77歳。女性。2024/8/27初診。
覚えておられる方もあるかも知れないが、失明して40年の目が、たった一本の鍼で ! ? で症例検討させていただいた患者さんの「その後」である。
鍼をした翌朝に目が見えるようになったのは確かに奇跡ではある。しかし、奇跡はそれだけにとどまらなかった。こむら返りもめまいもその日から消え去り、治療開始から2ヶ月後の血液検査では中性脂肪が300も下がっていた。
さらに。
視野がどんどん広がっているのである。視界がますますクリアになっていく。
2024/12/19現在、改善は現在も続いているのだ。
カルテの記録
8ヶ月前 (2024/1) から毎朝こむら返りがある。
8ヶ月前 (2024/1) からめまいがある。あお向けになると常に起こる。
そして左目を40年前に失明。
初診… 8/27 (火)
左目の視力は0。全く見えない。
中心暗点 (透明度0) が居座っているからである。
詳細は以下リンクに詳しい。
めまいがするのであお向けに寝られない。よって伏臥位や座位から診察を始める。
- こむら返りの反応を診るため、ふくらはぎ (腓腹筋) に手をかざす。痰湿の反応 (6cm✕6cm) がある。
- めまいの反応を診るため、耳に手をかざす。左耳に痰湿の反応 (4cm✕4cm) がある。
- 下腿部を診ると、浮腫 (肌水) がある。浅い浮腫は下腿部全体にあるが、これはそう問題にならない。問題になるのは深い浮腫である。深い浮腫が三陰交から下にある。この状態は、足が非常に重いことを示す。浮腫は痰湿である。
このように、痰湿が問題となる。
百会に2番鍼で1分間置鍼。
深い浮腫が取れていることを確認し、治療を終える。
帰り際、 “足が軽い” と喜ぶ。
2診… 8/31 (土)
治療後から、こむら返りが一度も起こらなかった。
治療後から、めまいなし。
治療の翌朝、目を開けると目が見えた。
耳・腓腹筋の痰湿の反応は消えている。
三陰交以下の深い浮腫も消えている。
下腿の肌水 (指で押すと粘土のように凹む) は、柔らかくなっている。
百会に2番鍼で1分間置鍼。
3診… 9/13 (金)
こむら返りなし。めまいなし。
下肢が軽い。
百会に3番鍼で1分間置鍼。
4診… 9/20 (金)
前回治療の翌朝、こむら返りがあった。治療を終えてその帰りに、お店で食べたら冷たいお茶しかなく、それを飲んだからだという。
それ以外は、今日までこむら返りなし。
初診のところでは触れなかったが、その時、表証 (表寒証) があった。寒邪に取り囲まれている状態である。それを取るための養生として、37℃以上の飲食物を摂るように指導していた。痰湿を、皿にこびりついた餅や油汚れだと考えればよい。冷たい水で洗うとかえってカチカチになってこびりついて取れない。温かいお湯で洗うと、サラサラになってサッと洗い流せる。これと同様、寒邪が取り囲んでいると、痰湿はひつこくこびりついて取れない…そんな説明をした。奇特なのは、こういう指導を当該患者は厳格に守っているのだ。だから、こっちから聞かなくても自分から、 “原因は冷たい水だ” と言ってきたのである。
後で【考察】でも触れるが、たしかに冷水が原因でこむら返りが起こった可能性はある。しかし、それ以上の原因は、僕の言うことを守ろうという信念が、このときのみグラついたからではないかと思う。だから温かいものを摂り続けた翌日からまた、こむら返りは起こっていないのである。安心が得られたのである。信念とは、体を頑強にするのだ。
百会に3番鍼で5分間置鍼。
脈診で体の声を聞き、ウォーキング5分間指導。
5診… 10/11 (金)
こむら返りなし。めまいなし。
百会に5番鍼で5分間置鍼。
右豊隆に5番鍼で即刺即抜。
脈診で体の声を聞き、ウォーキング10分間指導。
6診… 10/15 (火)
右肩 (肩上部) から、右肩甲間部・右頸が凝って痛い。右耳もつまった感じがする。
患部を揉みながら訴える。
手をかざして診ると、全て痰湿である。局所的に、痰湿が動かなくなっているのである。
患部に触れると、気の流れがない。だから凝り・痛みがあるのである。
しかし、フニャフニャで柔らかい。これはおかしい。流れがなければ硬くなるのがセオリーである。
さらに、揉みながら患部を示していたことに注目である。こういう患者のほとんどは、患部を揉んでいる。
「揉んだらあかんよ。」
「え? 揉んだらあかんの?」
「そう。この肩はね、可憐なユリの花やで。ユリの花、揉んだらどうなる?」
「しおれるなあ」
「そう。この肩、しおれてるんやで。だから気が流れなくて痛いんです。もっとピンッとハリツヤがないとあかんのですわ。」
「ああ、そうやったんか。揉んだらあかんのか。」
再度、肩を診る。流れがある。
「今、肩どう?」
「あれ? 痛くないわ。軽くなった。」
「ははは、おもしろいねえ。揉まんとこ、って思った瞬間に、肩が流通しだしたんですよ。」
「へえええ、不思議やなあ。」
「今の気持ちでいてくださいね。」
「はい、もう揉まへん。」
百会に5番鍼で5分間置鍼。
脈診で体の声を聞き、ウォーキング15分間指導。
肩の痛みもおさまり、ホッと一息。
ところで、左目の暗点 (斜め上に移動) はどうだろう。
聞くと、場所はそのままだが、だんだん透明になってきている、とのことである。
へええ、それはすごい。最初は真っ黒で、透けて見えることはなかったのである。
7診… 11/ 11(月)
右肩の痛み・凝りなし。右耳のつまりもなし。
こむら返り・めまいもなし。
左目の暗点はさらに透明になってきている。
中性脂肪が、561 (8/5) → 228 (10/23) に減少した。正常値は50〜149。
鍼灸治療開始 (8/27) から、わずか2ヶ月後の変化である。
百会に3番鍼で5分間置鍼。
脈診で体の声を聞き、ウォーキング20分間指導。
8診… 11/14 (木)
こむら返り・めまいなし。
百会に3番鍼で5分間置鍼。
9診… 11/19 (火)
こむら返り・めまいなし。
ここ1週間で、さらに中心暗点が透明に近くなってきた。
こむら返り・めまいなし。
百会に3番鍼で5分間置鍼。
10診… 12/10 (火)
3週間ぶりの来院。
こむら返り・めまいなし。左目の暗点もさらに透明に近づいている。
しかし、左足の甲 (足背部;解谿〜衝陽) が歩くと痛い。ウォーキング中も痛い。
よく聞いてみると、ウォーキング20分間のところを、勘違いして30分間していた。おそらくこれが原因である。
脈診で確認、20分ですよ^^
脈診は恐ろしく正確である。というより、体の声が恐ろしく正確なのだ。たった10分間、誤ってやりすぎるだけで悪化する。もちろん自己判断で時間を増やしても悪化する。1日や2日では悪化しないが、1週間くらい続けると悪化する。別の患者さんでは悪化に加えて、脈診によるウォーキングの時間が下がった例があり、おかしいので聞いていくと、市主催の筋トレ講習に参加していたということもあった。
百会に5番鍼で3分間置鍼。
11診… 12/13 (金)
左足の甲の痛み、無くなった。
こむら返り・めまいもなし。
12月2日から排便なし。10日以上経つので浣腸を勧める。
百会に5番鍼で5分間置鍼。
12診… 12/17 (火)
浣腸したら普通便 (バナナウンチ) が出た。
百会に5番鍼で5分間置鍼。
バナナウンチなら、放っておいても良かったかもしれない。
便秘で困るのは、カチカチになって出なくなることである。僕はやったことはないが、肛門に指を入れて引っ張り出さなければならないこともある。これは僕の患者さんでの経験だが、便秘1週間以上が経過して排便はできたのだが、セメントみたいに固くなって、便器に当たったときに「コツン」と音がしたということもあった。
だがしかし、体が健康でありさえすれば、便は固くなることはない。1週間ぶりに出たウンチがバナナウンチだったという経験から、1週間以上経てば浣腸と決めている。だから今回も、浣腸を勧めたのである。が、今回の経験から10日まではいけるということが分かった。
実は、こういう便秘 (結果としてバナナウンチ) は、正気 (生命力) を蓄える姿でもある。気前よく出すと正気が貯まらないのである。ダムの放流のようなもので、上流からたくさん水が流れてきていれば毎日放流してもよいが、少ししか水が流れてきていないなら毎日放流なんかすると生活用水に回せなくなってしまうだろう。
ただし条件があって、便秘期間中、お腹は張りも痛みもしないということである。張りや痛みがあれば矛盾する便秘であり治療の必要がある。無ければ矛盾のない便秘でありそのまま見守ってよいということになる。当該患者はまさに、いま正気 (自然治癒力) をどんどんチャージしているのである。だから目がどんどん見えるようになったり、中性脂肪が300も下がったりという奇跡が起こっているのである。
ぼくは29kg (151cm;59歳) までやせ衰えた方を、鍼治療のみで42kgまで回復させ、老人会の副会長を可能にした経験があるが、回復途上は便通は4〜5日に1回くらいで、回復後は便通は正常になった。いろいろ言いたい人はいるだろうが、これくらいの症例を持ったうえで発言をお願いしたい。机上の空論では話にならない。
ちなみに、当該患者は、以前から便秘があり1週間近く出ないことがあったが、上記説明を与えると、「ああ分かりました。それじゃほっとこ。」と、すぐに得心された。僕のことを信じる力が非常に強いのである。今回も10日間の便秘を訴えはしたが、まったく不安な様子はなかった。こういう方は、あれこれ心配しないので、血が消耗しない。あれこれ心配すると心でたくさんの血を消耗するのである。血を消耗すると、血虚の特徴として腸壁が潤せず、大便が固くなる。
13診… 12/19 (木)
調子いい。こむら返り・めまいもなし。
目の状態を聞くと、さらに暗点は上に移動し、透明度は60% (半分以上透明) とのこと。
視野は拡大しつつあり、さらに見えやすくなっている。
もうここまでクリアに見えるようになれば、十分であろう。
しかし、改善は今も続いているのである。
考察
まず、鍼もしていないのになぜめまいが消失したのだろう。考えられる原因は2つ。
1つ目は、表証を取ったからである。表証に対する3つの養生指導を行った。実は、その指導を終えた瞬間に表証が取れていたのである。これは他の患者さんでも同じ現象が見られる。
表証は寒邪が取り囲んでいる状態、その状態だとモチが冷えると固まるように、痰湿が固まる。表証が取れればめまいの原因となっていた痰湿がゆるみ除去される。徐々に痰湿がゆるんで取れて行き、それが効果として現れ始めたのが、診察ベッドに移動した頃合いだった可能性。
2つ目は、安心である。当該患者に、もう表証は取れた旨を伝えた。
「さっき3つの指導をしましたね。お母さんはそれを “やってみよう” と思ったはずです。そう思った瞬間にもう、生命力は強くなった。だから寒邪が逃げたんですよ。今の気持ちでいてください。」
安心は気を臍下丹田に下げ、気の巡りをスムーズにする。それだけでめまいの原因になっていた痰湿が動いた可能性。
さらに、わずか数ヶ月で中性脂肪561から228に下がったという、物理的変化にも注目である。中性脂肪や血糖値やコレステロールは、食べたものが体という「器」に収まりきらず、あふれてあちこちを汚したものである。これらは痰湿なのだ。ぼくは中性脂肪を下げようとは思っていないが、痰湿を取り去ろうとはしている。目が見えるようになったのも、めまいが消え去ったのも、こむらがえりと縁が無くなったのも、すべて痰湿を除去しつつあるからの変化にほかならない。
中性脂肪が数ヶ月で330も下がるという物理的な大変化、このくらいの変化が起こっているからこそ、様々な症状にも変化が起こっているのである。さらに言えば、330下がったとしても、目にも目眩にも足にも変化が無いならならば、それは正しい下げ方ではないということも強調しておきたい。本当に効いているのならば、数値が良くなれば体調にもこれくらいの変化が出てしかるべきである。
娘さんから寄せられた言葉である。
先生に出会えて母は、気持ちも前を向いて、心も身体も元気になってきたように思います。もし先生の鍼を受けてなかったら、今頃、、、と考えると怖いです。(私は、いつ死んでもいいわと言っていたくらいです。)
本当に感謝しかありません。
治療後には、自然と涙が溢れてきて、、と母が話すのを聞いて、身体が喜んでいるのかなぁと思いました。今まで色んな先生にかかってきて、治療を受けて涙を流したことなんか一度も無かったのにと。先生を信じて、連れて行って良かったと心から思います。
今では、朝のウォーキングで通学する孫に会えるのを楽しみにし、お米を食べて腹八分目に、暖かい飲食、間食を控えて、早寝早起き、今まで無いくらい健康的な日常を楽しんでいます。
これからも宜しくお願いいたします。
東洋医学をいっしょに勉強しよう!
母を何とか助けたい。一生懸命にインターネットで調べて、淡路島から母を大阪の自宅に迎え、電車を乗り継いで当院にたどり着いた。そして、3時間もの初診を甲斐甲斐しく付き添われた。
元気になった。
「夜、寝るのがこわかった。横になったらめまいがするし、明け方になったらこむら返りで痛いし。せやけど今は目も見えるし…。よかったわあ。娘にも、 “良かったね” って言われるねん。」
にこやかに、かつ朴訥に、思いを僕にお伝えになる。
「そうか〜。よかったなあ。」
僕のことを信じるか信じないかは別にどうだっていい。ただし、僕のことを信じた人が、こういう結果になるということが大切である。よくない結果になったら詐欺である。信じてもらうに足る人間・醫者・鍼灸師であらねばならない。
我が身の置かれた立場を、しみじみと自覚するのである。
こういう診察をしている間に、仰向けに寝られる様になった。このときはたまたまかと思ったが、後から考えるとこの瞬間から、1年近く当該患者を悩ませてきためまいが消失したのだ。鍼も打っていないのに、なぜこういう現象が起こったかは、のちに考察する。