強膜炎 (眼疾患) …東洋医学から見た原因

【質問】
いつも勉強させて頂いております。
目の疾患について質問させていただきたいのですが、1年半程前から強膜炎 (目の白目の部分に赤みや痛みをともなった炎症) を、現在まで何度も繰り返し発症しています。
西洋医学では原因が不明、自己免疫疾患との関連性があり、最悪の場合失明に至るとまで書かれています。
最近まではステロイド点眼を使用していたのですが、薬の副作用なのか使えば使うほど再発するまでの期間が短くなっているように感じ、さらに眼精疲労や目の渇きなども感じるようになりました。
今までしてきたことは対症療法でしかなく、自分の病気には何かしらの原因が必ずあると思い、現在、東洋医学を勉強中です。
食生活改善やストレスを溜めない生活を心がけていますが、強膜炎の原因がわかれば予防もできると思い、先生にご教授して頂けたらと思い、グループに参加させて頂きました。
長い文章になって申し訳ありません。

facebookより

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原因は単純ではない

“自分の病気には何かしらの原因が必ずある”
これは正しいです。必ず原因があります。

“強膜炎の原因がわかれば”
これは必ずしも正しくありません。強膜炎になる原因は無限にあり、これが原因だと特定することはできません。ただし、 “自分が強膜炎になった原因が分かれば” ならば、探求することが可能です。

もちろん、ぼくは〇〇さんのことを全く知りません。ですから、〇〇さんが強膜炎になった原因は知る由もありません。一つ言えることは、〇〇さんがこれまで生きてこられた中での「考え方」「行動」のなかに原因は存在するということです。つまり、メンタルとフィジカルで「何をしてきたか」です。これを生活習慣と呼びたいと思います。人間は、モルモットとはちがって、考え方や生き方が千差万別です。だから、世界中に存在する強膜炎の原因は、無限にあるというのです。

例を出しましょう。イレウス (腸閉塞) の夜間発作を起こした症例です。原因は目の使いすぎでした。当時、オリンピックが開催されていて、いつもより遅くまでテレビ観戦しておられたのです。目の使いすぎ (興奮を伴う) によって陰血を消耗し、陰の消耗によって邪熱が激しくなり、の消耗によって一時的な陽虚を起こし、熱と寒が「膜」を襲って発作が出たものと弁証しました。いったい、だれが腸閉塞の激痛の原因がオリンピックだと考え得るでしょうか。

※膜…外界 (陽) と内部 (陰) を隔てる境界。ここでは腸の壁が膜に該当する。下段にて詳説。

とは言うものの、イレウスにおけるある程度の基本病理を押さえているから、そういう病因にたどり着くことも可能となるのです。

腸閉塞 (イレウス) …東洋医学から見た症例の考察
東洋医学では、腸閉塞 (イレウス) は「結胸証」を参考にする。《傷寒論》が出典である。その中に大陥胸湯証と呼ばれる承徳な証があり、上腹部が痛み、そののち腹部全体に及ぶ。これが劇症の指標になるとされる。

強膜炎も同じです。

中医学からみた強膜炎

強膜炎の基本病理は邪熱です。炎症ですから当たり前のことです。

【強膜炎の症状】
・眼の痛み (深部の痛みとして感じられやすい) 。 >> 邪熱
・激痛。 >> 邪熱
・刺痛。持続する痛み。 >> 瘀血
・痛みによる不眠。 >> 陰虚火旺・営血蘊熱
・痛みによる食欲不振。 >> 壮火食気 (邪熱による脾虚)
・眼が赤い。眼の圧痛。 >> 邪熱
・涙が出る。 >> 邪熱による内風
・光がまぶしい。 >> 血虚
・壊死性強膜炎は眼球に穿孔が見られ、その多くの場合で膠原病の基礎疾患がある。

強膜炎は失明する恐れがあります。

失明といえば、もっとも多いのは緑内障です。緑内障は無症状で視力を失っていきますが、緑内障のように無症状で進行する病気の代表は、脳梗塞 (動脈硬化が無症状で進行していきなり麻痺が発症) です。無症状で進行する病態は、中医学ではいまだ説明されていません。しかし、大切なのはまさにこの部分です。もっとも近い概念に “疏泄太過” という概念があります。疏泄太過とは「スピードオーバー」です。制限速度時速40kmの道で、時速70kmを出せば危険ですね。しかし、どこかでぶつかるまでは危険とは感じず、むしろ快感に感じるものです。疏泄太過には、内風が関係すると考えられます。風邪は疏泄するからです。

強膜炎にも、 “邪熱による内風” とコメントしたように、疏泄太過がいくらかあります。そもそも目が赤くなるのなら結膜炎でも良いわけです。ところがそこでとどまらず、結膜をスルー (疏泄) して、強膜まで行ってしまった。重症になると、風穴 (穿孔) まで開けてしまうのです。

結膜は疏泄太過で突っ切って、強膜で疏泄不及となり炎症を起こす。

緑内障の場合はさえぎるものがなく、失明して初めて疏泄不及 (さえぎられる) となります。

スピードオーバーであっても、制限速度を越えていると気づいてスピードを落とせればいいのです。しかし、それで落とせないでいると、どこかにぶつかってスビードを止めるしかない。結膜で阻止できなければ、強膜まで行くしかない。

その結果、いろんなことができなくなります。視力が落ちる。スピードが落ちたのです。

いま、スピードと表現しましたが、中医学的には内風のことです。この原因は本当に多彩です。

・怒りをはじめとする五志過極。
・飲食過多による湿熱。
・目の使いすぎや夜ふかしによる血虚。
・そういう生き方を慢性的に行った結果の陰虚。

内風の原因は、おもに邪熱によるものであることが分かりますね。熱は上に昇りやすいのは自然現象です。だから熱が体の上半身を中心にこもる。だから目が赤くなる。炎症を起こす。

そもそも目・耳・鼻・口・喉は五官九竅とも呼ばれる「あな」です。これら頭部の竅 (あな) は、もっとも熱がこもりやすい場所、つまり炎症の起こりやすい場所です。と同時に、精密な感覚をつかさどる器官でもあります。

中医学を越えた考察

この邪熱を、外に逃げられないように邪魔しているものがあります。
寒邪です。寒邪が熱を取り囲むと、まるで魔法瓶 (表面が冷たく中が熱い) のように、熱を冷めにくくします。寒邪の最たる原因は…。

冷たい飲食物です。

口は熱がこもりやすく、冷たいものが入ってきても不快に感じません。胃は知覚神経が発達しておらず冷たいものが入ってきても不快に感じません。腹部の皮膚に缶ビールやアイスを押し当てれば不快に感じるのとは対照的です。無自覚のうちに犯す寒邪とは、自覚しやすい気温の寒邪ではなく、口から入ってくる口当たりの良い寒邪なのです。口にいれる温度のほうがはるかに低いことを意識すべきです。

目に向かって突き上げる邪熱。
外から覆いかぶさる寒邪。

真逆の性質を持つこれら寒熱が、強膜という膜 (境界) でぶつかり合うとき、強膜炎という激しい嵐が吹き荒れるのです。
寒冷前線と温暖前線がぶつかり合うとき、激しい風雨が襲います。
温かい液体と冷たい液体が混ざらずにぶつかり合うとき、突沸現象 (爆発) が起こります。
これらは自然現象です。

「膜」については 膜原って何だろう で詳しく考察しました。

上述の腸閉塞における腸の壁も「膜」です。また皮膚も「膜」です。このような膜を境に起こる炎症は、強膜炎であろうが腸閉塞であろうが乾癬であろうが、僕の場合は治療の仕方はみな同じです。乾癬ならば皮膚という膜の正気を高め、膜の内外の邪気 (邪熱と寒邪) を祛 (さ) ればいいように、腸閉塞も強膜炎も同じように治療します。乾癬は死亡率の高い皮膚炎ですが、3ヶ月で略治に導いた症例があります。

乾癬の症例
20年来の乾癬、プレドニンを10mg服用し続ける状態で来院され、鍼灸治療期間は3ヶ月弱である。経過中にプレドニンを5mgまで減らしたが、悪化することなく略治となった。黒ずんで見えるのはメラニンである。

三種の神器と呼ばれる冷蔵庫が普及する前は、人類は何にでも火を通し煮沸して食中毒を防いでいました。ところが、猛烈な勢いで冷蔵庫が普及し、温かいものを飲食する機会が格段に減ります。戦後の大きな環境変化の一つです。

そもそも免疫は、こうした「環境変化」によって異変が起こることをご存知でしょうか。大気汚染・杉桧の植林・石油を原料としたプラスチックの使用などは戦後の大きな環境変化ですが、アレルギーはそんな中で急増していると、免疫学者の多田富雄先生は「免疫の意味論」 (青土社) で説いておられます。

免疫の暴走という点で、自己免疫疾患もその範疇に入るものと考えています。もちろん一因に過ぎませんが。

冷蔵庫を使うなら、食べるときにマメに温める必要があります。最も便利なのは電子レンジです。ぼくはすべての患者さんに電子レンジを使うよう指導しています (ただし50cm以上離れること) 。様々な病気を治してきましたが、電子レンジを使って治してきたという「治療の実際」に注目してください。

電子レンジ、使ってくださいね
冷蔵庫という「文明の恩恵」を享受している我々は、その受けた恩恵の分だけ電子レンジを活用すべきである。でないと、冷蔵庫のおかげで食中毒の心配がなくなったかわりに、冷えだけが残る。中国伝統医学では、冷えは病因の一つとして考える。

炎症の原因は未解明

指を戸で詰めた。すると赤く腫れ上がった。炎症です。この炎症の病理は解明済みです。

しかし、そのような物理的負荷が無いにも関わらず、炎症が起こる。ガンも炎症が原因だし、脳梗塞の原因の動脈硬化も炎症です。卑近なものでは口内炎に至るまで、こうした炎症がなぜ起こるのか、原因はよくわかっていません。ただ一つ、自己免疫が関わるのではないかと言われています。

強膜炎もそうですね。

僕の考える炎症の病理の大筋をいいます。

体のいろんな部分で炎症は起きます。いろんな部分をそれぞれに突き詰めようとしても切りがありません。そこで陰陽論の “一にして百、百にして一” という理論を使います。

陰陽者.數之可十.推之可百.數之可千.推之可萬.萬之大.不可勝數.然其要一也.
《陰陽離合論06》

いろんな部分、これを作っているのは、各種タンパク質の生成をその機能に持つ「肝臓」です。近年、この肝臓に数値上の異常が出ていなくても “隠れ脂肪肝” と呼ばれる病態があることがわかってきました。つまりNAFLD (非アルコール性脂肪肝) です。

栄養のとりすぎと仕事のしすぎ
仕事がないと困りますね。生きていけない。栄養もないと困ります。やはり生きていけない。 ただし仕事は、多ければ多いほど良いということではありません。忙しすぎると体を壊して病気になってしまいます。 では栄養はどうなんでょうか?
非アルコール性脂肪性肝炎 (NASH) と薬物性肝障害
原因不明の肝炎についてご質問をいただきました。まずは肝臓が何をする臓器なのかを知ることが大切です。なぜ肝臓が窮地に立たされたのか、その原因をご自分の生活習慣に照らし合わせて考えることです。専門家の診察と指導を仰ぐことです。

NAFLD以外にも、数値に出ない肝臓の疲れというものはあると考えるべきです。たとえば肝炎を起こそうとするとき、それを水際で阻止する免疫反応があるとします。つまり、本屋 (肝臓) がボヤを起こして、それが火事になる寸前で消し止めた。すると、火事 (肝炎) は起こらない。が、放水 (サイトカイン) は本屋の棟だけでなく、門や納屋などの離れの棟をもビシャビシャにしてしまい、それらが大きなダメージを受けた。本屋は敷地の奥にあり伺いしれないが、門は目に見えて被害を受けたことがよく分かる。

原因不明に見えた目の炎症 (皮膚や腸などあらゆる炎症も) は、命の母である肝臓が苦しむ姿なのではないか。

これを、「放水の暴走」 (免疫の暴走) と言ってしまえばそれまでですが、なんとか火事を食い止めるには、必然的に他の棟にも大きな被害が出てしまうのです。強膜炎の場合、それがたまたま目であったと考えられます。

人体組織は食べ物で作られ、軟部組織においてはわずか3ヶ月で新陳代謝して新しい組織に入れ替わります。目も、3ヶ月すれば今の目は捨てられ新しい目に替えられているのですが、相変わらず炎症の起きた不具合のある目を作り続けているのです。目の材料である食べ物が悪いのか? それもあるかもしれないが、そもそも食べ物を目に変えている肝臓が疲れ切っていることが原因ではないでしょうか。

過剰勤務にギリギリまで耐えた肝臓が、ある日突然…。

肝臓が人体各種タンパク質を合成する働きは、脾 (東洋医学) の気血を生化する働きと全く合致します。脾を強くすることは、あらゆる病気を治すうえで不可欠です。

東洋医学の「脾臓」って何だろう
東洋医学では「脾臓」をことのほか重視します。その機能を調べると、現代医学の「脾臓」とは全く違うものが描かれています。両者は異なる概念なのですね。その重要性、そして「卑」に秘められた真意について説明します。
“肝臓” を考える…東洋医学とのコラボ
肝臓には500以上の働きがあると言われ、様々な病気と関わる “主役級の臓器” です。と同時に寡黙で “沈黙の臓器” とも呼ばれます。これを往年の名優、高倉健に例えつつ、東洋医学ともコラボしながら、肝臓とは何か、病気の原因とは何かを考えます。

まとめにかえて

ストレスをためやすい社会構造。 >> 邪熱を生み出す。
ストレス発散目的での美食や過食。 >> 邪熱 (湿熱) を生み出す。

運動不足による正気の脆弱化。 >> 寒を呼び込む
冷蔵庫普及による環境変化。 >> 寒を呼び込む

このような寒熱がぶつかり合うことによって、いきなり劇症化するということが、まず一点目。

運動不足は現代人の特徴で、その脆弱な体があらゆる病気の一因になっています。正気が弱いため、邪気 (邪熱・寒邪など) を追い出すことができない。そんな現代人が、だからといって急に運動を始めると、かえって正気を弱らせ邪気を増やす結果となっている人を多く見かけます。ウォーキングやストレッチですら負担になります。脆弱な体はまず「安静」です。そして生命力が充電されてきたら、負荷を少しずつかけて行くのです。

体をきたえる、誠をきたえる
健康を目的として体をきたえる場合、負荷をかけすぎないようにします。生命力のラインよりも負荷が上回ると、生命力は下がってしまいます。逆に、生命力のラインぎりぎり手前まで負荷をかけると、生命力は押し上げられます。

さらに、目ほどの精密器官はあまりありません。皮膚ならば多少破損しても修復さえすれば、さほど不自由には感じないものです。しかし目が一度破損すると見えなくなる。修復しても失われた視力は回復しないことがあります。目ほどではありませんが、耳もそういう側面があります。

間 (あいだ) がない。いきなり来る。

何らかの症状が出て、それを何らかの方法で無理やり封じ込める。原因も考えずに症状だけを取る。これは、泣いている子供の口をガムテープで押さえつけて黙らせるのと同じことです。そんなことを繰り返しているから、楽な方法で何度も黙らせているから、ある日いきなり、グレる。

そうではなく、ひと手間がかかったとしても、なんで泣いているのか、それを腰をかがめて目線をあわせて聞いてやる。きっとなにか原因があります。
「どうしたの?」
「ひっく、ひっく、あのね…」
きっと、理由を言ってくれる。そうやって、その場その場で、いちいち解決する。それを繰り返すことで、素直な子に育ち、そのほうが結局は手間がかからないのです。

免疫がグレる。
いきなり精密器官 (目) を襲う。

これには、チリツモの原因があると考えるべきかもしれません。

 

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