春は “発陳” (はっちん) の季節である。ここでいう春とは、立春 (2月4日ごろ) から立夏 (5月5日ごろ) 前日までをいう。
2022年、立春から10日を過ぎた。
春三月.此謂発陳.天地倶生.万物以栄.《素問・四氣調神大論02》
【訳】春の3ヶ月は発陳という。天も地もともに生まれるのだ。万物はこうして栄える。
「発」とは発露・発現のこと。
「陳」とは陳列のこと。陳列棚に並んだものは一目で何がどこにあるか分かる。
芽吹きは発陳、肝が関わる。
冬の間、枯れ木のように葉を落とした樹木は、何の木だか見た目ではわからない。しかし、春になると花が咲き葉を広げ、ああこれは桜だったか、紅葉だったか…と明らかになる。正体が明らかになり、わかりやすくなるのである。
良くも悪くも、ばれる。
才能も、悪いクセも、みんな。ついでに病気も。健康も。花粉症だったことも。
冬は深く暗い季節だった。夜と同じである。隣の家の人でも、夜は深く秘められ、何をしているかよくわからない。しかし朝が来て、つまり春の発陳となると、それが一気にわかりやすくなるのである。
年明けからの特徴は、それとは真逆だった。前にも言ったが、みんなすごく疲れている。顔の気色が沈んでいるのである。なのに、表面化しない、疲れを感じないのが特徴だった。冬の “封蔵” の特徴である。深く秘められ現れてこない。
- 封蔵については 東洋医学の腎臓って何だろう をご参考に。
それが一気に表面化するのが発陳である。患者さんにも変化が見られてきた。疲れが表面化する人が多くなった。これはその方が良い。正直だからだ。隠すのはよくない。子供でも「泥棒した」と正直に言ってもらえばどうにかなるが、隠されると手の打ちようがないではないか。
相変わらず、食養生が第一義だ。癘気にも気をつけて。 “発陳” となる可能性はゼロではない。腹八分目にして、不測の事態に備えておくことだ。
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その指導に加えて、「毎日のスピードを、今が10だとしたら8にしてください。」というケースが増えている。ほんの少し、ゆっくりを心がけることで二分の余裕ができる。
このケースでは、左申脈・左照海 (陽蹻脈・陰蹻脈) が実で出ており、体ぜんたいを望診すると、気が極端に上に昇っている。
気が昇るのも春の特徴だ。
いま、木々は一生懸命に根から養分 (水と栄養) を吸い上げている。花や葉を広げる準備である。根から活動を始め、養分を徐々に幹に持ち上げる。まだ芽に届けるのは早い。ことを急がず、ゆっくりと時期を待ちながら。
ところが弱ってゆく木になると、そうではない。養分を吸い上げることができず、しかし気だけは上に上にと昇る。それに伴うべき養分がないにも関わらず。
気が昇るのはそれてよいのである。しかし養分を伴わない気は、形体を表現することができず、芽吹くことができない。気だけが虚しく上り、抜け出てしまう。たとえば、ナベに火をかけるのはそれでよいのである。しかし中身のモノを伴わないナベに火をかけると “から炊き” になってしまう。
極端に気が昇るのは、それに見合う血が足りないからである。体は、気が抜け出てしまうのを防ぐために、フタをして食い止める。上から押さえつけてくるそのフタは、気分の良いものではない。これが症状である。木の芽時のわずらいでもある。
- 気と血の関係…疏泄太過を考える をご参考に。
無理にブレーキがかけられているのだ。
ブレーキが効いていれば、燃料が減らない。こうして体は血を節約して、芽吹きの季節に間に合わそうとしているのだ。
芽吹きにはすごくエネルギーがいる。冬はその必要のなかったエネルギーだが、春は必要なのである。季節が進み、血が急に要り用になったので、足りなくなったのである。
よって、10から8にすることが有効となる。10から8にしても、仕事量はかえって増える。ミスが少なくなるからだ。そのうえ少しの余裕ができる。それを少しずつ、少しずつ貯金する。
貯金先の口座は、「奇経八脈」である。とくに陽蹻脈・陰蹻脈という口座に貯金が足りない。それが申脈・照海の実の反応である。実の正体はフタであると考えるといい。
この口座が不足してくると、たとえば不眠が起こりやすい。床に入ったらすぐに眠りにつく機敏さ、朝が来たらすぐに起き上がる機敏さ、この敏捷 (びんしょう) さは「蹻捷 (きょうしょう) 」ともいわれる。
発陳の陳は、東でもある。東から昇る朝日のことである。これから待ったなしで発露する春、この春を敏捷に迎えるために、少しゆっくり生活して貯金を蓄えておきたい。この敏捷さ (貯金) は、ムダな動きに使わないほうがいい。春の飛躍、スタートダッシュにとっておこう。