88歳、女性。
初診は、この写真を撮る2ヶ月前。
当初はベッドでの寝返りに相当な時間を要した。
ベッドから落ちかねないので、手で支える必要があった。
左腰には岩のようなシコリがあり、
それ以外の背中の筋肉はダラっとして力がない。
自分の体が “操り人形みたい” に力が入らない。
両膝の手術を受け、白内障も手術した。
脊髄圧迫骨折3回、毎日腹部に骨粗しょう症の自己注射…。
いまは5秒もあれば寝返りOK。
足の爪は、爪甲帯状色素沈着や悪性黒色腫などが疑われる状態が続いていた。
鍼灸治療開始から2ヶ月、きれいな爪が生えてきている。
人間の組織・細胞は、3か月もあればほとんど入れ替わるらしい。
新しく、若々しい細胞が作られ始めた。
全身に、それが波及している証しだ。
満身創痍かとも思われたが…。
毎日25分のウォーキングを指導している。
5分から初めて、少しずつ伸ばしてきた。
「散歩していると、いろんな草や芽が伸びてくるでしょ。それが目に留まって面白いんです。」
そうおっしゃる。ありがたい。
〇
半年後、爪は完全に生え変わり、30分の散歩を継続している。
寝返りは、若い人ともう変わらない。
1時間の庭の草掃除ができた。
〇
人は死ぬ。必ず死ぬ。
たとえば、100歳を超えたお年寄り。
毎日、日課の散歩を終えて、帰ってソファーに腰掛け、新聞を読んでいる…
かと思えば、亡くなっていた。
夕べ食卓を家族とともに囲み、翌朝「今日は遅いな」と思って寝室をのぞく…
もうすでに亡くなっていた。
そんな話をまれに聞く。
これを聞いて、人がどう思うかは分からないが、
ぼくはそれが自然な姿に見える。
そしてそんなふうに死にたい。死ぬまで健康に。
だから、
患者さんが望むと望まぬとに関わらず、
患者さんが老いていようが若かろうが関係なく、
ぼくは患者さんにそうあれと願い、そうあるべく治療する。
最期まで歩く。
最期まで食す。
最期まで家族とともに。