顔面神経麻痺…東洋医学から見た原因と治療法

顔面神経とは、顔の表情を動かす筋肉を支配する運動神経のことです。何らかの原因で、この神経が働かなくなると、表情筋が動かなくなり、顔面神経麻痺となります。

脳梗塞で起こる場合や、ウイルスが原因で起こる場合などがありますが、ほとんどは原因不明です。原因が特定できない顔面神経麻痺をベル麻痺と呼びます。

西洋医学的な治療法は、抗ウイルス薬とステロイドです。抗ウイルス薬はウイルスが原因と特定できたときに用いられますが、原因不明のベル麻痺にも使われます。またベル麻痺に用いられるステロイドは経験的にましになることが分かっており、よく用いられます。

こういう治療方法は、東洋医学的に見て非常に参考になります。

抗ウイルス薬は表証 (風邪など) の存在を想像させます。ステロイドは炎症に効くので、邪熱があるという推測がつきます。

神経麻痺は脳梗塞の「軽い版」

東洋医学ではどのように見立てて治療するのでしょうか。

まず顔面神経麻痺がなぜ起こるのかを考えるます。物質的に人体を診るアプローチではなく、東洋医学の機能的アプローチによって顔面神経麻痺を考えてみましょう。

顔面神経麻痺は脳梗塞の「軽い版」です。え?まさか!と思われるかもしれません。でも例えばカゼでも、ちょっと咳が出て数日で治るものから、重症まで様々ですね。インフルエンザに感染しても、無症状のまま終息するものもあるし、死に至るものまであります。ウイルスが体を侵すメカニズムは同じですが、受け手の体のコンディションによって大きな差が出ます。重症度に大きな違いがありますが、顔面神経麻痺と脳梗塞は基本病理は同じです。

「脳梗塞…東洋医学から見た原因と予防法・治療法」でご説明したように、脳梗塞の基本病理は陰虚陽亢+気陰の弱りです。

生命を一本の樹木に例えるなら、この状態、つまり陰虚陽亢 (陰虚+陽亢) +気陰の弱り (気虚+陰虚) が生命の根幹 (臓腑) で起こると意識不明から死に至ることがあります。幹が折れると枯れることがありますね。生命の枝の部分 (経絡) で起こると意識を失うことなく半身不随となります。生命の葉の部分 (孫絡) で起こると顔面神経麻痺となります。枝が折れても枯れることはありません。

臓腑・経絡・孫絡については
「痛み…東洋医学から見た7つの原因と治療法」で解説しています。

腓骨神経麻痺なとの上下肢における神経麻痺も、神経損傷などの物理的要因か少ない場合は、顔面神経麻痺と同じ病理を応用して治療します。

ここでは、要点だけをピックアップしてご説明します。くわしくは
「脳梗塞…東洋医学から見た原因と予防法・治療法」をご覧ください。

風 (ふう) と痰

外風とは

脳梗塞が「中風」と呼ばれることがあるのは、ご年配の方ならご存知でしょう。風邪 (ふうじゃ) が関係するのは顔面神経麻痺でも同じです。昔よく言われたのが、顔の片側ばかり風を当て続けると顔面神経麻痺になることがある。これは「風」でも外風と呼ばれます。外的要因による風邪です。

風邪とは…外邪って何だろう

内風とは

現代は、この外風ではなく、内風が多く見られます。内風とは、内的要因による風邪です。意味が分かりませんね。

例えばストレスがある。ストレスは心身ともに緊張を生みます。緊張は熱を生みます。空気も圧縮すると熱を生じますね。緊張=圧縮は熱を生む。熱は上昇気流を生み、風が生じます。火が燃えるときに巻き上がる風です。

このような体の内部に発生する風を内風と言います。心に波風が立つ…と表現するとイメージしやすいでしょうか。

内風については
「アトピー…東洋医学から見た4つの原因と治療法」で解説しました。

痰を巻き上げる

この上昇気流が頭部を侵します。その際、もともとあった痰湿を一緒に巻き上げ、風と痰は一体化して、清竅 (せいきょう) と呼ばれる頭部を清らかに保つ機能を侵します。もちろん、本幹に命中せず、枝葉末節の孫絡にそれた形で…。あくまでも、陰虚陽亢と気陰の弱りは臓腑ではなく、孫絡で起こっています。ですから、風・痰の弾丸は的の中心には命中しません。

ひつこい麻痺は痰湿が原因の多くを占めます。

≫「痰湿とは」 (正気と邪気って何だろう) をご参考に。 

どこに命中する?

ちなみに、ここでいう本幹 (臓腑) ・枝 (経絡) ・葉 (孫絡) を「場所」と考えてはなりません。あくまでも東洋医学は「物質」ではなく「機能」を基礎とした医学だからです。場所を特定できる概念は存在しません。

それは「左」「右」で考えると理解しやすいかもしれません。何かの基準があってはじめて左右は存在するわけで、後ろ向きになれば左右は逆転します。決まった場所などありません。上下もそう。地面 (地球) があってはじめて上下という概念が生まれるわけで、地球という立ち位置がなければ、上下は存在せず、宇宙空間があるのみです。

東洋医学は人の生命の中に宇宙空間を見ています。生命は物質のように場所を特定できるものではありません。生命も左右も物質ではありません。

病理と治療法

まとめます。直接原因は風邪です。風邪には外風と内風があります。内風を生み出すのは熱です。熱を生み出すのは緊張です。緊張が熱を生み出し熱風が上昇 (陽亢) し、痰湿を伴って孫絡に命中する。バックグラウンドは、「陰虚と陽亢が同時に存在し、かつ陰虚と気虚が同時に存在する病態」です。これらを考慮しながら、風邪と痰湿を取り去る治療を行ないます。

風邪と痰湿の治療

●外風によるもの
合谷・外関など。

●内風によるもの
百会・合谷・後渓・内関・大敦・手の十井穴など。

●痰湿を挟むもの
豊隆・衝陽・公孫など。

これらから中心となるものを選択、あるいは組みあわせ、風・痰を除きながら孫絡を通じます。
漢方薬では、牽正散など。

気陰両虚の治療

ただし、バックには気陰の弱りがあります。益気 (気を増す治療) を意識して、脾臓を強め、気を生産し血を強くしたり、滋陰 (陰を増す治療) を意識する必要があります。
益気…脾兪・胃兪・公孫・太白など。
滋陰…照海・大巨・関元・陰谷・腎兪など。
これらを臨機応変に使いながら、風・痰をうまく取り去ります。

虚・実をわきまえる

外風・内風・痰湿…生命力を邪魔するもの=邪気
気虚・陰虚…邪気を追い出すための生命力=正気
邪気の横暴、正気の弱り。いずれが中心となるかの見極めが大切です。

陰 (おちつき) を補う

以上の説明から分かるように、陰虚が原因の大本であることが分かります。

陰とは…。休息。求心力。

ジャンプするためには、しゃがむことが必要。ジャンプは活動で陽。しゃがむことはジャンプとは反対の動きと見えますが、ジャンブするためには必要。つまり休息で陰。陰は、命 (活動力=気) を保つための基礎です。

陰は寿命や自然治癒力と関わりの深い生命エネルギーです。それを補うことができれば、陰虚・陽亢・気虚までもが回復し、麻痺の直接原因である「邪熱と内風」がおさまって風邪を追い出し、気が下がって「痰湿」をめぐらせ除去することができるでしょう。

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました