遺尿 (おねしょ・尿もれ) …東洋医学から見た3つの原因と治療法

遺尿とは「尿がもれる」ことです。

小児 (小学4年生) の夜尿症を中心に解説します。大人の尿失禁も重ねて読み進めて下さい。

「遺」とは「もれる」です。日本語ではその意味は見当たりませんが、中国語ではその意味があります。よって、子供のおねしょだけを指す言葉ではありません。素問に「遺溺」金匱要略に「遺尿」とあるように、産後や高齢者などにみられる「大人の尿失禁」も、遺尿の概念に入ります。

膀胱不利爲癃.不約爲遺溺膀胱不利爲癃.不約爲遺溺.《素問・宣明五氣23》
肺痿吐涎沫而不欬者.其人不渇.必遺尿.《金匱要略・肺痿肺癰欬嗽上氣病脉證治第七》

子供の場合、5歳以降で月1回以上のおねしょが3カ月以上続くものを夜尿症といいます。3歳までは膀胱の機能が未発達なので病気ではありません。

中医学では遺尿をどのように分類するのでしょうか。

1.腎気不固

腎は封蔵をつかさどります。封蔵とは求心力のことです。求心力が弱いと、遠心力が勝って遺尿となります。

【原因】
禀賦不足… 早産・双子・胎怯 (低体重児) などで先天の元気を十分に得られていないもの。

【症状】
・睡眠中の遺尿
尿色透明、量多
・目覚めてから気づく
・疲れて力に乏しい
・顔色が悪く手足がつめたい
・足腰に力がない
・知能がやや足りない

未熟児として出生した小児の夜尿症、大人では高齢者の尿失禁が代表です。いずれも生命力が弱いことが特徴です。体液を引き止めておくことができず、むなしく漏れ出してしまうのです。

2.脾肺気虚

脾とは土です。土が弱ると保水できず、水が漏れてしまいます。植木鉢にはいった土をイメージします。砂のような痩せた土ならば、水はダダ漏れになってしまいますね。蓄えておくことができません。これを脾不制水と言います。
ここには、脾の陽気が足りず、体液を上に気化できない、結果として体液が下に降下してしまうという要素も含みます。

肺とは、水道の蛇口のように通過する水量を調節する機能です。宣発 (陽) と粛降 (陰) とがシーソーのようにバランスを取り合い、水を上に持ち上げておくか下に降ろすかを決定します。
肺気が弱るとこの調整 (通調) が正常に機能しなくなり、たとえば上に持ち上げる機能 (宣発) が足りなくて下に降ろす機能 (粛降) がまさると小便がたくさん出ます。ちなみにこれが逆になると小便が出なくなります。

また脾虚によって、心神 (心気) を養うことができなくなったり、運化しきれず痰湿が生じて雲のように心神を覆ったりすると、心神 (意識) が混濁します。すると、病的に睡眠が深くなって尿意で覚醒できなくなります。つまり、気虚によって気を失うかのように熟睡してしまったり、痰湿によって “おしっこをフトンでしてはいけない” という頭脳の明晰さが曇らされたりするのです。「眠りがすごく深いんです」と言う言葉は、臨床的によく聞かれます。

【原因】
虚弱体質… しばしばカゼを引いたり大病をしたりして脾肺がともに虚す。

【症状】
・睡眠中の遺尿
・呼吸や語気が弱く、寡黙
・疲れて力に乏しい
・顔色に色彩・精彩がない
・自汗が常にある
・食欲不振
・大便がゆるい

大人の尿失禁で、たとえば咳やくしゃみをした時に漏れる。寒いと漏れる。水を見ただけで催す。便器に座るまで持ちこたえられない。これらは寒さと関係の深い「肺」と、持ちこたえる力と関係の深い「脾」、この2つが鍵になります。

3.肝経湿熱

肝経湿熱とは、湿熱が肝を犯したものです。肝経湿熱は肝胆湿熱とほぼ同義で、遠位の肝経を病位として意識するなら肝経湿熱といい、近位の臓腑を病位として意識するなら肝胆湿熱といいます。湿熱はほとんどが脾の運化失調によって起こりますので、肝経湿熱は肝脾同病です。ストレスがあるとつい甘いものや濃い味のものが食べたくなりますね。肝脾はともに病みやすいのです。

湿熱が下注して帯下病・陰部痛痒。また湿熱が燻蒸して口苦・心煩。また湿熱が津液を煮詰めると便秘・尿黄となります。

肝は疏泄をつかさどります。肝が病んで疏泄が失調すると、疏泄が行き過ぎたり (疏泄太過) 、疏泄ができなくなったり (疏泄不及) します。

疏泄が行き過ぎると小便が止まりません。
疏泄ができなくなると気滞を起こし、気滞が熱化して邪熱となります。これが帯下病・尿黄などの前出の諸症状です。

この2つを交互に繰り返すことにより、小便が出すぎる症状と、尿が黄色くなるという症状が混在する病態を形成します。

【原因】
ストレスと、それによる過食。

【症状】
・睡眠中の遺尿
・尿が黄色く量が少ない
・尿の臭いがきつい
・気が短くイライラしやすい
・寝言や歯ぎしり

大人の尿失禁では、すぐに尿意を感じる (すぐに滞る:疏泄不及) と、すぐに失禁してしまう (がまんできない:疏泄太過) という症状が見られます。疏泄不及と疏泄太過が混在しており、肝の病証 (疏泄異常) として捉える場合があります。

考察

ここまで、教科書的な記載を行いました。

しかし、臨床となると上記の症状どおりにうまくは出てくれません。実際は、もっと複雑です。上記3つが混在します。つまり、腎・脾・肺・肝です。

遺尿の直接原因は腎気不固と脾不制水であると考えていいです。

しかし、腎気不固や脾不制水を根本原因として起こっているものは少ない。オネショをする子を何人も見てきましたが、みんな子供らしくそれなりの元気があり、老人 (腎虚) のように枯れて元気のない子供は少ないし、食欲がなくて見るからに脾虚という子供もいません。むしろお菓子がやめられない。食欲が止められない。アイスやジュースが大好き。ゲームやスマホにすごく興味がある。

こういう状態をどう分析したら良いでしょうか。

手太陰之別.…虚則…小便遺數.《霊枢・經脉10》

この引用は二千年前の医学書《霊枢》からのものです。肺の病証に “小便数 (しばしば) 遺す” とあります。

《霊枢》が言うように、肺がキーワードとなります。以下の2つの理由によってオネショが治らない場合が多いと考えています。

直接の遺尿につながるのは、脾 (脾不制水) と腎 (腎気不固) で間違いないのですが、そこに影響が及ぶのは、肺と肝が深く関わるのです。

最終的には肝が大きく関わります。現代病のほとんどはストレスが原因となっています。

肺から腎

まずは腎気不固に至るプロセスを描いてみましょう。

肺腎は共同一体で衛気を動かしていますが、寒邪によって肺気が弱ると腎気にも影響が及びます。ブルッと寒くなったとき、おしっこがしたくなったり漏れたりするのが分かりやすい例です。

《霊枢》の時代はともかく、現代は暖房設備は整っているため、寒邪にはやられにくいはずです。しかし、その代わりに登場したのが冷たい飲食物で、これが寒邪となって肺気を直接弱らせています。

形寒寒飮.則傷肺.《霊枢・邪氣藏府病形 04》

肺気不宣によって内熱 (多くは肝火) が閉じ込められ、肝火が腎水を弱らせることによって腎気を弱らせる。

肝木が腎水を吸い取ると言い換えても良いです。肝火と言っても本当にどうしようもないストレスを抱えているものは少なく、肺気が弱いために内熱をうまく発散できないがゆえの肝火であることがほとんどです。現代はこれに、スマホなどによる目の使いすぎ (久視) が肝血 (肝陰) を消耗し、相対的に肝火 (肝陽) を高ぶらせるという病理も加わっています。

久視傷血.《素問・宣明五氣 23》

脾から肺

つぎに、脾不制水に至るプロセスを描いてみましょう。

脾は「気血生化の源」です。

間食によって、この “源” が大きく弱らされているのが現代です。最近の子供は、他家に遊びに行くにもお菓子を持っていくのがマナーになりました。そのため、ごはん (白米) をあまり欲しがらなくなりました。でもおかずなら食べる。だから栄養は足りている。しかしごはんをパクパクたべるような食欲はありません。つまり、食欲があるかに見えて、実はないのです。これは「隠れ脾虚」と言っていい。

脾が弱ると、営気 (燃料) の生成が弱くなります。その結果として衛気 (温める力) も弱くなります。その結果、寒邪にやられやすくなります。寒邪はまず皮毛 (肺) を犯しますので、肺気が働かなくなります。すでに説明しましたが、肺は通調をつかさどります。

脾の弱りは不制水に、肺の弱りは通調の失調に、それぞれつながって下から水がダダ漏れになってしまいまうのです。

隠れ表証に

現代はストレス社会、老いも若きも心のどこかに滞りがある。その滞りは「緊張」となり、緊張は圧縮されて熱化します。

緊張は、甘いものや旨味の強いもので無意識にホッとさせようとする。
は、冷たい飲食物で無意識にクールダウンしようとする。

その場はホッとしクールダウンするのです。しかし、少しの間食は脾を大きく弱らせ、冷たい舌触りは肺をその場で傷つけます。その後は…。先に説明したとおりです。

脾腎の正気は弱り、肝気だけが勝っている。だから表面的には元気だが、その実は弱い。隠れた虚弱さを持っている。その虚弱さは、外邪に対する脆弱さとなり、常に寒邪に脅かされつつも表面的には元気な状態、…つまり慢性的な「隠れ表証」に発展するのです。

多くの遺尿は、子供のオネショ、大人の尿もれを問わず、みな寒がりや冷え性の人が多いですね。

しかも、表証にやられて肺気不宣がおこり、緊張や熱を発散できません。内熱もためやすいのです。

このような複雑な体内環境によって、最終的には中と下の弱り (脾腎の弱り) となって小便を留められなくなるのです。上 (肝気逆) ばっかりが強い。

まだ、なんかピンときませんね。しつこくなった遺尿は、じつは本当に複雑な病態であることが多いと思います。

下に具体例を上げて説明します。

夜尿症の症例

症状

小学4年生。男児。

4年生になってから夜尿が始まる。大便の失禁もあった。とくに夏休み (8月20日ごろ) になってから9月6日初診までは毎晩1〜2回あり、一晩で3回することもあった。

病勢に勢いがついているのである。

僕がまだ二十歳代の頃、僕の患者さんではなかったが、20歳代後半で夜尿症が治らないという女性を一度だけ診たことがある。彼氏ができても長く続かないと悩んでおられた。腹診すると、左大巨が見たこともないほど大きく陥没していた。この陥没が改善しなければ夜尿症は治らないと直感し、左大巨に補法の鍼をしたが、陥没はまったく改善しなかった。これは、本ページで展開するような病因病理がまったく理解できていない未熟さによるものである。

本症例では、小学4年生から夜尿症が始まっているという特異性がある。放っておいてもそのうち治るという楽観はまったくできないことを知りつつ、治療を引き受けた。軽微ながら、やはり左大巨に陥没が見られた。

3歳ごろからアトピー性皮膚炎がある。ステロイドと免疫の薬を毎日塗布しつづけている。普段はほぼ完全におさまっているが、たまに出ることがあるので、塗布を続けている。

夜尿とアトピー、この2つの病的現象を、一つの体に起こるものとして分析することが重要となる。

病因病理

本症例のアトピーの原因は肝火 (内熱) である。

アトピーは、治っていない (内熱が取れていない) が消えている。アトピーの皮膚のタダレは、内熱が無理やりにではあるが外に逃げられている状態でもある。内熱をこもらせ強くしていれば、当然、火事を消し止める役目の腎には、大きな負担がかかって腎気不固を起こしている。これが夜尿となって現れている。タダレが消えてオシッコが現れたのだ。

つまり、腎気不固 (夜尿) の原因もまた、肝火である。

肝火は、ストレス (肝鬱) よりもむしろ、肺気不宣が原因である。
肺気不宣は、表証 (かくれ表証) が原因である。
表証は、営衛不和が原因である。
営衛不和は、脾虚が原因である。
脾虚は、間食が原因である。
間食がやめられないのは、家族みんなが間食をとる家庭環境、そして前出の「緊張」とが関わる。食べるとホッとして一瞬緊張がほぐれるのである。この「緊張」がもっとも根本的な原因である。生まれたときから上に気が上り、上がギュウギュウ詰めに、下がガラガラに…という傾向がある。

その他、寒がる。ものによく怯える。夜になると誰かが自宅を覗いていると怖がる。尖端恐怖症。これは正気 (肝血・肝気・胆気) がかなり弱っている証拠だ。

肝火が脾や腎を弱らせて遺尿となっていることは前述の通りであるが、肝血・肝気まで弱らせているのである。

治療

遠方のため、週に一度の来院である。

初診から10日後には、夜尿のない日が出て、毎晩ということはなくなった。しかしまだ、ない日は週に一度程度である。

「まずアトピー (肝火) を治すことから始めましょう。自分の力で皮膚の綺麗さを保つことが、夜尿を治すことにつながります。」と治療計画を説明した。

その後、徐々にではあるが、夜尿のない日が増えていった。

治療は、鍉鍼 (刺さない鍼) で、百会・関元などを適宜用いた。目的は、
・表証をとる、予防する。
・肝気を正しい方向に向け、余計な緊張をとる。
・肝火を除去する。
・肝に上って偏った気を、腎 (下) に移動させ、腎を補う。
・肝気を引き下げて、脾への負担をなくす。

同時に、間食が原因になっていることを説明する。学校から帰ったらすぐにお菓子を食べる習慣がある。学校という緊張から開放され、お菓子を食べてもっとホッとしたいのだ。この時間のお菓子をやめて、夕食後にデザートとして食べるように指導する。夕食後なら、いくら食べてもいいと説明する。

治療開始当初は、「間食はこのごろどう?」と聞くと、急に頭や腕を掻き出し、ゴゾゴソと非常に慌てた様子だった。これはよくない反応だ。率直に言えないということは、溜め込んでいる証拠である。「緊張」が強いのだ。

「この調子でいいよ。間食が良くないってわかって、減らそうという方に向かって1mmでも進んでいれば、それがすごいことなんやで。」と説明した。急な痒さが出たときは「いまなら食後までお菓子を辛抱することができる。乗り越えられるから壁に今ぶつかったんやで。完璧でなくていいから、乗り越えられる分だけ乗り越えよう。」と言葉をかけたこともあった。1日だけ間食しなかった時は「えらかったなあ! すごかったなあ! それが成長やで!」と、相手が苦笑いするほどに褒めてやった。

そうするうち、間食のことを聞くと、「辛抱できなくて食べてしまう」と言い出した。これはストレスのない、非常に良い反応である。率直に自分に向き合えている。人目を気にしていては何もできない。自分に向き合わないと成長なんかできない。こういう反応は、肝火がだんだん下火になってきている証拠だ。

率直さ。

これは今の抑圧された環境下の子どもたちに、もっとも欠けている部分であり、最も必要となる部分である。

効果

このころ (6月) から、一週間で夜尿の無い日が、有る日を急激に上回り始めた。初診 (20✕✕年9月6日) からちょうど一年が経過するが、9月3日現在で40日連続でオネショをしていない。

こわがり、さむがりは、初診から数ヶ月で影を潜めた。正気 (生命力) が回復する姿である。

隠れ表証は初診の段階で治っている。

アトピーの悪化もない。

しかしこれからまだ、もっと肺気の宣発を盛んにしなければならない。それには間食を乗り越えて、動きたがらない重い体を軽くする。そして、体を軽快に動かしてゆくことである。その過程で、先ずアトピーが完治するだろう。

体を動かせば、肺気は外に外にと肝気の発散を助ける。
心も体も軽々と、多くのことを学び成長してゆく。

徐々に、着実に。

忘れてはならないのが、自主性。

成長をうながすのだ。

心も体も、そして膀胱の機能にも。

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