49歳。女性。2024年2月2日初診。
2022年9月20日に血尿が始まり、排尿のたびに毎回の血尿が認められる。
16ヶ月以上、トイレに行くたびに下画像の尿である。
そういう状態で当院を受診された。
朝一番の尿のみは透明な尿が出るという。
念の為に写真を撮ってもってくるよう頼んだ。写真 (上画像) で見ると、普段の血尿に比べて少し薄い目かもしれないが、シッカリとした血尿である。
「トイレの水で薄められると透明に見えたのかもしれません。改めてカップに取ってみて赤いので驚きました。」とのことである。問診が必ずしも正確な情報とは言えないことを示す適例である。薄まって透明に見えたということもあるだろうが、おそらくは1年以上血尿ばかり見ていたので、本来の尿の色を忘れて、少し薄いだけで “透明” と感じてしまったのだろう。
食べすぎた翌朝は、朝も昼並みの濃さの血尿となる。
〇
病院ではナットクラッカー症候群と診断された。
ナットクラッカー症候群とは、左腎静脈が、腹部大動脈とその枝分かれである上腸間膜動脈の「二股」に挟まれ、圧迫され鬱滞し、左腎臓に血が溜まって血尿として排泄される病態である。左腎静脈捕捉症候群とも言われる。
西洋医学的治療としては、
- 経過観察 >> 貧血がなければ様子を見、側副路 (バイパス) の発達を待つ。自然軽快する場合がある。
- 体重を増加させ脂肪を増やす >> 「二股」の部分に内臓脂肪がつくと腎静脈が保護され、自然軽快する場合がある。貧血がない場合の手段として考慮される。
- 貧血が激しければ、ステント手術を行い、出血を止める。
- 貧血が激しければ、左腎静脈移動手術や左腎臓除去手術などを行う。
>> https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/nutcracker_syndrome/ (画像が分かりやすい)
左腎静脈が圧迫されるのは、生まれつきが多い。ただしまれな原因として、左腎静脈の周辺組織に腫瘍ができ、ナットクラッカー現象を起こして出血するものがある。
毎回の血尿ではあるが、貧血の数値は出ていない。よって病院では、特に治療は行わず、経過観察となっている。
しかし、ぼくは重篤と見た。その根拠は短期邪熱スコアである。体を診察すると、危険域 (右神封:第4肋間) まで邪熱が強くなっているのである。早急に手を打たないと、入院に匹敵するような急激な悪化が、目前に迫っていると見た。
ここまでの経過も、それを裏付けるような体調不良が続いている。
2019 (45歳)
・カゼ・喘息・副鼻腔炎・頭痛・嘔吐などで毎月のように寝込む。
・内科・耳鼻科に通う。抗生剤・抗ヒスタミン剤。
2020 (46歳)
・症状継続。さらに外耳炎。通院を止める。
・倒れそう。
2021 (47歳)
・閉経。それ以前の月経で、すごい量の塊が出ていた。
・タンパク質・ビタミンなど栄養療法 (昨年11月〜) を試すが皮膚がカサカサになって止める。
2022 (48歳)
・7月、頭痛・嘔吐で1ヶ月間歩けない状態が続く。
・9月20日、突然の血尿。病院で検査の結果、ナットクラッカー症候群との診断を受ける。以降、排尿ごとの血尿が続く。
2023 (49歳)
・血尿が続いている。人間ドックで3・4・8月と検査するが、貧血なし。
・冷え・カゼ・副鼻腔炎・便秘ときどき下痢。
・食欲がない。
・フラフラする。力が入らない。つまずく。
西洋医学的所見では、血尿の原因はナットクラッカー症候群、しかも貧血は認められない。つまり、早急に解決すべき問題がない。しかし、この体調は…。
放置は危険、治療が必要だ。
初診…2月2日
そもそも、西洋医学がなんの治療もせず経過観察をしている状態である。
この血尿、治るのか? そもそも、そこからである。
まず、天突が反応しているため、表証がある。血尿の有無にかかわらず、表証は取る必要があるため、それに対する指導を行う。
切診 (切経) を行うと、隠白に実の反応がある。これでハッキリした。脾不統血がある。つまり脾の弱りがある。この出血は、陰陽 (生命) の矛盾によって起こっているものだ。治療の必要がある。
しかも、上記に示したように、短期邪熱スコアが危険域 (右神封第4肋間) である。これは入院してもおかしくないレベルであって、慎重に診ていく必要がある。ナットクラッカー症候群という病名では包括しきれない重篤な病態を見て取ったのである。
百会に2番鍼。1分間置鍼。
天突、隠白、神封の反応が消失するのを確認して、治療を終える。
2〜3診…2月3日・6日
血尿が続いている。
頭痛・嘔吐・疲労感などが続いている。
食欲がなく、嘔吐もあり、その日は全く食べなかった。
この間、予約していた人間ドックをこなす。道中、息切れがひどかった。
人間ドックの結果は、貧血なし。異常なし。
【2/3】
表証なし。
短期邪熱スコアは危険域から異常域 (左第2肋間) にまで改善。しかしまだ異常ではある。
出血の病態は、隠白の反応が消えて (脾不統血が消えて) 、代わりに血海に反応が出ている (営血蘊熱が出ている) 。
百会に2番鍼。1分間置鍼。
血海の反応が消失する (営血蘊熱が最大量除去される) のを確認して、治療を終える。
【2/6】
表証なし。
短期邪熱スコアは安全域となった。
だが短期痰湿スコアが異常域となる。食事のとり方を指導する。
血海に反応が出ている。
百会に金製古代鍼。かざすのみ。
血海の反応が消えるのを確認して治療を終える。
4〜7診…2月9日〜2月15日
血尿が続いている。
隠白に反応なし。血海に反応が出ている。出血という「部分」だけを見れば、虚証としての脾不統血は改善し、実証としての営血蘊熱に変化している。ただし、「全体」としてはまだ虚証である。
【2/9】
今日は体調がよい。
短期邪熱スコア・短期痰湿スコアともに安全域である。ここ数日で、新しい邪気を生んでいない。ただし、今までの古い蓄積 (長期邪気スコア) はレベル3あるので、これを少しずつ減らしていくことが大切となる。
血海に反応が出ている。
百会に2番鍼。1分間置鍼。
血海の反応が消えるのを確認して治療を終える。
【2/10】
昨日 (5診)よりも元気。
所見・治療とも同上。
ウォーキング5分間指導。
【2/12】
2/11の午前3時、「普通の色の尿でした」とのこと。 << かなり薄い血尿か?
便秘。
所見同上。
百会に3番鍼。5分間置鍼。
【2/15】
2/12コロコロ便が出た。2/13普通便が出た。
朝の食欲が出てきた。白米をお茶碗7分目ほど食べた。久しぶりに友人とランチができた。
所見同上。
百会に3番鍼。5分間置鍼。
右血海に銀製古代鍼で瀉法。かざすのみ。邪実を押し出せるだけの正気ができてきた。
ウォーキング10分間指導。
8診〜11診…2月19日〜3月1日
血尿が続いている。
この期間は、15診までだんだん体調が良くなってきた。その必然として、不摂生が目立った。
【2/19】
短期痰湿スコアが異常域。
血海に反応が出ている。
百会に3番鍼。5分間置鍼。
右血海に銀製古代鍼で瀉法。かざすのみ。
【2/24】
4日連続で外食ランチ、内1日は夕食も外食だった。ここ2日間、夜中に腹痛、トイレに行っても出ない。ただし痛みは止まった。体を動かすことによって、痰湿が柔らかくなるからである。寝不足を感じる。
短期邪熱スコアが危険域。
短期痰湿スコアが異常域。
血海に反応が出ている。
百会に3番鍼。3分間置鍼。
【2/26】
すごく冷えて、今朝4時に目が覚めた。そのときトイレに行くと「普通の色の尿でした」とのこと。 << かなり薄い血尿か?
血海に反応が出ている。
百会に3番鍼。5分間置鍼。
【3/1】
ここ一週間、便が出なかったりコロコロ便だったりする。
下巨虚に実の反応。もっと味わって食べるように指導すると、反応が消えた。
今日と昨日の朝一番の尿は、「普通の色の尿でした」とのこと。 << かなり薄い血尿か?
血海に反応が出ている。
百会に3番鍼。2分間置鍼。
右血海に3番鍼。即刺即抜。初めて血海に毫鍼で瀉法。
12〜20診…3月4日〜4月5日
血尿が続いている。血尿に塊が混じることもあった。
この期間は、上半身の痒さなどはありつつも、短期痰湿スコア・短期邪熱スコアともに安全域が続いた。便秘は徐々に改善し、消失した。性格的にも落ち着き・穏やかさが出てきている印象である。
体調が良いほど、「普通の色の尿でした」 がない。体調の悪い日に「普通の尿」となる傾向があるか。本来出るべき血が出ていないことが考えられる。
【3/4】百会に3番鍼、5分間置鍼。右血海に3番鍼、即刺即抜。ウォーキング15分に。
【3/8】百会に3番鍼、5分間置鍼。右血海に3番鍼、即刺即抜。
【3/11】百会に3番鍼、5分間置鍼。
【3/15】百会に3番鍼、5分間置鍼。右血海に銀製古代鍼で瀉法、かざすのみ。
【3/18】百会に3番鍼、5分間置鍼。右血海に3番鍼、即刺即抜。
【3/25】百会に3番鍼、5分間置鍼。ウォーキング20分に。
【3/30】百会に3番鍼、5分間置鍼。右血海に3番鍼、即刺即抜。
【4/1】百会に3番鍼、5分間置鍼。右血海に3番鍼、即刺即抜、強く響く。
【4/5】百会に3番鍼、5分間置鍼。右血海に3番鍼、即刺即抜。
21〜27診…4月8日〜4月29日
血尿が続いている。血の塊 (小豆よりもやや小さい) が混じることもある。
動くのもしんどかったが、そういうのがマシになってきている。
4月8日から、長期邪気スコアがレベル2に改善した。
4月8日から、今まで出ていた血海の実の反応が消失した。必然的に、右血海の瀉法は行わなくなった。営血蘊熱が改善したということである。いずれ出血も止まってくるだろうと見ていたが、ところが全然止まる気配がない。
血海の代わりに、臨泣に実の反応が出始めた。これは瘀血である。営血蘊熱が消え去り、代わりに出てきたのは瘀血の出血である。もしかして…と思い、膀胱付近に手をかざしてみると、やはりある。塊系 (腫瘍など) の反応である。直径6〜7cmほどの反応が出ている。
そうか、塊 (腫瘍) があるのだ。もしくは塊 (腫瘍) を作ろうとしているのだ。これを作らせないために出血が起こっている。いま、僕がなすべきことは、塊を作らせまいと出血させている体の仕事を最大限に手助けすることである。塊をドンドン砕いて、ドンドン出血させるのである。
塊を作ろうとしている状態であれば、まだ塊は存在せず、西洋医学の検査でも見つからない。
子宮の不正出血ではよく見られる現象だが、まさか血尿でも同じことが言えるとは驚いた。たしかに、《ここまでの経過》を見ていただくと分かるように、閉経を迎えて直後に血尿が始まっている。しかも、閉経直前はすごい量の塊が出ていたと言うではないか。それが閉経で止まってしまった。だから血尿が始まったと考えられはしないか。
【4/8】百会に3番鍼、5分間置鍼。右豊隆に3番鍼、即刺即抜。
【4/12】百会に5番鍼、5分間置鍼。右臨泣に5番鍼、即刺即抜。
【4/15】百会に5番鍼、5分間置鍼。右臨泣に銀製古代鍼で瀉法、かざすのみ。
【4/20】百会に5番鍼、5分間置鍼。右豊隆に銀製古代鍼で瀉法、かざすのみ。ウォーキング25分に。
【4/22】百会に5番鍼、5分間置鍼。右臨泣に5番鍼、即刺即抜。
【4/25】百会に5番鍼、5分間置鍼。右上巨虚に銀製古代鍼で瀉法、かざすのみ。
【4/28】百会に5番鍼、5分間置鍼。右前臨泣に5番鍼、即刺即抜。
28〜32診…5月2日〜5月16日
5月2日、突然、血尿が止まった。
それ以来、排尿ごとに出ていた血尿は、6月20日現在まで一度もない。
2月2日の初診から、ちょうど3ヶ月が経過した5月2日のことだった。
1年7ヶ月もの間、排尿のたびに見られた血尿が、この日を境にピタリと止まったのである。まるで蛇口を締めたかのように。
塊系 (腫瘍など) の反応は、直径3cmほどに縮小している。
不定愁訴も訴えなくなり、便通が少し気になるようだがそれも改善してきている。
【5/2】百会に5番鍼、5分間置鍼。右臨泣に5番鍼、即刺即抜。
【5/7】百会に5番鍼、5分間置鍼。
【5/9】百会に5番鍼、5分間置鍼。
【5/13】百会に5番鍼、5分間置鍼。
【5/16】百会に5番鍼、5分間置鍼。
考察
寒と熱が交錯する
初診時の血尿の画像と、改善後の画像を見比べてみよう。
当該患者が常に言うのは、朝一番の血尿は薄く、それ以外の排尿時は濃い血尿が出るということである。これは、血尿消失後も同様で、朝一番の尿は薄黄色、それ以外の排尿時は濃黄色である。
実は、小さい頃から朝一番の尿は薄いのだという。これは変である。多くの方がご自分の尿を観察してご存知のように、朝一番の尿は濃いのである。濃縮尿と言う。朝の濃縮尿は生理的なもの (正常) である。だから当該患者は、一般的に起床時の尿は濃い色をしているということを知らなかった。
朝イチの尿が薄いというのは、どういうことだろう。中医学的に説明を試みる。
そもそも尿の色は陽気がどの程度あるかの指標となる。生命の下部 (下焦) にある陽気のことを腎気というが、この腎気が下から生命を温めるのである。
そのついでに、尿も温める。温められた尿は、煮詰められて濃くなっていく。正常尿は、透明でもなく黄色過ぎもしない、ちょうどよい薄黄色である。もし膀胱に邪熱があれば、煮詰めすぎて黄色が濃くなりすぎる。これを小便短赤という。
尿を温める力が少ないと、尿が冷えて濃くならない。よって透明色となる。これを小便清長という。
つまり、本症例で朝イチだけが尿が薄いということは、陽気が少ない (冷えがある) ということなのだ。当該患者は冷え症を気にしていたが、陽気が足りないのである。
ただし、5/18にいただいた画像を見ても分かるように、朝イチ以外の尿は濃すぎる。まだ全体に邪熱があることを示す。その邪熱の一部が膀胱にもあるので、黄色すぎる色を呈しているのである。
つまり、本症例では邪熱があるということなのだ。
つまりつまり、本症例は冷え (寒証) もあるし邪熱 (熱証) もあるということになる。こういう病態を寒熱錯雑といい、非常に治すのが難しいとされる。寒熱錯雑は陽気 (正気) が足りず、しかし邪熱 (邪気) は旺盛で、虚実錯雑である。
寒証の部分は、脾不統血としての血尿として現れる。
熱証の部分は、営血蘊熱としての血尿として現れる。
しかも本症例では瘀血もある。瘀血阻絡である。
脾不統血 (虚証) ・営血蘊熱 (実証) ・瘀血阻絡 (実証) と、3つの証が入り交じる症例である。複雑な病態である。
血尿が止まるべきではない時期があった
上記に3箇所、
“「普通の色の尿でした」とのこと。 << かなり薄い血尿か? ”
という記載をした。 2/12・2/26・3/1である。 当該患者からそう聞いた時、正直ぼくは喜んだ。しかし、あとになって考察すると、これはよくない現象であったと思われる。
2/12・2/26・3/1に共通するのは、体調が悪いということである。本症のように陰陽ともに問題が出ているものは、体調が悪いときの明け方は寒証が出る。冷えがあるために、出たほうがいい血尿が出なかった。そして、冷えがマシになると、出るべき血尿か出た。
そう見るべきであろう。
ちなみに、当該患者は血尿の色が薄いと血尿ではないと感じてしまうのは、冒頭に記したとおりである。2/12・2/26・3/1の、当該患者いわく “正常尿” は画像もなく、 “かなり薄い血尿” であった可能性が極めて高いことを付記しておく。
病因病理を勉強することの大切さ
そもそも、出血というのは簡単にいく病気ではない。安易に請け負っていいものではない。
今回の症例でも分かるように、出血とはかなり器質的 (=物質的) なものである。東洋医学は機能的 (=気) なものを得意とするが、出血のような物質的なものを動かすのは、相当な力量が必要である。
また出血は、その背後にしばしば大きな病変があることを考えれば、安易に治療できるものではないことは、当然のことである。
初めて出血の患者さんを治療したのは今から10年近く前だっただろうか。大量下血して立ち上がれないくらいの状態で、γ-GTP100越えで肝門脈うっ血による痔静脈瘤が考えられたが、難なく治すことができた。 >> 出血 (大量下血) の症例
このように最初からうまく行った理由は、出血の患者さんが “いつか来る” という前提で勉強を進めていたからである。来てから勉強を始めたのでは遅い。もちろん、勉強していたからといって治せるとは限らないが、勉強すらしていなければ確実に治せないということだけは言える。
本症例は、初診で不統血を見抜いた。
ベースとして生命力の弱さがあり、それは今もある。
それが改善して以降は、深く沈んだ邪熱 (営血蘊熱) を取り続けた。血海である。良くない出血 (矛盾する出血) をまずは止めなければならない。
その血海が改善し、反応しなくなった。この調子なら間もなく出血は止まると思われたが、そうはいかなかった。
つまり「良くない出血」は止まったのだ。
そして、それに引き続いて、「良い出血」 (出血させた方がよい出血) に変化した。
塊系 (瘀血) があったのだ。
じつに初診から3ヶ月間、ぜんぜん出血は止まらなかったのである。
しかし、そのたびに病因病理を説明した。いま、こういう理由で血尿が出ているんだと。
閉経前に塊が多量に出ており、閉経後それと入れ替わるように血尿が出ているのは、塊ができそうになっているのを食い止める意味でもあった。
信じてついてきてくれた。
いま現在、膀胱付近の塊の反応は、小さいがまだある。臨泣にも反応が出ている。百会に鍼をすると、臨泣の反応も消えることが常である。
本来のデトックスのルートは肝臓ルート (血管→肝臓→胆管→十二指腸→小腸→大腸→肛門) である。塊は砕かれ、肝臓ルートを通ってウンチとして出ていくのである。しかし、肝臓ルートが忙しすぎて渋滞すると、膀胱さんが「肝臓さんは忙しいだろうから、こっちで処理しておきますね」とばかりに、血尿として排泄していたのである。
今はその必要がなくなった。処理する危険物も少なくなったし、肝臓そのものが大きく働き出した。
瘀血は、肝臓が排泄しているのだろう。
ナットクラッカー症候群ではない?
ナットクラッカー症候群が、保存療法 (手術以外の方法) で、こんなにいきなりビタっと止まることはありえない。ビタっと止まるとしたら、手術で左腎臓を摘出するとかステントを入れるとかしかありえない。
ぼくは、最初から “ナットクラッカー症候群” を無視した。でなければ、治療を引き受けるなどあまりにも安易である。ナットクラッカー症候群は、手術で血管を正常化する以外には決定打に乏しい疾患なのである。
決め手は、体に出た反応である。隠白・血海、そして臨泣。これらは体が「悪い」から出る。その反応を消せば体が「良く」なる。
その信念が、3ヶ月もの治療を貫かせた。
病名という “レッテル” に惑わされることなく、それを振り払いつつ治癒に導いた。
臨泣の反応から、これは塊を作ろうとする水際で塊を崩していることによる出血である…と診断した。そして、その診立て通りに治療を進めた。どんどん崩し、崩しきって出血が止まった。1年と7ヶ月の間、排尿のたびに毎回出ていた血尿が、まるで蛇口を締めたように止まった。
その現象を、そう診断した。
「証」に基づく診断…という信念である。
この信念を徹底すれば、西洋医学の診断をも上回るという現実の例示である。