陰虚証

概念

陰虚とは、精血不足あるいは津液不足があり、そこに熱を生じたものです。
陰が弱く、陽を制御することができないために熱を生じます。このような熱を「虚熱」と言います。

精血・津液は、いずれも陰に属します。
よって血虚証も津液虧損証も、広義においては陰虚証に属します。

しかし狭義における陰虚証は、血虚証や津液虧損証とは区別されます。鑑別点は、血虚証や津液虧損証には「熱証が見られない」ということです。たとえば血虚証は顔面蒼白または萎黄で熱証が見受けられませんが、陰虚証は顔面紅潮などの熱証が明らかです。

原因

  • 先天虧損… 未熟児・先天異常など。
  • 久病労損… 慢性病・労働過多・セックス過多など。
  • 血虚証から発展… 思慮過度による血の暗耗、慢性出血による陰血不足。
  • 温病後期… 温病熱邪で陰液を消耗。

よく見られる症状

  • 形体消痩… やせ。肉体は物質であり、陰 (血や津液) から作られるため、これが枯渇すると痩せる。
  • 口燥咽乾… 口中やノドが乾燥する。陰 (血や津液) が不足するため。
  • 眩暈… めまい。陰 (血や津液) が頭部を養えない。
    >> めまい…東洋医学から見た6つの原因と治療法 をご参考に。
  • 失眠… 不眠。熱 (虚熱) により、心神が安定しない。
    >> 不眠…東洋医学から見た5つの原因と治療法 をご参考に。
  • 潮熱… ある一定の時間になったら発熱したり熱証が現れたりすること。陰虚の場合は「陰虚潮熱」と言われ、午後から入夜 (夜間とも) にかけて熱っぽさが出やすい。潮熱には他に、「陽明潮熱」「湿温潮熱」があり、いずれも午後から熱っぽさが出るのが特徴である。
  • 盗汗… 寝汗。虚熱により発汗する。
  • 五心煩熱… 前胸部・手掌・足底が熱くなること。 虚熱によって起こる。陰虚潮熱に当たる時間帯で起こりやすい。
    >> 五心煩熱とは をご参考に。
  • 午後顴紅… 午後になるとのぼせて頬が赤くなる。陰虚潮熱の一表現。
  • 尿少色黄… 尿量が少なく尿色が黄色い。虚熱によって尿が煎熬される。
  • 大便乾結… 大便が固くなり出にくい。陰 (血や津液) が足りず、腸壁や大便を潤すことができない。
  • 舌絳少苔… 舌が赤く苔が少ない。これが少なかったりハゲたりするのは、陰の消耗を示す。
  • 脈細数… 細脈は陰血不足、血が減少して細くなる。数脈は熱 (虚熱) によるもの。
    >> 数脈について をご参考に。

陰虚舌

下の画像は鍼灸治療によって改善した陰虚舌 (81歳・女性) です。

改善前の画像には、舌絳少苔の特徴が見受けられます。

左:2020.1.7撮影
右:2020.2.20撮影

この画像の方は、頬が紅潮し陰虚証の特徴を備えていました。陰虚から進んだ陽亢による頸の凝りやめまいも見られました。舌の良性変化とともに陰虚に起因する諸症状の改善が見られました。

ただし、膝の腫脹と痛みも抱えておられ、右画像撮影時点では湿困脾胃証として弁証を変え、膝の治療を継続している状態です。近代は飽食なので水湿痰飲による湿困脾胃証を兼ねているものがほとんどです。上画像の舌もポッテリしていて、それに類するものであることが伺えます。特にお年寄りはお菓子を食べすぎる方が多いですが、この方もそうでした。

関連病証

陰虚証がよく見られる病証は以下のとおりです。

病証別に詳しく見ていきます。

虚労 (慢性疲労)

【原因】

  • 禀賦不足や房労過度により、陰精を消耗し臓腑に虚損をきたすことによっておこる。

【症状】

  • 眩暈・顴紅・失眠・盗汗・五心煩熱… 上記「よく見られる症状」を参照。
  • 咽痛… 陰 (血や津液) がノドを潤せず、虚熱によって痛みを伴う。
  • 腰酸… 酸とは、だるくて力が入らないような痛みのこと。腰は腎の府であり、陰は腎に封蔵されている。よって腰痛となる。
  • 遺精… 虚熱による陽の勢いが激しいため、陰 (精血) が格拒 (弾き飛ばすこと) される。
  • 紅舌・光瑩舌 (鏡面舌…まったく苔のない舌) … 上記「よく見られる症状」を参照。
  • 細にして数脈… 上記「よく見られる症状」を参照。

【治法】

労瘵 (結核)

【原因】

  • 癆虫 (結核菌) が肺に侵入し、長期に渡ると肺陰を損傷し、陰が虚して内熱を生じる。

【症状】

  • 顴紅・盗汗・心煩失眠… 上記「よく見られる症状」を参照。
  • 骨蒸労熱 (骨蒸潮熱) … 五心煩熱が激しくなると手足の骨から熱く感じる。
    >> 五心煩熱とは をご参考に。
  • 咳嗽喀血… 虚熱による迫血妄動。
  • 脇肋疼痛… 肝腎陰虚となり、肝陰虚にともなう肝気実 (気滞) が胸肋部の気機を阻遏する。
  • 紅絳舌・細にして数脈… 上記「よく見られる症状」を参照。

【治法】

  • 養陰清肺。
  • 秦艽鳖甲散。

消渇

【原因】

  • 素体が陰虚のところに、労傷過度 (過労) ・情志失常 (ストレス) ・肥甘厚味の過食などが加わり、蘊熱し傷陰して起こる。

【症状】

  • 大渇引飲… 邪熱によって、飲んでも飲んでもノドがかわく。
  • 多食而痩… 炎の中に薪をくべても灰になるように、いくらでも入って消化するが燃え尽きて肉が付かない。
  • 尿多有甜味… 多尿。尿にアセトン臭 (甘酸っぱい香り) がある。
  • 紅舌・細にして数脈… 上記「よく見られる症状」を参照。

【治法】

  • 滋養陰液。
  • 六味地黄丸。

眩暈

【原因】

  • 陰虚から虚熱が起こり、熱から内風が生まれて肝風内動となる。

【症状】

  • 眩暈… 内風によって頭部に動揺感がある。
  • 耳鳴… 陰虚陽亢による内風が上昇し、蘊熱の邪が清竅を塞ぎ耳鳴となる。また、内風がそのまま上昇し続けると正気が漏れる (気脱) ので、そうさせない力が働き (気閉) 、耳鳴となると理解しても良い。
  • 肢体震顫… 内風によって筋肉が動揺しふるえる。
  • 筋惕肉瞤… 内風によって筋肉が動揺し痙攣する。
  • 五心煩熱… 陰虚内熱による症状。
  • 悪心嘔吐… 陰虚陽亢の実的要素である気逆が胃気逆となって起こる。
  • 紅舌・細にして数脈… 上記「よく見られる症状」を参照。

【治法】

  • 養陰熄風。
  • 大定風珠。

特徴

陰虚証は、慢性病で見られる証であり、長期に渡ると陰液を耗傷し、また平素から炙煿煎炒 (炙ったり焼いたり煮詰めたり炒ったりしたもの) の品を好んで食べすぎると、いっそう積熱しやすく、動火して傷陰し、陰虚証となります。

熱之所過.其陰必傷. (呉鞠通)

よって、温病の後期には傷陰による陰虚証が出現しやすくなまります。

証の変化

陰虚から発展し、以下の証を形成することがあります。

▶陰虚動風証 
陰虚液少→陽気を制御できない→陽光化風となって出現する。 眩暈・四肢麻木して震顫する・言語不利ハッキリしゃべることができない。

▶陰陽両虚証
陰虚証が長引く→陰虚が陽に及んで出現する。陰虚証の症状 (潮熱・盗汗・五心煩熱) に加えて、陽虚証の症状 (倦怠乏力・畏寒肢冷)

▶気陰両虚証
温病後期あるいは内傷雑病→陰液を虧損→元気をも虧損して出現する。気虚証の症状 (倦怠乏力・少気懶言・自汗) に加えて陰虚証の症状 (口乾咽燥・微熱・潮熱・五心煩熱・盗汗) 、脈は虚数。

湿郁熱伏証との鑑別

湿郁熱伏証には、湿温潮熱と呼ばれる証候があり、これが陰虚潮熱とよく似ています。陰虚証と同じく午後から入夜 (日没) まで発熱が見られ、発汗しても熱が引かない証候は陰虚証に似ています。ゆえに鑑別が必要です。ちなみに陰虚潮熱は「午後から入夜まで」とも「午後から夜間まで」とも言われるので、湿温潮熱よりも長く発熱の時間帯があると言えます。

  • 身熱不暢 >> 表に張り付いた湿邪によって、裏の陽気が外に暢 (のび) ることができない。
  • 午後から入夜 (日没) まで発熱などの熱証がハッキリする (湿温潮熱) 。
  • 汗が出るが熱が引かない。
  • 頭重如裹 (まとわりつくような頭重感) 。体がだる重い。 >> 外湿によって清陽が阻遏される。
  • 胸腹脹悶。不口渇。食欲不振。 >> 外湿が内湿を引き起こし、胃の下降作用を妨げる。
  • 尿黄。 >> 内熱を示す。
  • 厚白膩苔にして絳舌。濡にして数脈。

湿郁熱伏証とは、高温多湿の環境下で起こりやすい温病の一種です。外感病の一つです。外感病は急性短期が特徴ですが、湿邪はまとわりついてやや長期化しやすい傾向があり、ここが陰虚証と間違えやすいところです。外邪は風邪と湿邪、つまり風湿です。
風邪によって導かれた湿邪が表を犯し、裏の陽気を外に発散させなくし、その結果、裏の陽気は裏熱となって発熱します。

【私見】
もともと陰の器 (器には陰が入る) が小さい人が湿邪に犯されると風湿熱という形を取りやすい。陰の器が小さいと、水湿の邪を陰の器に入れて受け止めることができず、器から溢れてしまい、水湿痰飲の邪となる。また陰の器が小さいと陽気が力を持ちすぎて内熱傾向となる。さらに蒸し暑い気候という条件が重なって、外湿内熱の証を形成する。

湿邪の壁が分厚すぎると、内熱がまったく透熱しないので発熱しない。
湿邪の壁がやや薄いと、内熱が一部透熱するので発熱する。
内熱が湿邪に勝てば発熱し、湿邪に負ければ発熱しない。

蒸し暑い梅雨をイメージする。

午前中は比較的涼しく、陰邪としての湿邪 (寒湿) は衰えず、内熱も冷めているので発熱しない。
昼過ぎから湿邪は比較的弱くになり、内熱が増して発熱する。
日没以降は湿邪がやや増してくるので邪熱はあっても発熱が下火になっていく。
明け方はフトンでじっとしているため内湿が増して、内熱も冷めるので発熱しない。

考察

参考文献:中国中医研究院「証候鑑別診断学」人民衛生出版社1995

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました