パーキンソン病の症例

80歳。女性。✕✕年5月。

もともとパーキンソン病で、顎・手・足と震えがひどかった。初診から治療を重ね3ヶ月経つが、その間の治療で、ふるえはほとんどでなくなっていた。

症状

ところが今日は左足がガタガタ震えている。
手で触れてみると、固く緊張している。
体にかけたタオルケットが、脈を診ていても揺れているのがよく分かる。激しく震えている。

「お店、どうやった? ここ3日ほどは。」
「まあ、忙しかったです。」

病因病理

今朝から急に蒸し暑くなった。

神門・血海・三陰交に虚の反応なし。先立って回復させなければならいほどの血の弱りはない。
足三里に虚の反応なし。先立って回復させなければならないほどの脾土の弱りはない。

ベースは崩れていないと見る。バタバタしすぎたかな。

こういう震えは陽亢である。健康な人は、気が上に昇ってしまわないように臍下丹田 (せいかたんでん) がこれをつなぎとめている。バタバタして落ち着かないと丹田が弱り、丹田が弱ると気が上って、騒がしい症状が出る。まるで上昇気流のように風が吹き上げ、風が木の葉をランダムに震わせるように、内風が震えとなる。これが、このケースでのパーキンソンの震えである。

中高年ともなると、徐々に臍下丹田が弱ってくる。でも気持ちは若いときのまま。あれもしたい。これもしたい。気持ちばかりが前のめり、体がついてこない。このギャップが陽亢になる。めまい・肩こりしかり、更年期のノボセしかり、高血圧・脳梗塞しかり。

照海に触れる。実の反応がある。これが陽亢の反応である。これが取れれば震えは収まる。はず。

治療

脈は細脈・無力。

右外関に2番鍼。5分置鍼。

同じように震えている。
照海の反応は取れている。おかしいな。でもあわてない。

脈を見る。ああ、これか。脈力は出たが、まだ陽亢の実熱が残っている。

そもそも陽亢とは本虚標実あるいは虚実錯雑である。虚熱 (陰虚) も実熱もある。虚によって実が起こっている本虚標実なら虚を補えばオチがつく。虚実錯雑なら、気を虚を補って実を瀉さねばならない。

臍に手をかざす。右上に空間の偏在がある。
もし治療にオチがついているなら空間の偏在はないはずだ。

右商陽に刺絡を行い、熱を漏らす。
少し絞る。
震えている。臍の反応は変わらない。あわてない。

もう少し絞り出す。
震えている。
臍の反応は変わらない。あわてない。

強めに絞り出す。
臍の反応が変わった。空間の偏在が消えた。

その瞬間、震えが止まる。

経過

「今ね、胸のあたりがスーッと落ち着いたでしょ? だから震えが止まったんですよ。ここのところ、ちょっとバタバタしすぎたかな。1分でもいいから、ときどき休憩を挟めればいいですね。それだけでも落ち着く、だいぶ違うと思います。」

その後、ベッドで20分休憩。いびきをかいて寝てる。
受付を済ませて院を出るまでの間、震えの再発なし。

考察

この商陽の刺絡は、右外関で正気を補っているからこそ効果がある。もし外関をやらずに、商陽のみをやったとしたら、もっと激しく震えが出ていた可能性が高い。

もともと脈が無力で虚証ではあるが、陽亢のような虚実錯雑のものは、虚は虚で補い、実は実で瀉す必要があることがある。

外関は陽維脈の主穴である。陽維脈は陽を容れる器であり、外関は陽を容れる器を大きくする。器が大きくなれば溢れていた邪熱も入ることができ、入ることができれば陽気という正気に変わる。また、器は陰(血)でできているので、血を補うこともできる。奇経はダムのようなもので、後ろ盾である。後ろ盾ゆえに、正経のように正邪抗争の場にならない。邪気を補うことなく、正気だけを補えるのである。虚実錯雑に応用する価値がある。

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