外邪って何だろう

外邪とは、気温寒暖差や湿度高低差が人体に悪影響をおよぼす「気候の変動」を言う。
そのように、まずはざっくりと捉えて下さい。

▶邪気と外邪

「正気と邪気って何だろう」では、正気  (気・血)   と、邪気  (気滞・痰湿・邪熱・瘀血)   について説明しました。

正気とは、気や血の他にも、陰気・陽気・精などのことも指します。ややこしいですが、すべて正気の多彩な横顔を表現しているにすぎません。
一人の人物でも、いろいろな横顔がありますよね。仕事の役職・家庭ではお父さん・奥さんにとっては頼りがいのある夫・友達仲間では癒し系・地域では自治会役員…などなど、その人物の見え方は、何を基準にするかによって、かなり違ったものになります。

邪気は、正気を邪魔するものです。先に挙げた4つのほかに、まだあります。これから説明しようとする「外邪」です。外邪と区別して先の4つは「内生の邪気」と呼ばれます。つまり邪気は、「外邪」と「内生の邪気」の2つに分類できます。内生の邪気は、外邪によって生まれることもありますが、ややこしくなるのでここでは述べません。

▶外感病と内傷病

外邪によるものか、よらないものかで、病態の呼び名が違ってきす。

外邪による病気のことを外感病、外邪によらない病気のことを内傷病といいます。

内傷病とは体の内側から生じる病気です。ストレスとか、飲食の過不足とか、運動の過不足などで起こります。それが内傷病です。

では、外感病とは? 暑さ・寒さ・湿気・乾燥・風。こういった外部の自然環境の変化によって生じる病気を外感病といいます。

▶外邪とは

外感病のきっかけになる邪気を外邪と言います。外邪にはいくつかの種類があります。

体を外部から攻めてくる「敵」と考えればいいでしょう。

暑さは暑邪。
寒さは寒邪。
湿気は湿邪。
乾燥は燥邪。
風は風邪。

そういう名前がついています。

たとえば暑さが、ある人の生命力 (正気) を傷つけると、この暑さのことを暑邪といいます。暑いほど体調がいいという人がいれば、その人にとっては暑邪ではありません。同じ暑さでも、暑邪と言ったり言わなかったりするのです。面白いですね。この辺が東洋医学の考え方の特徴です。

内生の邪気が体の内側で発生したのに対して、これら外感病の邪気は、体の外側 (皮膚表面) から侵入します。

これも、たとえですからね。お間違いなく。影響が及ぶというと抽象的になって分かりづらいので、こういうたとえを使います。邪気も気の一種。機能です。機能は、何かに例えると理解しやすい。これは東洋医学に一貫した論法です。

これら5つの邪気は皮膚から侵入し、正気が抵抗できなければ、どんどん深くに侵入していきます。正気が抵抗できれば、皮膚で侵入を食い止め、早期に治癒します。

カゼなどの感染症もこの外感病の一種です。熱中症もそう。寒さで調子を崩したり、 雨続きで体が重くなったり熱ぽくなる場合もそうです。乾燥で鼻や喉が痛くなるのもそうです。

▶火邪 (熱邪) とは

もし、正気が弱って抵抗できず、外邪が深く侵入 (内陥) した場合、これら5つの邪気は、みな熱に変化 (化火) することがあります。この熱のことを「火邪」あるいは「熱邪」ともいい、外邪の一つでもあります。つまり外邪は計6個になります。

在天爲熱.在地爲火.<素問・天元紀大論 66>

熱邪は君火、火邪は相火と言われます。君火とは太陽のこと、相火とは太陽の光を吸収した地温のことです。太陽がなければ地温は生まれず、地温がなければ宇宙空間のように極寒です。熱邪は人体に侵入する前、あるいは侵入して間もない状態 (たとえば風熱など) のこと言い、火邪は内陥したもの (たとえば内陥化火など) をいうと考えられます。しかし、化火といったり化熱と言ったりしますので、両者はしばしば混同されて用いられることも多いと思います。

温病って何だろう…六気と六淫との関係 をご参考に。

▶表証と裏証

外邪 (敵) が浅いところにいるのか、深くまで侵入したのか、この違いによって治療方法は全く異なります。浅いものを表証といい、深いものを裏証といいます。

つまり、
表証とは、外感病で外邪がまだ裏 (体内) に侵入しない段階の状態を言います。
裏証とは、裏に病がある状態を言います。外感病で外邪が裏に侵入した場合も言いますし、内傷病全般も含みます。

詳しく説明します。

正気が外邪iに勝てず、侵入を許してはいるものの、これ以上深く侵入しないよう、なんとか皮膚で食い止めているとき、脈診を行うと、脈ののもっとも表面の上っ面の流れに大きな変化が出ています。
この状態、つまり表面に問題がある状態を「表証」といいます。

表の対義語は裏。

外邪が皮膚の関所を突破し、身体内部に侵入すると「裏証」といいます。
外邪によるものはすべて外感病ですので、ここでいう表証・裏証はいずれも外感病です。

ちなみに内傷病はすべて裏証に属します。つまり裏証とは内部に問題がある状態です。

表と裏は陰陽関係。東洋医学とは、徹底した「陰陽による解剖学」ですね。

外邪の全容がわかったところで、臨床でよく見られる寒邪・湿邪・暑邪・風邪について説明していきます。

▶寒邪とは

寒邪についてです。寒邪には、体の内側でできる内生の寒邪と、外から入ってくる外邪としての寒邪があります。ここでは外邪としての寒邪について説明します。

▶カゼとしての表寒

寒邪による表証のことを表寒といいます。一般にはカゼ症状が出ます。たとえば、悪寒がきつくて発熱し、節々が痛くなるという症状。インフルエンザなんかでも見られますね。これを表寒といいます。

表の寒邪が取れるときは、体がポカポカして、じわっと汗をかきます。すると爽快になって熱も下がる。こういう風になるよう、鍼をするわけです。漢方薬なら、麻黄湯や桂枝湯、葛根湯です。

表寒が診断できれば、それを取るように治療すればいいだけですから、カゼも早く治るのは当然のことです。

▶カゼではない表寒

カゼでなくとも、表寒と診断することがあります。急な症状の悪化が、寒さによって起こった時です。

たとえ寒邪は軽微でも、これが皮膚に宿っていると、気滞をひどくし、もともとの症状を増幅します。たとえば膝が痛い人なら、もっと痛くなるなどです。寒邪には凝結させる働きがあり、凝結は滞りになります。滞りは痛みとして表現されることが多く、寒邪は強い痛みを引き起こします。

だから表寒があれば、それが取れるよう治療することは非常に重要です。

簡単に言うと、クシャミもセキも発熱もなくても、東洋医学ではカゼと診断し、治療することがあるということです。

カゼでもないのに表寒と診断されるのは、朝晩の気温差が大きいとき、こないだまで暖かかったのに急に寒くなったとき、冷たい飲食物を過剰摂取したときに多いです。ひどい怪我をしても、表寒が入ることがあります。頭を強く打って発熱したりなどです。皮膚が動揺し風邪の侵入を許すという側面と、打撲によって気滞を生じ肺気不宣となるという側面と、2つが考えられます。

とにかく、この「かくれ表寒」はなめてはいけません。これが邪魔して治療がうまくいかないことは多いと思います。表寒の有無を診断する技術は、非常に重要です。

▶表寒ではない寒邪

表証に至らずとも、寒邪が体に影響している病態もあります。簡単にいうと、冷えて体調を崩した…という場合です。寝冷で下痢するなどは、表証が関係せず、寒邪だけが関係する場合があります。詳しく説明します。

体には、寒さから身を守る “防衛力” があります。これを “衛気” といいます。衛気は体全体を覆い、寒さ (寒邪) が体内に侵入するのを防いでくれています。衛気の本質は温かさ (温煦) です。

急激な寒さがあった時、寒邪はこの衛気をジリジリ追い詰めます。皮膚のトリデを破ろうと迫ってきています。このトリデが破られればカゼ (表証) となります。

この、ジリジリ追い詰めている状態でも症状がでます。脾陽・腎陽は衛気 (温かさ) を必死でバックアップしているが、それが負担で弱りが出ると下痢をしたりします。あるいは、衛気が寒邪に手一杯になり、衛気 (温かさ) が気のめぐりを助けられなくなると、頭のめぐり・体のめぐりがわるくなり、メンタル・フィジカルのさまざまな症状が出ます。

寒府 (陽関) に実の反応が見られます。寒邪が衛気を圧迫している状態です。表証を示す特徴がありません。

ここで紹介する寒邪は皮膚から入る、あるいは入ろうとするものです。しかし寒邪には口から入るものもあります。便秘…東洋医学から見た6つの原因と治療法の「4.陽虚…冷えの便秘」で詳しく説明しました。「口から続く消化管」と「皮膚」とは陰陽です。

▶化熱する意味

ちなみに、表寒が裏に入ってしまうと、熱 (火邪) に変化します。熱に変化することは非常に重要です。寒邪が寒のまま、そのまま裏に入ってしまうと危険だからです。

これを寒邪直中といいます。ひどい悪寒に襲われ、上げ下しが止まらず、意識が遠のき、そのまま心肺停止になる。生命活動は陽によるもの。寒邪はそれを抹殺してしまいます。そういう意味で寒邪は恐ろしい。

そのため、体は寒邪を火邪に変えてリスクを低くしているという考え方もできます。陰陽転化の法則ですね。ヤジロベーみたいに、右 (陰) に傾きすぎたら、左 (陽) に傾ける。倒れないようにするためです。

▶湿邪とは

湿邪についてです。湿邪には、体の内側でできる内生の湿邪 (痰湿) と、外から入ってくる外邪としての湿邪があります。ここでは外邪としての湿邪について説明します。

雨の日に、何となく心が落ち着く。これは正常です。湿気は水、水は陰、陰は静や休息です。雨は自然界に必要なものであり、当然人間にも必要なものです。

雨の日に体がだるい、重い。これは異常です。ほんらい落ち着くはずの雨が、なぜつらいのでしょう。

湿気が体に悪い影響を及ぼすのです。これには理由があります。内傷病の邪気、痰湿です。体の内側に痰湿がある人は、外の湿気の影響を受けやすいのです。痰湿は、食べすぎ・運動不足が主な原因です。また、食べすぎてなくても、脾臓が弱いと痰湿ができてしまいます。

「せんせー、雨が降ると神経痛が…」「体おもいですわー」…これは湿邪の影響です。神経痛で痛いのは、湿邪が流通を邪魔して気滞を生じたからです。体が重いのは、水のもつ性質です。重く下にそそぐ性質そのものの表現です。

湿邪と痰湿のもとの形は水です。
自然界で生じる湿邪。 (外湿)
体内で生じる痰湿。 (内湿)

人間の体は、自然界の一部です。自然とは何でしょう。木々、海、鳥。ライオンやシマウマ…。人間もこれらの一部です。人間は人工物ではない。自然なのです。

その自然と人体が呼応する。内外が一続きでつながっている。当然のことです。外界の湿気が多くなると、体内の湿気もそれに応じて多くなります。だから痰湿を持った人が湿邪を受けやすい。

雨の日に調子が悪い人は、体内の痰湿をきれいにしなければなりません。間食せず、腹八分を心がけていると、体が軽くなって動きやすくなります。こうなると、雨の影響で体がつらくなるということはなくなります。

雨の日は何となく、落ち着いた気持ちで、ゆったりとしていたい…という変化が起こるならば、それが健康です。

▶暑邪とは

暑邪についてです。暑邪とはすなわち熱です。体の内側でできる内生の熱は邪熱と言います。外から入ってくる熱のことを暑邪と言います。

代表的なのは夏バテ・熱中症です。悪寒のあまりない夏カゼもこれに当てはまることがあります。

「壮火食気」という言葉があります。「壮火」とは強い熱のことです。「食気」とは、気を食らう、気を消耗する、という意味です。つまり、熱は気のレベルを下げてしまう。

暑邪はもともと熱の性質を持っているので、すぐに気を消耗させてしまいます。これが夏バテです。ひどくなると、動けなくなる。命の危険が出てくる。これが熱中症です。

気が消耗すると、気の持つ防御機能がやられ、暑邪は容易に体内に侵入します。
少しでも疲れ (気の弱り) があるときは、熱中症に気を付ければならない。こういう理由があるからです。

暑邪・寒邪・湿邪・燥邪・風邪は、皮膚表面で留まればよいが、体内に侵入すると火邪になります。

暑邪は、もともと熱の性質を持っている。それが火邪に変化するのですから、この火邪は強烈です。火は、短時間ですべてを焼き払う。そういう性質がもろに出てしまいます。暑さにやられると怖い理由がよくわかりますね。

夏を乗り切る体力を、常日頃から養っておくことが大切です。食べる・寝る・動く…これらを適切に。精神的にも穏やかなるべく。

大暑…暑気あたりの予防もご参考に。

▶風邪とは

風邪についてです。実は、これが最も曲者であり、理解するにも複雑です。

風邪も他の邪と同じく、体の内側でできる内生の風邪 (内風) と、外から入ってくる外邪としての風邪 (外風) があります。

▶風邪は万病のもと

風者百病之始也.《素問・生氣通天論》

風邪 (ふうじゃ) という邪気は独特です。暑邪・寒邪・湿邪・燥邪、それぞれ、すべてと合体することが可能だからです。ふつうはできません。たとえば、
暑邪は湿邪と合体できるが、寒邪とは合体できない。
燥邪は寒邪と合体できるが、湿邪とは合体できない。
寒邪は湿邪と合体できるが、暑邪とは合体できない。など。

ところが、風邪はすべてと合体ができる。こんな器用なことができるのは、風邪だけです。

風邪を分かりやすく説明すれば、「風」です。ビュービュー吹くやつ。そこから、いろいろな発想の展開があります。

風は一か所にとどまらないですね。だから風は「変化」を象徴します。変化は温度の変化でもあります。暖かい空気と、冷たい空気がぶつかるとどうなるか。中学校の理科で習いました。風が起こります。雨が降ります。嵐が起こります。

また、風はどんな細い隙間からでも入ってきますね。いっぽうの湿気・暑さ・乾燥・寒さも、隙間から入らないことはありません。しかし、こいつらは不器用です。風は器用に隙間から侵入してきます。こういう性質が風邪なんです。皮膚の隙間から侵入する。単独では弱いが、狡猾なイメージですね。

急に寒くなるとき、その前に強い風が吹きます。でないと急に空気は入れ替わりません。急に暑くなる時も同じ。そして、そのとき、雨が降ります。暖かい空気と、冷たい空気がぶつかるからです。低気圧に伴う前線ですね。急に乾燥するときも風があります。フェーン現象もそうですし、空っ風もそう。

とにかく、気温・湿度の急激な変化は、必ず風を伴います。急に暑くなったときは、暑邪が発生すると同時に、風邪も発生する。そして風と暑の2つはドッキングする。急に寒くなった時・湿気が増えた時・乾燥した時もそう。すべて風邪も生まれます。そして各邪とドッキングするのです。

風邪は、皮膚の隙間を器用にすり抜け侵入する能力を持っていました。その風邪とドッキングした暑邪や寒邪は、その恐ろしい性質を持ったまま、器用に侵入する能力をも手に入れます。風邪は各邪の先導役として、体の深部へ侵入を助けます。

「風邪は万病のもと」とはそういう意味です。

▶気滞による雨天時の不調

「湿邪とは」で説明したように、雨が続いて体が重く感じる場合、多くは内湿がもともとあって、外湿と呼応するからでしたね。つまり、脾が悪い。脾に痰湿があるのが悪い。

しかし、気滞が原因でも、雨の日の不調を訴える場合があります。もちろん、雨で運動しないから気滞が増し、調子悪くなるということもあります。しかし、気滞によって湿邪が侵入するという病理もあります。このメカニズムを考えてみましょう。

雨が長く続く。雨の日は心が落ち着く。森羅万象、おしなべて静か。鳥のさえずりも聞こえない。虫も飛ばない。これは陰の性質です。大自然は陰の状態にある。

それに反してストレス社会の真っただ中で戦う我々は、気が立っている。気実です。気滞というより気実ですね。雨の日だろうと社会のスピードは変わらない。大自然が陰にシフトしているのに反して、陽が勝っています。

大自然の陰、人心の陽。これがぶつかり合って、風が巻き起こる。暖かい空気と冷たい空気がぶつかり合って風が巻き起こるのと同じように考えます。

このように、体の内側で巻き起こった風を内風と言います。この風は、皮膚に風穴を開けます。そしてその風は、外界の湿邪と合体し、湿邪は皮膚をすり抜け侵入するのです。

内湿がないのに外湿が入るのには、風邪 (内風) が一枚かむ場合があります。ただし、治療は気のレベルを下げることにより効果が出ます。気滞を取る治療です。

▶風邪を防ぐには

風邪 (ふうじゃ) を防ぐにはどうしたらいいのでしょう。これは、他の邪気の防ぎ方が参考になります。

たとえば湿邪。内湿と外湿がありました。内外はつながり、呼応していました。外湿を受けないためには内湿をためないことが重要でしたね。

暑邪も、熱の体質の人は受けやすくなります。
寒邪も、寒の体質の人は受けやすくなります。
そういう体質を治せば、受けにくくなる。

風も、内風という概念があります。これが、外界の風邪と呼応するという考え方ができます。つまり、内風をなくせば風邪を受けにくくなる、と考えられます。

▶内風とは

内風について、もう少し説明します。内風は、病気として現れた場合、思いつくものをざっとあげれば…
脳梗塞・熱性けいれん・顔面神経麻痺・めまい・こむら返り・アトピー性皮膚炎・パーキンソン病・チック・舞踏病などです。すべて、急に変化しやすく、動きやすいという「風」の特徴があります。

内風の原因は、多くは肝臓の不調です。肝臓の陰が不足すると、肝臓の陽が熱と化す。熱は風を生む。これは、自然現象です。

激しい熱が特定の場所に急におこると、風が巻き起こります。火を燃やすと、上に向かって風が起こりますね。気球が空に浮くのも熱による風です。これは先ほどの暖かい空気と冷たい空気がぶつかった時に起こる風と同じです。気球にしても、温度差が風を生むのです。

そういう内風があると、外界の風邪と結びつきやすくなる。原因は肝陽の亢進です。肝陽を制御する肝陰がしっかりしないから、こうなる。肝陰とは、簡単に言うと肝の血です。つまり、血がしっかりしていると風邪を受けにくくなるという理論があります。

血をしっかりさせようと思えばどうしたらよいか。
①血のソースである脾を丈夫にする。
②血の保存形態である精をたくさん貯金する。これは、イコール腎臓を丈夫にすることです。
③血を最も多く消費する機能であるところの、肝臓を安定させる。肝気がいきり立っていると血はどんどん消費されます。

そういう治療が必要です。

また、食養生・適度な運動と睡眠も必要です。無理しないことも必要です。ストレスをためない考え方も必要です。しかも世の中の困難から逃げずに…。感謝が大切です。

▶熱中症と風邪

熱中症を、風邪と寒邪と暑邪の観点から分析して見ましょう。

まず、前出の「内風とは」での内容をもう少し進めると、以下のようなことが言えます。
◉内風は熱と親和性がある。

また、外風の特徴は、寒邪と非常に仲が良いということです。例えば少し暑いくらいなら扇風機だけで涼しくなりますね。しつこく扇風機に当たりすぎると、寒くなったりカゼを引いたりします。つまり、以下のようなことが言えます。
◉外風は寒と親和性がある。

さて、これを元に熱中症の一形態を解いてみます。

暑い日が続いているとします。これは暑邪ですね。この時点で、気と陰の消耗が起こりつつあります。これはウイルス感染ではない。また六経弁証にも衛気営血弁証にも当てはまらない。そういう暑邪による侵され方です。

毎日暑いので冷たいジュースを多飲している。これは寒邪です。すると体内に大きな温度変化が生じます。ここで内風が生じます。

内風は外風と呼応します。暑くても必ず少しくらいは風が吹いています。それが外風として皮膚に影響を及ぼします。

こうして内風と外風が体を侵し始めます。

こうした風邪は、皮膚の隙間を縫って外の暑邪と結びつき、暑邪の侵入を容易にします。暑邪は容易に体内の深いところに侵入して邪熱となり、内風と結びつきます。

冷たいジュースによる寒邪は、外風と結びつき、皮膚の浅い部分に侵入して表面を覆います。このとき、寒邪>風邪の場合と、風邪>寒邪の場合で、熱中症の表現は異なります。

▶寒邪>風邪の場合

皮膚は寒邪によって覆われます。気は、邪熱をなんとか体外に出そうとします。ところが、皮膚表面をコーティングする寒邪が、それを邪魔します。気は熱に敗北し、邪熱 (発熱) は血 (組織) を焼きはらい、重篤な熱中症となります。このとき、発汗はありません。

まるで魔法瓶のようです。魔法瓶は表面が冷たく (表寒) 、中が熱い。そして中の熱が冷めません。

≫「熱中症…全身麻痺 (痿病) の症例」をご参考に。

▶風邪>寒邪の場合

皮膚は風邪によって風穴を開けられます。風邪は疏泄するので、しかもそれは誤った疏泄なので、大切な陰 (体液) が外に漏れ出します。大量発汗です。陰を失った血 (組織) は瓦解し、重篤な熱中症となります。

最近、ニュースを見ていて思うことは、熱中症で亡くなる方や後遺症を残す方が多いことです。一昔前は、こんなに身近な話題ではありませんでしたよね。もちろん、近年の温暖化で、盛夏の猛暑が激しいという側面はあります。暑邪自体が強くなっている。

しかし、初夏のころに重症化するケースが意外に多いという印象もあります。これはどう説明すればいいのでしょうか。

たとえば四月・五月。さして暑くもないのに過度に冷飲をする。五月も半ばを過ぎた。たまたま疲れることがあった翌日、たまたま急に30℃をこえる夏日になる。急な温度変化のこの日を、過度に冷たいものを摂取しながら、屋外で行楽やスポーツをしながら過ごす…。

これで熱中症の条件がそろいます。黒幕は、風邪です。

▶外邪がからめばなおりが早い?

外邪は難病・奇病の原因になります。また、ささいな症状でも、外邪が原因となる症状は、信じられないような治り方をする場合があります。外邪は、急激に悪化させる一面、それを取り去れば急激に回復することがあるのです。

一般的なカゼもそうですね。急にしんどくなるが、治るときは急にスッキリする。

その臨床例として「言葉の鍼…外邪って何だろう」を挙げておきます。ご覧ください。

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました