14歳。男性。球児。右打ち右投げ。
2025/3/21診察。
3/15にデッドボールを右手首にくらう。病院で右手の豆状骨骨折と診断される。ギプスが取れるのは5月連休ごろになると告げられる。
診ると、右肘まで頑丈にギプスが巻かれている。右手首の脈診はできない。左手首のみで診察する。もちろん、左手首のみでは正しい診断はできない。しかし、そういう時のために普段からツボで診察ができるように鍛えている。
ただし、ここ数年、ツボの反応は見にくくなっている。まず反応を診やすくするために「ツボを浮かす」ことが必要だ。沈んでいるから診にくいのである。今の状況を患者さんに簡単に説明する。するとツボが浮いてくる。
「新しい痰湿は生んでない。食べること合格。新しい邪熱も生んでない。オーバーヒートしないコントロールも合格。つまり、ここ2〜3日で新しく悪いものは何一つ生んでない。だから古い蓄積の整理整頓が進んでいる状態やと思ってな。」
「はい。」
これでツボが浮いてくる。診やすくなった。
骨折の場合、必ず内出血がある。中医学ではこの出血のことを「離経の血」と呼び、瘀血に分類される。診断はスムーズである。と、ここまではいいのだか、この教科書通りの診断を、実際の臨床でどのように生かすか。鍼灸の場合のそれは、醫者それぞれの技量が左右する側面が大きい。
病因病理から診断までは学問として共有できる。しかし、それをどうやって治すかという術は、なんでもかんでも共有できるものではない。それをむりやり画一化してしまうと、東洋医学としての「治す力」が低いレベルのものになってしまうだろう。逆に高いレベルの「治す力」を見せることによって、基礎とした学問が正しかったとなる。このようにして、学は術を育て、術は学を導くのである。つまり、学と術は陰陽なのである。ここのところが理解できない専門家が多い。
注目点は「竅陰 (きょういん) 」というツボである。ほら、やっぱり実の反応が出ている。

この反応は瘀血だ。しかし瘀血の診断点になる三陰交に反応がまだ出ていない。
なぜか。瘀血はあるのだが、瘀血が主ではないからである。
主は…邪熱である。まず、この邪熱を取らなければ、瘀血を取ることができない。
邪熱の診断点である後渓に反応が出ている。後渓に邪があるうちは、三陰交は反応してこない。
よってまず、邪熱を取る目的で百会に鍼をする。
百会に金製古代鍼をかざす。正気を補いつつ邪熱を取る。
後渓の反応が消えた。
もう一度竅陰を確認する。反応は消えていない。しかし左右ともに出ていた反応が、右竅陰のみになった。そして、その反応は生き生きとしている。「生きたツボ」の反応である。こういう穴処に鍼をすると、少々下手でも効く。

さらに三陰交を診る。左右にハッキリと邪の反応が出ている。これを、竅陰で仕留めるのである。
右竅陰に銀製古代鍼をかざす。
三陰交の反応が消えた。
「骨折したところに内出血があるねん。これが無くならないと骨折は治らへんから、内出血が無ければ早く治るからな。いま、それを取ったつもりです。」
こんなへなちょこな説明を、付き添いのお母さんと本人にした。
誰が信じる?
でも当該患者は小学4年生のころから診ている。アトピーが酷かったがいまは完治し、よく吐いていたがそれも影を潜めた。今は中学2年生、2〜3週間に一度、メンテンス的に治療に来ている。そんなこんなで、こんなへなちょこな説明もなんとか通った。
次回の予約は2週間後である。
〇
2週間後、4/4に来院。ギプスをしていない。

お母さんはニコニコしている。
「思ったより早くギプスが取れて…。3/15に骨折して3/29に取れたから、ちょうど2週間で取れたんです。整形の先生は5月の連休ごろ (全治7週間) になるかなあ…っておっしゃってたんですけど、もう大丈夫っておっしゃって。…明日 (4/5) から野球のトーナメントの大会があって、あきらめていたんですけど、ボールを投げてもぜんぜん痛くないらしくて、試合に出れるかなって。よかったです^^」
右手首に手をかざして診るが反応はない。
竅陰の反応もない。三陰交の反応も出てこない。
完治と診断する。