過ぎという病因が主で、体の弱りは従となっているものです。腎気虚の多くは背後に脾気虚があり、脾腎両虚とも言えます。

無理のし過ぎを自分でコントロールできないとすれば、これは肝気の暴走が考えられます。「出血…東洋医学から見た4つの原因と治療法」の「肝臓の不蔵血」をご参考になさってください。頻発月経以外の症状があるかないかによって、疏泄太過型 or 疏泄太過不及混合型に分けられます。肝と腎とはつながっているということです。

熱傷衝任の病理

熱傷衝任になる原因は、邪熱です。
そもそも熱は遠心性に働きます。太陽の熱の放散を考えると分かりやすいと思います。出血は遠心性ですね。なので出血傾向となります。
人体生命が機能するためには適度の熱が必要ですが、邪熱とは過度の熱のことです。これは生命力を邪魔するものです。

邪熱が発生する原因は、
◉ストレス
◉食べ過ぎ
◉暑さ
の3つです。もともとが冷えではなく、熱に傾きやすい体質を持って生まれてきているために邪熱をこもらせやすいということが言えます。

また、邪熱は実熱と虚熱に分類されます。実熱は邪熱という副産物そのものが問題となる状態で、原因は前述のとおりです、対して、虚熱はクールダウンする力 (陰) が弱ることによって邪熱が取れにくくなった状態です。虚熱を生じる原因となる陰の弱りのことを陰虚といいます。

①ストレスによる邪熱のことを肝鬱化熱といいます。
②食べ過ぎ・気候変化によるものは陽熱偏盛に分類します。
③陰虚によるものは陰虚火旺と呼称することにします。

詳しい説明を試みます。

①肝鬱化熱

ストレスは肝臓を狂わせます。肝臓が狂うと肝気が狂います。狂って誤った肝気は誤った疏泄を生みます。誤った疏泄は必ず行き詰まるので、気滞が生じます。この状態を肝鬱気滞といいます。気滞は緊張のことなので、緊張状態が続くと熱を持ちやすくなります。この状態を肝鬱化熱といいます。

②陽熱偏盛

㋐食べ過ぎ

食べ過ぎは胃の下降機能 (胃の運化) を停滞させ気滞を生じます。気滞は邪熱を生じます。脂っこいもの・甘いもの・アルコール・味の濃いもの・過度の香辛料は、とくに胃の運化を弱らせ、邪熱のもとになります。

㋑暑さ

また外感 (暑さ) を受けても邪熱は起こります。この邪熱は腸胃を居場所とする邪熱です。
≫外感には風邪・寒邪・暑邪などがある。風と寒が結びついたものを風寒といい、暑邪などの温熱系と結びついたものを風熱という。風寒・風熱ともに、風と寒、あるいは風と熱の割合はさまざまである。たとえば、風>寒だと、風の疏泄作用によって自汗がおこる。寒>風だと、衛気の疏泄が失われた上に風の疏泄が働かないので無汗になる。これは風熱でも同じことで、風>熱だと自汗となり、熱>風だと衛気が動かないので無汗・悪寒となる。以上は表証 (表実・表虚) の話である。

表証が解けないと、寒邪は邪熱に変化し、暑邪は熱の性そのままに、双方とも邪熱として腸胃 (裏) に入る。腸胃に入った邪熱が燥屎を形成すると承気湯証となり、燥屎を形成しなければ白虎湯証となる。

表寒実は裏熱に転化するまでにタイムラグがある。しかし、表熱はもともと邪熱なので裏熱に進行するのが早い。ゆえに表熱の特徴として舌尖紅・軽度の口渇が見られる。表と言えども肌表のやや深い部分、つまり裏に半分片足をつっこんでいるからである。

表熱も表熱実 (熱邪偏勝) と表熱虚 (風邪偏勝) に分けることは可能であるが、熱邪は裏熱となりやすぐ、風邪も陽邪なので裏熱になりやすいので、区別をつけにくいのだと思う。

ちなみに、衛気のバリアに風穴を開けるのは風邪の仕事である。ただし風邪は単独では衛気に対して無力であるので、衛気が弱って後退しているときのみ侵入が可能である。だから表虚というのである。

風邪単独ならば、たとえわずかな風穴があいたとしても、衛気はそれを容易に修復する。風邪の性質は疏泄であるため、衛気はフリーズせずに自由に動けるからである。

その風邪が、もし衛気が強いのに侵入できるとすれば、強力な寒邪や暑邪のような後ろ盾が必要である。風邪が開けた風穴のわずかな隙間から強い寒邪・暑邪が入るのである。寒邪・暑邪が入ってしまうと衛気はフリーズの状態となり、無汗となる。だから表実というのである。

もし、正気が虚して衛気が後退しているときならば、風邪単独で侵入が可能である。衛気が後退しているので、皮毛ではなく肌表まで入り込む。これが表寒虚 (太陽中風) である。

もし、衛気が後退しているときに寒邪・暑邪が入れば、寒邪直中 (低体温症など) ・暑邪直中 (熱中症など) となる。ただし普通はそうはならない。なぜなら衛気が弱っているときは、寒さや暑さに対して敏感となり、寒がって寒さを避けようとしたり、暑がって外に出たがらなかったりするからである。よって直中になることは滅多にない。

③陰虚火旺

肝鬱化熱や陽熱偏盛によって、クールダウンする力 (陰) が弱った状態です。ケガや手術などによる出血、あるいは出産・授乳が過多となると、陰を消耗しやすくなります。
※思慮過度によって心脾血虚となると、心陰虚と脾不統血がダブルとなって出血することもある。

【症状と治療】

衝任不固の症状と治療

①脾気虚証

症状…
◉生理が早く来る、出血量が多いこともある。≫腎精の不足には至っていないので出血量は少なくならない。脾が体液を抱き留められない。 ◉血の色が淡くサラッとしている。≫気には温煦機能がある。血の赤さは暖色で赤は陽気の度合いを示す。また、液体は温められると煮詰められて粘度を生じる。以上の理由から、温煦機能が低下すると血液の赤さが淡くなりサラッとしたものとなる。 ◉精神疲労し体がだるい。ハアハアと息が苦しそうで、しゃべりたがらない。≫気の推動機能 (宗気) は、空気と水穀の精から作られ、胸中に集まってそこから発し、心拍運動や宣発 (気血の運行) ・呼吸・発声として顕現する。
◉下腹に力が入らない。≫物体は、上下のある物体 (直立できる円柱など) と、上下のない物体 (直立できない球など) に分類できる。上下を持つ物体は、上・中・下 (土台) に分類できる。例えば建物の一階・二階・三階である。上下を持たない球はコアが中と土台とを兼ね備えている。例えば地球のコアである。人体は上下を持つ物体だが、受精卵の段階では上下を持たない。ゆえに、人体における中 (中焦) は、二階という意味とコアという意味とが重なり合っている。二階は脾臓であり、コアは腎臓である。だから脾気すなわち中焦の弱りが、腎臓の弱りを彷彿とさせるような証候を含むのである。
◉小食で下痢気味。≫脾臓には運化機能がある。「栄養分+水」 (=穀気) を運ぶ役割である。これは腸管の中でも機能するし、消化吸収後の血管の中でも機能する。小食になるのは胃から腸管にかけての運化が鈍いからで、胃に「栄養分+水」が停滞した状態である。下痢になるのは腸に「栄養分+水」が停滞しているからで、これが腸から血管の方向に運化できないので「栄養分+水」がそのまま大便として下ってしまう。

治療法則…補脾益気・固衝調経
鍼灸…中脘・脾兪・太白など。
漢方薬…
補中益気湯 (脾胃論) など。
人参、黄耆、甘草、当帰、陳皮、升麻、柴胡、白朮
心神不寧をともなうなら、帰脾湯 (校注婦人良方) など。
白朮、茯神、黄耆、竜眼肉、酸棗仁、人参、木香、当帰、遠志、甘草、生姜、大棗

②腎気虚証

症状…
◉生理が早く来る、出血量が少ない。≫腎精の不足が起こっているので、血そのものが少ない。
◉血の色が淡くサラッとしている。≫脾腎の陽気が足りない。
◉腰や足に力が入らない。≫足腰は土台である。そもそも腎は人体が上下のない球形 (受精卵) だったころのコアにあたる。球形の土台はコアなので、腎は土台を支配する。頭部と足部つまり上下ができてしまうと、上下の土台は下になるので、腎が下を支配するのである。
◉めまい、耳鳴り。≫双方とも、腎虚による精血不足で起こる。めまいに関しては頭部に精血が足りないので起こるということは理解しやすいが、耳鳴ではどうだろうか。やや物質的に生命を見たとき、脳というスペースには精が満たされている。機能的に生命を見たとき、清空というスペースには清陽が満たされている。清空とは、例えるなら青い空。上空は涼しく空気は澄み切っている。清陽とは、例えるなら輝く太陽。地上に光と熱を与え、活動力をもたらしてくれる。精とは境界で、清陽と濁陰という陰陽の境界となる。濁陰があるから清陽があり、清陽があるから濁陰があるという陰陽関係を考えると、陰陽を生み出すのは境界、つまり精なのだから、脳もふくめた体全体に精が足りなくなるということは、清空にあるべき清陽がハッキリしなくなるということであり、清陽と濁陰が入り混じったカオス状態であるということである。地上に光を届け濁陰を温めるはずの太陽は、清空に入った濁陰を温めて邪熱化する。この邪熱によって頭がボーっとして耳鳴りが止まなくなるのである。
◉小便の回数が多い。≫腎陽による気化ができないので、体液を体の循環に乗せることができず、垂れ流しになってしまう。
◉顔色が艶のない黒さ、もしくは黒いシミ、舌色は暗淡。≫気には固摂機能があり、精には求心力がある。そもそも気や精は五臓のそれぞれに蔵されている。例えば今、腎における気や精が不足したとする。すると、求心力がなくなり、腎の色 (黒) がそのまま浮揚し、顔色や舌色が黒くなる。他の四臓はこれにならう。たとえは心が虚したら赤くなり、脾が虚したら黄色くなるのである。

治療法則…補腎益気,固冲調経。
鍼灸…公孫・陰谷・三焦兪など。
漢方薬…固陰煎(景岳全書)など。
人参、熟地、山药、山茱萸、远志、炙甘草、五味子、菟丝子

熱傷衝任の症状と治療

①肝郁化熱

症状…
◉生理が早く来る。出血量は多いものもあれば少ないものもある。≫多い少ないがある。このあたりが常に説明するところの、疏泄太過と疏泄不及の陰陽関係である。陰陽転化の法則により太過は不及に、不及は太過に、それぞれ転化する。
◉出血の色は赤紫である。濃く粘りがあり塊が見られる。≫熱が強く深いことを意味する。気滞があるので瘀血を生じ塊を生じる。
◉生理前に乳房・胸脇・少腹に脹痛がある。≫足厥陰肝経に関わる部分である。
◉煩躁し怒りやすい。
◉口苦。≫胆汁には苦い性質があるが、この味覚が自覚されると口苦となる。そもそも、胆には他の六腑と同様、下降機能がある。苦味も下降するので苦さを自覚しないのである。それが病的に上昇すると苦さが自覚される。本来下降するはずの胆汁が上昇するのは、その背後に肝の誤った疏泄、すなわち疏泄太過、具体的には肝気上逆があるからである。

東洋医学でも、胆汁は消化を助ける働きがあると説かれている。これをもう少し陰陽学説的に翻訳してみよう。

西洋医学では物質を元にして説明する。肝臓という物質が胆汁を作り、胆汁は胆嚢に貯蓄され、飲食物が入ってくると胆汁が排出され、飲食物を細かい物質に分解して、小腸のヒダから吸収される。これが物質的説明である。

東洋医学は機能を元にして説明する。消化吸収はつまり、食物が外部から入ってきて、腸壁を介して血管内に入っていくことであるが、ここに疏泄機能が働いていることが分かる。後天の元気を外部環境 (飲食物) から内部環境 (体内) に移動させる際に、肝の疏泄機能が働くのだ。これが機能的説明である。

双方の、物質と機能というアプローチにも、陰陽が存在する。物質は陰で、機能は陽である。その陰陽のハザマにあるのが境界である。

胆汁は「肝之余気」「精汁」であり、肝の精ともいえるものである。精とは陰陽の境界に当たり、境界とは「ここ」と確定した位置で、機能と物質が混然としたものであるとは、本ブログで繰り返し述べるところだが、この肝精が食物という材料から水穀の精を作り出す、とも言える。これは精という陰陽の境界にスポットを当てた説明である。

胆汁 (消化を助ける液体)という物質、疏泄という機能、この2つを分ける境界が「精汁」である。飲食物という物質、後天の元気という機能、この2つを分ける境界が「水穀の精」である。

◉咽乾。≫足厥陰肝経・足少陽胆経ともに咽喉を流注している。

治療法則…清肝解郁,凉血調経。
鍼灸…百会・肝兪など。
漢方薬…丹栀逍遥散(《女科撮要》)など。
丹皮、炒栀子、当归、白芍、柴胡、茯苓、炙甘草

②陽熱偏盛

症状…
◉生理が早く来る。量が多い。
◉赤紫で、濃くやや粘りがある。
◉心胸が煩悶する。≫胃経の経別が心に流注しているので煩悶する。
◉口渇し冷飲を好む
◉大便は燥屎を形成し便秘する。

治療法則…清熱降火,凉血調経。
鍼灸…霊台・上巨虚など。
漢方薬…清経散(《傅青主女科》)など。
丹皮、地骨皮、白芍、熟地、青蒿、黄柏、茯苓

③陰虚火旺

症状…
◉生理が早く来る。
◉量が少ない。
◉色は通常の赤色で、濃くやや粘りがある。
◉頬・唇が赤い。手足がほてる。ノド・口中が乾燥する。

治療法則…養陰清熱,凉血調経。
鍼灸…百会・照海など。
漢方薬…両地湯(傅青主女科)など。
生地、玄参、地骨皮、麦冬、阿胶、白芍

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