時間がくると悪化する

明け方悪化する。日暮れに悪化する。
午前中調子悪い。午後になるとしんどい。

一日の陰陽と、生命の陰陽は、深く関わる。

陽は浅く、陰は深い。

もっとも陽が盛んなのは正午である。これがもっとも浅い。
もっとも陰が盛んなのは午前0時である。これがもっとも深い。だから深夜という。

人体においては、生命を地球のような球形と考えると、
浅層 (地表) が陽である。
深層 (コア) が陰である。

一日の陰陽と生命の陰陽とが絡み合うことで、 “△時ごろに病状悪化する” …ということが起こってくる。

まずは予備知識から。

四時陰陽 (1日の陰陽) では、子の刻・卯の刻・午の刻・酉の刻が基準となる。

子の刻…午後11時〜午前1時まで。正刻は午前0時。
卯の刻…午前5時〜午前7時まで。正刻は午前6時。
午の刻…午前11時〜午後1時まで。正刻は正午。
酉の刻…午後5時〜午後7時まで。正刻は午後6時。

なぜこんな昔の言い方にするかというと、時間帯に幅を持たせたほうが、理論と臨床が合致しやすいからである。例えば営血蘊熱では午前0時〜1時前後に熱証が明らかになるが、午前0時と言うよりも、子の刻 (11時〜1時) と言ったほうが深夜 (=陰が最も深い時間帯) という理論と合致させやすい。夜の照明の影響で現代人は就寝時間が遅くなっており、その分、営血蘊熱の出やすい時間帯も、やや遅れてでている可能性があり、それでもなおかつ理論と合致させるためには、やはり昔の「子の刻」で言ったほうが臨床との一致が得やすいと考える。

一日で一番浅い (明るい) 時間が正午 (午の刻) なら、一番深い (暗い) 時間は子の刻である。

つまり自然界においては、

卯の刻は陽が出づる時であり、陰が隠れる時。
午の刻は陽が極まる時であり、陰が尽き、そして生まれる時。
酉の刻は陰が出づる時であり、陽が隠れる時。
子の刻は陰が極まる時であり、陽が尽き、そして生まれる時。

また生命においては、

実熱証は、午の刻〜酉の刻に悪化しやすい。 >> たとえば陽明実熱証は申の刻 (午後3〜5時) に悪化。
虚熱性は、酉の刻〜子の刻に悪化しやすい。 >> たとえば陰虚内熱証は 入夜※ に悪化。
寒実証は、子の刻〜卯の刻に悪化しやすい。 >> たとえば表寒証は未明に悪化。
虚寒性は、卯の刻〜午の刻に悪化しやすい。 >> たとえば乾姜附子湯証は白昼に悪化。

▶入夜※ について
陰虚内熱証での隠居潮熱は “入夜” に起こると中医学では説く。ところが、入夜とはいつなのか具体的な説明がどこにもない。考察するに、入夜とは夜の入りばなである。では夜とはいつか。これは2つの考え方ができる。1つ目は、暗くなってからであり、これは季節によって時間が異なる。2つ目は、午後9時からであり、四時陰陽 (朝・昼・夕・夜) での4分割では9時が夜の始まりである。総括して、入夜は酉・戌・亥の刻 (午後5時〜11時) あたりとすれば、陰虚内熱証が悪化しやすい時間帯とうまく重なる。

▶五更泄瀉について
五更泄瀉 (=鶏鳴泄) とは、五更 (午前3時から5時) におこる下痢のこと。腎陽虚衰証・脾虚湿盛証・肝気乗脾証が挙げられる。しかし、一般には五更泄瀉イコール腎陽虚衰と考えられている。だとするならば、 “寒実証は、子の刻〜卯の刻に悪化しやすい” とする本ページの考え方と矛盾する。しかし、肝気乗脾が肝鬱 (実証) による脾虚 (虚証) であるように、表寒 (実証) による腎陽虚衰 (虚証) という考え方もできる。表寒はどんな場合も微似汗によって寛解するが、これは表寒実であろうと表寒虚であろうと巨視的には実証であることを意味する。

表証は急性のものばかり取り上げられるが、僕の臨床では慢性表証が非常に多く、そのほとんどが「隠れ表証」である。慢性的な未明の下痢は、慢性的に腎陽が困窮している状態であると同時に、慢性的に寒邪の侵襲を受けている状態でもあると考えられる。もちろん寒邪の侵襲を受けること自体、脾腎陽虚が存在するからなのだが。

▶営血蘊熱について
その他、営血蘊熱証は深夜に悪化する。この証は、不眠やアトピーなどでよく見られる。共通点は、深夜に目が醒めて煩躁することである。煩躁は邪熱が原因である。
これについては、営血蘊熱 に詳しく説明したのでリンクを参考にしていただきたい。

すなわち、

陽気が伸びなければならない時 (午前) に、伸びないのが寒証。
・前半 (未明) は伸びを寒邪に抑えられるが、後半 (日の出以降) は跳ね除けるのが実証。
・前半 (未明) は陽気がなんとか伸びれるが、後半 (日の出以降) は力尽きるのが虚証。
陰気が伸びなければならない時 (午後) に、伸びないのが熱証。
・前半 (夕刻) は伸びを邪熱に抑えられるが、後半 (宵の口) は跳ね除けるのが実証。
・前半 (夕刻) は陰気がなんとか伸びれるが、後半 (宵の口) は力尽きるのが虚証。

ということが、概ね言えると思う。

このような仮説のうえに臨床体験を付加していきたい。

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました