カゼで熱があるとき、どんなものを食べればいいでしょうか。そのときの養生食が分かれば、少しのどが痛いかな…という時にも、予防にもつながるはずです。
ここでは「傷寒論」を紐解き、それに基づいて展開します。
傷寒論とは、西暦200年ごろに張仲景によって書かれた古い書物です。東洋医学では「黄帝内経」に匹敵するバイブルのような存在です。
傷寒論にはたくさんの方剤の説明がありますが、最初に出てくるのが「桂枝湯」というカゼ薬です。この桂枝湯についての説明の条文に、補足書きがあり、食養生について触れています。他の方剤の条文にも「桂枝湯のごとくにせよ」という補足があり、全般に言えることなので、その食養生を紹介したいと思います。
▶︎推奨されているのは「おかゆ」
…服已、須臾、歠熱稀粥一升余、以助薬力、<傷寒論>
服用し終えたら、須臾 (すぐ) に熱くて薄い粥 (かゆ) を歠 (すす) る。すると薬力を助けることができる。
張仲景は、おかゆを推奨しています。
傷寒論私見…桂枝湯〔12〕 をご参考に。
おかゆは消化が良く、旨味が少ないので食べ過ぎることがありません。よって、脾臓 (後述) に負担をかけません。それのみならず「穀気」と呼ばれる元気のもとを補充することができるので、体を温めて適度な発汗を促します。「氣」という字に「米」と書くのはここに由来します。
恵みに感謝し、味わいよく噛んでいただきましょう。流し込むのはよくありません。
薬膳の最も古い記載は、この「おかゆ」であると考えられます。ある程度回復すれば「ごはん」に変えればいいでしょう。張仲景は食事において、これをもっとも重視していたと考えていいと思います。「ごはん」については、https://sinsindoo.com/archives/4-health-law.html#米 をご参考に。
▶︎禁じられているもの
禁生冷、粘滑、肉、麪、五辛、酒、酪、臭悪等物、<傷寒論>
以下のものを禁止する。
生もの・冷たいもの、粘りけがあってツルツルするもの、肉、小麦製品、ピリ辛のもの、酒、乳製品、汚臭のするもの。
以上のものは脾臓に負担をかけやすくなります。
脾臓とは東洋医学の概念で、飲食物を消化吸収して生命力に変える機能のことを言います。
東洋医学の「脾臓」って何だろう をご参考に。
その体力の余りは、外からやってくる外邪を防ぐバリアになります。
外邪って何だろう をご参考に。
このバリアのことを衛気といいます。脾臓が弱ると衛気が弱ります。衛気が弱るとカゼを引きやすくなったり再感の危険を増したりします。だからカゼのときは、こういうものを食べてはいけませんよ、という話です。
衛気とは をご参考に。
詳しく説明します。
▶︎生冷
当時は冷蔵庫のない時代です。常温が冷たいものになります。だから生食はすべて冷たいものになります。
冷たいものを摂取しすぎると脾臓を弱らせます。
ただし、高熱時に熱い飲み物を一気飲みすると、急激に熱が上がって気分が悪くなることがあるので注意しましょう。グッと飲みたければ人肌程度の温度にします。また熱くてもゆっくり飲むなら大丈夫です。
▶︎粘滑
ネバネバ・ツルツルのものを摂取しすぎると、よく噛まずに食べるので脾臓に負担をかけやすくなります。
うちの子が小さい時でしたが、とろろご飯を食べさせたところ、喜んで普段の倍食べて、すぐに全部吐きました。こういうのは噛めないですね。
▶︎肉
摂取しすぎると、邪熱を起こす原因になります。
帝曰.病熱當何禁之.
岐伯曰.病熱少愈.食肉則復.多食則遺.此其禁也.
<素問・熱論 31>
邪熱とは をご参考に。
“肝臓” を考える…東洋医学とのコラボ をご参考に。
邪熱は脾臓を弱らせます。
また邪熱が起こると、陰に負担をかけます。陰弱を引き起こしたり内風を起こしたりして外風を受けやすくします。複雑なカゼにしてしまいます。
内風とは をご参考に。
また体を動かさずに栄養ばかり摂ると、さばききれずに脾臓に負担をかけます。
▶︎麪
麪とは麺のことで、麺のもともとの意味は、小麦粉から作られる加工食品のことです。メン類、パンや粉モノも含みます。
口当たりがよく、つい食べ過ぎてしまうものは病人食に向きません。粥を推奨して麺を禁じているのは、加工の仕方によって食べ過ぎるか食べ過ぎないかが変わるからでもあります。
おかゆを食べ過ぎることは少ないですね。
たとえば、白いご飯でごちそうさまにした後、メン・パン・粉ものならまだ食べられます。逆にそれらでごちそうさまにした後、白いご飯が食べられるでしょうか。
食べ過ぎると脾臓を弱らせます。
▶︎五辛
五辛とは正確には、ニンニク・ラッキョウ・ネギ・タマネギ・ニラのことですが、ここではピリ辛のもの全般と解釈を広げます。
桂枝湯での注意書きというのが重要です。辛温の品は、温めはしますが陰を消耗します。だから辛温の桂枝に営陰を補う芍薬を付けているのですね。いわゆる「五辛」に限らず、下手に乾姜やトウガラシを足すと良くないということを《傷寒論》の行間から読み取ることが重要です。
ネギは僕の経験では、よほどの胃腸障害を起こしている時以外は食べても問題ありません。
中医学では、邪熱を起す一因として辛辣な食べ物を挙げます。邪熱による影響は、肉とおなじです。
中医学における “病因” とは をご参考に。
▶︎酒
これも邪熱を起こします。
▶︎酪
乳製品のことです。痰湿を生じて脾臓に負担をかけやすくなります。
痰湿とは をご参考に。
中医学における “病因” とは をご参考に。
▶︎臭悪
悪臭の強いものです。腐ったものですね。一部の発酵食品も含まれます。摂取しすぎると痰湿を生じて脾臓に負担をかけやすくなります。
▶︎備忘録
ここ最近 (2021年1月) の気づきを記しておきます。
前回 (冷えを取る方法 (2021小寒) ) に引き続き、合谷に痰湿の反応があり、豊隆の面積が大きく、治療穴は右内関が多いことが特徴である。1月初旬くらいまで、内関の後に右脾兪・右胃兪・右膈兪など、痰湿に関わる穴処を瀉法するケースがあったが、1月10日くらいから不要あるいはできない。
1月16日。すべての患者さんで、治療後の脈がやや細いことに気付く。正気の虚が補い切れていないとみて、太白・公孫・足三里・太淵・合谷などの反応に注意したところ、右太淵に生きた反応があった。右太淵に金製古代鍼をかざすと、脈が太くなり胃の気に満ちた脈となる。ただし、これで平脈となるため、右脾兪などの瀉法が不要あるいはできない。
1月18日。右内関と右太淵の2穴になっているのが気に入らない。ツボはできるだけ少なくした方がよく効くからだ。右内関抜鍼時に浅い部分 (肺の領域) を補ってみると、太淵を使わなくても平脈になった。また、こうして1穴にまとめるようになってから、右脾兪などの瀉法ができるケースが得られるようになった。
この手法で、胸痛 (心筋梗塞) を起こしているものに、右内関・右脾兪の鍼をしたところ、その場で痛みが取れた。翌日来院時も痛みは再発していない。