
佐々木朗希選手。100マイルの速球を引っ提げて、メジャー挑戦、ドジャースに移籍したというニュースでその姿を診たとき、その予感があった。
早い段階で故障する。実力に見合った結果は残せないだろう。
はたして5月9日のダイヤモンドバックス戦の登板後、右肩の違和感を訴えたのである。
そう思った理由は、単純である。表証 (表寒証) と診断したからだ。テレビの画像で診断したのである。画像は望診するのに非常に便利である。テレビを、何度も静止画像にして確認した。どのカットをみても、そのように天突が反応している。上に掲載した画像も反応しているので、診て取れる方は確認してほしい。
そうか、こんなすごいスポーツ選手でも、生命力が弱い人がいるんだ。たしかに、ガンを患いながらプロで頑張っている選手もいた。スポーツをしているから健康とは限らないのだ。
表証が改善されない限り、故障は付きまとうだろう。
僕が考える、佐々木選手が活躍するために必要なプロセスを言おう。まず休養 (安静) である。これがかなり難しい。安静とは、安心を伴わなければならないからである。シーズンは待ったなしで進んでいる。この状況で安静を治療の1番目に位置づけるためには、そうとうな強い「信」または「心」が求められる。
次に、温かい飲食物を徹底することである。37℃以上あればいい。口にするものすべてをその温度にする。37℃以下のものは体温よりも低い。体温よりも低いということは、体温を冷ます要素があるということである。体温を冷ます要素のことを「寒邪」という。佐々木朗希選手の生命は、この寒邪に取り囲まれている。だから徹底的に寒邪を排除すべきなのである。寒邪は皮膚からも寒冷の刺激として作用するが、口から入るものが最も要注意である。
>> https://sinsindoo.com/archives/microwave.html#知覚神経
さらに、鍼治療である。治療とは、自力で養生して治るのに1年かかるものを短縮して1ヶ月で治るとかいうふうに、とにかく行程を短くする。
>> https://sinsindoo.com/archives/iyasi.html
もちろん、違和感のある右肩関節を治療 (対症療法) するのではない。生命力を高めるように治療 (原因療法) するのである。
鍼治療をやりながら生命力が上がってきたら、リハビリとしてはまずウォーキングから始めてもらう。もちろん脈診でそのタイミングを確認しながらである。それを一定期間行い、さらに生命力を上げる。次にジョギングをしてもらい、さらに生命力を上げる。それを一定期間行い、その次は適度な筋トレをしてもらう。
ここまで行ったら、登板できる。ただしローテーションを組むにも脈診で何日空けるかを判定しつつ、治療は続行しつつである。
そうやってシーズンをフルでやっても生命力が衰えない体を作ることを目指す。年単位での取り組みが必要であろう。プロ野球選手の肉体労働は過酷だからである。
だがしかし、こんなリハビリ及び治療を、誰が信じて誰が行おうとするだろうか。
そうこうしている間にクビになる可能性もある。
だから故障しがちな選手は、それと縁が切れないのである。
たとえば1990年代にヤクルトスワローズで活躍した伊藤智仁投手をご存知だろうか。あの古田敦也捕手が「伊藤のスライダーは本当に直角に曲がるんです」と振り返るように、天才的な選手だった。プロ1年目からこの高速スライダーを武器に防御率0.91という驚異的な成績を叩き出して新人王を受賞。しかし、右肘を痛めてシーズン後半は戦線を離脱した。当時の画像をみると表証が見受けられる。ちなみに2025年現在の野球名鑑ではそれはもう見受けられない。
やはり選手としての労働は相当に過酷で、相当強い人でないと生命力が保てないのである。佐々木選手は23歳とまだ若い。生命力を強くする時間はまだまだある。適切なリハビリを土台から積み上げて、稀有の才能を活かしてほしい。
こんなことをいうと、僕のようなスポーツ障害専門でもない鍼灸師が、リハビリの何を知っているんだという批判が聞こえてきそうだ。だが、こんな症例 (現在執筆中) がある。右半身不随 (原因不明) で家の中では杖、外出は車椅子という女性が、通院から半年たった今、ふつうに走っているのである。奈良医大病院でサジを投げられ、阪大病院転院を勧められていた方である。当時行っていた一切のリハビリをいったん廃し、鍼治療を行って安静を専らとし、やがてウォーキング5分から開始し、現在は90分早足でのウォーキングをしてもらっている。正しいリハビリはここまでのポテンシャルがあるのだ。ただしその方法はどの教科書にも書いていない。
鍼という方法での効果も凄まじい。全治7週間の骨折と診断された15歳の野球選手に、百会と竅陰の2穴に鍼をしたら、その1回のみの治療でわずか8日後にギプスが取れたという症例もある。結局、全治2週間だった。

中医学は内科だけではない。運用の仕方によってはスポーツ障害に驚異的な力を発揮する。
いや、驚異的な力は中医学の中に存在するのではない。
この体、この生命の中に存在するのである。
僕なら、右肩関節には絶対に鍼を打たない。痛み止めとして効いてしまうからである。佐々木選手の体は、「もうこれ以上投げないでくれ、野球をしないでくれ!」と訴えているのである。生命力が窮乏しているからである。安静にさせて生命力を回復するために、ブレーキをかけているのである。そんな状況でブレーキである肩の違和感を消し去ってしまったら、ブレーキは効かなくなってまた無理をする。そしたら体はまた肩痛を出してブレーキを掛けてくるという堂々巡りが起こってしまう。
部分的に診てはならない、そういうケースが多いことを知るべきである。