黒苔とは

黒苔とは、極熱の証、もしくは極寒の証である。重病であるとされる。

凡舌苔見黒色.病必不軽.《舌鑑弁正》
【訳】舌苔に黒色が見られるものは、病は必ず重いものである。

黒苔は、黄苔から進行したものと、白苔から進行したものとに別けられる。黒苔の際の苔をよく観察し、黄色いものは極熱、白いものは極寒と判別することができる。

名医・藤本蓮風先生は、 “舌診で黒苔を呈すると、そのときはどうもなくても数年以内 (3年以内とも) に必ず何か重い病気にかかる” と説いておられる。

僕の経験でも、最期まで看取った黒苔の症例 (実母の症例) がある。二度黒苔を起こしたのだが、一度目の黒苔は58歳でうつになったとき、二度目の黒苔は68歳で大便が全く出なくなりガン (腹膜播種および大腸がん) が判明した2ヶ月後のことだった。検診は毎年受けていたが、ガンは見つからなかった。

一度目の黒苔はスムーズに取れたが、二度目はどうしても取れず、黒苔が出てから2ヶ月後に死亡した。

一度目の黒苔から3年を経過するころ、体重が20kg台になるほどひどかったうつも完治した。非常に元気になり、毎日一時間以上のウォーキングを友人とともに日課とし、老人会の役員もつとめていた。大腸の腫瘤で大便が出なくなるまでは、まったく病気をしなかった。つまり、一度目の黒苔から10年後に事が起こったのである。

はじめて黒苔を起こした人は、特に症状がなくとも、その後の養生が非常に大切となると考えられる。二度目の黒苔を生じるのは非常に望ましくない。

症例1

83歳。男性。

鍼灸のみの治療で、一ヶ月余りで黒苔が消失した。

一回の治療における取穴は一箇所のみ (一本鍼) であり、刺鍼後の置鍼は2分〜6分である。打鍼を行う場合は刺鍼・置鍼は行っていない。

使用した穴処は百会 (13回) 、神闕 (打鍼:2回) 、外関 (1回) である。

4月30日
5月2日
5月7日
5月9日
5月21日
5月23日.
6月11日

治療経過の中で、体が動きやすくなった。また、治療前は寝言でよく大声を出していたとのことで、よく眠れるようになって有り難いとおっしゃっていた。

治療経過の途中では、黒苔がやや広がる向きを見せることもあったが、そのたびに以下のように諭した。すると翌回の治療時には、黒苔が縮小するのが常であった。

「栄養のことばかり考えて食事をとったらあきませんよ。体をモノ扱いせず、人間扱いしてください。人間扱いしないでモノ扱いにしたら、奥さんも怒るでしょ? 体も人間扱いしないと良くなりません。詰め込むのはモノ扱いにしているからです。詰め込み式の教育は子供をモノ扱いにしてるんですね。栄養を肝臓が受け入れて命として合成できるならば、その分は “食べたくなる” という現象が起こります。食べたくもないのに詰め込むと、勉強したくないのに詰め込むのと同じことが起こります。詰め込むばかりだと、肝臓の許容量を超えて、あふれてしまいますね。それがこの黒い苔ですよ。」

もともと食品の小売のプロフェッショナルで、栄養については豊富な知識をお持ちである。以下のようなものを、定量・定時で取り込んでおられた。

◉野菜ジュース
◉オリーブオイル
◉チーズ
◉ゆで卵
◉ハム
◉リンゴ
◉バナナ
◉生キャベツ
◉生タマネギ
◉酵素
◉ビタミン剤

冒頭に黒苔は重篤であるということを述べたが、この東洋医学の見解に従えば、本症例も当然その範疇にはいる。しかし、当該患者の主訴は「黒い苔を取ってほしい」というものであった。娘さんが心配して連れてこられたのである。よって、とくに重篤と言える症状はなかった。

ただし、ここが怖いところでもある。ガン・脳梗塞は日本人の死因の上位を占めるが、共通するのは「無症状である」ということである。

顔にできたオデキなら誰でも気にするが、たとえば胃にできたオデキ (胃がん) には気付けない。「このごろ胃のオデキが気になるんだよねー」という人はいないのである。脳梗塞の主要原因は動脈硬化であるが、肌荒れのヒビは気になっても、「このごろなんか血管が荒れちゃってヒビ割れて嫌なんだー」という人もいない。

黒苔が消失すると本人の意志で治療を終了されたが、症状には現れないが体の内部では何かが進行していると考えられる。黒苔がその可能性を示唆するのである。

症例2

50代。女性。

喘息で来院され、黒苔の消失とともに喘息発作も消失した。

12月17日 (初診)
12月20日
1月17日

正月をはさんで一ヶ月で黒苔と喘息がともに消失した。

その後も黒苔・喘息ともに経過良好である。

初診から4年を経過した現在も、黒苔が再発しないように月に2回ほどの治療を継続している。一度だけ黄苔が茶色くなり黒苔を生じかけたことがあったが、このときは週に2回の治療を何度か行い、黒苔の再発を見ることはなかった。

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