いつも勉強させていただいております。
東洋医学をいっしょに勉強しよう! (一部に字句の訂正を行った)
今回はある患者さんの件で、東洋医学的にはどの様な見解になるのかを知りたくメッセージ致します。
Aさんは初期の「膵臓癌 (la)」と診断され膵臓の3/4を切除したそうです。その後、「糖尿病薬、高コレステロール薬、骨粗鬆症薬及び睡眠薬」が処方されています。医師からは食事指導としては「パンをやめてご飯にしなさい。」だったそうです。膵臓を 取ってしまった事により、「高血糖・高コレステロール・骨の脆弱化」が今後起きる可能性がある為に上記の処方だと思われます。
こういった場合、東洋医学的には、どの様な捉え方をし、今後どの様な影響が考えられ、どの様に体は反応していくのか。また、どの様な方法でカラダを サポートできるのか…の先生の見解をお聞きしたいのです。お忙しい中申し訳ありませんがよろしくお願い致します。

こういうことを言う東洋医学研究者を僕はまだ知らないのですが、東洋医学には「脾」という概念があり、これを詳しく学んでいくと、驚くほどに西洋医学における「肝臓」と符合します。運化を主 (つかさど) る脾は、さらに膵臓の働きをも含み、胃腸の機能をも兼ね備え、また腎臓の一部機能をも持ち合わせます。ここでは、脾というものを、西洋医学の肝臓・膵臓・胃腸を包括した概念であると想定して話を進めていきます。つまり、食物を消化 (膵臓・胃腸) ・吸収 (腸) し、それを人体に変え (肝臓) 生命を生み出すところの機能、それが脾であるという前提です。
前提が確定したところで質問をもう一度読み直してみましょう。
さて、まず膵臓がんを生み出してしまうということ自体、脾 (肝臓) がうまく機能していないということになりますね。つまり出来損ないの人体 (膵臓) を作ってしまっている。なぜ出来損ないを作るかというと、脾 (肝臓) がくたびれきってしまっているからです。車の製造にしても、技術者である従業員がくたびれきっていれば、欠陥品ができてしまうのは理屈です。では、なぜ脾がくたびれきったのか。もっとも単純な理由は、仕事が多すぎるからです。昨日も徹夜で仕事、明日も徹夜となりますと、誰だってくたびれきってしまいますね。脾 (肝臓) にとって仕事が多すぎるというのは、食べる量が多すぎる、つまり食べ過ぎです。
食べ過ぎの他にも、脾 (肝臓) がくたびれる原因はたくさんあります。
従業員がくたびれる原因を考えればいい。
時間外呼び出し出勤です。最もくたびれさせるのは夜間呼び出し出勤ですね。たった5分で済む仕事だから…と言われても、深夜に呼び出されれば誰だってガックリきます。くたびれる。これが間食に相当します。たったピーナッツ一粒でも、食事時間以外の時間に食べると、想像以上の負担が脾 (肝臓) を襲っているのです。 >> https://sinsindoo.com/archives/liver-collabo.html#間食
この他にも、心の酷使 (労神過度) ・体の酷使 (労力過度) ・目の酷使やそれに伴う夜ふかし (労力過度) などが脾 (肝臓) を弱らせます。

その脾 (肝臓) が、膵臓も作っているのです。
食べ物を材料にして。
- くたびれた脾 (肝臓) が、出来の悪い膵臓を作っちゃった。これが膵癌です。
- くたびれた脾 (肝臓)は、コレステロールをついうっかり延々と作っちゃった。これが高コレステロール血症です。
- くたびれた脾 (胃腸) は、消化吸収がちゃんとできなくなった。カルシウムも吸収できなくなった。これが骨粗鬆症です。
- くたびれた脾 (肝臓) が、出来の悪い脳神経系を作った。これが不眠です。
食事指導として “パンをやめてご飯にしなさい” は、正鵠を得ています。白米を主食にすれば食べ過ぎを防ぐことが可能です。ただし白米と副食物の割合を設定するという重要項目が抜けています。

上に記したように、脾 (肝臓) がくたびれる原因は1つや2つではありません。それら原因のうち、どれがAさんにとって主になるかを醫者が診断する必要があります。そしてその主になる原因をどうやって除去していくか、これが非常に技術のいることです。押し付けては逆効果となります。上手に養生指導を進めていく必要があります。
さらに、積極的に「脾 (肝臓) を強くする」治療を行う必要があります。これも非常に技術のいることです。強くするからといって補法ばかりをバカの一つ覚えみたいにやっても、長期的に見ると「ガンを強くする」ことにつながってしまいます。
あとは、薬です。さじ加減が重要であることは言うまでもありません。必要な薬は肝臓に負担をかけてでも飲むべき値打ちがありますが、不必要な薬は肝臓に負担をかけるばかりでデメリットしかありません。

薬は対症療法です。それはそれで軽視してはなりませんが、原因改善を忘れてしまっては元も子もありません。対症療法と原因療法は陰陽関係にあり、陰陽とは夫婦関係と同じです。お互いがお互いを補い合い、助け合い、時には諌めあう関係にあります。
対症療法を主とすべきか、原因療法を主とすべきかは、その病態のフェーズによって判断すべきでしょう。この判断はこの病気が改善するか悪化するかを決定します。これを “今後どの様な影響が考えられ、どの様に体は反応していくのか” の回答とします。
この判断は非常に難しいですが、僕はこれを脈診でやります。体に直接聞くという方法です。こういう「決め手」は、臨床では必要だと思います。必殺技が必要なんです。

養生指導、中医学的治療、西洋医学的治療、これらのうち、どれをどのように行うかはとても難しいことです。そもそも人智で人間一体は作れません。ここにある人体を作っているのは、まぎれもなく肝臓です。飲食物を材料に、それをヒト固有のタンパク質に変換して、肝臓が中心となって作り上げたのです。時計を作れる人は時計の修理ができますね。作れない人の修理はちょっと頼りない。
人体生命を人類が作れない限り、人体の修理は難しいと言えます。できれば人体を作っている肝臓にそれをお願いしたい。肝臓が生き生きと仕事をし出したら、人体軟部組織は3ヶ月で入れ替わると言われているのですから、やがて生命は生き生きし出すことは請け合いです。
そのためには。
肝臓が何で困っているのか、どうしたら肝臓が働きやすい職場環境を作ることができるのか、それを熟知した人間が必要なります。
人が何で困っているのか、どうしたらその人が働きやすくなるのか。その本人と話もしないで、どうやってそれを知り改善することができるでしょうか。
肝臓には「各種タンパク質の生成」という重要な機能がある。他生物のタンパク質を原子レベルで分離、再結合させてヒト固有のタンパク質を作り出すのである。このように変化させ生み出す働きのことを東洋医学では「生化」という。生化を主 (つかさど) るのが脾である。「気血生化の源」たるゆえんである。