87歳、腎機能が回復… クレアチニンがケタ違い (1.1) の減少を見た症例

失われた腎臓機能は元に戻らないので、 (慢性腎臓病の) 治療の目的は「進行を食い止め、遅らせる」「症状の改善」となります。

NHK健康ch eGFRの値が低い理由、症状を改善する方法をステージ別に解説

この悲観的な常識をくつがえすかもしれない症例を検討する。

ただし、うまく行ったわけではない。まさにこれを書いている前日 (2024年2月23日) 、本症例の患者さんから電話があった。お風呂で転倒して膝を痛め、来院がかなわなくなったのである。愛知県からここ奈良県まで、よく継続されてお通いになった。しかも、自宅から最寄駅まで相当の時間がかかり、名古屋駅での電車の連絡に1時間の待ち時間があるため、家を午前10時に出て当院到着は午後4時であった。老齢に加え、そうとうな体力を使っての受診を、よく続けられた。まったく頭の下がる思いである。

おそらく、もうお会いすることはできない。

その数値も、僕がうかがい知れるのは2024年2月1日のものが最後となるだろう。いつもにこやかで温厚なお人柄に触れる喜び、そして老体に鞭打っての来院をお迎えする心苦しさとも、おそらくお別れとなる。

その間に驚愕のドラマがあった。数値は既定路線に沿って悪化し続け、人工透析 (eGFR10以下) 寸前の11.5となった。それでも、僕を信じて淡々と治療に通い続けられた。ぼくも、結果を度外視していつも通りできるだけのことをし続けた。結果、その eGFR11.5 (ステージG5) は、1ヶ月後の検査で16.2 (ステージG4) に回復したのである。クレアチニンでいえば、4.12から3.00まで下がった。これがどの程度の意味を持つかは浅学のため窺知し得ないが、患者の看護師 (所長クラス) にうかがうと「見たことがない」とのこと。クレアチニンが「0.1」下がるだけでもすごいらしいが、ケタ違いの 「1.1」以上も下がったのである。

赤線 (実線) はエクセルが出した近似曲線である。鍼治療開始前は、2022.10.22から2023.7.29 (2023.7.13と2023.8.15の中間日として設定) までとし、鍼灸治療後は、2023.7.29 (前同) から2024.2.1までとし、それぞれの近似曲線を出した。その際、2023.7.29 のeGFRは15.1 (2023.7.13) と12.6 (2023.8.15) の平均値である13.85とした。実際の鍼灸初診は2023.7.18なので、設定した2023.7.29と比べて11日間の誤差がある。

上は、2022.10.22から、そして当院初診を経て、転倒し膝をケガされ鍼灸治療を終了するまでの、すべてのeGFRの軌跡をグラフにしたものである。

ステージG5に入ったら、人工透析は秒読み段階となる。そういうギリギリの状況で初診を取らせていただいた。そして、透析回避という不可能に近い依頼をお受けしたのである。

鍼灸治療を行わなかった場合、エクセルが計算した人工透析開始日の予想は、赤い点線 (鍼灸治療をしなかった場合の推定数値線) 上にある青い点2023.11.9あたりである。だが、鍼灸治療開始を境にV字回復を見せたため、鍼灸治療を終了した今 (治療中断の電話があった2024年2月23日現在) も、人工透析を回避しつづけているのである。

エクセルの近似曲線が示したのは、不可逆的 (回復しない) とされる腎機能低下の流れが、回復傾向に転じたという事実である。

慢性腎臓病 (CKD) と、中医学的 “水腫”

腎機能は、eGFR (1分間に老廃物を濾過できる量) で、ステージに別けられる。eGFRが60を切ると、異常値となる。この状態が続くと慢性腎臓病 (CKD) である。腎機能は、悪化進行することはあっても回復することは通常あり得ない。

だが本症例では、8月15日から翌年2月1日の期間、5ヶ月以上にわたって回復傾向をたどった。赤で示した近似曲線が右肩上がりであることは、腎機能が右肩上がりであることを示す。 “通常あり得ない” ことが起こったのである。

先出の図と同様であるが、鍼灸治療期間の2023.8.15〜2024.2.1の近似曲線を図示した。

このような現象がなぜ起こったのか。この期間、鍼灸治療を行っていたことが大きな要因であったと推察される。本ページでは、従来の考え方の切り口を変えて展開していきたい。

また東洋医学においては、本症例は「水腫」と呼ばれる。これは、多くは腎陽虚 (冷え) として弁証されることが慣例になっていると思う。これにも一石を投じたい。

臨床という「事実」から、学問を再構築する。
学問の発展とは、それ以外の方法では得難い。

慢性腎臓病 (CKD) のステージ

まず、慢性腎臓病 (CKD) のステージについて解説する。


ステージG1(eGFR90以上)…腎臓にはまだ異常がないが、血糖やコレステロールが高い場合はその治療が必要とされるレベル。


ステージG2(eGFR60~89)…自覚症状はない。生活習慣の改善を行うことで、進行を食い止める・または遅らせる必要があるレベル。ここでの生活習慣改善とは、
・喫煙
・暴飲暴食
・運動不足
・不規則な生活
・過剰なストレス の改善をいう。


ステージG3(eGFR30~59)…腎機能が半分に低下している。自覚症状がでる。
・疲れやすい
・血圧が高くなる
・尿が泡立つ
・夜、何度もトイレに行く
・貧血・むくみ など。
生活習慣の改善 + 食事療法・薬物療法が必要とされるレベル。さらにステージG3a・ステージG3bに分類される。


ステージG4(eGFR15~29)…腎機能が30%未満となっている。ステージG3よりも、さらに自覚症状が強くなる。ステージG3よりもさらに生活習慣の改善 + 食事療法・薬物療法が必要とされる。
・食塩
・たんぱく質…尿素のもとになる
・カリウム…野菜に多い。多量に取ると
・リン (カルシウムと結合)  の制限が必要となる。


ステージG5(eGFR14以下)…腎臓がほとんど機能していない。末期腎不全の状態。人工透析や腎移植が必要となるレベル、つまりそれ以外の何かをしている「場合ではない」レベル。
とくに、eGFRが10まで低下すると人工透析が真剣に推奨される。


  
本症例は一時、eGFR11.5 (2023.11.9 ) まで低下した。これは、eGFR10に迫った人工透析寸前の状態と言える。

症例

86歳 (昭和11年11月生) 。男性。

2023年7月18日初診。

脚のむくみがひどく、長靴を履いているかのようである。
腎機能の数値が悪く、いずれ人工透析になるという危機感がある。eGFRはここ3ヶ月の検査で14.8・14.3・15.1で、ステージ5に入ったと言っていい。人工透析秒読み段階と言える。

全身に皮膚炎があり、痒くて仕方がない。夜のほうが昼よりも痒い。ステロイドは塗っていない。塗っても効かないとのこと。

初診…7月18日 (火)

高齢であり、腎機能の衰えは脚の酷いむくみを見ただけでも察しが付く。順逆を慎重に診ることが求められる。結果、神シンあり。死病ではない。

逆証 (死の証) とは… 舌に映じた「神シン」の考察
順証と逆証。人の生き死に。その分かれ道は、ほんの一度の治療であったり、ほんの少しの岐路の選択であったりする… そういう恐ろしくも不思議な世界が、舌診の記録から伺えるのである。その機微を左右する生命の最も根本をなすもの、それが「神」である。

表証 (表寒証) を認める。左肺兪に虚の反応 (直径12cm) 。天突が反応している。

表証…カゼ (風邪・感冒) を治す意味
表証と呼ばれる概念の中にカゼ (感冒) があります。これを治療することは中医学の弁証論治の基本です。表証を見破り、慢性的な表証を治療することも大切ですが、もっと大切なのは、裏証を治療するためです。表裏は一枚の紙の表と裏で、一体のものです。

裏熱を認める。皮膚炎の状態から明らかである。日中よりも夜間のかゆさが著しい。営血分に邪熱が沈んでいる可能性がある。

まずは、水 (痰湿) を動かさねばなるまい。その原因は飲食不摂生にある。

後で聞くところによると、飴玉が好きで毎日しゃぶり、甘いもの、お好み焼きなどが大好きであった。これが後に悪化の原因となることは、この時点で僕は分かっていない。当該患者は難聴があるため、問診がうまく行かなかったことは否定できない。

水があるから熱が激しくなっている。
水があるから熱が外に逃げにくくなっている。

水を動かなくしているのが表証 (表寒証) である。寒邪は我々の身の回りに春夏秋冬存在しており、正気が弱ると体を取り囲むようにして苛 (さいな) む。これは感冒 (カゼ) とはちがう。というよりも、カゼと同じなのに自覚症状が出ない。自覚症状が出ないから、治らない。治らないから慢性腎臓病などを形成するのである。

【証】表寒裏熱証・表寒裏水証。
【治療方針】先表後裏の原則に基づき、表寒をまず取ることによって、裏の熱と水を除去しやすくする。
【治療】百会に2番鍼。5分置鍼、抜鍼後5分休憩させ、治療を終える。

2診目…7月24日 (月)

治療の翌朝から、脚のむくみがましになったので驚いたという。朝が楽に起きれている。

だが、夜中がそうとうかゆい。おしり、ふともも。

表証は見受けられない。
三陰交に邪熱の反応がある。これは、営血分の熱を示す。夜中のかゆさの原因は、これである。

「食養生は厳格にやっております。」
この調子でいい。

【証】営血蘊熱証
【治療方針】営血分に沈み込んだ邪熱を除去する。
【治療】百会に5番鍼、5分置鍼後、抜鍼。その後、右三陰交に5番鍼で瀉法、速刺速抜。抜鍼後5分休憩させ、治療を終える。

初診の一回で、本人が自覚できるほどにむくみがマシになり、本人に「おどろき」があった。これがなければ、5〜6時間もかけて、この老齢で半年もの通院はかなわなかっただろう。やっているうちに治ってくるだろうくらいでは甘い。初診のインパクトがあるかないかは、病気を治せるか治せないかに直結する。

3診目…7月25日 (火)

足指の付け根がいつも腫れていたが、夜になっても腫れなくなった。
だが、かゆくてたまらない。特に夜。
ウォーキング3分を指導する。

治療は2診目とおなじ。

4診目…7月31日 (月)

夜中がかゆい。

治療は2診目とおなじ。

1週間に1回の治療では難しいと見て、1日に2回の治療を勧める。

5・6診目…8月17日 (木)

湿疹が増えてきた。
eGFRが12.6、過去最悪だった。クレアチニンは3.77。
ステージ5であり、このままでは人工透析 (eGFR10以下) になるので、不安。

1日に2回の治療を行う。
いずれも、治療は2診目と同じ。

7・8診目…8月24日 (木)

足先が細くなったとのこと。
全身がかゆい。夜中がかゆい。

ウォーキングを5分に伸ばすよう指導。

1回目治療…膻中・三陰交。
2回目治療…2診目とおなじ。

9・10診目…8月31日 (木)

湿疹がひどくなってきた。こすると出血し、むくみの体液が出る。

1回目治療・2回目治療とも、2診目とおなじ。

11・12診目…9月11日 (月)

湿疹がひろがって、かゆくて仕方ない。
眠剤なしで眠れるようになった。午前1時ごろ目が覚めて掻く。ひとしきり掻くとまた眠れる。

ウォーキングを10分に伸ばすよう指導。

1回目治療・2回目治療とも、2診目とおなじ。

13・14診目…9月21日 (木)

eGFRが14.6まで回復。「信じられないことが起こりました」と喜ぶ。クレアチニンで言えば3.77から3.31と、0.46の改善を見た。

ただし、喜ぶのはひとしきりで、あとはいつものように痒いことのつらさを延々と繰り返す。

1回目治療・2回目治療とも、2診目とおなじ。

15・16診目…10月2日 (月)

むくみは明らかに減ってきている。
かゆさは相変わらずひどい。

1回目治療・2回目治療とも、2診目とおなじ。

17・18診目…10月9日 (月)

eGFRが13.8に再び悪化。クレアチニンは3.48。

ウォーキング15分に伸ばすよう指導する。数値的な悪化はあるが、正気の回復があるということがウォーキングの脈診での判定で伺える。大丈夫、このまま治療を続けて良い。

1回目治療・2回目治療とも、2診目とおなじ。

19・20診目…10月16日 (月)

病院で体のかゆさを訴えると、プレドニン (最も強いステロイド治療薬) が出た。3日ほど服用した。

多臓器不全を起こしかねないこの状態で、なぜプレドニンなのか僕には理解できない。

「〇〇さん、ここで “かゆい、かゆい” と訴えるその調子で、病院でもやりましたね? でもね、痒さでは死にません。でも腎機能が悪くなったら命に関わります。いま〇〇さんはそういう状態であることを忘れてはいけません。もう一度説明します。この痒さの原因は、熱です。背中を診察するとストレスに関わるところ (肝兪) に熱の反応が出ています。これが熱の出処で、皮膚の炎症にもつながり、腎臓の炎症にもつながっています。皮膚に出ている炎症は、なんとか深いところの熱、つまり腎臓の邪熱ですね、これを外に発散させようとする体の反応です。その配慮なく皮膚だけをマシにしてしまうと、内に熱が閉じ込められてしまいます。内というのは腎臓のことですね。〇〇さん、痒いのはよく分かります。でもね。症状を伝えるのはいいんですが、それを何度もいうから、こんな薬が出るんですね。また、何度もいうと、ストレスを大きくするトレーニングをしているようなことになってしまいます。ぼくは毎回、痒さについては伺います。しかし、一回聞いたら分かります。何度も言うというのは、グチですね。グチを言うと、顎や舌の筋肉を動かす筋トレみたいになり、そのトレーニングはストレスを更に大きくし、熱を激しくするという負の効果が出てしまいます。痒さも腎機能も熱が原因ですから、これらをマシにしようと思えば、 “グチ” を言わぬようにしたらいいです。これが熱を軽減する良いトレーニングになると思います。」

1回目治療 百会のみ。
2回目治療 2診目とおなじ。

21・22診目…10月26日 (木)

「先生、前回先生がおっしゃったこと (グチを言わないようにすること) を、娘に話したんです。すると “お父さん、それが私がいっつも言ってることなのよ。先生の言う通りだわ” って言われました。ハハハ。」

「そうですか。娘さんと同意見なら僕も心強い。これからは、良いトレーニングを積んで行きましょう。」

1回目治療・2回目治療とも、2診目とおなじ。

23・24診目…11月2日 (木)

ジュクジュクがましなときがあった。皮膚に関して「まし」という言葉がはじめて聞かれた。
上半身 (胸) のあたりの日中のかゆさがつらい。

ウォーキング20分に伸ばすよう指導する。

1回目治療・2回目治療とも、2診目とおなじ。

25・26診目…11月13日 (月)

eGFRが11.5とさらに悪化。10を切れば人工透析を病院から勧められるか。
クレアチニンは、4.12。

いろいろグチも言いたいところだろうが、それでも制御している。必要なことを言ったら、あとは黙っておられる。すごい。

1回目治療・2回目治療とも、百会のみ。

27・28診目…11月20日 (月)

かゆさに耐えられず、ステロイドを3日間ぬった。

1回目治療・2回目治療とも、百会のみ。

29・30診目…11月30日 (木)

上半身がかゆい。下半身はまし。

1回目治療 関元。
2回目治療 百会。

31・32診目…12月11日 (月)

「先生、奇跡が起こりました。もうダメかなと思っていたんですけど、腎機能が劇的に回復しました!」

eGFRは前回の11.5 から16.2に回復。

クレアチニンは前回の4.12から3.00まで下がった。クレアチニンは0.1下がるだけでもすごいことである。それがいきなり1.1以上も下がった。

当分、人工透析は回避できるだろう。

1回目治療 関元のみ。
2回目治療 2診目とおなじ。

33・34診目…12月18日 (月)

排尿困難が楽になった。一回の尿量が増えた。
これは腎機能が回復していることを示す。

夜中のかゆさが減った。足はあまり痒くなくなる。日中に上半身がかゆい。

1回目治療・2回目治療とも、関元。右豊隆 (瀉・速刺速抜) 。

35・36診目…12月28日 (木)

急にむくみが出てきた。

聞けば12月24日 (クリスマス) に、娘さん夫婦が自宅にやってきて、お好み焼きでもてなしてくれたという。

「お好み焼きは好きですか?」
「はい、大阪で暮らしていた時があって、目がないんです。」
「なるほど、原因はそれですね。」

数値が奇跡的回復を見せた。しかもクリスマス。しかも娘夫婦が来てくれた。
その高揚感。
それが、シャンパンのコルク (自制心) を抜く。そしてシャンパン (生命力) が激しく吹き出す。

気閉はコルク栓… 感謝と謙虚で栓を抜く
気閉と気脱は陰陽です。この2つをコルク栓の開け閉めにたとえて説明します。気閉も気脱も重症をイメージさせますが、慢性的な軽症にも当てはめてかんがえてみましょう。そのとき、症状の緩解と悪化を繰り返すカラクリが見えてくるかも知れません。

1回目治療 関元。
2回目治療 2診目と同じ。

37・38診目…1月8日 (月)

前回治療後、2〜3日はむくみがましだった。帰宅した夜から細くなっていた。
だが、4日ほど前からまたむくみが戻る。

1回目治療・2回目治療とも、2診目と同じ。

その後、2月19日の48診目を最後に治療は途絶える。転倒して膝を負傷したのである。最下段の「その後の経過」に詳しく書いた。

考察

本症例にはいくつかのポイントがある。一つずつ挙げて考察したい。

グチを言わなくなる “奇跡”

33・34診目…12月18日 (月) での会話。

「なぜかゆさがマシになってきているか分かりますか?」

「さあ、なぜでしょう…?」

「グチを言わなくなったからですよ。」

「はい、先生がグチを言うなと言うから、思わないようにしました。」

「そう。それが普通ではありえないことなんです。この年代の特に男性の方って、頑固な人が多いんですよ。それは、絶望的なくらい頑固なんです。他人の言うことに耳を貸す人なんていない。とくに僕みたいな若造が言うことなんてまず無理なんです。そこを、〇〇さんはなさったんですね。これが奇跡でだったんです。eGFRが上がったことも、クレアチニンが下がったことも奇跡かもしれませんが、本当の奇跡は、〇〇さんが僕の言う事に素直に耳を傾けられ、それを実行されたことなんです。」

グチを言えば言うほど、焦燥感がしつこく刺激される。焦燥感はますます昂じ、邪熱の上塗りをしていく。グチは邪熱になるのである。愚痴ばかり言っている人は、病気が治ることはない。 “ああ、いやだ” は禁句なのだ。

腎機能 (eGFR) が低下する。これは結果である。
この結果には、かならず原因がある。
そして、その原因は一つではない。食事のとり方、運動の仕方、睡眠のとり方。これらを一つ一つ解決してきた奇跡。

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それでもなお、他にも原因があった。それがグチである。それに僕が気づいた奇跡。そしてそれを当該患者が改善した奇跡。

これらの奇跡に治療技術が加わり、ステージ5 (eGFR15以下) 末期の透析寸前の状態の eGFR11.5 (10以下で人工透析) から、ステージ4のeGFR16.2にまで、ありえない回復を果たしたのである。

夜のかゆさは “深い熱”

むくみの基本病理は、水を動かすことができないからである。水を動かせないのは陽気が足りないからである。地球の水の動きを見てみるがいい。太陽に熱せられ、また地熱の力で、水が蒸発する。蒸発して雲となり雨となって降り注ぎ、また蒸発する。

この蒸発させる陽気のことを腎陽という。腎陽が衰えると水を上に持ち上げることができなくなり、足がむくむのである。

だから、むくみがあるのならば腎陽が衰えているのだから、腎陽を補えばいい。

ところが本症例では、それは問題がある。全身に及ぶ皮膚炎のかゆさである。かゆさは熱である。へたに腎陽を補うと、この熱が助長されて、かゆさが余計に酷くなってしまう。

そもそも、当該患者の訴えによると、深夜0時ごろのかゆさが顕著である。深夜に熱が激しくなるのであるが、この証候からまず疑わなければならないのは営血分の熱である。熱は、衛分・気分・営分・血分の順に熱が深くなる。営血分に熱があると、水をさばく気分を中心とした部分に熱はなく、気分は逆に冷えとなる。この老齢である。陽気の絶対量は少ないのである。

浅い気分にある水の壁が、深い営血分の熱を取り囲み、熱を逃げにくくしているという構図がイメージできればいい。

これが、かゆさ (熱) とむくみ (冷え) が両立する理由である。

証候というのは必ずしもすべて揃うとは限らない。営血分の熱には出血という証候があるが、出血がなければ営血分の熱とは言えないと主張する人がいる。これは、机の上の水練のみを習得し、泳ぎ上手だと勘違いしているのである。要は、臨床で結果を出せるかどうかである。営血分に熱があるという事実があれば、営血分の熱である。これを取らなければ良くならないアトピーはたくさんある。

深夜のかゆさがハッキリしている。もし営血分の熱があるならば、三陰交に反応が出ているはずである。

初診の治療では、まず三陰交に注目した。はたして邪熱の反応があった。すぐに除去できる反応ではない (生きた反応がない) ので、まず百会で奇経に正気を足すことによって、正経における邪実を補うことなく正気のみを補う。すると、三陰交に生きた反応が現れたので、これを瀉法した。

結果として腎陽を補ったとは言えない配穴となった。だが、これが思いもよらぬ結果となる。2診目で、深夜の痒さが改善すると思いきや、まったく変わらない。だが、むくみが大きく改善したのだ。

2診目以降も、正気を足して営血分の熱を取る。見る見るむくみがマシになっていった。もっとも、本人はそれをさほど喜ばず、痒さがつらいことしか言わないのであるが。

とにかく、体が営血分の熱を取って欲しがっていることだけは分かったので、その熱を取ることに集中した。結果として、むくみが取れ、腎機能が回復したのである。

慢性腎臓病の原因

慢性腎臓病の原因を一言で言うことはできないが、その主なものは動脈硬化である。

動脈硬化の原因… 〇〇→血液→血管→あらゆる病気
血管をすべてつなぎ合わせると、地球を2周半もする長さがあると言われています。そのほとんどが毛細血管である以上、人体は毛細血管の集まりであると言っても過言ではありません。脳も、肝臓も、肺も腎臓も、毛細血管の塊なのです。 その血管がボロボロにな...

リンクを読んでいただければ分かるのだが、血糖が高くなることによって生じる終末糖化産物、また高コレステロールによって生じるプラーク、これらが血管に付着すると、血管に炎症が起こる。それが慢性的になると動脈硬化になる。こういう状態はあらゆる血管に起こり得るので、とうぜん毛細血管も炎症が起こる。すると毛細血管の集まりである腎臓も炎症が起こり、腎臓の機能である「濾過」ができなくなるのである。

炎症=熱?

炎症を邪熱と解するのは短略的であると言われる。しかし僕は、それで良いのではないかと思う。

邪熱が単独で存在することは、慢性疾患においてはほとんどない。多くは陰邪 (寒邪あるいは痰湿) が、邪熱を取り囲むようにして存在する。陰邪によって取り囲まれた邪熱は、容易に外に発散することができず、内にこもってしまう。魔法瓶の中の熱湯のようなものである。魔法瓶は、内は熱いが表面は冷たい、冷たいのが陰邪と理解して良い。

つまり、陰邪を取り除かないと、邪熱が逃げていかないのである。この辺が、炎症であっても温補して治療するという発想になる部分であり、火熱派や温補派が存在する所以でもあると考えられる。

しかし、魔法瓶の中身は、あくまでも邪熱であるということを捉えておく必要があると思う。

水腫病はほとんどが寒証であるとされるが、やはり本質は腎臓 (西洋医学的な) という深い部分にこもった邪熱であって、そのまわりを痰湿なり寒邪なりの陰邪が取り囲んで、治りにくくしているのである。

本症例では、初診で温補して陰邪を取り払った後は、すべて熱証として処置している。それ以来、陰邪は弁証の中心となることはなく、陽邪 (邪熱) を取ることに専念した。

かりに陰邪をとりはらうのに手間取るならば、附子なりお灸なりの陽熱を補う処置を持続することになる。それが、水腫に陽虚が多いとされる理由ではないだろうか。

その後の経過

その後の経過ははかばかしくなかった。

  • いままで頑なに塗ろうとしなかったステロイドを、年明けくらいから塗り続けていたことが判明した。去年であれば、しかたなく塗ったときはご自分から申告されていたのだが。
  • 「食養生は厳格にやっている」はずだったが、アメ玉を1日2回間食していたことが判明した。
  • 青竹踏み30分を2日連続 (2月8日・9日) でおこない、翌晩 (2月10日) に左目から多量出血したこともあった。

僕の知らない生活習慣の改悪があった。上記は一部であろう。

もともと難聴で話がしづらく、問診が行き届いていなかったし、説明もうまく伝わっていなかったかも知れない。さらに、数値が飛躍的に良くなってから、油断が生じたことも否定できない。油断から生まれた “スキ” は、隙間をつくってそこから生命力を漏らし、また体に良くないものがその隙間から入ってくる。

それは数値にも反映していた。

だが、もう一度取り戻すことは可能であった。それを阻んだのは、

  • 数値がよくなった「気の緩み」 (コルクのゆるみ) を止められなかったことがまず挙げられる。間食をもう少し制御できていたら。それをもう少し早く気づけていたら。
  • さらに、「地の利」が得られなかったことも大きい。2月21日に風呂で転倒、膝を負傷して、当院に通院できなくなったのである。もう少し家が近かったら。

80代男性はガンコな方が多い。そんな中、当該患者は87歳、こんな素直な方はちょっと知らない。この奇跡が、本症例が当院来院中に “人工透析とならなかった” 奇跡につながっている。

もう少しお若かったら、あるいは。

これ以上の奇跡を望むのは、ぼくの欲が深すぎるのだろう。

   

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