右膝が伸びない

55歳。女性。2024年2月23日初診。

初診…2月23日 (金)

主訴は右膝の痛み (半年前から) である。朝起きた時にもっともひどい。
歩き始めが痛い。starting painである。歩いている時は痛くない。
寝た姿勢で右膝が固まって伸びないので、膝に枕をかませて治療を行う。

初診

膝と同様に腰も痛い。朝が最もひどく、日中もstarting painがある。

背中を診ると、筋肉がモッチリしている。これは痰湿の特徴である。

痰湿とは、ドロっとしたものを想像すればいい。それが古くなるとモチのようにモッチリしてくる。つまり、古い痰湿はモチのようなもので、動いている (温まる) と柔らかくなり痛くない。止まっている (冷える) とカチカチになり、その状態で膝を動かすと痛いのである。この膝の変形 (伸びない) は痰湿だけでなく、一部は固まって瘀血に変化したものである。固まって動かないのは瘀血の特徴である。

当該患者の痰湿は、膝や腰だけにあるのではない。これらは氷山の一角であって、痰湿は全身にあるのだ。例えば当該患者はロスバスタチン (コレステロールを下げる薬) を1年弱服用している。これも痰湿である。もちろん薬を服用すればコレステロールは下がるが、痰湿は除去できない。

痰湿は、ガン・脳梗塞・認知症などの治りにくい病気の原因になる。ドロッとしたモチが鏡餅のようにカチカチに固まったのがガン、鏡餅のひび割れたのが動脈硬化である。こういう病気にならないように、体は今も必死で “掃除” してくれているのである。その結果、膝などの「命にかかわらない部分」の掃除が後回しとなり、膝の痛みや変形が出たのである。

膝の痛みは、重病を避けるために必死で掃除をする、体の喘ぎ声なのだ。

この掃除には多大な生命力を使う。つまり、掃除に明け暮れているために生命力が弱ってくるのである。生命力が弱ると、寒邪にやられやすくなるが、はたして当該患者は表寒証が見られた。この寒邪が痰湿をますます冷やしてモチモチ・カチカチにしていくのである。寒邪を除去するため、温かい飲食物 (37℃以上) のみを飲食するよう指導した。

痰湿は、肝臓 (西洋医学の) という器からあふれた飲食物のことである。もちろん、器に入りすぎても溢れるが、器が小さくなっても溢れる。
入りすぎる原因は食べ過ぎである。
器が小さくなる原因は、間食夜ふかし・過労などが挙げられる。当該患者は和菓子を間食する習慣があったので、食事時に和菓子をデザートとして食べるよう指導した。20歳代は病院勤務で夜勤もあり、この時期に痰湿が溢れた可能性がある。現在も、1時就寝と遅い就寝が続いており、できるだけ早く就寝するよう指導した。看護師長として携帯電話が手放せない勤務体制で働いており、過労はあるがこれは今のところ致し方ない。コントロール出来るところをコントロールする。これが “できるだけ” である。

百会に金性古代鍼を数秒かざす。

治療はこれのみ。

2診…2月26日 (月)

前回治療の翌日は、けだるかったので早く寝た。早く寝る習慣がないので、体がやんわりと早く寝させたと考えられる。古代鍼のみでもこれだけの反応が出るのである。毫鍼を刺していれば、確実にしんどくなっていただろう。

無刺大勞人.《素問・刺禁論52》とあるように、ひどく労働して疲れている人に鍼を刺してはならない。もっとも、その判断基準はあくまでも体 (ツボ) を見て決める。分かりやすいマニュアルなど存在しない。

百会に2番鍼、1分間置鍼。

3診…2月29日 (木)

前回治療の翌朝、膝の痛みが 10→3 に減少。
今日は 10→4 。 過労により痛みがやや増した。 

膝がかなり伸びてきている。膝枕なしでもつらくないので、なしで治療した。

百会に3番鍼、1分間置鍼。

4診…3月4日 (月)

短期邪熱スコアが第1肋間レベル。異常域の中でも重い方である。このままでは膝などが悪化する可能性が高い。
邪熱とは、体の酷使・心の酷使・目の酷使・夜ふかしなどのオーバーヒートが原因である。
思い当たることはないかと聞いてみると、急変患者が相次いで出たとのことである。現在の働いている状況や心境について話を聞いてあげると、正常域に戻った。この一手間が非常に大きいのである。

百会に3番鍼、5分間置鍼。

5診…3月11日 (月)

短期邪熱スコアは正常域である。

前回治療の翌朝、膝が伸びやすくなった。
今日も伸びやすい。

治療が1週間空いたが、経過は良好。

百会に3番鍼、5分間置鍼。

6診…3月18日 (月)

赤ちゃんのベッドで中腰姿勢の看護があったため、腰が痛くなった。シップやローラーをしたところ、 腰の痛みは消えたが、右坐骨神経痛が出ている。

その場しのぎは、症状が取れにくくなるばかりか、かえってややこしいものとなるため、控えるよう指導する。

百会に3番鍼、5分間置鍼。

治療後、痛み軽減。のち消失。

7診…3月25日 (月)

膝が楽になった。伸びる。

7診

百会に3番鍼、5分間置鍼。

考察

曲がったままで動かなくなった病態は、一般的には血瘀証と捉え、瘀血によるものと考える。ただし瘀血は「離経の血」でない限り、古い病理産物である。これを除去するにはそれなりの時間がかかるのが通常である。

本症例では、その瘀血を1ヶ月 (7回) の治療で除去した。これは、瘀血というカチカチものを痰湿というドロっとしたものに変え、さらにサラッとした液 (津液あるいは血) に変える…という発想があったからであると思う。この発想は、名医・藤本蓮風先生から学んだ。このような変化は、中医学では明記していないと思う。

瘀血とは、古い痰湿から生じたものであるという発想は重要である。痰湿を相手にすべきところで瘀血を取ってはならず、瘀血を相手にすべきところで痰湿にこだわってはならない。80歳代の女性の変形性膝関節症の曲がった膝を伸ばした経験がある。もちろんすごく時間がかかり、完全には伸び切らなかったが、この経験が本症例でも生きたのである。

古くなりきらないうちに、サラサラにしておきたい。

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