言葉の鍼…外邪って何だろう

高1の娘。

長丁場の試験期間が、やっと終わった。
翌日は、学校が休み。
おはよう、とあいさつを交わし、
しばらくすると、姿が見えない。
トイレに入っているらしい。
かれこれ30分以上になる。

便秘なのかな。

・・・・・・・・・・

リビングを通りかかると、娘がソファーでうずくまっている。

「どうした?」
「おなか痛い・・・」
「トイレ行ってたやろ? 出た?」
「出ない・・・痛いのに出ない・・・」

しばらくしても、体を丸めて痛がっている。

「ちょっと脈見せて。」

脈がいつもより触れにくい。伏脈ぎみ。
ホントに痛いらしい。

詳しく脈診すると、表証で寒邪が入っている。寒邪が気滞をひどくしている。
つまり、気の推動作用 (流通させる力) を妨げ、大便が下降できない。
痛みは気滞の特徴。寒邪が絡んでいるので一層痛い。

何が原因だろう?
試験が終わって体調はむしろ良くならなければいけないのに。
特に体調を崩すような不摂生は見当たらない。
ということは・・・。

「おまえな、ホッとしすぎて、パーッとなってたのと違うか。試験中だろうが、試験が終わろうが、淡々としてないとアカンで。そりゃ、いくらかホッとしても、それは仕方ないけど、お前はそれが小さいころから激しすぎる。落差が大きすぎるんや。」
「ウン・・・。」

即座にもう一度、脈診。
こういう話をすると、瞬時に脈が好転する場合があるからだ。
娘に諭したことは道理にかなっている。
これが腹痛の原因である根拠はないが、自信がある。
やっぱり。
さっき脈で見られた表証が消えている。

「いま、お腹は?」
「・・・あれ? まし。」
「脈は良くなってるな。もしかして反省した?」
「した。ちょっとトイレ行ってくる。」

・・・・・5分後・・・・・

「パパ、出た! ああ、スッキリした!」
「ウーン、こういうことがあるんよ、臨床やってても。病気の本質を見抜くカンやな。考え方が間違っていて、それが原因で病気になることがある。それを見抜いて、しかも患者さんが、こちらの教えに応 (こた) えると、こういう事が起こるんよ。」

病因病理を簡単に分析してみる。
普通、ホッとすれば、肝気はなごみ、気は流暢に動く。

当然、体調は良くなるはず。
なのに、逆に体調を崩す、というのは何か矛盾がある証拠。

気持ちの落差が大きすぎるということは、
大自然の現象でいえば、気候の急変。
気候が急変するときは風が舞い起こる。
そういう意味で、娘の体内には、内風が起こった。内風は、内生五邪の一つである。
試験中の緊張と、試験後の気のゆるみ。
この差が大きすぎて、肝気が乱れている。乱気流が起こっている。

この内風が皮膚に風穴を開け、外界の風邪 (外風=六淫外邪の一つ) とタッグを組む。
その外風は、寒邪と合体している。つまり風寒だ。
寒邪は風邪の導きで、容易に皮膚の隙間を通り抜けて入ってくる。

ここで、父から的を得た注意を受けた。
素直にそれを聞いた娘は、反省すると同時に、気持ちが安定。
肝気の乱れは消えて落ち着き、内風が吹き止む。
風と合体しなければ、寒邪は皮膚の隙間からは入れず、
結果として、体にある陽の力によって、寒邪が押し出される。
寒邪に妨げられていた気の推動作用が復活。
大便がスムーズに下降した。

言葉のみによる腹痛の治療。
瞬時に効いた。
外邪って何だろう

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