病が慢性化するということは、それだけ血の弱りがあるということです。血虚と言います。
東洋医学で言う「血」は、血球と考えずに、とりあえず血球の持つ機能と考えてください。働きが強ければ血が充実していると考えるのです。ですから血が増える減るという表現は厳密には正しくなく、血が強い弱いという表現が妥当だと思います。しかしそういう表現では伝わりにくいので、血が増えるとか減るとか表現することがあります。

血は気とともに、生命力の二大要素です。
しんどくて動けない食べられないというのが気虚ですが、意外にそういう人は少ないです。気虚とは気の弱りです。気力がない。食欲もない。
逆に患者さんを診ていると、 “やる気” がある人が多いですね。遊びに行きたいだとか夜更かししたいだとかケータイ見たいだとかお菓子食べたいだとか…そういう “気” は充実している。でもどこそこが痛いだとか血圧が高いだとかガンだとかぜんぜん治らないだとか、そういうのがあるので、気力はあるけど実質はやれない。やる “気” はあるけどできない。というよりも、やり過ぎて悪化してる。悪化したからおとなしくする。するととマシになり、マシになってはやり過ぎ、やり過ぎては出来なくなり、それを繰り返して慢性化している人が多いのです。
こういうのを、気実血虚と言います。気が充実し過ぎている分だけ血が弱くなる。相対的です。血が強ければそれは「やり過ぎ」にはならない。気が充実し「過ぎ」にはならないのです。
車で例えてみましょう。気はスピード (動く力) です。血はガソリン (燃料) です。どっちも、車にとって大切です。そしてこれらは、相反する要素でありながら渾然一体となって協力し合う「陰陽」そのものと言えます。ガソリンが満タンならば高速乗って遠出してもいいのです。注意しなければならないのは、スピードが強くてガソリンが弱いと持続不可能であるということです。
これが気実血虚です。
我々は、血が弱い。つまりガソリンが少ないのですね。
気は、動く力だけでなく、病を治す力でもあります。それを起動させるには、ガソリンたる血が必要なのです。血がどれだけ大切かお分かりいただけたでしょうか。
では、血を強くするにはどうしたらいいか。
まず、血を生む必要があります。
>> 血の赤ちゃんを生む
次に、血を育てる必要があります。
>> 赤ちゃんが成人式を迎える
更に、血を完成させる必要があります。
>> 仕事ができる大人に!
この3段階ステップについて説明しましょう。
血の赤ちゃんを生む

血を作っているのは骨髄ですね。で、骨髄細胞は何でできているかというと、この体の組織が全てそうであるように、食べ物からできているのです。
では、食べ物を人体に変えているのは誰がやっているかというと、肝臓がやっているのです。食物に含まれるタンパク質は、胃に入って小腸に行って吸収されて門脈を通って肝臓に行って、そこで原子レベルまで分離されて再結合して人体独自のタンパク質に作り変えられます。そのタンパク質を元に骨髄細胞が作られ、その骨髄細胞が血を作る。
肝臓が骨髄細胞を作っている。その骨髄細胞が血を作っている。
かいつまんで言えば肝臓が血を作っているのですね。
この、肝臓が人体を作る働き、これを東洋医学では「脾」と呼びます。脾は気血生化の源と言われるのは、このことを言っているのです。東洋医学の言葉はすべて「機能」を指していっていて、「物質」を指して言うのではありません。肝臓という言葉は物質を指しており、「脾 (=気血生化の源) 」という言葉は、肝臓の持つ「人体を作る機能」を包括します。
だからまず、肝臓に負担をかけ過ぎない。だから我々雇い主としては、肝臓に残業 (食べ過ぎ) や呼び出し出勤 (間食) をさせない。そういうことを無慈悲にやっていると、肝臓も人間なのですから疲れてしまいます。そういうことをさせないようにして、常に感謝の気持ち (いただきます・ごちそうさま) を忘れない。そうすると、いい仕事をしてくれます。当たり前のことですね。
いい仕事とは?
元気な血を生んでくれるのです。
しかし喜ぶのはまだ早い。生んだのはまだ血の赤ちゃんです。赤ちゃんのままではまだ世の中 (人体) の役には立てませんね。成長して成人式を迎える必要があるのです。
赤ちゃんを成人に
成長して成人式を迎えるために。
血は陰です。よって陰である「夜の力」をチャージします。
具体的には早く寝ることです。すると、血が早く成長して、早く成人式を迎えることができます。
朝、夜が明けてから寝ていても、陰はチャージできません。日が暮れてから夜が明けるまでの間に寝る (眠り込めなくてもいい) ことによって、ガッポガッポと陰がチャージできます。その陰の力によって、陰である血は大人になるのですね。
この血はすでに陰の力を帯びています。陰の力とは、「安らぎ」「落ち着き」です。この二つの要素は、病気を治すうえで必要不可欠なものです。これだけでもある程度、病気は治っていきます。
とりあえず、成人式を迎えた動き盛りの子女ならば、仕事を手伝い役に立つ力を持っているのです。
しかし、まだ上がある。
さらに “みがき” をかける。
仕事ができる大人に
“みがき” とは、体を動かすことです。
やみくもに動かせばいいのではありません。まず、陰をチャージしてからです。陰とは落ち着きのことでしたね。落ち着きがないのに動いては仕損じます。急いては事を仕損ずる… とはこのことです。
よって当院では、初診 (陰がチャージできていない) では、まず安静を指導します。早寝することに加えて、日中も安静にすることによって、陰 (安らぎ) のチャージを手助けするのです。
そのようにして陰が得られたら、得られた分だけウォーキングを指導します。最初は5分から、という方が多いですね。そうしてドンドンと段階的に、陰をチャージした分、ウォーキングを増やします。ウォーキング時間を増やすのは、脈診で体の声を聞きつつ慎重に行います。

このようにして、長く通院されている方なら1時間以上のウォーキングをされている場合も多いですね。
陰 (安静) を得たうえで、陽 (活動) を得ること。
これがいかに大切なことか。
活動 (運動) がなければ血は強くなりません。これは盲点かもしれません。たとえば筋肉を強くしたいならプロテインを飲んでいればいいのか。それで筋肉ムキムキに ! ? …なりませんね。筋肉を強くしたければ筋肉を動かす必要があります。これは骨も同じです。いくらカルシウムを摂っていても無重力では骨は強くなりません。だから宇宙飛行士は宇宙滞在中にトレーニングを怠らないんですね。それでも久しぶりに地上に戻ると自力で立てないといいます。筋肉が弱ったからですが、そのとき同時に骨ももろくなっているんです。
血も同じです。いくら鉄剤を入れたところで、体を動かすことを抜きにして強くなることはありません。血球の頭数は増えたとしても、一つ一つが役立たず (健康になれない) では意味がないのです。
食事に気をつけず、栄養ばかりを無理に摂ると、矛盾が起こってしまいます。
たとえば炭水化物はエネルギーを生むために必須、脂質も必須の栄養素ですが、運動もしないで無理に大量摂取するればどうなるかは自明のこと、高血糖・脂質異常を起こすだけです。タンパク質でも同じこと、猛毒アンモニアを分解過程で生成せざるを得ないので、過剰摂取による肝臓への悪影響は避けられず、もっとも体に負担をかける栄養素とも言えるのです。
では鉄剤はどうか。運動もせずに過剰摂取すると瘀血を生むことを症例によって確認しています。体という器に入り切らない量なので、溢れてしまうのです。溢れてこぼれたスープは掃除の対象にこそなれ、口にして身につくものではないのですね。ある症例では、点滴で入れてから一週間ほどで三陰交に反応が出始めました。症状的には良好で、元気さが出ました。瘀血が生まれて、元気になる。これはどういうことかというと、これから塊系の病気を作ろうとしているのですね。塊系の病気の初期は無症状です。ガンしかり筋腫しかり、元気なんだけれども不穏なものが水面下で増殖しつつあるわけです。
四物湯や十全大補湯などもしかり、急性症状が回避できたら、いま言う三段階の養生を一つ一つ前に進めていく。道は自分で歩んでいく。依存してその努力を怠るならば結局は得られずじまいとなります。王道はありません。
まとめ
食事を乱暴に摂り、夜ふかしを好み、体を動かさず。
そんな状態で、手っ取り早い方法で血を補おうとしても、収まりきらずにあふれるばかりで「掃除しなきゃならないもの」=邪気 (瘀血) を生む結果となるだけです。
ローマは一日にしてならず、簡単に解決するものなど何一つないのですね。汗を流さずに買ったものなど身につかない。昔から言われることです。
この身を育てていく。
生み、成長させ、成熟させる。まさに生長収蔵です。
成長こそ生き生きさ (健康) の根源であるとは、血においても例外なく言えることです。
ウォーキングがどれだけ強烈に血を強くするか、フィジカルが生き生きするだけではありません。メンタルも健やかに強くなるのです。その極端な症例があります。半身不随「車椅子」、治療3ヶ月「駆け足」…リハビリの適期適法を問う では、歩けなかった女性が今は1時間30分のウォーキング&ジョギングを毎日おこなっています。さらに精神科閉鎖病棟に入院したほどのメンタルが、柔軟にたくましく成長している軌跡を記録しています。おとぎ話ではない、実際の映像を交えた実例を出しておきます。