胖嫩と老

舌診で、胖嫩 (はんどん) ・老 (ろう) という言葉がよく使われます。

八綱では、胖嫩は虚証、老は実証を示します。これを踏まえた上で、胖・嫩・老について一つずつ説明します。また、老嫩という表現についても説明します。

【胖】
胖とは、ゆったりして太っていること。
舌がぽってりと水風船のように大きくなった状態です。
水湿 痰飲 (=痰湿：循環ルートに乗れない余った体液) があることを示します。

【嫩】
嫩とは、野菜が若くて柔らかいこと。
舌がフニャフニャとひ弱な様子を示します。
正気に弱りがある、虚の状態です。

【胖嫩】
胖嫩とは、脾虚で水穀を運化できず、あるいは腎虚で津液を気化できず、水湿 痰飲が有る状態を示します。こうした虚があれば、おおくは水湿 痰飲を生みますので、胖と嫩とを一つにまとめて、胖嫩ということが多いです。

胖嫩は虚を示します。補法を考慮します。

太っていてフニャフニャしているので、多くは歯痕があります。歯痕とは舌の側面にあるガタガタした形状の部分です。

下の画像は同じ方のものです。左は改善前で、典型的な胖嫩です。右は改善後です。正気が補われて舌に締まり (求心力) が出てきていることが伺えます。水湿 痰飲が除かれてポッテリした感じがなくなっています。歯痕もましになっていますね。

【老】
嫩の対義語が「老」です。
老とは、野菜がひねて堅いこと。
老は実証を示します。瀉法を考慮します。
下の画像のように、しっかりとした力のある形をしています。

【老嫩】
老嫩は陰陽で、老は実証、嫩は虚証をしめします。
老嫩で虚実を診る。
老か嫩かを判断することは、舌診で虚実を区別する際の基本になります。

〇

胖は実 (痰湿) 、嫩は虚です。胖・嫩は陰陽です。
老は実、嫩は虚です。老嫩は陰陽です。

胖嫩は虚証を示すのに、胖は実、嫩は虚、とは変な感じがしますが、先にご説明したように、脾腎の弱り (虚) によって、結果として水湿 痰飲 (実) が生じていますね。このように虚が原因で実を呈するものを “因虚致実” といいます。この実 (水湿 痰飲) は、虚を補うことで取れていきます。