栄養のとりすぎと仕事のしすぎ

仕事がないと困りますね。仕事がないと生きていけない。
栄養もないと困ります。栄養がないと生きていけない。

ただし仕事は、多ければ多いほど良いということではありません。忙しすぎると体を壊して病気になってしまいます。仕事は適度がいい。やりすぎも、なさすぎもダメです。

では栄養はどうなんでょうか? 多ければ多いほど良いのでは?

食材とは、命あるものを切り刻んだものです。それに対する感謝と謙虚さが大切で、食材に心から手を合わす習慣はとても理にかなっています。 栄養が必要だという思いが、食材に対する感謝を超えると、心から味わう・おいしく頂くということをうっかり忘れて、知らぬ間に食べる量が一口多くなります。たくさん栄養を摂ることになるのですね。

胆汁と規則正しい食事 >> 感謝は損しない をご参考に。

「栄養が必要だ」…感謝よりもそっちを強く強く意識しているのが、現代人の特徴です。昔は違いましたね。食事がいただけるだけでありがたかった。とくに高齢者に多く見られる傾向だと感じます。高齢者ほど感謝が上回ってこないといけないのに…です。

黒苔とは >> 原因はこだわり をご参考に。

それがどういう結果になるのか、これから考察していきます。

たとえば商品を作る仕事がある。
作るには材料が必要です。その材料を元にして、役に立つ商品に変える。

できあがる前の材料。
できあがった後の商品。

材料を使って、それを「いいもの」(役に立つもの) に変えるのですね。
そして、仕事をするのは人間です。

体も仕事をしています。
食材という材料を使って、それを「カラダ」(役に立つもの) に変える。

食材とは、できあがる前の材料です。
カラダとは、できあがった後の商品です。

食材のタンパク質を使って、それをカラダ (皮膚・筋肉・血管・神経・内蔵など) に変えるのですね。
そして、それをするのは肝臓です。

肝臓がカラダを作ってくれているとは、知らなかったですね。

例えばゆで卵 (タンパク質) が口から入る。

ゆで卵を噛んでコナゴナにする。飲み込んで食道を通る。胃に入り、消化液でさらに細かくなる。十二指腸にいく。小腸に入り、消化液でさらにさらに細かくなる。アミノ酸です。これはとても小さいので、小腸の壁を通り抜けることができます。通り抜けて吸収され、ここで初めて体内に入る。そして肝門脈を通って肝臓に到達する。

ここまでは「ゆで卵」です。これは「栄養」ですが、ゆで卵が細かくなったものに過ぎません。つまり「材料」です。

肝臓に入った「ゆで卵」は、さらに肝臓で原子レベルにまでバラバラに分解されます。

そして肝臓は、その原子 (材料) を再結合し、様々なタンパク質 (商品) に合成します。皮膚・筋肉・血管・神経・各種内臓にいたるまで、これらはそれぞれ異なるタンパク質です。人体は10万種類ともいわれるタンパク質で構成されています。こんな多彩なタンパク質を、ゆで卵一個から作るのですね。おもちゃのブロックをバラバラにして、それを組み立て直して “船できたよ、飛行機できたよ、車できたよ” というのと同じです。

たとえば、人体の血管をつなぎ合わせると地球を2周半する長さがあると言われています。また人体組織は3ヶ月で入れ替わるともいわれています。つまり、わずか3ヶ月で地球を2周半もする長さの血管を作ってしまうのですね。肝臓って、人体って、すごいことをやっていると思いませんか? 僕なら、ティッシュを割いて指でひねってコヨリを作ってつなぎ合わせたとしても、一生かかっても無理に決まっているし、この町内一周分も作れないでしょう。しかも人体はコヨリのような出来の悪いものではなく、精巧なミクロの管をつくり、一箇所も行き止まりがないようにつなぎ合わせている。血管だけじゃない。37兆個も言われる細胞を作り、それらを一糸乱れぬ連携でまとめている。

そんなすごいことをする人体を、我々ごときが分かったような口を聞き、思うがままに操作できると考えるのは誤りです。レベルが違う。遥かに格が上であるならば、それらを作っている元締め (肝臓) が疲れないように気遣い、その能力を最大限に発揮できるように「お膳立て」することこそ必要なのではないでしょうか。

このようにしてできた人体のタンパク質 (役に立つカラダ) は、肝静脈を通り、下大静脈を通り、心臓にたどり着きます。そして心臓から、37兆個とも言われる各細胞に届けられるのです。つまり、皮膚・筋肉・血管・神経・各種内臓などに存在する細胞たちですね。

このような皮膚・筋肉・血管・神経・各種内臓などの材料になるものも、「栄養」 (変えられた後の栄養) といいます。そしてこれはもう、ゆで卵ではありません。これがもしゆで卵なら、皮膚も筋肉も頭や目の玉さえも、ぜーんぶゆで卵になってしまうはずです。そう、魚ばかり食べていたら我々はいずれ魚になる、豚肉ばかり食べていたら我々はいずれ豚になる…いやいや、そうはならない。

ゆで卵を細かくし、それを材料にして、ゆで卵ではないものに変える。人体に変えているのです。だから、ゆで卵にも魚にも豚にもならない。

この分解と合成が、肝臓の仕事です。

食材をつかって、それを「このカラダ」に変える。

もうおわかりですね。

人間の仕事が多ければいいというわけではないと同様に、
肝臓の仕事も、多ければ多いほどいいわけではない。

適度でなければ、肝臓もくたびれて、「栄養」 (変えられた後の栄養=カラダ) が作れなくなる。

結果として栄養不足です。

AST (GOT) ・ALT (GPT) ・γ-GTPの数値は肝機能を知る重要な手立てですが、これらはみな肝細胞が破壊されたときに放出される酵素です。つまり肝細胞が死なないと増えません。死なないとカウントされない。我々が仕事で過剰勤務で、上司に “もう死にそうだから休ませてほしい” と訴えた時、 “君、まだ死んでないでしょ? 死んだら考えてあげるよ” と言われたらどうでしょう。肝細胞だって、死んではないが死にそうに疲れている時があると思います。しかし、それは数値には反映されません。

近年、NAFLD/ナッフルド (非アルコール性脂肪肝:non-alcoholic fatty liver disease) などによる、数値に出ない「隠れ脂肪肝」が注目されつつあります。

たとえば血中のアルブミン (血中に最も多く含まれるタンパク質) が低値になっている場合、栄養失調が強く疑われます。しかし、だからといって口から肝臓までの栄養が不足しているとは言い切れない。むしろ現代の先進国は豊かですので、意識してタンパク質を摂取する人は多く、口から肝臓は栄養で満タンになっていることがあると思います。

口から肝臓までは栄養たっぷり。でも、肝臓から各細胞までは栄養失調になる。

どうしてでしょう。

たとえば工場に、材料は山のようにあふれている。どんどん組み立てて製品を作れ! と昼夜を通して労働を強いられる。すると、作り手がクタクタになって体調をくずし、製品に作り変えることができなくなる。しまいには、山のようにあふれた材料に押しつぶされてしまう。

たとえば高速道路料金所 (肝臓) に、高速道路を利用しようと車 (栄養) が山のように押し寄せているが、料金所のおじさんが昼夜問わず仕事しすぎてクタクタになって倒れてしまい、切符が切れない。すると、料金所までの下の道は大渋滞 (栄養過多) 、料金所から上の道は車が走っていない (栄養失調) 。

さきほど、人体の軟部組織は、わずか3ヶ月で入れ替わるという話をしましたね。古い細胞は壊され、新しく生み続ける。「地球2周半の長さの血管」も、わずか3ヶ月で作ってしまうのです。材料は飲食物、これを人体に合うタンパク質に変えてくれる元締は肝臓です。この一生で、肝臓は、人体はいったい地球何周分の血管を作ってきたのでしょう。血管だけではない。脳も、心臓も、腎臓も、神経も、いったい何個作ってきたのでしょう。
これが「自然の力」です。この人体は大自然の一部です。こざかしい人工物でないから、こんな驚異的なことを澄ました顔でやってのけるのです。われわれは、大自然に「生かされている」のです。
そんな大自然に逆らえば、この「自然の力」はもう、手を差し伸べてはくれません。
元気になりたいから栄養を摂ろう、健康のためにタンパク質を摂ろうという人が絶えません。食材はすべて命あるものです。食材はすべて他の生物を殺した死骸です。

その肉片に含まれる栄養を、冷淡に貪 (むさぼ) る。
自分さえ助かれは他の命は死のうが殺されようが関係ない。

そもそも大自然の一部である人間が、そんな心でどうして大自然の意に沿うことがあるでしょうか。利己 (栄養を貪る) はかえって自己を破滅 (栄養失調) に追い込みます。「蜘蛛の糸」のカンダタも、そうでしたね。芥川龍之介は「その法則」を描いたのです。

自分だけ助かろうとしてはならない。

その法則を、ぼくは懸命の臨床の中で、まざまざと見せつけられてきました。ろくなことが起こらない。そして健全な人体とは、健全な肝臓とは、「その法則」の枠からはみ出ないような作りに、そもそも作られていることを思わされます。

肝臓は、食べ物から人体組織を作る、その元締めです。その元締がこんなふうでは…。

「出来の良いカラダ」は出来ませんね。それじゃ健康からは程遠いと言わざるを得ない。

あらゆる病気と関係せざるを得ないでしょう。

あらゆる病気との関係、これは近年の研究でも明らかにされつつあります。つまり、栄養のとりすぎによる肝臓障害 (NASH・NAFLD) は、各種ガン・脳梗塞・心筋梗塞・アルツハイマー病の原因になることが分かってきています。

過剰なタンパク質はブドウ糖に作り変えられるということをご存知でしょうか?
過剰な糖質が脂肪に変わるのは、皆さんご存知ですね。
こうした糖質や脂肪がどのように肝臓に影響するかは、説明するまでもないでしょう。

なにごとも、詰め込み式はよくありません。子供の勉強もそうです。

何に気をつければ良いのか、よく考えてみましょう。

ろくな製品 (成績) が作れないのは、材料 (テキスト) が足りないからではなく、作り手 (子供) をモノ扱いにしたがために、仕事 (勉強) にくたびれきっているからではないのか?

胆汁とデトックス… 朝食は一口でも
朝食を取らない人が増えましたね。一昔前は小学校でも「朝ごはんを食べましょう」と指導していました。朝ごはんの必要性について、「胆汁」をキーワードに考えてみましょう。

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