傷寒論私見…大青龍湯 その1〔38〕

子どもが3人いますが、彼らが小さかった頃は、発熱するたびに悪戦苦闘でした。こんなヤブ医者に任せられないと見るや、妻が病院に連れて行ったものです。 しかしその繰り返しの中で、腕を磨きました。いまは、発熱などの感染症で手こずることはなくなりました。治療後24時間以内に解熱が自分なりの最低ラインです。それ以上かかる場合は、患者さんが言った通りの養生をやってくれないケースです。 発熱を治せるようになったからこそ、アトピー・喘息・膝関節炎その他の炎症疾患や、難病にも向き合うことができています。 そういう経験から言うのですが、大青龍湯証は現代は存在しないのではないかと考えています。みんな、誰も彼もが正気の弱りが激しく、そもそも浮緊などの実脈を呈する人 (麻黄湯証・葛根湯証) は診たことがないからです。もちろん、正気を補えば本来の浮緊が出てくるので、そこで一気に瀉法です。 ただし、大青龍湯証は現代にも生きています。実際には見られなくとも、そのメカニズム (病機・機序) は不変のものとして存在するからです。あらゆるメカニズムを一通り理解しておかないと、難病には立ち向かえません。

38 太陽中風、脈浮緊、発熱、悪寒、身疼痛、不汗出而煩躁者、大青龍湯主之、

37条の、脇痛があっても、脈が浮にして幅が中等度あり (細脈ではない) ならば麻黄湯で行きなさい、という内容を踏まえています。

つまり、身体に疼痛が、たとえ脇にあったとしても、浮緊 (浮細ではなく浮にして幅あり) の脈であれば、小柴胡湯は考えなくてもいいですよ、という意図があります。

▶誤写がある

さて、条文の「太陽中風」とは、太陽病で中風寄りだということですが、これは誤写としか思えません。2条の中風の定義に「汗出」とあるのですから、本条文にある「不汗出」と相容れません。また、39条にも「傷寒、脈浮緩」とありますが、矛盾しています。

もしかしたら、と思うのですが、38条冒頭の「太陽中風」と、39条冒頭の「傷寒」は、書き写すときに逆にしてしまったのではないか、38が「傷寒、脈浮緊、発熱、悪寒、身疼痛、不汗出而煩躁者、大青龍湯主之、」で、39が「太陽中風、脈浮緩、身不疼、但重、乍有軽時、無少陰証者、大青龍湯主之、」ならば、つじつまがあいます。よって、それに従い展開します。

38 傷寒、脈浮緊、発熱、悪寒、身疼痛、不汗出而煩躁者、大青龍湯主之、

▶傷寒+煩躁

傷寒とは、3条「太陽病、或已発熱、或未発熱、必悪寒、体痛、嘔逆、脈陰陽倶緊者、名曰傷寒、」です。その上に、本条文の証候が加わります。嘔逆以外は、本条は同じことを言っており、そこに煩躁が加わっています。大青龍湯証に嘔逆があってもいいということです。

  • 発熱しているということは、表に衛気がドンドン補充されているということです。「陽浮」ですね。
  • 悪寒があり、悪風がないので、傷寒ということが言えます。
  • 頭項強痛に加えて身体疼痛があります。寒邪は疏泄しないので痛みがでますが、その痛みが強烈だということでしょう。寒邪が強いからです。
  • 煩躁があります。これは邪熱です。寒邪で邪熱が発散できなくなっているので、いわば魔法瓶状態です。もともと内熱傾向で、営衛が充実している人が、強制的な強い寒邪に当たった場合の証です。

▶発病前の状態を考える

▶相火妄動

もうすこし深く掘り下げましょう。内熱傾向で営衛 (正気) が充実していると言いましたが、正気が充実しているなら、内熱など籠らないはずです。これは陰陽が狂っている側面があるからです。ふつうは、「正気が優勢:邪気が劣勢」という陰陽関係があって、正気が強ければ強いほど、邪気は弱くなります。

この優劣という陰陽の振り子が振れなくなる、すなわち優劣という陰陽が機能しなくなると、「正気:邪気」という陰陽に変化します。つまり、正気が正気らしくなればなるほど、邪気も邪気らしくなる。この状況下では、命門の火が強い人は、その分、邪熱も強くなります。これを相火妄動と言います。

▶鍼で治療

この段階で…つまり発病前に治療するなら、境界…少陽枢 (誤った肝気) …を治療します。すると陰陽が正しく機能しようとする。鍼で行くなら百会です。膻中・関元・神道・命門なども、反応を注視し、百会に勝れば行きます。反応が分からないならば行ってはなりません。

▶肝気のむかう方向

この異常事態を主導するのは、肝気がどこに向かっているか、疏泄するかによります。肝気が正しい方向に向かえば、正しい生活習慣となり、邪気をためません。逆に肝気が誤った方向に進めば、誤った生活習慣となり、元気であればあるほど、体に悪いことをしてしまい、邪気が旺盛になります。疏泄太過や、肝気偏旺とは、平たく言うとこういうことです。

そのような側面を持つ人が、冷えに当たると大青龍湯証になるのです。もともと内熱をもっていて、正気も旺盛な人が、寒邪にやられる。かなり厳しい寒邪でしょうし、相当な不摂生をしたのです。

調子に乗って不摂生をやっていた体質の強い人が、急にしんどくなった。これは「気をつけろよ」と自然からたしなめられているのです。そして反省し、肝気は正しい方向に導かれるのです。カゼといえども、我々の心と体をフィードバックしてくれているのです。

もちろん、大青龍湯証になってしまえば、大青龍湯で治療すべきです。予防の方法も考えるべきだ、ということを言っているのです。

若脈微弱、汗出、悪風者、不可服、服之、則厥逆、筋惕肉瞤、此為逆、

▶不可服麻黄の法則

脈微弱、汗出、悪風ということは、桂枝湯証です。こんな証に大青龍湯をもっていったら大変なことになるよ、という注意書きです。

筋惕肉瞤” とは、筋痙攣のことです。筋肉が惕然 (恐れおののくかのように) として瞤動 (痙攣) することです。
・惕… おそれること
・瞤…  (目が) ピクつくこと

発汗過多,津液枯少,陽気太虚,筋肉失養,故惕惕然而跳,瞤瞤然而動也.《傷寒明理論・巻三》

実は、この条文は大原則を示しています。桂枝湯証に強い麻黄剤を与えたら大変なことになるぞ、ということです。麻黄湯証に桂枝湯を与えても、それほどの悪化はしませんが、「逆」をやると取り返しのつかないようなことになりかねません。44条46条で再度説明します。

大青龍湯方 麻黄六両 桂枝二両 甘草二両 杏仁四十枚 生姜三両 大棗十枚 石膏如鶏子大 右七味、以水九升、先煮麻黄、減二升、去上沫、内諸薬、煮取三升、去滓、温服一升、取微似汗、一服汗者、停後服、

▶組成

 大青龍湯… 麻黄6 桂枝2 甘草2 杏仁40 生姜3 大棗10 石膏如鶏子大 
 麻黄湯… 麻黄3 桂枝2 甘草1 杏仁70 

麻黄湯の倍の麻黄を使っています。

杏仁は肺経気分に働いて宣発を強化します。麻黄は杏仁よりも浅いところの宣発強化ですね。石膏は辛寒で内にこもった邪熱を辛開によって発散します。それほど深い熱ではないことが想像できます。

石膏・杏仁・麻黄でバケツリレーのように、肌肉の熱を外に発散させます。また桂枝で寒邪を温めて動きやすくし麻黄で発散させます。麻黄六両でかなり正気に負担をかけるので、生姜・甘草・大棗で胃気をバックアップします。

少し汗がジワッと出たら、それでスッキリするはずだから、すぐ服用を止めなさい。基本ですね。

▶鍼灸

大青龍湯を鍼灸で行くなら、合谷でしょう。純粋な大青龍湯証なら、少し太い目の鍼で刺したら脈が緩むと思います。そう純粋なものが少ないというだけのことです。純粋な証にしてから合谷に行けば、効くと思います。合谷で上巨虚や内庭の反応が消えなければなりません。

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