疔瘡 (おでき) …東洋医学から見た3つの原因と治療法

おできのことを東洋医学では癤 (せつ) あるいは疔瘡 (ちょうそう) と言います。

現代では毛嚢炎と呼ばれ、主に黄色ブドウ球菌による感染症です。

顔や背中だけでなく、陰部付近に多数できて困る…というものもあります。

▶︎用語の説明

中医外科学の内容に従って、癤・疔・癰について説明します。

▶︎癤とは

癤 (せつ) は単なるオデキで、青年期によく見られます。直径3㎜ほどのもので、多くは放っておいても治癒します。しかし中には慢性的になるものがあり、これは治療の対象になります。

▶︎疔とは

疔瘡 (ちょうそう) は単に疔とも呼ばれます。癤より重症化しやすいオデキのことです。重篤化すると死に至る場合もあります。

▶︎癰とは

疔瘡は癰 (よう) でもあります。

癰とは化膿を主とする病態です。内癰と外癰に分類されます。内癰とは体表から伺えない内臓の化膿病変、外癰とは皮膚付近の体表から伺える化膿病変のことです。

よって疔瘡は外癰に相当し疔癰と言われることもあります。疔瘡は、病の進行過程で内癰を併発することがあるということです。

▶︎流注とは

疔瘡は、肺膿瘍 (肺癰) や化膿性骨髄炎 (附骨疽) を併発する場合があります。これらはいずれも癰 (内癰) に属します。このように、化膿性の病変が部位を変えて移動する病態を「流注」 (るちゅう) と言います。

流注とは今でいう膿毒症のことで、化膿菌が病巣から血液中に入って他の部位に広がる病態 (血行性感染) です。経絡の走行を示す “流注” とは同名意義です。

▶︎疔瘡とは

疔瘡は “疔瘡走黄” とも呼ばれます。顔面部にできた疔瘡を面疔 (めんちょう) と言いますが、この言葉は今でも使われることがありますね。

走黄とは敗血症のことで、多数の大きな疔瘡が広範囲に広がり、かつては死に至ることもある病気でした。大正時代に活躍した鍼灸家の澤田健先生は、この病で倒れられています。澤田先生は灸治を主とされた治療家でした。

おできが元で命を失うことがあるとは意外ですね。昔は多かったようです。化膿が全身にひろがって敗血症を起こしてしまうのですね。感染症全般に言えることですが、カゼなんかでも、昔はこれで命を落とすことがたくさんありました。僕は衣食住の完備が大きいと考えています。昔はワラの布団で、綿入のジャケットもなく、外気と変わらぬ気温で寝ていました。大正時代でも、冬になると布団の襟口のところが吐く息の水蒸気で凍ったということを聞いています。免疫を低下させる十分な条件ですね。現代はありがたいです。

疔瘡は、初期の治療を失して勢いが止まらなくなると悪寒戦慄して高熱を発し、正気が虚し、熱毒が営血分に入り、危証となります。

営血分とは、温病学の言葉です。衛分→気分→営分→血分と、熱が浅いところから深いところに入っていきます。血熱証 を参考にしてください。

営血分に入ると、疔瘡が突如として暗黒色に変じ膿が消え、腫れが急激に拡散し、境界がはっきりしなくなります。煩躁・意識混迷・けいれん等が生じます。頭痛・煩躁・胸悶・四肢に力が入らない・悪心嘔吐・口渇・便秘腹脹・咳嗽・呼吸困難・脇痛・血痰・瘀斑 などを伴うこともあります。

とくに顔面部は諸陽の集まるところで血脈豊富なため、ここに疔瘡ができると走黄に至るものが多いとされます。面疔がこわいと言われるのはこういう背景があるのですね。

強刺激や熱刺激を与えたり、辛熱の品で温めて邪熱を助長するようなことをすると、熱毒が増し、走黄に至りやすくなります。

本病是由疔疮火毒炽盛,早期失于治疗未能及时控制毒势,或挤压碰伤,过早切开,或误服辛热之药及食酒肉鱼腥,或艾灸疔头,更增火毒,…

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熱毒が営血分に入ると、陰を傷つけ、血分を動揺させます。特に血と関わりの強い心・肝の営血分に入りやすく、よって精神混迷 (心) ・けいれん (肝) を起こしやすくなります。

熱毒は血分に向かって深く急速に入り込みますので、真熱仮寒の証となります。いくら寒がっていても、熱を外に発散させることを忘れてはならないのですね。涼血清熱解毒が原則です。

▶︎原因と治療法

疔瘡の原因は熱です。熱は、

  • 外感熱邪
  • 五志七情
  • 飲食不節

などによって引き起こされます。

▶︎気分熱毒

営血分に熱が入っていない状態です。熱の位置は気分にあります。

証候:心煩・胸悶・口苦・咽乾・便秘・尿黄・紅舌・黄膩苔・滑にして数脈。
治法:清熱解毒。
鍼灸:後渓・霊台など。
湯液:五味消毒飲加減。

▶︎気営両燔

熱が気分と営分の両方にまたがって存在します。

証候:悪寒戦慄・高熱・汗出・口渇・頭痛・煩躁・尿黄・紅絳舌・黄苔乾燥・洪にして数脈。
治法:清熱解毒涼営。
鍼灸;霊台・後渓・三陰交など。
湯液:黄連解毒湯合清営湯加減。

▶︎熱入営血

営血分に熱毒が侵入した状態です。気分に熱はありませんが、時として営分から気分に出てきた時は、ハッキリとした熱証である気分証が見られます。

証候:壮熱持続不退・夜間加重・煩躁不安・意識混迷・昏睡・うわ言・けいれん・瘀斑・紅絳舌・苔少にして乾燥・細にして数脈。
治法:清熱解毒・涼血清営。
鍼灸;霊台・後渓・三陰交など。
湯液:犀角地黄湯合五味消毒飲加减。

 

参考文献
中医外科学/痈
中医外科学/疔
中医外科学/疖
・疔疮走黄 << 百度百科https://baike.baidu.com/item/%E7%96%94%E7%96%AE%E8%B5%B0%E9%BB%84/678604
・走黄 << 百度百科 https://baike.baidu.com/item/%E8%B5%B0%E9%BB%84/9110154

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