甲状腺 (橋本病とバセドウ病) …東洋医学から見た5つの原因と治療法

甲状腺と言えば、 “橋本病”や “バセドウ病” がよく聞きますね。

橋本病は甲状腺機能低下、バセドウ病は甲状腺機能亢進です。どちらも共通して、甲状腺が腫れやすくなります。

両者とも、ヨウ素摂取不足でも、ヨウ素摂取過剰でも起こると言われています。
また両者とも、自己免疫疾患です。免疫が暴走し、誤って甲状腺を攻撃してしまうのです。

橋本病には、不足する甲状腺ホルモンを外から足す治療が一般的に用いられます。
バセドウ病には、過度の甲状腺ホルモンを作らせないようにします。

健康な人ならば自分でホルモンをつくり、過剰にならないように調節もしています。

▶癭病 (えいびょう) とヨウ素

東洋医学では “癭病 (えいびょう) ”と言います。

癭病とは、簡単に言うとノドボトケあたり (甲状腺) が腫れる病態のことを言います。

葛洪「肘後備急方」東晋代 (317〜420)  に、昆布・海藻を使って治療をする…という記述がすでにあります。中国の奥地では海藻を飲食することがなく、ヨウ素の不足があったのでしょう。しかし西暦300年と言えば、日本はまだ有史以前ですね。ちゃんとした資料が残るのは聖徳太子の時代 (西暦500年代) からです。こんな頃にすでに、その原因が昆布 (甲状腺ホルモンの材料となるヨウ素を最も多く含む) の不足であることを突き止め、それを内陸山間の甲状腺患者の治療として用いていたとは、しかもそういう資料がまとめられてあるとは、古代中国人の凄さはケタ外れです。

それはともかく、日本は海藻を食べる習慣が色濃く、ヨウ素不足よりもむしろ、ヨウ素過剰の方を注意したほうがいいと言われています。ですから、日本では昆布を使うというような治療はしませんのでご注意ください。

摂らなさすぎも摂りすぎも良くないのです。これは全てにおいてそうです。ヨウ素はそれが分かりやすいものであるに過ぎません。

▶癭病と自己免疫疾患

注目しなければならないのは、自己免疫疾患という考え方です。

東洋医学では、「生命力」や「治癒力」のことを “正気” といいます。正気の内訳は “気” と “血” ですが、これらは脾が作ります。 “脾は気血生化の源” と言われるゆえんです。

治癒力…これって免疫ですね。脾が免疫に相当すると言われるのはこの辺です。

しかし、この免疫をどう動かすか、これを決めるのは脾ではありません。

肝です。免疫の暴走は肝が関わるのです。

肝と脾は、将軍と軍隊との関係です。

肝者.將軍之官.謀慮出焉.<素問・靈蘭祕典論 08>

肝の采配どおりに、正気 (脾) は動くのです。

ウイルスが入ってきた。 そこで “ウイルスをやっつけろ!” と肝が指示すれば、正気はそれに向かって攻撃し、治癒力を発揮します。

▶肝の暴走

ところが、この肝が暴走してしまう。狂ってしまうことがあるのです。“甲状腺をやっつけろ!” と指示を出してしまう。体の大切な組織に向かって…。これは謀反 (むほん) ですね。この軍隊はもう、正気とは言いません。邪気です。

肝は、「誤った道」を軍隊に指示したのです。

「誤った道」は、いずれ行き止まりになり滞ります。これが気滞です。気滞のような “緊張” が高じると、邪熱になります。これらはすべて邪気です。

正気と邪気って何だろう をご参考に。

邪熱は騒がしい性質があります。これがバセドウ病です。イライラして小刻みに震える。脈が早い。

これら邪気は、人体組織のために頑張ってくれている正気の “邪魔” をします。すると、正気がだんだん弱ってくる。正気が弱ると活動力が鈍ります。これが橋本病です。おっくうで体が重く動けない。脈が遅い。

橋本病とバセドウ病の症状については以下のリンクをご参考にしてください。

甲状腺の病気について|内分泌・代謝内科|独立行政法人国立病院機構 京都医療センター
京都医療センター 内分泌・代謝内科では、高度専門医療施設として、下垂体・甲状腺・副甲状腺・副腎・性腺などの「ホルモン」に異常をきたす疾患や、高血圧症、糖尿病、肥満症、脂質異常症、骨粗鬆症といった生活習慣病の治療を行っています。

▶なぜ腫れる?

気 (正気) の働きの最も大切なものは、推動作用です。

推動作用◀気の6つの作用 をご参考に。

推動とは動かすこと、循環させることです。何を循環させるかというと、体液ですね。
・気滞 (邪気) が起こるとそれに邪魔されて気が動けない。
・正気の弱りが起こると気そのものが動かない。
正気が動かなければ、結果として体液の中の “水” が滞り、痰湿が生じ、甲状腺の腫れに結びつきます。水という物質が腫瘤を作るのです。橋本病・バセドウ病ともに浮腫が見られるのは、この水があちこちに滞るためです。

痰湿はもともと水なので柔らかいですが、慢性固着化して “血” まで滞ると、瘀血となって硬い腫瘤となります。瘀血は気滞をますますひどくしますので、ますます邪熱を生み、正気の弱りをひどくします。痰湿を放っておくと、いろんな症状がしつこくなるということです。

そもそも邪熱というのは上に昇りやすい性質があります。部屋の温度も、上の方が高いですね。そのため、人体の上部は炎症が起こりやすい。鼻・目・耳・ノド…すべて邪熱がこもりやすい場所です。鼻炎・結膜炎・中耳炎・ノドの痛み…炎症が起きやすい。甲状腺が腫れやすいのも、こういう理由があります。

▶5つの分類と分析

このような甲状腺機能異常には、甲状腺が腫れること以外に、パターン化できるような典型的な特徴がなく、症状は複雑多岐に渡ります。甲状腺も腫れるとは限りません。

以下に症状から分類を行いますが、そこに挙げる症状は多岐にわたる症状の一部であると考えてください。そんな中、気滞・痰湿・邪熱・瘀血を取り去り、正気の弱りを助けることができたならば、外部からの助けなしに自分の足で歩んでいくことができるでしょう。

▶気郁痰阻 (気滞+痰湿) …橋本病・バセドウ病ともに

【症状】
病状には波があり、メンタルの波の影響を受けやすい
頸前に腫瘤・軟らかく痛まない …痰湿が原因。もとが水なので形がある
胸悶・むくみ …痰湿。陰湿でモヤモヤする
頸部に張るような違和感・ためいき …気滞 (ストレス) が原因
胸や脇に遊走痛 …気滞の特徴
苔薄白。脈弦

【治法】理気化痰

▶痰结血瘀 (痰湿+瘀血) …橋本病・バセドウ病ともに

【症状】
頸前の腫瘤が長期に渡る、比較的硬い、あるいは結節が見られる …硬さは瘀血の特徴
胸闷・食欲不振・むくみ …痰湿が邪魔して胸から胃にかけてがスッキリしない
苔薄白または白腻
脈弦または渋。

【治法】理气活血,化痰消瘿

▶肝火熾盛 (肝の邪熱) …バセドウ病

【症状】
頸前の軽度または中程度の腫瘤、柔軟・光滑 …熱でツヤが出る
煩熱・汗が出やすい・顔面部がほてる …邪熱の特徴
性情急躁で怒りやすい …肝 (将軍) の暴走
眼球突出 …肝の昇発 (遠心力) が道を誤った状態
手指のふるえ… 熱から風が生まれて揺れる
口苦… 肝胆によって作られる胆汁が道を誤って口に向かった状態
多食ですぐ空腹になる… 肝の疏泄が行き過ぎた状態
舌質红・苔薄黄・脉弦数: …数脈はバセドウ病の特徴

数脈について をご参考に。

【治法】清肝泄火

▶肝陰虚 (正気の弱り)… バセドウ病+疲れやすさ

【症状】
頸前の腫瘤は、大きかったり小さかったりする。軟らかい。
症状は緩慢に始まり緩慢に経過する
心悸不寧・心煩不眠 …精血不足で心の陰 (落ち着き) を養えない
汗が出やすい …虚熱
手指のふるえ・目が乾く・めまい …熱による風
倦怠感・脱力感 …陰が弱く陽 (活動) を生めない
腰・膝に力が入らない、耳鳴り …腎陰虚を併発している 
舌質红・舌体のふるえ。脈弦细数。

【治法】滋养阴精,寧心柔肝

▶気血両虚 (正気の弱り) …橋本病

【症状】
病気が長期に渡ると、気の消耗と、精血不足が同時に現れる
体力が消耗し、やせる
気力・体力に乏しい。つかれやすい
下痢しやすい・むくみ…脾胃の運化が失調
月経が少なくなったり、無月経になったりする
勃起不全
舌質淡・胖嫩。脈微遅

遅脈について をご参考に。

【治法】:補益正気、滋養精血

▶アッパーとダウナー (燥と鬱)

以上、挙げた症状をながめると、 “怒りやすい” 、 “つかれやすい” という矛盾する病態が見られますね。 “怒りやすい” は自覚できるものですが、これが自覚できないと「興奮状態」です。気持ちが高揚しやすい。

大きな目で見た時、人生には “アッパー (躁的) ” と “ダウナー (鬱的) ” の波の繰り返しがあります。この波がなく、真ん中あたりをまっすぐに行ければ健康です。東洋医学的に言えば、陽に偏しても陰に偏してもダメで、中庸がいいということになります。

いったんダウナー状態になると、自分でどう頑張ってもコントロールできません。じっと辛抱するしかない。そのうち元気になっていきます。その元気になったとき、意外とダウナーの頃のことを忘れます。これがアッパーです。

いま自分がアッパー状態 (肝の暴走) にあるということを自覚できるか、じっと自分を見つめて分析できるか…は、肝を平らかに安らかに柔らかくできるか…のポイントです。その柔らかさは、甲状腺の柔らかさに きっとつながるはずです。

バセドウ病はアッパー、橋本病はダウナーと見ることができますが、バセドウ病の中にも橋本病の中にも、アッパー・ダウナーが存在します。

甲状腺の診断を受けて来院される方は非常に多くなりました。治療では、ダウナーを元気にしつつも、アッパーをうまく鎮めます。いわゆる、虚実錯雑の治療です。非常に高度な治療となります。上記の分類と分析で、治療の穴処を明記していないのはそういう理由からです。どのツボがいいか…ということよりも、まず病態の把握が大切です。

▶上実下虚

現代社会はストレス社会、みんなホッとできていませんね。

胸や頭のあたりがギュウギュウ (実=邪気) の満員電車のようになってます。これが1両目だとすると、2両目は土台である下半身、これはガラガラ (虚=正気の弱り) です。下がガラガラになればなるほど、上がギュウギュウになる。上がギュウギュウになればなるほど、下がガラガラになる。上のギュウギュウが現れたのが病位である前頸部です。このように、虚と実が両方存在するものを “虚実錯雑 ” と言います。

このギュウギュウが、興奮や熱を生むんですね。

肝火という激しい実を持ちながらも、脾腎の弱りという虚がひどくなってゆく。

上の緊張をとくのに手っ取り早い方法は、お菓子を食べることです。おいしい! と高揚し、そのあと一瞬ホッとして、緊張が緩みます。しかし、時間が立つとこの余計な飲食が痰湿を生み、痰湿は腫れの原因になります。痰湿はドロドロしていて気のめぐりを余計に悪くさせ、めぐりの悪さは上の緊張を余計に強くします。上の緊張 (イライラ) が強ければ強いほど、下の弱り (体力の弱り) が強くなります。悪循環です。

こういう構図を “上実下虚” といいます。

痰湿は、1両目と2両目の継ぎ目である “中” すなわち脾胃 (消化器) を弱らせ、継ぎ目が弱くなることで、余計に1両目のお客さんは2両目に移れなくなります。半分のお客さんが2両目に移動できれば、みんな仲良く座れて楽になるのですが…。

無理に元気にすると、その元気は上実をますます助けてギュウギュウにし、興奮状態 (肝の暴走) になっていることに気づかず、下虚を少しずつひどくしていく場合があります。やはり、疲れをとった上で楽になり元気になるという本道を忘れてはなりません。

▶まとめ

なぜ自分が病気になったのか。それを知ることは、マップを手に入れることと同義です。マップさえあれば、途中で道を間違えても、迷ったとしても、また正しい道に戻れるものです。治療で治すことも大切ですが、どこでどう迷ったのか、なんでそんな道に行こうとしたのか、それをマップと照らし合わせて考えることが大切です。

 

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