汗疱 (手足の湿疹) の症例

▶これまでの経過

60才。男性。

7年前から汗疱。 >> 汗疱とは

両足の裏がかゆく、水ぶくれができ、かくと水ぶくれが破れて血が出る。
足がうずき、痛くて歩けない。足のほてり・むくみを伴う。
手のひらも足と同様の症状のために手作業ができない。手よりも足の方が歩けない分つらい。

毎年、5月中旬に急に水疱ができ、上記症状がはじまる。
夏の高温期が症状のピーク。
10月頃からましになりはじめる。
冬季は両足親指の内側のむず痒さでひっかき傷はあるものの、水疱はできず痛みもない。

このサイクルを7年間、毎年繰り返している。

例年どおり、今年も5月中旬に突然、水泡を発症した。

・プレドニン錠 (ステロイド内服薬)
・アンテベート (ステロイド外用薬・ベリーストロング)
・エスバキン (抗ヒスタミン薬)
以上を使用している。

その他、
食べ過ぎると足にかゆさ・ほてり・うずきが増す。
悪寒がする。

▶2016年 (初診)

6/17(初診)
現在、足底の痛みが激しく歩けない。特に今年はひどい。

治療…左大巨に鍼。正気を補いつつ気滞を取り去る目的。同時に表寒を取る。
週に2回のペースで治療を継続する。

6/30(5診目)
足の痛みがましになり、発症から1か月半ぶりに歩けるようになった。
治療…左臨泣に鍼。痰湿・瘀血を除く目的。

7/4(6診目)
手足とも赤みが目に見えて減ってきた。
治療…百会に鍼。正気を補いつつ、寒痰と肝鬱化火を同時に取り去る目的。

7/25(13診目)
手足ともきれいになってきた。山登りに行くことができた。
治療…左大巨に鍼。正気を補いつつ邪熱を取る目的。

9/12(25診目)
完全にきれいな足になった。例年、冬になるとましにはなるが、こんなに良くはならない。
治療…右豊隆に鍼。正気を補いながら痰湿を取り去る目的。

症状の改善を見たため、医師と相談のうえステロイド (プレドニン・アンテベート) その他は中止し、現在 (2021年10月) も使用していない。

治療開始から美しい足になるまでの期間は、3ヶ月弱であった。

▶2023.8.2 補筆
これはかなり過去の症例 (2016年) である。その後、乳児アトピーの症例乾癬の症例などを報告してきたが、みんなそろって3ヶ月弱 (3ヶ月に満たない日数) で治癒している。この偶然の一致はどういうことだろうか。

ここで思い出すのは、人体の軟部組織は約3ヶ月で入れ替わるという事実である。たとえば血管・筋肉・神経・内臓諸器官は、3ヶ月たてば現在のものはすべて消え去り、新品に入れ替わっているのである。例えば爪は6ヶ月もあれば生え変わるが、それと同様のことが起こっている。

この体の血管をすべてつなぎ合わせると、地球を2周半する長さがあると言われるが、そんな長さのものをわずか3ヶ月という短期間で作ってしまう。

こんな猛スピードで人体をつくっている製造元はどこだろう。肝臓 (西) は「生命の母」…各種タンパク質の合成 で詳しく説明したように、肝臓である。皮膚疾患にとどまらず、各種疾病において、腫瘤や炎症などの組織の不具合や体の不具合が生じるのは、製造元にそもそもの不具合 (疲労) があるからではないのか。

そして肝臓は、 “4分の3切り取られても元通りに修復する” という奇跡の力を秘めた臓器である。

奇跡とも言える結果を、臨床の中で数多く見せつけられてきた。その数々は、鍼が効いたとかそういうレベルの問題ではなく、肝臓という得体のしれないスーパー臓器を元気にした…という結果であろう。食べ方・寝方・動き方・考え方…、そして一本の鍼。

どのようにすれば肝臓が元気になるかというコツを、ぼくは懸命の臨床の中で身につけてきたのだろうか。

▶2017年 

1/26(69診目)
足親指のみにむずがゆさがある。ひっかき傷はなし。
治療…心兪に灸。25壮。心神を安定させる目的。

6/15(107診目)
5月が過ぎ、6月になっても汗疱は出ず、美しい皮膚が持続している。痛みなく普通に歩けることが有難い、とのこと。
治療…右太淵に鍼。正気を補う目的。

▶その後

その後、予防と養生を兼ねて治療を継続。

2021年10月現在、25診目あたりで美しい足となって以降それが持続、一度も汗疱は発症していない

じつに7年間、毎年かならず5月に発症していた汗疱は、2017年5月、2018年5月、2019年5月、2020年5月、2021年5月も発症しなかったのである。治療は:現在も週に1~2回ペースで継続中である。

▶考察

ポイントは “悪寒” である。本症例は初診の段階では悪寒がみられた。この悪寒が目立たなくなるにつれて、汗疱の改善が見られた。

この悪寒は、表証によるものである。もちろん、悪寒だけでは表証とは言えないので、他の所見と合わせて診断する。初診当初は表証が頻繁に見受けられたが、徐々に頻度が低くなり、初診翌年からはほとんど見られなくなった。

表証と裏証 << 外邪って何だろう をご参考に。

重症のアトピー性皮膚炎では、表証が主要原因の一つとなっていることがあり、本症例のように悪寒を訴える場合、表証が所見として見られる場合が少なくない。

表証とはここでは体の表面を覆う冷え (表寒;表の寒邪) のことである。

たとえば魔法瓶のように、表面が冷たい容器だと中の熱湯 (裏熱;裏の邪熱) は冷めない。
ペットボトルのような容器だと、表面も中身も熱い。こういうのはすぐに冷める。

乳児アトピーの症例 より転載

邪熱 (裏の邪熱) が取れないのは、表証 (表の寒邪) が一枚絡むことが非常に多い。邪熱が皮膚の炎症の本体なので、邪熱がとれれば炎症は消える。ただし、その邪熱をとるために、まず寒邪をとってまぽう便状態を解除しなければならないのである。

例年、夏の電車のクーラーが寒くてつらかったが、初診翌年の夏からはまったく感じなくなった。この変化がなければ、汗疱は例のごとく5月の発症を見続けたことだろう。

 

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