傷寒論私見…麻黄湯〔35・36〕

35 太陽病、頭痛、発熱、身疼、腰痛、骨節疼痛、悪風、無汗而喘者、麻黄湯主之、

▶葛根湯より寒邪が強い

太陽病です。傷寒 (主に寒邪) も含むが、中風 (主に風邪) も含むことを示唆します。ですから1条 (脈浮、頭項強痛、而悪寒) に本条文が加わります。つまりこういうことです。

35 太陽病 (脈浮・頭項強痛・悪寒) 、頭痛、発熱、身疼、腰痛、骨節疼痛、悪風、無汗而喘者、麻黄湯主之、

頭項強痛の上に、頭痛・身疼 (身体痛) ・腰痛・骨節疼痛…と、くどいほど痛みを列挙しています。これは寒邪による気滞が強いことを意味します。31葛根湯の「項背強」よりも痛みがハッキリしており、寒邪がきついことが分かります。

無汗ですので、陰弱ではありません。
喘とは呼吸困難のことです。寒邪は郁滞をもたらすので肺気が伸びないと考えます。

▶傷寒よりも寒邪が弱い

3条と比較します。

3条「太陽病 (脈浮・頭項強痛・悪寒) 、或已発熱、或未発熱必悪寒、体痛、嘔逆、脈陰陽倶緊者、名曰傷寒、」

3条は寒邪100%の表証、すなわち「傷寒」を呈示し、寒邪の性質をしめす典型例を挙げています。

3条は「必悪寒」ですね。本条は、太陽病の定義である悪寒に加え、「悪風」とあります。寒邪・風邪ともにあるということです。
本条には、「或未発熱」がありません。風邪がいくらかあって最初から発熱するからです。
また本条では浮脈とは言っていますが、脈陰陽倶緊とは言っていません (もちろん寒邪の割合が多ければ多いほど純粋な緊脈に近づきます) 。営陰に多少の弱りがあるからです。そもそも風邪があるということは営陰や衛陽に弱りがあるからでしたね。

以上から麻黄湯証には寒邪だけでなく風邪もあり、寒邪>風邪 の風寒であることが言えます。寒邪100%ではないのです。

▶伝変する可能性

この多少の営陰や衛陽の弱りは、伝変する可能性があることを意味します。だから麻黄湯証は、次の36条 (太陽陽明合病) に見られるように陽明に伝変することがあるのです。それに対して3条は、おそらく伝変していない純粋な表証で、「陰陽ともに緊」ということからも、表衛が頑張るだけ営陰も頑張るという図式があり、それだけ営陰に底力があることが想像できます。

ちなみに本条には嘔逆という詞がありませんが、桂枝湯証に乾嘔があり、傷寒に嘔逆があるところから類推すると、本条でも嘔の症状はあると言えます。当然ですが。

麻黄湯方 麻黄三両 桂枝二両 甘草一両 杏仁七十個右四味、以水九升、先煮麻黄、減二升、去上沫、内諸薬、煮取三升半、去滓、温服八合、覆取微似汗、不須粥啜、余如桂枝法将息、

▶組成

麻黄は肺の宣発を助け、衛気を皮毛から発散させる作用です。桂枝は営陰 (脈) を温め、営陰を衛気に気化して表を温めます。麻黄と桂枝が手をつなぐと、強力な辛散発汗作用が生まれます。甘草は、麻黄の瀉、桂枝の補をつなぐ役でしょうか。

杏仁は肺経気分に入り、辛散・苦降し、肺の邪気を取り、喘を治めます。気分というと陽明をイメージさせますね。

麻黄湯は瀉剤なので粥は不要です。それ以外は桂枝湯と同じようにやれ、とのことです。

36 太陽与陽明合病、喘而胸満者、不可下、宜麻黄湯主之、

▶不可下

太陽と陽明の合病については、
32条で、「太陽与陽明合病者、必自下利、葛根湯主之、」
33条で、「太陽与陽明合病、不下利、但嘔者、葛根加半夏湯主之、」とあります。
本条は「不可下」ですから、「自下利」はないと思われます。すでに下痢しているものを下そうとは思わないですから。

太陽病 (脈浮・頭項強痛・悪寒)
+ 陽明病 (心煩・高熱)
+ 喘&胸満
= 麻黄湯

ここで、「不可下」とあるのは、32葛根湯は自下痢がすでにあるので下すことはあり得ないし、33葛根加半夏湯は、212条「傷寒、嘔多、雖有陽明証、不可攻之、」の法則により不可下なので、これも不可下ですよ、と言ったものと思われます。つまりは、太陽陽明合病はどんな場合でも不可下です。

▶肺の郁滞

▶喘

本条の重要な鑑別点に「喘」がありますが、
35条「太陽病、頭痛、発熱、身疼、腰痛、骨節疼痛、悪風、無汗而喘者、麻黄湯主之、」にも喘が出てきます。喘は、麻黄湯に行く際の重要な証候であると考えられます。麻黄湯に行くということは、それだけ表の寒邪が強いわけで、それを除くにはそれだけ強い薬が必要になります。その時の判断基準になるのが喘である、ということです。

それから胃家実によって陽明が郁滞し、気が下降することができず肺の粛降も妨げられた。それによる喘ということも言えます。

つまりこの喘は、
➀寒邪によって肺経がフリーズし、それが肺臓に気滞を起こしたもの。
②胃家実によって胃の下降がフリーズし、それが肺臓に気滞を起こしたもの。
とまとめられます。

▶胸満

同じく、胸満も寒邪によって肺経と胃がフリーズし、それが肺臓に気滞を起こしたものです。しかし、35条の麻黄湯 (太陽病のみ) には胸満という証候はありません。

そもそも胸満とはどうして起こるのでしょうか。胸満は22条「太陽病、下之後、脈促、胸満者、桂枝去芍薬湯主之、」で説明したように、営陰の郁滞です。22条では、風寒 (衛気が渋滞) に下剤をかけて、そのはずみで営陰までが肺において渋滞してしまった…と説明しました。

本条ではどうでしょう。表寒がきついということは、衛気が渋滞しているということです。そのうえ胃家実 (胃気が下降できない) によって営陰も上衝してしまい渋滞します。そのために胸満が起こります。だから合病には “胸満” という証候があるのです。

▶杏仁の働き

喘は上記のように、表寒による衛気の渋滞・肺気の渋滞という側面がまず一つです。もう一つは胃家実によって消化管内容物が滞ると、胃気が下降できず、肺の宣発粛降にも悪影響を与え、喘が発症するのです。この辺は杏仁が肺経気分に効き、苦降のはたらきで陽明を助け、また通便作用もある (腸燥便秘に用いる) 薬であることと関係が深いと思います。

杏仁…苦辛温。肺・大腸。風寒・痰湿をさばく。

▶桂枝湯証に合病はない

▶胃家実のレベル

太陽陽明合病としての、32葛根湯 (自下痢) と33葛根加半夏湯 (陽明気滞による嘔) と36麻黄湯 (陽明と肺気滞による喘・胸満) とを比べると、後者ほど気滞が強くなっていることが分かります。自下痢→嘔→喘&胸満 という具合です。つまり、合病としての胃家実が後者ほどひどいということが言えます。裏をかえせば、太陽病としての表寒が後者ほどきついということです。

▶寒邪のレベル

31条 (太陽病の葛根湯) ・32条 (太陽陽明合病の葛根湯) ・33条 (葛根加半夏湯) ・35条 (太陽病の麻黄湯) ・36条 (太陽陽明合病の麻黄湯) をまとめて見ると、麻黄湯証と葛根 (加半夏) 湯証の相違点は、麻黄湯は寒邪の絶対量が多く、葛根湯は寒邪の絶対量が少ないという点です。

共通点は、寒邪>風邪という構図です。わずかだが風邪があることに注目です。風邪は疏泄しましたね。太陽から陽明に入るルートに風穴をあけるのです。だから太陽病と太陽陽明合病と、2つの病証があるのです。

寒邪の気滞が胃に影響

寒邪が強い分だけ、同時に胃家実も強いということです。つまり、気滞 (寒邪と胃家実) が表裏ともに同時に影響し、一気に滞って合病となっているのです。一気に病証を形成するのは実証の特徴でもあります。

桂枝湯証は虚証であり、風邪は疏泄するので一気に一まとまりで滞るということはありません。一気にまるごと (太陽・陽明同時に) 病まず、じわじわと虚が進んで併病 (二陽併病) となります。

 風邪>寒邪  寒邪の割合が非常に少ない  桂枝湯 
 風邪>寒邪  寒邪の割合がやや少ない  桂枝葛根湯 
 寒邪>風邪  寒邪の割合がやや多い  葛根湯 (合病あり)  
 寒邪>風邪  寒邪の割合が非常に多い  麻黄湯 (合病あり)  

▶2つの麻黄湯は通じ合う

▶麻黄湯が陽明に行く理由

なぜ麻黄湯が陽明まで行くのでしょうか。これは図で説明します。

太陽 (図の皮毛) と陽明 (図の肌肉) は、表裏という陰陽です。陰陽にはそれを分ける表裏の境界 (少陽) があります。太陽の邪が強すぎて、あるいは陽明が相対的に弱くて、太陽の邪が境界の壁に激突し、余波が境界を越えて影響してしまったということです。境界に邪が入ったわけでも、裏に邪が入ったわけでもありません。だから表の薬で効くのです。

つまり、強烈な寒邪は「狭義の皮毛」を侵します。それは「広義の表裏の境界」という壁に激突し、その衝撃が「狭義の肌肉」に伝わるのです。

境界は直接侵されていません。もし、境界 (少陽) に邪が直接入ったら、往来寒熱が起こり、幅のない脈を呈するはずです。

▶胃の気が動く

このように考えると、表病としての麻黄湯の深い意味が見えてきます。麻黄湯の特徴は身体痛です。かつて、「けいれん…東洋医学から見たつの原因と治療法」で、頭項強痛は軽い痙攣と同義であると説明しました。痙攣の病理は筋脈が潤せないことです。特に、脈が潤せないと、乾きが筋に波及し、筋の陽動的本性がむき出しとなって、痙攣するのです。

つまり、頭項強痛・項背強 (桂枝加葛根湯・葛根湯) や、麻黄湯の身疼・腰痛・骨節疼痛も、皮毛の寒邪によって疏泄できないで不通となり痛みが出たものでもあり、その不通となった場所に水穀の精 (胃の気=陽明の気) が由来となる津液が入り込めないために不通が改善せず、痛みが取れないものでもある、ということができます。

表病としての麻黄湯証の場合は、表の寒邪がガチガチで津液の通り道を塞いでいるので、表の寒邪を取っただけで津液が再びめぐりだし、表を潤す。

ちなみに、そのときに発熱 (熱邪) があれば、それも一緒に表から外に発散するのです。この熱邪は、皮毛から肌表 (太陽) ・肌肉 (陽明) までの範囲であれば、解表した拍子に外に向かうのです。

よって麻黄湯証は、葛根で胃の気を鼓舞したり (葛根湯) 、生姜や大棗で胃の気の幅を増やしたり (桂枝湯) する必要がないに過ぎません。陽明の胃の気 (水穀の精) に本来の動きを取り戻させる。それは麻黄湯も同じなのです。

麻黄湯に一両だけ足された甘草は、陽明と太陽をつなぐ役目があるのかもしれません

このように考えると、表病としての麻黄湯と合病としての麻黄湯は同じものです。麻黄湯はそもそも、陽明に響かせる薬なのです。

▶鍼灸

鍼灸で、麻黄湯証には合谷を用います。合谷は正気をも補うことのできる穴処であることを思うと、非常に意味深いものを感じます。

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