アトピー性皮膚炎…東洋医学から見た4つの原因と治療法

アトピー性皮膚炎では、東洋医学の機能的アプローチはどのように捉えているのでしょうか。

基礎理論が自動車学校ならば、臨床は路上です。

以上をご参考に。

その前に…。
東洋医学は人体をどのように捉えているのでしょうか。
四診とは…望診・聞診・問診・切診 では、東洋医学オリジナルの診察法について説明しています。

原因は「熱」 と「風」

アトピー性皮膚炎の特徴である、真っ赤な皮膚の炎症。東洋医学ではこれを、「熱」と表現します。熱は熱でも、病的な熱なので、邪熱ともいいます。熱は、火をイメージすると分かりやすい。赤くて熱い。

東洋医学は、なぜ「たとえ」を多用するのでしょうか。詳しくはこちらをぞうぞ。
「東洋医学の『気』って何だろう」

もう一つの特徴である、痒さ。東洋医学ではこれを、「風」と表現します。風邪 (ふうじゃ) ともいいます。風に揺れる木の葉をイメージしてください。こういう刺激が、皮膚の内側の神経に直接作用する。だから痒くなる。そう考えます。

ニュースでご存知の方もおられるでしょうか、ヨシ焼きの映像を思い起こしてください。カラカラに乾いた葦に火をかける行事です。カルフォルニアでしばしば起こる山火事の映像でもいいです。その周辺に、ものすごい風が吹き荒れていることに気づきます。このように、火が起こると、風が立ち上ります。火によって上に立ち上る気流、逆に火の根元は空気を吸い込み、勢いよく降る気流も生まれます。乱高下する気流で、でたらめに風が吹き荒れ、それがますます火の勢いを煽ります。

火熱は風を生む。火も風も、自然現象ですね。実は、人体も自然です。だから人体にも自然現象と相似する現象がある。事実、この熱と風をなくすように治療すると、アトピーの赤さが消え、痒さを感じなくなります。おもしろいですね。これが東洋医学です。大自然と人は一体である。そういう哲学のもと、東洋医学は生まれました。そして、それが見事なまでに的中します。

邪熱が乾燥肌を生む

アトピーの治療は、邪熱を取り去ることが眼目となります。邪熱を取り去れば、風邪は自然と消え去ります。鎮火すれば、風は自ずと止むということです。邪熱を取り去るには、邪熱の逃げ道を作って、体外に追いやることが必要です。

邪熱を体外に排出するルートは二つあります。一つは皮膚から、汗とともに発散します。もう一つは大便から排泄するルートです。

邪熱が汗のルートを閉ざす

まず、汗のルートから。適度に体を動かして汗をかくと、スッキリしますね。そんなふうに、邪熱は皮膚から排泄されます。皮膚が健全でないと、このルートが働きません。アトピーでは乾燥肌が良く見られます。皮膚の表面が邪熱と風邪で乾かされてしまっています。

その結果、皮膚表面まで気 (循環機能) と血 (潤い) が到達することができません。気血がなければ、邪熱を外に出すことはできません。邪熱は体内にこもり、風邪を生み、風邪は皮膚表面まで舞い上がり、痒さが起こる。風に煽られ火がますます強勢になるかのように、かけばかくほどかゆみが増す。皮膚はただれ、汗のルートは閉ざされ、邪熱の逃げ場がなくなる…。

邪熱が大便のルートを閉ざす

もう一つ、大便のルート。食べ過ぎた後の大便は臭いがきついですね。キツイ臭いは邪熱がある証拠で、邪熱が大便とともに排出される姿です。悪いものが排泄されているので良いのですが、邪熱があること自体問題なので、有臭便が出ることは、やはり問題です。でも、邪熱があるのにそういう便が出ないのはもっと問題です。邪熱がちっとも体外に排泄されず、体内にこもるからです。邪熱は大便もろとも腸内の潤いを乾かし、大便は固くなり便秘となる…。

結局、表面の乾き

アトピーの患者さんに多いのは、汗が出にくい方、便秘がちの方です。皮膚は炎症があって汗のルートは働かない、二つ目のルートである通じもつかない、となると、邪熱の逃げ場がありません。

人体をバウムクーヘンのような筒形の物体と見たとき、口から肛門に至る穴はバウムクーヘンの穴、外側の生地は皮膚と見ることができます。バウムクーヘンの深部に熱がこもっているので、穴の内側も外側も両方とも、生地の表面が、水分が飛んでパサパサになってしまう。そういう状態をイメージすると分かりやすいと思います。

ストレスと睡眠不足

汗と大便のルートが機能しなくなる原因は、ストレスです。ストレスは気 (機能) の滞りを生みます。これを気滞と言います。この気滞が陳旧化し、深く深く、取れにくい状態になると、汗・大便ルートの気滞 (機能の滞り) を引き起こします。また気滞は緊張でもあり、緊張は熱を生みます。こうして生まれた邪熱による乾きにより、ルートはますます滞るのです。

加えて、忘れてはならないのは睡眠不足です。痒くて眠れない。睡眠は邪熱を冷ますために非常に重要な要素です。睡眠=静止=陰。陰は水です。火を早く消し止めるには、大量の水が必要です。邪熱という陽の亢進を食い止めるには、陽と対極にある陰がシッカリしていなくてはなりません。しかし、邪熱がこもり、風邪まで巻き起こる激しい陽の亢進は、皮膚を乾かし、大便を乾かし、睡眠という陰まで焼き尽くす勢いなのです。

痒さの原因である風邪。風邪の原因となる邪熱。その邪熱を取り除くことを主眼にしながら、発汗障害・便秘・不眠を同時進行で治療していく。アトピーの治療の要諦です。

≫「便秘…東洋医学から見た6つの原因と治療法」をご参考に。
≫「不眠…東洋医学から見た5つの原因と治療法」をご参考に。

原因と治療法

以上をふまえた上で、アトピーの原因を一つ一つに分類し、検討していきます。

1.邪熱…ストレス型アトピー

邪熱の主な原因は、気滞です。

気滞とは、気の滞りのことです。気とは機能です。気は陽なので、動き回る性質があります。ここでは、グルグルめぐらせる機能が滞る…と考えてください。気滞の原因で一番多いのは、ストレス。

気滞が強くなると邪熱に変化します。気滞=緊張。緊張が長く続くと熱を生む。これは自然法則です。空気も圧縮すると熱くなります。地球の深部は引力で高圧・高温です。気は陽なので、熱化しやすいとも言えます。気滞の原因はストレスでしたね。これが邪熱を生むわけです。

ストレスが原因の邪熱は、時に痒さを強く感じたり、時に何も感じなかったりします。ストレスで悪化します。

また、痰湿 (2.痰湿 を参照) も邪熱のもとになります。痰湿があれば、流通が悪くなるので、結果的に気滞を生じます。その気滞が邪熱に変化し、痰湿と結びつきます。この状態を湿熱と言います。湿熱は邪熱の一形態です。痰湿は食べ過ぎが原因でしたね。これが邪熱を生むわけです。

つまり、邪熱の原因の元は、ストレスや食べ過ぎということです。

こうした邪熱が炎症の原因となり、邪熱が風邪を生んで、風邪が痒さの原因となることは、前述の通りです。

浅い邪熱

邪熱のもとになる気滞の治療として、内関・後渓・百会・行間など。
強い邪熱には、督脈 (背骨に沿ったライン) 上のツボを用いて、邪熱を取り去る調整法 (瀉法) を行い、治療します。
漢方薬では、黄連解毒湯など。

深い邪熱

邪熱が長くとどまったり、激しかったりすると、深いところに邪熱が入り込み、上記の治療では適応しなくなります。この病態を「熱入営血」とよびます。
深い邪熱を取り去ります。三陰交・血海・公孫など。
漢方薬では犀角地黄湯など。

≫「邪熱とは」 (正気と邪気って何だろう) をご参考に。 

2. 痰湿…ジュクジュク型アトピー

痰湿とは水 (ここでいう水とは、栄養分を含んだ水分のことです) の滞りのこと。水はサラサラ流れているから水でいられますが、モタモタしだすと粘ったものに変化します。これを痰湿といいます。

モタモタする原因は、過剰な水が体内にあるから。つまり、食べ過ぎ・飲み過ぎ+運動不足。これらが痰湿を形成します。

痰湿は本来、汗や大便によって排出されますが、この排出ルートが機能しなくなると、皮下に蓄積し、ジュクジュク型のアトピーになります。水は下に降る性質があるので、このタイプのアトピーは下半身に出やすくなります。

食べ物は、糖分・油脂分に注意。これらは痰湿を生みます。

痰湿を取り去る調整法 (瀉法) を行い、治療します。多くは脾臓と関連のあるツボを用います。
脾兪・胃兪・豊隆など。
漢方薬では除湿胃苓散など。

痰湿の原因は気滞

食べ過ぎの原因は、多くはストレスによる緊張 (気滞) が関与します。たとえば、甘いものを食べることでホッとし、緊張は緩みます。だから食べないと落ち着かない。緊張がゆるむといっても、一時のことで、食べ続けざるを得ません。食べ過ぎは痰湿を生み、痰湿はさらなる気滞を生みます。気滞はストレスを感じやすい心理状態を作り出し、些細なことでストレスを感じる、また甘いものを食べる…。痰湿を取って症状が改善しても、痰湿を生む原因となる気滞をちゃんと取っておかなければなりません。

≫「痰湿とは」 (正気と邪気って何だろう) をご参考に。
≫「東洋医学の脾臓って何だろう」をご参考に。

3. 血虚…成人型アトピー

ストレスがひどく、気滞のレベルが強いと、気 (陽) と血 (陰) の平衡関係がくずれ、気を支えていた血が弱ります。これが血虚です。血虚は気滞を取れにくいものにし、ストレスを受けやすい体質となります。背景には血のソースである、消化・吸収・栄養作用…つまり「脾臓」の衰えがあります。

血が弱ると、風邪が発生しやすくなります。血は潤おす作用があり、血が足りないと乾燥します。砂漠気候は風が強いのが特徴であるように、乾燥すると風邪を生みやすくなります。

目の使いすぎ・夜ふかし・ストレス・運動不足・飲食の不摂生・消化器の弱りなど、複数面から体力を回復させる必要があります。特に暗くなってからの目の使いすぎが血虚の原因になっていることが非常に多いです。

皮膚は艶がなく、血色がよくありません。

アトピーが長引くと、血 (陰) という体力が弱り、痒さが慢性化します。
高齢者の皮膚の痒さは、ほとんどが血虚によるものです。

「血」という体力を補う調整法 (補法) を行い、治療します。肝臓・脾臓に関連のあるツボを用います。
肝兪・脾兪・太衝・三陰交・血海・公孫など。
漢方薬では、当帰飲子など。

≫「東洋医学の血って何だろう」をご参考に
≫「東洋医学の肝臓って何だろう」をご参考に。
≫「東洋医学の脾臓って何だろう」をご参考に。

4. 外邪…寒冷型アトピー

昨日まで暖かかったのに急に寒くなった…。寒い中、屋外で仕事をした…。こういう「急激な気温や温度の低下による外部環境の変化」を、外邪と言います。

現代社会は冷蔵庫の普及で、本来ありえない冷たさの飲食物を摂取することが増えました。このため、口腔から胃にかけての「急激な温度低下」も外邪に含めて考えてもいいと思います。人体をバウムクーヘンにのような筒状のものと考えると、口〜肛門までの管は「外部」に相当します。

>>生冷寒凉… 冷たい飲食物の摂り過ぎ

慢性的なアトピーの人は、慢性的に外邪に侵されている場合が極めて多いです。この場合、まず外邪の影響を受けなくすることが先決で、この目標が果たされると痒さは半減すると言っていい。もしくはそれだけで治ってしまう場合もあります。

もともと取れにくいストレスがある人は、そこから邪熱が生じやすく、その邪熱は大便もしくは皮膚から発散しようとします。そういう状態で、外邪を受けるとします。外邪の内訳は、風邪・寒邪です。外邪を感受すると、まず寒邪は皮膚表面をコーティングし、寒邪のすぐ奥に風邪が閉じ込められる状況 (魔法瓶状態) が起こります。風邪は軽い性質で皮膚表面に浮こうとし、またでたらめに動き回ろうとするので、知覚神経を刺激し、痒さが出ます。またその風邪を、発散したがる邪熱が刺激し、ますます痒さがひどくなります。

簡単に言うと、風寒で皮膚が冷やされ、中に邪熱が閉じ込められる。これは魔法瓶です。魔法瓶は中が熱湯で、表面は触ると冷たい。この状態は中の熱がいつまで経っても冷めません。もし普通の容器ならば、中も熱いし表面も熱い。この状態は中の熱がドンドン冷めていきます。魔法瓶状態にしないことが大切で、それだけで邪熱が取れてしまう場合もあります。

ちなみに、ここまで述べてきた風邪は、邪熱や血虚から生じた、「体内生まれ」の風邪 (内風) ですが、ここで述べる風邪は、気候の変動による風邪です。

外邪を受けやすい人は、そもそも血虚があり、内風が起こりやすい。その内風は、外の風邪とタッグを組んで、外邪を入りやすくします。ですから、血虚を治していくことがまず大切です。

また、カゼを引いている状態なので、冷たい飲食物を避けます。運動もよくありません。急に寒くなったり、雨に濡れたりすると悪化します。

外邪を取り去る治療をおこないます。
外関・合谷・後渓・身柱など。

漢方薬では桂麻各半湯など。

≫「外邪って何だろう」をご参考に。 

アトピー専門的考察

臓腑経絡は一体である。植物の根が主根→側根→根毛と枝分かれするように、臓腑経絡も、臓腑→経脈→絡脈・孫絡と枝分かれし、一体となって人体を支えている。臓腑から微細な孫絡に至るルート全体 (臓腑経絡) が、陰分と陽分を分ける境界である。このように、東洋医学では、物質的物差しで見ず、機能 (陰陽) 的物差しで見ることが重要である。孫絡のうち、皮膚付近に分布するものを浮絡というが、このような浅層の孫絡にも陽分と陰分が存在することが良く分かる。

このルート上の、どこで風邪が起こるかによって病態は変わる。臓腑そのもので起これば、脳梗塞などを起こすし、経絡で起これば神経麻痺を起こす。浮絡で起こったものがアトピーである。アトピーは、浮絡という臓腑経絡を境界として、陰分・陽分にまたがる邪熱を中心とした病態である。アトピーを考えるとき、衛気営血弁証で分析することが必要になるが、陽分は衛分・気分、陰分は営分・血分となる。その境界となるのが浮絡である。

どこで風邪が起ころうと、共通点は、神経に差し障りをきたす疾患であるということである。アトピーになる人は、もともと、皮膚に何らかのウィークポイントがあるので、戦場がそこになるのだろう。アトピーは浅い部分での風邪なので、それが原因で死ぬことはまずない。

開闔枢でいうと、熱を体外に排出したくても、太陽による開 (発汗) ができず、陽明による闔 (排便) もできない。枢 (境界) である少陽に熱があるから。そうすると、皮毛 (衛分) と肌肉 (気分) にこもるしかない。少陽相火が発動し、陰に迫り (乾くのでますます開闔ができない) 、風が起こる。風は上空に舞い上がるので、皮毛が風でますます乾く。皮毛 (太陽・衛分) は風に侵され、ますます開ができない。

少陽は本来、陰中の陽でなくてはならない。陰が弱り、陽中の陽となった状態を少陽相火という。

邪熱は、営血分に侵入することもある。これには三つのパターンを考えている。
①邪熱があまりにも強勢であるパターン。急性熱病に見られる。陰陽が消長する暇なく、陰分も邪熱に侵される。
②陰陽の場が少ないために、消長できず、互根の法則に入ったバターン。通常、実熱が長く続くと、陰陽が消長して、虚熱となる。ところが、互根に入ると、実から虚への転化ができず、陰分で邪実が存在するという例外が起こってくる。場が小さいため、些細な邪熱でも、相対的に強勢になる。
③肝気の条達異常があるパターン。誤った肝気 (狂った将軍) はあらざる方向に条達し、道なき道を行き、戻れなくなる。本来、邪熱が届くはずのない陰分に、誤った肝気が邪熱を導く。

アトピーと肝気の条達異常との関係はどうか。誤った条達 (みち) は、道なき道であり、途中で行き止まりになったり (疏泄不及) 、戻れなくなったりする (疏泄太過) 。些細なストレスで化火しやすく、そのストレスを飲食で中和させようとするのは明らかな条達異常である。邪熱から簡単に風邪が起こり、風邪はあらざる方向 (皮膚) に邪熱を導く。あらざる方向とは、発汗できない行き止まりの皮膚である。この辺りは免疫の暴走を彷彿とさせる。

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