オデキが痛くて歩けない…原因は夫婦仲?

50代。女性。2024年9月7日診。

「足の裏にオデキがあるんですけど、痛くて歩けないんです…。」
「どれどれ、ああこれ?」

軽く押さえてみる。

「痛っ!」
「あ、ごめんごめん、いつから?」
「オデキはだいぶ前からあるんですけど、それが急に痛くなって、3日ほど前からかなあ。」

場所は裏内庭と湧泉の中点あたり、胃経と腎経がかかわるか。
とりあえず、体を見ていく。
短期痰湿スコアは足三里まで、安全域である。新しい痰湿は生まれていない。

短期邪熱スコアは…あっこれだ! 巨髎まである。新しい邪熱が生まれている。しかも、かなりの量が生まれている。前回の診察は1週間前、今日までの間に、なにか大きな異変が起こっている。今はまだオデキが痛くて歩けない程度だが、このまま放っておくと危険ですらある。

邪熱が生まれた原因は何だ? 多くはストレス (肝火) であるが…。ああ、やはり太衝に出ている。実の反応がある。

「今日は新しい邪熱が生まれちゃってます。」
「ええ ! ? そうなんですか…。」

「邪熱というのはオーバーヒートのことなんですが、一般的に邪熱が生まれやすい原因としては…、
①体の酷使、つまり働き過ぎや行動のしすぎですね、これオーバーヒートしやすくなります。
②心の酷使、つまりストレス、イライラしたり喜びすぎたり悲しみすぎたり、これもオーバヒートします。
③目の酷使、これにともなう夜ふかし、これもオーバーヒートしやすくなります。
思い当たるフシは? 」

「ストレス。主人とめっちゃ仲が悪いんです。」
「なるほど、ちょっと待ってね。」

この瞬間、太衝の反応が消えた。
短期邪熱スコアも安全域に、神封以下 (第5肋間) まで一気に下る。

「今、新しく生まれた邪熱が消えました。」
「ええ ! ? もう良くなったんですか? 」

「そうです。向き合えたんですよ。だから片付き始めた。テーブルの上が散らかっていても、そっぽ向いてちゃ片付きませんね。向き合えば、手前にあるものから片付き始めます。ぜんぶ片付かなくていいんです。少しでも片付き始めたら、それが進歩です。進歩があれば生命はイキイキするんです。それだけで “新しく生まれた邪熱” は消えちゃうんですね。」

「でも、大っきらいなんですよ?」

「他人に敵意を持つのはね、どんな理由があったとしても良くないことです。だってそうでしょ? 世界中の人がみな敵意を持ち合ったら、世の中は滅茶苦茶になってしまいますね。みんなが好意を寄せ合えば、世界平和はすぐに実現します。」

「なるほど、そうですね…。たしかに、痛くなったのは揉めた後からです…。でも、どうしても好きになれないんです…。」

「好きとか嫌いとかは感情ですね。これはコントロールしようとない。変えなくていいです。でも、悪意を持つのはいけないことだ…っていう知識なら持てるでしょ? これは今すぐにでも変えられる。知るだけで十分なんですよ。それで一歩前進、それが進歩です。」

怒りがどうしても抑えられません
怒ることは体に悪い。その通りです。おこりんぼさんは病気が治りません。 体を傷つける。肝を傷つける。 だから怒るのはよくない。どのくらいよくないかというと、人を殴るくらいよくない…

「そうなんですか…。でも、またイライラしたら邪熱を生んじゃうんじゃないですか?」

「知識っていうのはね、太陽なんですよ。 “智” っていう字があるでしょ? “知” の下に “日” っていう字がある。 “日” とは、太陽のことなんです。太陽とは理想です。つまり “智” とは “正しい理想を知ること” なんですね。その理想を、植物は良く知っている。太陽を求めて、その理想に向かって、植物は上に上に成長していくんです。でも、太陽には届かない。届かなくていい。でも成長を止めない。1mmでいいから、届こう届こうとする。そこで得られているもの、それが植物の持つイキイキさですね。成長を止めると枯れちゃう。我々も一緒なんです。いま〇〇さんは正しい知識 (理想) 、つまり “智” を持ったんですね。それに向かって成長する。届かなくていい。理想どおりに行かなくていい。でも進歩していく。そこで、植物みたいなイキイキさが得られるんです。それが健康なんですよ。」

太陽にはとどかない、でも成長をやめない
成長とは何か。これを自然から学ぶ。植物の成長である。

百会に一本鍼。5分後抜鍼し治療を終える。

場所的に、痛みの原因は胃経と関連して痰湿が原因かと思われたが、痰湿は安全域、邪熱が原因と出た。だが、邪熱自体は胃経に存在している。これをどう見るか。胃とは土である。そもそもの邪熱の出どころは確かに肝である。その肝から発した熱が、胃土 (陽明) に達するのである。これは太陽の熱が最終的に地面を熱する構図と同じである。この場合は、出どころと到達点の両方を治療する必要がある。もし、このまま放置すると腎水を乾かしてしまう。だから胃経 (裏内庭) と腎経 (湧泉) の中点が痛くなったのだろう。

帰り際、すれ違う。

「先生! 痛くないんです! 来る時は足を浮かして歩いてきたのに、 (足をトントンさせて) ほら、ぜんぜん痛くない!」

「へえ、すごいねえ。ふつうはこういうオデキが腫れて炎症を起こしたら、こんなすぐには取れないんですよ。何が起こるか、全然わからないですねー。まだまだですわ。」

原因を解決すれば、結果はついてくる。炎症の取り方の一つとして、こういう方法もあるということを、医療者全員が知っておくべきだろう。もっとも体に優しい方法であり、もっとも効く方法を求めるのが、科学者として取るべき姿勢ではないだろうか。医師は、人体を専門とする科学者の最高峰たるべきものである。

「また痛くならないかなあ。」

「ははは、それが修行ですよ。太陽めざして1mmの成長、この調子で続けていきましょう。体が、仲良くするのが理想だよって、それが正しいんだよって、教えてくれてるんですよ。」

以前は、夫婦仲の話になると、納得するのにもっと時間がかかっていた。
だんだん、すんなり飲み込めるようになってきている。
自分自身を、客観視する力がドンドン付いてきている。

ぼくもそう。成長はこれからである。

 

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