悪性リンパ腫、3年前からである。
ステージIII〜IV。
71歳。男性。2024年3月23日初診。
本症例は、皮膚悪性リンパ腫であり、低悪性度B細胞リンパ腫に分類される。ステージIII〜IV。
2021年4月13日に診断が下る。
・低悪性度… 年単位で進行する悪性リンパ腫
・中悪性度… 月単位で進行する悪性リンパ腫
・高悪性度… 週単位で進行する悪性リンパ腫
高悪性度の悪性リンパ腫は、進行は急速だが抗がん剤が効きやすい。低悪性度の悪性リンパ腫は、進行はゆっくりだが抗がん剤が効きにくい。
よって本症例は抗がん剤は用いていない。
リンパ腫の腫れが消失して正常の大きさになることを「完全寛解」とよぶ。完全寛解の状態が継続して5年を経過すれば「治癒」とされる。
本症例の2024年5月28日の画像は、完全寛解であると考えられる。
ガン。
悪性リンパ腫が “完全寛解” をみた。これが5年続けは治癒とされる。
ある日を境に一気の出来事だった。
その日、何があったのか。詳細に説明する。
〇
主訴は悪性リンパ腫。
そしてリウマチも。
悪性リンパ腫は痛くも痒くもない。しかし、どこに転移しているかわからないから不安だ…としきりに訴える。このガンは抗がん剤が効きにくいとされている。病院は、抗がん剤を用いず経過観察を選択している。
さらにつらいと訴えるのはリウマチだ。一番つらいのは足の第4指痛 (左右とも) で、痛くて歩きにくい。リウマチは6年前に右手指から発症し、痛み止めを服用している。今は両手首が痛く、最近になって足の指まで痛くなってきたのである。
「まず、足の痛みから取れてくると思います。足が痛いと歩けないでしょ? 歩くということは生命の土台なので、歩けないと生命力が落ちます。生命力が落ちるとガンも増殖しやすくなりますね。しかし、手は使えないと不自由ではありますが生命力は落ちません。手を使うことは、頭を使うことで、これは生命力を弱らせます。手を休めるということは、頭を休めることになります。だから、まず足の痛みから取れるのが順当だと思ってください。」
果たしてその通り、4診から足の痛みがましになり、6診でその痛みが取れた。
しかし、手の痛みはまだ、そのままである。
一番つらかった足の痛みが消えてもそう喜ばない。
「手が痛いんですよ。手が痛いと何もできないし、ジッとしていると、ガンが広がって死ぬんじゃないかとか余計なことばかり考えるんです。気分転換がしたいのに、ウォーキングも15分までしかダメなんでしょ? そういうの、ストレスなんですよ。」
「まあまあ、よくなるのは少しずつですから…。」
こういう会話が繰り返された。
初診〜3診 …症状不変
【3/23】百会に3燔鍼、5分間置鍼。
【3/25】百会に3燔鍼、5分間置鍼。
【3/28】百会に3燔鍼、5分間置鍼。ウォーキング5分指導 (脈診で確認) 。
痛み止めは現状のまま服用するよう指導する (脈診で確認) 。
悪性リンパ腫の形状に変化なし。
リウマチの症状に変化なし。
4診〜7診 …寛解に向かう
【4/1】百会に3燔鍼、5分間置鍼。右豊隆に銀製古代鍼をかざす。
【4/4】百会に3燔鍼、5分間置鍼。右豊隆に3燔鍼、即刺即抜。ウォーキング10分に (脈診で確認) 。
【4/9】百会に3燔鍼、5分間置鍼。右豊隆に3燔鍼、即刺即抜。
【4/13】百会に3燔鍼、5分間置鍼。右豊隆に3燔鍼、即刺即抜。
4診で両足指の痛みが少しマシになる。
5診で両足指の痛む回数が減ってきた。
6診で今朝から痛みなし。
7診で両足指の痛まない状態が続いている。
長期邪気スコアは3段階の3。
悪性リンパ腫は、ドーム型が少し扁平になった。ペタンとしている。
しかし手首の痛みは変わらず、手をついて立ち上がるときが痛い。
右薬指は起床時に弾撥指で伸びない。
8診〜11診 …旅行決定、手首が悪化
「4月26〜5月4日まで、栃木県に旅行に行くんです。大丈夫ですかねえ。食生活とか寝る時間とか、確実に乱れると思うんです。悪化しないか不安なんです。」
「そうなんですか…。旅行はもう、決定なんでしょ? でしたら、それを前提に治療していきましょう。おっしゃるように、悪くなると思っておいてください。心の準備があったほうが、悪化した時の動揺が少ないので、動揺がなければ早く回復します。」
【4/16】百会に3燔鍼、5分間置鍼。右豊隆に3燔鍼、即刺即抜。ウォーキング15分に (脈診で確認) 。
【4/20】百会に3燔鍼、5分間置鍼。右豊隆に銀製古代鍼をかざす。
【4/23】百会に3燔鍼、5分間置鍼。右豊隆に銀製古代鍼をかざす。
【4/25】百会に3燔鍼、5分間置鍼。右豊隆に銀製古代鍼をかざす。
長期邪気スコアは3段階の3。
手首が腫れてきた、朝に右薬指が伸びない…と、しきりに訴える。
痛みはブレーキである。旅行を目前に、体が警戒してブレーキをやや強めているのである。しかし、このように説明しても、旅行に行きたいという勢い (スピード) は落ちない。アクセルを踏んでいるのにブレーキが掛けられている。その軋轢、これが苦しみである。
12診〜13診 …旅行から帰宅、足指が痛くなる
旅行から帰宅、10日ぶりの診察である。
【5/6】百会に3燔鍼、5分間置鍼。
【5/9】百会に3燔鍼、5分間置鍼。
長期邪気スコアは3段階の3。
左足の第四指がまた痛くなってきた。
手首が腫れてきて、時計がはまらない。
扁平になりかけていた悪性リンパ腫は、またバンバンのドーム型である。
5月13日… 「その日」
14診。
スタッフの問診に答える声が聞こえてくる。
「足の痛みが変わらないんです! それから手首も腫れてきて、時計がはまらないんです! 痛くて物を取ろうと思っても力が入らないんです! 右手の薬指も痛くて朝だけでなく日中も伸びないんです! 悪性リンパ腫もまた盛り上がってきて、広がってきている気がするんです!」
この悪化は、予言通りで旅行によるものである。それを受け入れられていない。納得していない。こういう人は治らない。このまま継続しても、お互いに時間やお金の無駄になる。やるしかない。
百会に3燔鍼、5分間置鍼。
その後、勝負。
「旅行に行ったらこういう悪化は起こるかもしれないと、旅行前にご説明しましたね? 痛みはブレーキで、そのブレーキのお陰で生命は守られているんですよ。リウマチ (赤信号) では死にません。でも、ガン (スピード) はヘタをすると死にます。痛ければ痛くないように静かにしておくことです。」
「そういうの、ストレスなんです! 痛いんですよ。何もできないんですよ。」
「〇〇さんはこうやってご自分で来院もできているし、ましなほうですよ。もっと大変な方はたくさんおられます。もっと若い方で自力で立てない方だっておられます。でも淡々と耐えておられますよ。焦ったらあきません。初診に言ったように、まず足の痛みからです。手は痛くても生命力は落ちないと言いましたね? 」
「それは分かってます。でも痛いんですよ。時計もはまらないし、物も持てないし、何もできないんです!」
「それはずっとおっしゃっていることなので分かっています。分かっていることを何度も言うことを愚痴と言います。たとえばね、愚痴を言っていると良くなるものも良くならないんですよ。」
「愚痴なんか言ってません。 」
「愚痴ではないのですね。でしたら言い方を変えます。たとえば、嫌だ嫌だと言っていると、本当に嫌なことが起こってくるんです。」
「嫌とは言ってません。」
「じゃあ、言い方を変えましょう。つらいつらいと言っていると、つらいことが起こ…」
「つらいとは言ってません。」
「言ってるじゃないですか! つらいも痛いも一緒でしょ! 言霊っていうでしょ? “言う” ってことは、 “思い” を現実化するトレーニングなんです。たとえば受験生がいますね。志望校に受かりたいと、思っているだけでは受からない。教科書ひろげて問題集ひろげて鉛筆もってカリカリやる、そうやって行動に移すから、思いが現実化するんです。思っているだけではかないません。言うということは行動です。行動は思っていることを現実化するんです。だから嫌だ嫌だと言えば言うほど、嫌なことが起こるんです。痛い痛いとしつこく言えば痛みが止まるなら言ったらいいが、そんなことありえないでしょ? 同じ言うなら、いい言葉をしつこく言うといいです。いい言葉とは、感謝の言葉です。それをいくら言ったところで、得することはあっても損することはありません。感謝したくなるようなことがドンドン起こってきます。」
「でも痛いんですよ。」
「まず、 “ほんとうだね” となることです。知識を持つだけでいいんですよ。心の底から思えなくてもいい。あのね、こうしている間にも、他の患者さんが待ってくださっているんです。」
「ああ、もういいですから他の患者さんの方に行ってください。」
「僕は馬鹿だから、こういうときに損得を考えない。初診のとき、マンツーマンで3時間もかけてやりましたね? あれ、どういうことだかわかりますか? そういうことを、当たり前だと思ったらダメです。真剣なんです! ほんとに大切なことなんです! 〇〇さんが治るか治らないか、こういう考えを〇〇さんが受け入れないと、治らない。治らないと分かっていながら診続けるなんて僕にはできません! だから僕は真剣なんです! 治るためには何が必要なのか、どんな人が奇跡を起こすのか、それは、奇跡を起こしてきたものだけが知ることです。そういうことを、ぼくは誰よりもよく知っています。ブログにも書き散らかしているので、よかったら読んでみてください。ブログは難しい記事もありますが、カテゴリーで “自分でできる健康法” というのがあって、これは一般の方でも理解できるように書いてます。これだけでも60以上記事があるし、更新も続けているので、いくら読んでもらっても読みきれないくらいあると思います。僕のブログは人によっては読んだだけで楽になったとか、極端なのになると読んだだけで入院中のご主人が回復したとか、そんなこともあるんですよ。読んでる人と読んでない人では治り方に違いが出てくることがあります。」
「わかりました…。読んでみます。でも出し方とかホーム画面に置くのがよくわからないです…。」
「スマホですか。後で受付にやってもらいますね。」
もう来ないと思ったが、予約を取って帰られた。
それから
5月18日。
「先生、先日は申し訳ありませんでした…。お時間を取らせてしまって…。実はあれから、左足の痛みがなくなったんです。手首も全体が痛かったんですが、今は一部分だけになりました。手の薬指も1日中伸びなかったんですが、今は朝だけになったんです。」
「ましになったんですね? 」
「そうなんです! どうしてでしょう? 」
「こないだね、ぼくは〇〇さんのことを、否定しまくったんです。否定とは、草を刈るようなものです。草は否定される。草をなくしたあとに、土に鍬を入れる。土も今の状態を否定して、裏表逆にする。つまり耕すってことです。そうすると、そこにひと粒の “良い種” があった。それは〇〇さんがもともともっておられたものです。それが芽を出して成長を始めた。成長とは生き生きさです。生き生きさとは健康です。だから症状がマシになったんですよ。」
71歳、僕よりも20近く年上の男性である。よくぞ聞き入れてくれた。
〇
5月28日。
リウマチ改善。
痛みがない。だからこの1週間、痛み止めを飲んでいない。
手首の腫れが引いて、時計がはまる。
長期邪気スコアは3段階の2に軽減した。
そして診てみると、悪性リンパ腫も完全に凹んでいる。…完全寛解。
「あの日」を境に起こったのである。…2週間での出来事。
かけた勝負は吉と出た。
考察
叱られて、心を改めた。
すると、体が改まった。
そういう世界があるということを公開する。もちろん、叱っただけではこのガンは縮小しなかっただろう。一生懸命治療に通ったその蓄積は生命を満たしてはいた。しかし最後の「愚痴」という障壁が改善を妨げていた。その障壁を否定し、除去する。すると一気に活路が開いた。
中医学では心因性の病因を五志七情という。
モノならば叩けばこんな音が返ってくるというのは知れ切っている。たとえば鐘を打てばゴーンという音が返ってくると相場は決まっている。しかし人間というのは、叩くと思いもよらない反応が返ってくるのである。
病気も健康も、人間そのものである。モノ扱いでは奇跡は起こらない。
患者を見ずにパソコンばかり見ていては、奇跡は起こらないのである。