気の6つの作用

中医学では、気には以下の6つの作用があるとされます。

1.推動作用
2.温煦作用
3.防御作用
4.固摂作用
5.栄養作用
6.気化作用

1.推動作用

気には “前に進む力” があります。

動くということは生命の特徴です。植物でも少しずつ上に成長し、動いていますね。

推動作用とは、推し進める作用、つまり前に進む作用のことです。臓腑経絡は太くなったり細くなったりはあるものの、つなぎ合わせると一つの輪のように、気・血・陰・陽が絶えず循環しています。その循環を推し進めるエンジンの働きをするのが気です。血を動かしているのは気なんですね。

遅脈について をご参考に。

気の「前に推し進める側面」を宗気といいます。

宗気は脈打つ命の根源的な力であり、フィジカルとしての心臓の拍動はもちろん、口から空気を吸い、酸素を取り入れ全身に巡らせ、二酸化炭素を口から吐くというルートをも推し進めます。

また、気が貫くところの五臓は、それぞれ五神 (メンタル) を持っています。メンタルも気・血・陰・陽が循環するルートであり、気がこれらを推し進め運搬する原動力となって、メンタルを潤し元気づけ、養っています。前向きな人は推動作用がしっかりしているのです。

フィジカルとメンタルは陰陽です。

氣始而生化.氣散而有形.氣布而蕃育.氣終而象變.其致一也.<素問・五常政大論 70>

【訳】気が発芽するように成長し、結実し種子を形成して散じ、広く敷布して蕃 (ふ) やし育て、その気は終 (は) てて子孫へと形を変える。万物はみな一様にこの道を進むのだ。

気 (目に見えない命) は、グルグルと前に前に、終わることなく進んでいます。まるで休むことなく心臓が拍動し、血がめぐるように。

2.温煦作用

気には “温める力” があります。 “おんく” と読みます。

温かさは生命の特徴です。トカゲでも気温が低すぎるとジッとしています。もっと寒いと死んでしまいますね。

気の “温める力” を衛気 (えき) と呼びます。衛気は臓腑経絡を温め、推動作用を助けて循環させます。

もし気が足りないと、衛気も足りなくなります。その時は臓腑を優先して温め、皮膚表面や四肢末端を犠牲にします。だからカゼを引きやすくなったり手足が冷えたりするんですね。

氣主煦之.<難経・二十二難>

【訳】気はこれを煦 (あたた) めることをつかさどる。

衞者.水穀之悍氣也.其氣慓疾滑利.不能入於脉也.故循皮膚之中.分肉之間.熏於肓膜.散於胸腹.逆其氣則病.從其氣則愈.不與風寒濕氣合.故不爲痺.
<素問・痺論篇 43>

【訳】衛気とは、水穀から得られた たけだけしい気である。その気は慓疾 (この上なく素早い) ・滑利 (なめらか) であり、脈中に収まってなどいられない。だから、皮膚・筋肉・膜・胸腹などあらゆるところを循環する。衛気が正常に働かなければ病気になり、正常に働けば健康になる。風寒湿の外邪を受けないので気象病にならない。

衛気は、3.防御作用 も担っています。

3.防御作用

気には “守る力” があります。

急に寒くなったとか、熱くなったとか、気候が急変することがありますね。あるいはウイルスを吸い込んでしまうこともあります。こういうものから身を守るバリアのような働きです。寒くてカゼを引くのは、寒さ>防御作用 となったのですね。

この防御作用を衛気と言います。これは温煦作用のところでも出てきました。衛気は、暖める作用と防御する作用の2つを併せ持つのですね。

東洋医学では、気候変化やウイルスといった外部からの “侵入者” を「外邪」といいます。外邪には寒邪・暑邪・湿邪などがありますが、それらの先頭に立ってまず侵入してくるのが「風邪」です。風は少しのスキマからでも侵入しますね。この風邪が、寒・暑・湿あるいはウイルスなどの邪気がバリアをすり抜けるための先導役となります。

推動作用で説明したように、気は血を動かす先導役ですが、風邪は邪気の先導役になるというわけです。先鋒同士の戦いです。気はそれら外邪から身を守るために戦ってくれているのですね。

正氣存内.邪不可干.<霊枢・刺法論 72>
邪之所湊.其氣必虚.<素問・評熱病論 33>

【訳】正気が内に充実していれば、邪気は犯すことができない。

4.固摂作用

気には “求心力” があります。

体液 (血液・組織液・リンパ液など) は、適度に体内に留まり、余った分は汗や大小便として排泄されます。これが正常です。

もし、血や汗・大小便がダラダラ出て止まらなければ、体液がなくなって死んでしまいます。そうならないように、求心力で体液を体の中心に引き寄せ、6割は水分でできているという肉体を守り、形体を保っているのです。

地球を含めた星は、宇宙の塵が引力によって引き寄せられ、固まってできたと言われます。星にも寿命があって、いつかはこの引力がなくなってバラバラになり、また宇宙の塵になってしまいます。

人間も同じです。

腎には封蔵という働きがあります。
脾には制水・統血という働きがあります。

制水とは◀下痢…東洋医学からみた6つの原因と治療法
不統血とは◀出血…東洋医学から見た4つの原因と治療法
封蔵については 東洋医学の腎臓って何だろう をご参考に。

固摂は脾腎の気が関与します。先天と後天、生命の根本的な気であると言えます。

腎者.主蟄封藏之本.精之處也.<素問・六節藏象論 09>

【訳】腎は、蟄 (かくれる・虫が地中で冬ごもりする) をつかさどり、封蔵の本である。ここで精 (休息と活動の源) が養われる。

封蔵とは、求心力のことです。これがあるからこそ、遠心力 (元気ハツラツさ) が生まれる。一日の仕事に精を出し、終えて家に戻り、寝室に入り、ふとんの中に隠れて、深く深く眠りにつき、精を養う。これが封蔵です。

5.栄養作用

気には “生命を養う力” があります。

生命が存続するために最も重要なのは飲食物です。飲食物を口から取り込むと、水穀の精と呼ばれるものに変わります。精とは活動と休息を生み出す生命の根本です。この水穀の精から、動的機能である営気と、静的物質である血が作られます。

水穀の精とは◀けいれん…東洋医学から見た6つの原因と治療法
精とは…生命誕生の謎◀けいれん…東洋医学から見た6つの原因と治療法

営気とは気の一種で、栄養素 (物質) のもつ機能…すなわち命を栄養するための機能の事です。

営気は、推動・温煦・防御・固摂・気化のすべての土台となるものです。

榮者.水穀之精氣也.和調於五藏.灑陳於六府.乃能入於脉也.故循脉上下.貫五藏.絡六府也.
<素問・痺論 43>

【訳】営気は、水穀から得られた精気 (休息と活動の源) である。五臓に馴染んで染み入り、六腑の陳旧を灑 (そそ) ぐ。つまり脈 (臓腑経絡) に入るのである。故に脈を上下に循環し、五臓を貫き、六腑を網のようにめぐるのだ。

6.気化作用

気には “作り変える力” があります。

生命は燃料 (陰) と動力 (陽) で成り立っています。燃料とはつまり食べ物ですね。これを活動力に変化させています。その活動がまた燃料を作る。当たり前です。田畑を耕して、その活動が農作物を生み出す。

  • 燃料 (血) → 活動力 (気)
  • 活動力 (気) → 燃料 (血)

つまり、燃料 (陰静) は動力 (陽動) に変わり、動力は燃料に変わる。陰陽転化の法則です。その変化させる働きをするのが気です。変化は陰陽そのもの、陰陽の気なのです。

陰陽者.天地之道也.万物之綱紀.変化之父母.生殺之本始.神明之府也.
<素問・陰陽応象大論 05>

【訳】陰陽は、前に進む道のようなものである。あらゆるものの大本につながる筋道である。ゆるぎない基軸をもととした変化である。生命の歩みの起点である。道を照らす光の本拠である。

例えば、飲食物は気 (営気) に作り変えられ、気 (営気) は血に作り変えられ、血は気に作り変えられます。また過剰な気血は精に作り変えられて保存 (凍結) され、必要に応じて解凍され気血に作り変えられます。

簡単に言うと、普通預金と定期預金です。普通預金 (動的なお金) に余りが出れば定期預金 (静的なお金) に作り変えます。普通預金が足りなくなれば、定期預金を解約して普通預金に作り変えます。こういうのも気の受け持ちです。

味歸形.形歸氣.氣歸精.精歸化.… 化生精.… 精化爲氣.
<素問・陰陽應象大論 05>

【訳】味は形に帰着し、形は気に帰着し、精は化に帰着する。… 化は精を生じ、… 精は化して気になる。

味…燃料 (石油)
形…燃料を容れる器 (ストーブ本体)
気…パワー・機能 (部屋の温かさの変化)

以上は 栄養をパワーに “作り変える力” を示しています。根本は
「気」パワー・機能と
「味」栄養分
であり、これらの「変化」は動的なアクティブさ、つまり気であると言えます。

腎・膀胱の気化作用

“動かない水” を “動く水” に変える作用も、気化作用の中の一つです。動かない水とは水湿 痰飲 (痰湿) のことです。動く水とは津液 (体液) のことです。

  • 動かない水 (水湿 痰飲) → 動く水 (津液)

をご参考に。


考察

これら6つの作用をひっくるめると、気とは何か…という全容が見えてきます。中医学では気を物質であると定義しています。

個人的には、これら6つの作用 (機能) そのものが気であると理解しています。その燃料になるのが「血」で、これは物質です。

一人の人物を表現する際、さまざまな「横顔」というものがあります。気には、推動という横顔、温煦 (おんく) という横顔、防御という横顔があり、どの角度から気を見るかによって、見え方が異なる。そのように考えています。

気=機能
血=物質

機能と物質は陰陽関係にあります。砂糖という一つのものには、甘さという目には見えない機能と、白い粉という目に見える物質があります。このように考えると、東洋医学の基本である陰陽論とも重なり合います。

機能は、可視化できないもので、 “力” とも言い換えることができます。

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