血の充実… 平和と家庭とカラダとココロ

30代。男性。

もともとあまり太くない。それがコロナにかかって、食欲がなくなり、3kgも痩せた。療養期間を終えて、当院で治療してから体重は戻りつつあるが、まだ「病み上がり」感がある。舌を診ると血虚が伺えるのだ。

痩せるのは陰 (血) が消耗したからである。

血虚は、一見大丈夫そうに見えても不安定さがある。車で言えば血はガソリンだ。ガソリンが少なくなっても車は普通に走るが、いつどうなるか分からない不安定さがある。

血虚証 をご参考に。

メンタルが不安定になれば「気にしすぎ」が起こる。それがフィジカルに現れると、
・光がまぶしい。
・大きな音が気になる。
・嫌いな味に敏感になる。
・嫌いな臭いに敏感になる。

その他、あらゆる敏感さは血虚が関係する。不安定さは、何かにつけての「敏感さ」につながるのだ。

その類にもれず、ノドのわずかな違和感や、朝の寒さで冷えたのではないかなど気にしている。もともと気にしすぎるきらいがある患者さんである。気にしすぎは脳で血を使いすぎるため、血虚をさらに加速させる。体を潤しているのは血である。血虚は咽喉の乾きや痛みにもつながる。

悪循環に陥らないようにしなければならない。

右血海に虚の反応がある。これは血虚と断定していい証候だ。まずはこの反応を消そう。鍼を打つ前に話をする。

「食欲はもう前に戻ってるので、血はドンドン作られてます。つまり足し算はできてる。でも、なんだかんだ病み上がりだから、まだ足りないんですね。これから血をもっと強くしたいんだけど、足し算はこれで良いとして、引き算をなくせば効率が良くなりますね。もっと効率よく血を強くするために、一つ知識として持っておいてほしいことがあるんですけど、たとえば〇〇さんは、昨日も8時半に寝たとか、今できることをやっますやん? これって実践ですね。今できることっていうのは、自分でコントロールできることです。ここに我々はトコトン神経質にならないといけない。逆に自分にはコントロールできないこともある。たとえばこのノドの違和感とかね。これには神経質にならず、むしろ鈍感がいい。コントロールできること、コントロールできないこと、これをキチッと分けること。僕もできないから人に偉そうに言えないけど、 “これが大事なことだ” という “知識” だけはシッカリしてます。できるできないよりも、知識を持っておくことが大切で、それだけである程度できてくると思います。」

信は上書きできる をご参考に。

こう説明して、血海を診る。虚の反応が消えている。やはり、気にしすぎになっているのが原因である。僕の話を聞いた直後に血海の反応が消えたことが、その証拠となる。そう、こんなに早く寝ているのに血虚が出るなどおかしいのだ。

「なるほど、やることやってりゃそれでいいってことですね。」

「そうそう、こういうのを昔の言葉で “人事を尽くして天命を待つ” っていうんです。今風に言えば “ダメ元” ですね。ダメで元々、でもとにかくやれることは全部やる。これって気が楽なんですよ。」

unicef より引用

「いま先生の話を聞いてちょっと思ったんですけど、アメリカのペロシ議員が台湾を訪問したってニュースあったでしょ。そしたら中国がすごく怒って、日本もアメリカに加担するなら戦争に巻き込まれかねないなって。こういうのって、先生はどう思ってはりますか?」

「なるほど。そうですね。ロシアもあんなことやってるんで、そういう問題にも向き合わないとだめですね。まず、日本には憲法9条がありますね。戦争をしない、憲法9条を守らなければならないという人と、これに対して、改正して軍事力を使いやすくすることが日本の平和を守ることだと言う人とがいますね。ぼくはどちらも正しいと思う。とにかく平和が最優先ですね。戦争はやらないに越したことはない。ただし憲法9条を守り抜くには覚悟がいります。どういう覚悟かと言うと、敵に攻め込まれてもなされるがままにまかせる。この身はどうなろうとも平和のためなら自分が犠牲になってもかまわない。その覚悟です。自分が助かりたいから平和を唱えるというのは利己です。利己は争いを生む。平和のためなら自分は犠牲になってもいいというのは利他です。利他は平和を生むものですね。」

「うーん、なるほど。」

「憲法を守ろうと主張している人に、この覚悟があるかですね。その覚悟がないならば、改正しかないでしょう。中途半端ではいけない。平和主義とは、他の国はどうなろうが自分さえ助かればいいというものではなく、この自分が犠牲になれば世界が平和になるならばいくらでも犠牲になりますよ…っていうものだと思うんです。」

自分さえよかったらいい、自分だけが正しい。これらの思考から争いは生まれる。

「でもね。こんな偉そうなことを言ってても、いざ実際に戦争になったとしたら、僕はきっとうろたえて大声で泣きわめきますよ? でもね。その日が来るまでは、それはそれでいいと思うんです。」

「はい、はい。」

「っていうか、こんなちっちゃい人間が、こんなちっちゃいところで、こんなおっきなことを言ってても仕方ないですね。そんなことよりも、僕らにもできることがある。それは何かって言うと、僕らにとっての平和って、まずは僕らの家族が仲良くすることですやん?」

「そうですね。」

「自分の家族みたいなちっちゃい組織を平和にできなくては、国レベルの平和主義を言ってても仕方ないですね。逆に、そんなちっちゃい組織でもそれを平和にできるなら、もう少し大きい組織も平和にできるかもしれない。」

「みんな一人一人が平和になったら、世界中が平和になるかもしれないですね。」

「そうなんですよ! 平和とか戦争とかいっても、結局はプーチンとかゼレンスキーとかいう人の、人対人ですわ。自分対他人。そして、僕らにとっての「他人代表」ってね、ヨメ (関西では妻のことをヨメといいます) なんですよ。他人である “ヨメ” といかに付き合っていくか。時にはこっちが “犠牲” になって、一歩を譲って築いていかなあかん平和ってあると思いませんか? そんな些細な “ヨメ” ごときの犠牲になれもしないでは、世界平和など語れないし、戦争を悪いことだと言う資格さえないと思うんですよ。夫婦ゲンカはちっちゃい戦争ですからね。まず、ヨメに感謝せんとな。」

ありがとうを口癖に。寝言でいうくらい。

他人同士を結び付ける絆は、ここから始まる。

「なるほど。さっき先生がおっしゃってた “自分にコントロールできることをやる” っていうのはそのことなんですね。中国が攻めてくるかとか心配しても、これは “自分にはコントロールできないこと” ですもんね。コントロールできないことを心配するよりも先ず、自分のコントロールできるヨメと仲良くすることに集中すればいいんですね。こんな僕にも、できることはあると。ああ、なんかスッキリしました! ありがとうございます!」

百会に一本鍼。

平脈を認め、気色が浮くのを確認して治療を終える。

帰り際、「先生、ほんまになんかスッキリしました! いい話聞かして頂いて、ありがとうございました! やれることをやってみます!」

こんなに喜んでいただけるとは…。こちらこそありがとう。。

まさか治療でこんな話をするとは思ってもみなかったが、意外にこの世界情勢は、深層心理で不安に思っている方が多いかもしれない。コロナも流行りだした頃はそうだった。その不安 (考えすぎ) で血虚を悪化させる人がチラホラいた。気をつけて診ていこう。

当該患者は、次回の来院時には血虚の反応は認められなかった。舌もシッカリした色が乗っていたし、背中の脊柱起立筋もシッカリしていた。実は趣味でスポーツ (リーグ戦もある本格的なもの) をやっておられる。コロナ後は体力が回復せず控えに回ったりしておられたが、この背中の張りがあれば普段どおりのプレーができるだろう。

舌にも筋肉にも、そして「こころ」にも、血が充実したのである。

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